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【カナル型イヤホン Oriolus Finschi レビュー】音場はそこそこだが、抜けの良い清潔感のある高域と、ほどよい膨張感もある聞き疲れしない、しかし厚みも充分にある低域を兼ね備えたバランス感覚に優れた名機。万能性が高いその音質に惚れました。おすすめ

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Oriolus Finsci

Oriolus Finsci

Oriolus Finschi -フィンシ- 1ダイナック+1BA ハイブリッドドライバー イヤホン

 

 

【1】装着感/遮音性/通信品質「シュア掛けタイプ。遮音性は高い」

おすすめ度*1

Oriolus Finschi

ASIN

B07G3S599L

 最近のイヤモニ型?のイヤホンに多いツルツルした光沢感のあるフェイスプレートのイヤホン。装着感は悪くなく、遮音性は比較的高いです。音漏れはベント穴が開いているので、満員電車では気をつけた方がよさそう。ボーカルとシンバルの音は結構目立つかもしれません。

 Oriolusは株式会社サイラスのオーディオブランドで、国産ブランドです。そのエントリークラスがFinschiという位置づけです。

www.oriolus.jp

av.watch.impress.co.jp

 

【2】外観・インターフェース・付属品「リケーブルは2pin」

 付属品は低反発型とダブルフランジ含む、多数のイヤーピースの替え、ゴツい専用ケース。2pin端子リケーブル可能。標準ケーブルにタッチノイズはほとんどありません。

 

Oriolus Finsci

 

【3】音質「価格帯では音場は決して広いとは言えないが、騒がしくならない解像度感と、優美にふっくらして清潔に抜ける高域、厚みと膨張感のある聞き疲れしない低域の組み合わせでどんな曲にも合わせられるオールラウンダー。驚くべき追随性を示す」 

 私にとって目下の課題となっていたのは三月のパンタシアのアルバム「ガールズブルー・ハッピーサッド」奥華子さんのニューアルバム「KASUMISOU」、藤田麻衣子さんの「wish」の曲を気持ちよく聴かせるイヤホンを「手頃な値段で」探し出すことだったのですが、その放浪の末に行き着いたのがこのFinschiです。すでに試聴段階でかなりの曲をこのイヤホンで試しましたけど、その表現力の万能性にただただ驚くばかり。正直amazonでもレビューないし、「オリオラスってどこ?」ってくらい知らないメーカーだったんですが、このメーカーやべぇ。

 「JVC党なんでしょ?HA-FW10000買って幸せになったら?」「SONYさんのIER-Z1Rヤバいっすよウヘヘ」みたいな心の声を聴きつつ、いや、「あくまでコスパにこだわる!」という信念を貫き通して、ここ2週間ばかりイヤホン発掘の旅を続けてきたのですが、ついにこのOriolus Finschiに行き着きました。途中マジでHA-FW10000とIER-Z1Rの音が凄すぎて、危うくそっちに魂持ってかれそうになってたけどね。

 しかしこのFinsci、2万円台というお手頃価格で、そこらへんの5万円クラスと充分渡り合えると思います。たしかにジャンルを限定すれば、これがいいあれがいいってのはあると思うんですが、このFinsciのすごいところはその表現力の万能性にあります。

 たとえば音場や音の透明感、見通しの良さ、輪郭感、低域の深み、重み、ブーミーさや引き締め感などいろいろ表現としてはこのFinschiより優れた機種はたくさんありますが、2万円台でクラシックからJAZZ、ロック、ダンスミュージック, etc.まで比較的万能に聴くなら、Finschiが一番なんじゃないかと思います。低域の厚みと膨張感がありながら、くどすぎない感じで中高域をしっかり聴かせるところ、中高域の抜けはさっぱりしてるのに中盤につややかさとふっくらさが感じられて生々しいみずみずしさが感じられる生気感に満ちた感じが秀逸に思えます。

