絶賛放映中のアニメ『有頂天家族2』のエンディングテーマ、fhána「ムーンリバー」。その魅力に取り憑かれてしまい、毎日隙あらば聞き続けている筆者。変化に富んだこの曲はイヤホンによって音味が異なり、多彩な味わいがあるので飽きが来ない。そこで手持ちの代表的な有線イヤホン23機種で一気に聞き比べて、その違いをまとめてみた!
【1】fhána「ムーンリバー」とは?
fhána 11枚目のシングルで『有頂天家族2』のEDテーマ。アニメ盤とアーティスト盤が発売されており、アニメ盤のカップリングは前シーズン『有頂天家族』のEDテーマ「ケセラセラ」のアレンジバージョン。アーティスト盤のカップリングは「Rebuilt world」となっている。
さて、「ムーンリバー」であるが、かなり変化に富んだ曲だ。重厚な出足から徐々にのびやかで叙情的になっていき、サビ付近では一度一気に色づいて華やかな展開になった後、余韻を残すようにさっぱりと抜けていき、2度目のサビ後は曲調を変えて情感を加えながら、間奏に入り、最後はやや暖色の色合いを残しつつ、きれいに終わっていく。
一貫性のあるボーカルを道標に、場面に合わせて音の傾向もかなり変化するため、それぞれの場面ごとに味が変わって飽きない。またイヤホンによって表現がだいぶ異なって曲全体の印象もがらりと変わる。とにかく面白い曲なのだ。
主な味わいポイントは3つ。
[1]出足の低域
出足で曲の雰囲気を支配するのが低域。イヤホンによって大きく分けて3つの傾向があり、
- 「ドスドス」という比較的重くタイトな音
- 「ズチャズチャ」というウェットで弾けの強い音
- 「バズバズ」という厚みがあってブーミーな音
実際にはどれかに極端に寄った形ではなく、中間的な鳴り方をするが、この出足の低域で曲の印象はガラッと変わる。
[2]ボーカルの声色
ボーカルの声色もとくに高域で傾向が分かれやすい。
- 輪郭の強いエッジ感のあるシャキシャキしたシャープな声質
- のびやかさだけが素直に感じられるナチュラルな味わい
- 中盤にふっくら感があり、つややかさを感じるマイルドな声質
シャープな色合いが強いとキレが強く感じられ、逆につややかさが強いとみずみずしく感じられる。
[3]ボーカルと楽器との位置関係
ボーカルの位置関係では大ざっぱに次のように分かれる。
- ボーカルは比較的手前。
- 低域が前面に出てやや後ろから聞こえてくる。
- ボーカルは奥まり、少し遠い。
この曲はやや細い声質なので、ボーカルが奥まるとそれだけ暗く、元気なさげに聞こえるように思えるかも知れない。
ほかにも細かい音質の違いはあるものの、個人的にこの曲の印象に大きく影響するのは上の3要素のように思う。
さて、簡単に「ムーンリバー」の魅力を紹介したところで、手持ちイヤホンを早速聞き比べていきたいと思う。ちなみにレビューする順番は先入見などが入らないよう高級機種、低コスト機種を織り交ぜてなるべくバラバラに聞くようにした。ただ同じメーカーの似たシリーズのものは違いがわかりやすいよう、順番に聞き比べている。
※なお普段のレビューテストはヘッドホンアンプ(最近はOPPO HA-2SE)を利用しているが、今回は一般的な環境を考慮してSONYのポータブルオーディオプレイヤーNW-A25直挿しでテストしている(「ムーンリバー」ハイレゾ音源はmoraからダウンロード)。
【2】聞き比べレビュー
[1]YAMAHA EPH100S
低域 | 高域 | ボーカル | 解像度 | 全体の印象 |
B | B | B | A | サラダ味 |
ボーカル:ナチュラル。若干暗め。
低域:ズチャズチャしたウェット感あり。
立体感:全体的に奥まっている印象。
中高域:シャープ。
聞きやすさ:音にはほどよい分離感がある。圧迫感なし。
総評 |
ボーカルが少し暗めなのが気になる。また低域がかなりウェットに出るので粘りが強く、この点をしつこく感じる人がいるかも知れない。ただ中盤以降で中高域がのびてくるとシャープな色合いになってきて、出足のウェットな雰囲気から一転、爽快感が強い印象になる。 |
[2]final HeavenⅤ FI-HE5BSB3