 音を聴いた印象的にはNUARL NT01AXに近いバランスです。あるいは表現の方向性は違いますが、中高域と低域のバランスを大事にしているところは私の好きな機種、audio-technica ATH-CKS550の発想に近いかもしれません。イヤーピースやケーブルにもよるでしょうが、全体的な印象は似ているので、NT01AXで低域が柔らかいと感じた人はこのイヤホンの低域も同じように聞こえると思います。そういう意味では低域ジャンキーを満足させるくらいの重厚感はないですかね。

 私はHA-FD01SPについてたスパイラルドット+で聴いたらすごくよかったんで、このイヤホンのためにJVC スパイラルドット++を買って、それで聴いているので、それがおすすめなんですけど、たとえば付属の低反発ウレタンイヤーピースにしてもそれほど重厚感は強調される印象はないので、重低感を重視する人にはやや向かないところだけはあります。このあたりは人によって聞こえが違う可能性もあるので、一概に重低音が出ないとは言えませんが、たぶんドンと来る重みは強く感じないはずです。そういう意味で、音は全体的に上方向に抜ける感じで向いているところはあります。まあ私の中ではNUARL NT01AXをもう少し音をふっくらさせて解像度上げたら、こんな感じになりました的なイヤホンに聞こえます。

 他の人がどういう音を聴いているかは厳密にはわからないので、私の印象の話になるのですが、私の中でNUARL NT01AXがヤバイって思うのは、聞き疲れしないけどボリューミーで存在感のある中低音と、ほどよく輪郭感を強調しすぎずに優美な印象でのびやかに抜けていく高域の妙味が共存しているところが、どんな音楽でも臭みやしつこさを感じずに聞き込みやすい点にあって、それと同じ傾向の音をこのOriolus Finschiに感じました。

 クラシック、JAZZ、クラブサウンド、エレクトロダンス、ロック、何より冒頭に紹介した3アルバムを試聴で聞き込んで、どれも個人的にかなり聴き応えを感じたので、この音はたぶん多くの人に歓迎されるだろうというのが私の所感です。

 

[高音]:高域はシルクのようにさらっとした感じに抜ける。発色は金属的なキラ味はかなり出るが、ほどよく優美に溶け込んでいる感じがある。音に透ける感じはあまりなく、透明感よりはなめらかさ、さわやかさを感じさせるすっきりした音。くどさや圧迫感がない。もちろん透明感の不足はクリア感の不足と感じやすいことも事実なので、明瞭さに欠ける印象を受けやすいところはある。おそらくだけど、一般的な印象では突き抜け感があるって感じ方はたぶんそんなにされないはず。一部の曲では突き抜けるというか、ボーカルがふわっと伸びてくるような、浮き上がる感じがそれなりにあったので、たぶん浮揚感は出る。私が浮揚感を感じた曲としてはたとえばsaya「宇宙を見上げて」。

 中高域は見通し感が非常に良く、音が立ち上がる様子、伸びていく像が明瞭で、音場全体の見晴らしがこの価格帯では抜群と言えるほど良い。澄み渡る清潔感に満ちた音を味わえる。音楽空間は基本的に明るく聞こえるだろう(秦基博「水彩の月」、井口裕香「Hey World」、多田葵「灼け落ちない翼」でテスト)

[中音]:中域付近はボーカル周りが少し広めに取られている、分離感のある印象がある。このあたりではボーカルはふっくらした甘味もありながら、すっとさわやかに溶け込む空間への抜けを感じさせて、楽器音とあまり混濁しない。ダイナミックドライバーとBAの境目に当たるのか、中低域付近に音が少し空白になるようなすっきりした地平線を感じる印象がある。この中低域付近になんかすっきりしたところのある感じはなんとなくNT01AXに似ている。

 ピアノや弦楽など情感に関わる音には厚みと深み、瑞々しさが感じられ、やや上向いた明るめの色彩感ではあると思うが、浮ついた感じがなく、しっとりと胸に来る濃さはかなり感じられる。

 私は弦楽の音については大きく2つにカテゴライズして理解していて、1つはグラフェン系のドライバーに多い、ちょっとパリパリした感じで芯が見える、いわゆるボーイングの動きを追いやすいタイプの音と、もう一つは厚みがあって根元に太さがある立ち上がり感を重視したダイナミックなタイプの音って感じに、大きく頭の中に箱を作って、分けている。その分類で言うとどちらかというとこのイヤホンは後者の立ち上がり感が強く感じられる系統の厚みのある方に属する。とはいえ、「弦楽で芯見えないの?それじゃいいや」的に早合点はして欲しくなくて、とくに高域方向では透けてきて芯がちゃんと見えてくる。たぶん総合すると、ボーイング感を強調しすぎない、芯を露わにしすぎない厚みのある音ってくらいの理解でいいと思う。こういう言い方すると若干語感的につまんなくなるんだけど、そういう一言で済ませるようなつまらない感じではない音なので、とにかくこの機種の弦楽の良さについては最終的には聴いてみて下さいとしか言いようがない。

 おそらく私が最も感銘を受けたのは、この情感に関わる音の濃厚さと、なめらかさや抜けの良さなどの爽快感に関わる音のバランス感覚の秀逸さにあることは間違いないと思う。だから奥華子の情感の篭もった曲にも感動できたし、同時に三月のパンタシアのもうちょっと淡い、スムースなポップ曲を聴いてもさわやかさを充分に感じられた。

[低音]:厚みがあり、輪郭感はあまり強くない振動で100hz~40hzまで素直な減衰。30hzでかなり沈み、20hzでほぼ無音。で、こういう低域音どっかで聴いたことあるなと思ったら、NUARL NT01AXそっくり。NT01AXのほうがもう少し輪郭強めなのかチリチリした音がするけど、印象的にはかなり似ている。実際タイトさを強調しすぎず、低域の厚みと膨張感をバランス良く出す感じは同じような傾向に感じる(分島花音「killy killy JOKER」、UVERWorld「CORE PRIDE」、重低音音源動画でテスト)

[解像度・立体感]:音場はこの価格帯では広いというほどでもない気がする。音が全体的にすっきりしているので、抜けが良く圧迫感はないが、たとえば同じ価格帯のMUSICMAKER TONEKING BL1の広大な音場感はない。一般に価格帯が上がるほど音場の広い機種が多くなる印象を受けるが、難しいのは個人的にはこの価格帯の標準的な音場っていうのがいまいちわからないところで、手持ちや試聴している範囲から想像するしかない。で、その範囲ではたぶん音場は広いほうであることは間違いないけど、広いって特筆するほどではない。

 解像度に関しては、最近は中高域の鮮明感でクリア感を出している機種が多いように思うが、この機種は高域で述べたように透明感を強調してクリア感を出す機種ではないので、クリア感=解像度と感じる人にはそれほど解像度が高いとは感じられないかも知れない。また音場も既述のように広いって賞賛できるほうでもないので、定位感や音場の広さに解像度を感じる人も解像度が高いとは表現しない機種かも知れない。音の分離感は価格帯ではかなりしっかりしているので、その点の解像度は高い。

 そうするとこのイヤホンの音って解像度をキーワードにまとめるとどんな音ですか?って話になるんだけど、おそらく問題含みな言葉ではあることを承知であえて言っちゃうけど、「原音忠実」系の音ってことになると思う。問題はこの「原音忠実」という言葉にどういうイメージを個人が持っているかという点にあって、ある意味マジックワード化してて迂闊に使えないんだけど、私がどうしてこのイヤホンを「原音忠実」系とまとめたかについては官能性の部分で詳しく説明したい(petit milady「azurite」、分島花音「world's end, girl's londo」でテスト)

[パーカッション・リズム]:ドラムの表面は硬くなく、革張り感のある粘りが感じられやすい音で、輪郭的には膨張感があり、肉は詰まっているので、タイトな感じはあるが、どちらかといえば、空間への広がりや地熱感のほうに妙味を感じさせる系統の音。バッツンバッツンとした詰まりと弾けのバランスが良い音で、熱湯風呂みたいにブーミーではないし、表面に硬さが出てタンタンもしないし、黒みはあるけど強く出し過ぎない音。重厚感だけは若干足りない感じがするが、「CORE PRIDE」でこれくらいの火力感と粘りが出るなら、よほどこだわりがない限り、大抵のロックはドラム周りはそれなりの表現力と感じるはず。シンバル周りに関しては粒感や発色はかなり良いと思うけど、少しサラサラして感じられるので、ツッツッという詰まったシャープな感じとか、もう少しザラザラ感があるドライな感じが好きな人には、少し手応えが軽く、スパイシーさが足りなく思えるかも知れないところはある。ドラムスティックもカッカッと比較的淡泊な感じ。