低域 | 高域 | ボーカル | 解像度 | 全体の印象 |
A | S | S | A | クリア |
ボーカル:しっかりくっきりクリア。
低域:弾みと重みもあり、爆発力のある音。
立体感:張り出しと奥行きがはっきりしていて明確。
中高域:クリアで明瞭。
聞きやすさ:音像ははっきり。楽器の材質感もきれいに出る。ただ、鮮やかすぎてやや聞き疲れしやすいかも知れない。
総評 |
明瞭で材質感まで感じさせる音の鳴り方をするので多彩なこの曲の雰囲気が濃厚に出る。素材の味を生かした濃厚なスープといった感じで、表現力は圧倒的。ただ明度が出すぎるというか、個々の素材の音が色濃くですぎて味付けが濃く感じられるところがある。 |
[3]ONKYO E700M
低域 | 高域 | ボーカル | 解像度 | 全体の印象 |
B | A | A | A | サラダ味 |
ボーカル:透明感があってシャープネスも強め。
低域:重みのある音。
立体感:若干奥まる傾向があり、篭もっている印象を受けるかも知れない。
楽器音:クリアではっきりしている。
聞きやすさ:音に圧迫感がなく、耳当たりがよい印象でリラックスして楽しめる印象。
総評 |
シャープネスもあってフレッシュな味わいもあるが、一方で抜けも良く耳当たりがやわらかいところもある。バランスよく丁寧に音を聞かせる印象だが、場合によって落ち着きすぎていて物足りないと思う人もいるかもしれない。 |
[4]radius HP-NHR11
低域 | 高域 | ボーカル | 解像度 | 全体の印象 |
A | B | B | A | 重厚 |
ボーカル:クリアでなめらかだが、端のほうでややシャリシャリした感じが残る。
低域:前面に重厚に出てくる。ちょっとうるさいかもしれない。
立体感:高域が奥まる傾向にある。
楽器音:クリアでややドライ。
聞きやすさ:低域の圧迫感が気になる。中高域を邪魔する傾向にはないが、量感強め。
総評 |
厚みのある低域が強く印象づけてくるところがある。その低域が強い割にボーカルはクリアでなめらかさがあり、味わいがあるのがさらに印象的。聞き疲れしやすいところはある。 |
[5]JVC HA-FW01
低域 | 高域 | ボーカル | 解像度 | 全体の印象 |
A | A | A | A | 重厚 |
ボーカル:なめらかでのびやか。
低域:厚みと重みがあるが、中高域にかぶさらない。
立体感:密度が高くやや前屈み。
中高域:ナチュラルで有機的な味わい。
聞きやすさ:全体的に肉厚ではっきりした傾向がある。
総評 |
密度高めで、しかもどこか温かみのある有機的で生命的な音楽空間が展開される。ボーカルにもまろやかな味わいがあり、全体的に濃厚な印象だ。 |
[6]JVC HA-FD7
低域 | 高域 | ボーカル | 解像度 | 全体の印象 |
A | B | A | A | ドライ/サラダ味 |
ボーカル:シャリシャリしていてシャープ。
低域:シャキシャキ感が強く輪郭がはっきり。タイト傾向。
立体感:そこそこ奥行きがある。
中高域:シャープでドライ。砂っぽい音の顆粒の存在を感じさせる。
聞きやすさ:独特の顆粒感は音の存在をはっきり浮かび上がらせる。
総評 |
独特のドライな表現が特徴のイヤホンだが、この曲でもその傾向がしっかりと出る。砂細工のような粒感の強いソリッドなサウンドは曲調を若干暗く感じさせるかも知れない。 |
[7]final F3100 FI-F3BAL
低域 | 高域 | ボーカル | 解像度 | 全体の印象 |
A | A | S | A | マイルド |
ボーカル:なめらかでナチュラル。
低域:ややサッパリ。
立体感:奥行きはそこそこ感じられる。
中高域:全体的になめらかでのびやか。
聞きやすさ:マイルドで耳当たりが良く、聞き疲れしにくい。
総評 |
なめらかでのびやかな中高域が魅力的。低域はだいぶ薄味でさっぱりしているが、厚みや重みはそこそこ感じられるので音が出ていないわけではない。どちらかといえば存在感が薄く、中高域のサポートに回っている印象だ。 |
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