 淡泊というと、なんだか面白味がないのかと思うかも知れないが、しかし金物については曲によってこうした爽快さを出す表現が非常によく効いていると思われるところがあり、その点については官能性で詳しく見ていきたい(東京カランコロン「スパイス」、nano.RIPE「ツマビクヒトリ」、JOY「アイオライト」でテスト)

[ボーカル傾向]:ボーカルは既述の通り分離感はこの価格帯ではおそらく標準以上くらいにはよい。近めにしっかり聞こえる。音場自体広すぎず、すっきり感はあるがスカスカした感じはほぼ感じないので、ボーカルと楽器の一体感という意味でも距離感は比較的良好に思える。中域ではさわやかに抜ける感じながら、中盤でふっくらした優美なところのある声質で女性ボーカルの甘味は出やすい。透明感はあまり強調されないので、ボーカルが透ける感じはなく、上のほうで透けていく感じになる。息感はサ行で尖るシャープな音でなく、どちらかといえばフーッという抜け方なのでウォームで生気感を感じる。

 

【4】官能性「さわやかな抜けの良さと情感をたっぷり出す濃厚さを共存させた中高域を、厚みと膨張感のある聞き疲れしにくいウォームな低域で下からくるんだ音」

saya「The Girls Are Alright!」「ハルカトオク」「宇宙を見上げて」

 このイヤホンで「The Girls Are Alright!」を聴いてとっても心が暖かくなって、「ハルカトオク」をしんみり味わって、「宇宙を見上げて」で思わず泣いちゃって、もう一度「The Girls Are Alright!」に戻ったら、ボロボロ涙が出ちゃってびっくりしました。このイヤホンの情感攻撃力やべぇ。なんでこんなに感情移入しちゃったのか、よく考えて整理してみますと……。

 まず1周目の「The Girls Are Alright!」はウォームで濃厚でみずみずしさもある中低域にボーカルがふっくらした声色で、でもさわやかにささやきかけるような感じに優しく聞こえてきて、さわやかなんだけどなんか叙情を感じさせる、心がほっこり優しくなる感じで聴きました。

 そのあと「ハルカトオク」に進むともう少し心にズシンと重く入ってくるバランスですが、ベースはそれほどブーム感を強調せずにやわらかみのある感じでじーんと沁み入る鳴らし方で、しみじみ聞き入ってしまいました。

 たぶん前曲の時点でそれなりにやられてたのかもしれないけど、やっぱり重く言葉を心に沁み入らせてきた「宇宙を見上げて」を聞き込んで、急に上方向に感情が解放されるサビ部分でなんか安心感が出たのか、思わず涙出ちゃいました。なんだろ?たぶんこの曲も「ハルカトオク」も重厚感やギターのカッティングやライドシンバルのキラ味なんかがもう少し出ている感じだと、おそらくこんなに心に沁み入ってこないんですけど、このイヤホンのやわらかで抵抗感ない聴かせ方がヤバくて、空気のように身体に入ってくる情感があります。

 それで「宇宙を見上げて」のラストでかなり感情が無防備になっている状態で、リピートで「The Girls Are Alright!」が流れてくると、その優美で豊穣さを感じさせる弦楽とピアノあたりに思いっきり感情すくわれちゃって、泣ける曲じゃないはずなのにボロボロと恥ずかしいくらい涙が止まらなくて焦りました。

 「ハルカトオク」「宇宙を見上げて」に感情移入した後だと「THe Girls Are Alright!」の歌詞が最初聴いたときのコケティッシュな感じとは別の、センチメンタルなものに聞こえてきて、まじで殺人級。このシングルがパネェことは知り尽くしてたつもりだったけど、ここまでやばい感じになるのはこのイヤホンのせいで間違いないです。ていうかパネェってもはや死語じゃねぇ?

 まあ私が単に涙もろいだけかもしれません。

 


TVアニメ「 宇宙よりも遠い場所 」オープニングテーマ「 The Girls Are Alright! 」

  

Nulbarich「Silent WonderWorld」

 このイヤホンで聴く、この曲が凄く好き。好きって言うだけじゃ、まあレビューにならないので、どこが好きか解剖していくんですけど、まずこの曲はかなり残響感が強い感じがあるんですけど、このイヤホンでは輪郭感や透明感があまり強調されないので、ガシャガシャした感じがありません。結構音の密度が高めでうるさく聞こえやすい曲なんですけど、かなりさっぱり聴けます。でも低域にしっかり厚みがあって、その低域もボリューム感だけがあって重く鳴らないから、圧迫感がなくて全体的にすっきりして聴きやすいんですけど、満腹感だけはちゃんと味わわせてくれます。

 ボリューム感とか、シンセのつややかさと情感が乗るだけの厚み、ボーカルの聞こえの良さといった大事な部分はしっかり出しながら、臭みは抑制していて、すごく聴きやすく、のめりこめます。

 


Blank Envelope

 

田中あいみ「かくしん的☆めたまるふぉ~ぜっ!」

 あん?この神曲がやべぇ。このイヤホンで聴くとまじでやべぇ。尖ったところが全くないのに、音のキラキラ感とか緻密なデジタル音がなめらかに聞こえてきて、つやつやつるつるしたスピード感がすっごく楽しくてハマります。それを支える低域も充分な厚みで音場を盛り上げます。

 音の好みに個人差があることは重々承知で、あえて踏み込みたいけど、……この神曲を味わうなら2万円最強に近い…んじゃない……か?

 


かくしん的☆めたまるふぉ〜ぜっ!

 

菅野よう子「White Falcon」

 オーケストラに関しても基本的には価格帯で充分な魅力のある音作りを実感できると思います。ただし実売2万円台となると、このジャンルでは恐るべきコスパを持つJVC HA-FX1100がいるので、さすがに一番とは言いづらく、実際聞き比べるとオーケストラでは大事そうないくつかの点でOriolus Finschiはわずかな表現力不足がある印象を受けます。

 この「White Falcon」はオーケストラの最も派手な部分を詰め込んだような曲なので、各楽器の一番主張の強い音が手っ取り早く味わえて、とりあえずイヤホンのオーケストラ表現の音味を味わうには最適です。

 で、この曲で実際にHA-FX1100と比べてみると、とくに不足を感じるのは金管の音の膨らみと空間への鳴動で、さらに渋みや深みも足りないので、重厚感がなく、HA-FX1100に比べて、かなり明るくだいぶふわっと軽い感じで聞こえます。こういう聞こえ方が逆に音像がはっきりと感じられて抜けも良くて好きだという人もいると思いますが、ホールでのリアルなオーケストラの聞こえ方としては金管に膨らみや鳴動を感じるのが普通だと思いますので、やはりちょっと鮮明度を上げてデジタルリマスター処理された感じに聞こえます。

 「本物の」オーケストラ感を求める人にはやはり少し物足りない音ではないでしょうか。管弦楽に関しては、悪くはないけど、でも……という奥歯に物が挟まる感じがあります。

 このポイントがつまり「原音忠実」とは何か?という部分で、結局のところ、原音というのはどんな音を自然な音と感じるかという部分であり、コンピュータミュージックの世界では劣化がない、音の発色の良さ、単なる音の色味にどこまで忠実かみたいなものが「原音」の再生の点で重要になってくるのに対し、アナログな音ではそれが空間に広がったときにどう劣化するか、変化して聞こえてくるかを踏まえた表現力が求められるところがあって、この2つは最終的には両立しづらいところがあります。HA-FX1100はビクタースタジオの音を再現する「原音忠実」を目指していると公言しているように、どちらかといえば後者の「原音忠実」主義であり、前者と後者の間くらいをとってなんとなく万能に近い「原音忠実」主義をとるのがこのFinschiかなと考えています。

 「原音忠実」には「不必要な演出感を減らして自然に聴かせる」という点も大事なポイントとしてありますが、透明感が強調されたり、シャープネスを強くして尖りや硬質感を強調したりするところのあまりないFinschiの音は「原音忠実」主義な発想の音だと思います。これまで私がところどころ情感の入る余地のある厚みのある音とか、生気感のあるボーカルの息感表現とか言ってきましたが、情感や生気が宿って感じられるというのはつまりそこに生々しさがあるということであり、少なくとも私には生々しいところの多いFinschiの音に「原音っぽさ」を感じることができたという説明で、うまく伝わると良いのですが。

 もちろん結局この点も、本来「原音とは一つではないのか」という当然の疑問とともに、世にさまざまな「原音忠実」イヤホンがあることを想起すれば、私の感じた「生々しさ」が結局私にとっての「生々しい」音であり、万人にとって「生々しい」ものではないはずなので、私の所感に全面的に賛同してほしいというわけではありません。あくまで私はこのイヤホンの音のどこにライブ感を感じるのか、また感じないのかという説明をしたかったというわけです。

 


∀ガンダム オリジナル・サウンドトラック 2 ディアナ&キエル

 

FIRE BOMBER「突撃ラブハート -A.D.2060-」

 同じことはこの曲にも言えます。この曲は個人的にFinschiで一度は楽しんでほしい曲なんですけど、Finschiの音はボーカルに生々しい感じがありながらも、楽器音は全体的に分離感が高く、しかもすっきりと抜けて聞こえてくるバランスなので、かなり見通しがよくスムースでスタイリッシュに聞こえます。必ずしもコントラストやシャープネスが高い感じではなく、たとえば音の発色が鮮明であるとか輪郭感が良いという感じは強くないにも関わらず、個々の音が定位感を持って音像がしっかりと聞こえます。これはかなりすげぇって思わせる音です。

 ただ私はこの曲を普段はHA-FX1100で聴いていて、実際のところ、そっちの音の方がたぶんFinschiより好きです。ドラムの音の締まり方と残響感、ギターやベースの少し膨らんで聞こえてくる感じ、ボーカルのつばの飛沫さえ聞こえるほどの熱気の篭もった、口の形が見えるかのように「ツ」が気持ちよく出てくる歌い方、これはもしかするとレコーディングに忠実とは必ずしも言えないんじゃないかと思いつつ、こうしたHA-FX1100の外連味のある、ある意味野暮ったい音にライブハウスで聞いているかのような熱気が感じられて、なぜか聴衆の空気までそこに感じられるんです。音源にそんなの入ってないじゃん?おまえ頭おかしいんじゃねぇ?って言われればそれまでですけどね。とはいえ、よくわからない魔力がJVCの音に感じられて、私は熱狂的に支持しているところがあるんですよねー。

 たぶん「原音忠実」を究めているのはどっちかと言われれば、字義どおり解釈すれば、Finschiのほうが優秀だと思いますが、どっちが感情移入できて生々しいかといえば、私は圧倒的にHA-FX1100の音を、熱烈さを持って推します。

 ただ、それでもびっくりするくらいFinschiの音には、心に響くところがあるくらいにボーカルに生々しさや楽器音の音の運びが感じられて、しかも外連味がなく聴きやすい正統派のナチュラルサウンド感があるということを強調したいです。

 


Re.FIRE!!

 

奥華子「君が待つあの丘へ」

 このイヤホンで私がとてもいいって思ってる美点の一つがピアノの表現がみずみずしく、そして深みがある濃厚なものになっているというところです。何度か繰り返してきましたが、ピアノの表面はつやっとした光沢がありながら、音の端や表面にはまろみがあって、つるっとしたなめらかな質感を感じます。そしてその音は下方向には重く暗い弦の音が響鳴していてかなりの深淵を感じさせる、上下の厚みのある音です。

 奥華子さんのボーカルにも合っていて、ふっくらとやさしい息感を伴った声色に聞こえるので、単語がとぎれずに流れるようにすーっと胸に入ってきます。

 ピアノがメインの曲が多い奥華子さんの曲なら大抵相性は良いですし、ボーカル表現の仕方としても、この方向性がたぶん正解に近いと思うので、おそらく価格帯では屈指の奥華子キラーなイヤホンではないかと思います。

 もちろん好みというのがあって、こういうふっくらした感じで奥華子さんの曲を味わいたいときと、もっと透明感が強調された感じで鮮烈な味わいを楽しみたいときがあるのですが。

 


KASUMISOU

 

www.ear-phone-review.com

 

Glitter*Green「Don't be afraid!」

 もうどこでおすすめされたか忘れたけど、聴いたらすっごく良くて、でもパケ絵見て、「あーまさか……」と思って確認するとやっぱりバンドリ系楽曲だったという曲。

 いい曲だと思って確認すると、アニメ絵なら8割がたバンドリとか、よく考えたらこのアニメだかゲームだか知らないけど、このシリーズやばくない?ただ単に私が検索エンジン的な罠かなにかにはまり込んでるだけかもだけど。

 まあ、そうとはいえ、この曲は第一印象ではうまいとかすごいって曲じゃなくて、なんか全体的に妙にバランスをわざと崩しているようなアマチュア感があって、演出もいまいち物足りない感じがあります。それが実は曲の物足りない部分の脳内補完を誘ってくるんですよ。

 よくよくこの曲を楽しむ過程を考えてみると、実は結構計算された巧妙さを感じるところもあって、アンバランスなように思えて、サビの最後の突き抜けるメインボーカルやコーラスに色気があったりするので、ボーカルの味わいはちゃんと組み立てられてますし、後半に行くほど演出感が加えられて盛り上がるようになってます。各パートの音を目立たせて味わわせてるところもわざとらしく、楽器音に曲の焦点を当てることで他の楽器の音を脳内で補完させるところがあるので、聞き込むほど脳内補完が進んで「聞こえないはずの音が聞こえてくる」感覚が味わえます。演出を少しずつ変化させたりする意外に技巧派のところもある曲で、聞き込むほど、意外とあざとい感じで中毒性も増す、たぶん一聴した印象以上に奥深い神曲。曲の中で曲が完成していくところのある、こういう曲作り、ありなんだって気づかされます。

 バンドリってなんだかんだいってやばくねぇ?これ、たぶん狙ってるよね?私がなんか勝手に聞き込みすぎて妄想膨らませてるのかもしれないっていう不安感もあって、見当外れの可能性もなきにしもあらずなんですけど。レパートリーの多彩さと言い、味わいの奥深さと言い、バンドリ曲はすごいってのは私の最近の偽らざる実感です。

 で、もはや曲の紹介に言葉を費やしすぎたんですけど、この曲をリピートして楽しむのにこのイヤホンはたぶん最適なバランスです。音の分離感も良く、聞こえるところも聞こえないところもはっきりして鳴らしてくれるので、脳内補完はかどる感があります。あとこの曲のハイハットは少しくどいバランスなので、このイヤホンの表現がたぶん聞きやすいバランスだと思います。少なくとも私はこれくらい抜けが良いほうがハイハットの音が気持ちよく聞こえます。

 ハイハットやギターのカッティングなどの金属的な音がきついところがさわやかに聞こえるっていうこのイヤホンの特性は他にも、たとえば(K)NoW_NAME「Harvest」高橋李依「Stay Alive」のようなハイハットやカッティングが少し悪目立ちしやすい曲でも効果がある感じで、うるさげな感じがあまりなく聴けます。もちろんこうした音をこのイヤホンみたいにサラサラした感じというか、サリサリな音って方が正確かも知れないような、やや清涼感の強い音じゃなくて、もっとシャリシャリだったりザラザラだったり、カチカチだったり、もう少し掻き鳴らすというか掻き殴った感じに、心を揺さぶられるバランスで聴きたいって人はいるはずなんで、あくまで臭みの少ない爽快さ重視で疲れずに聴きたいならという留保はつきますが。

 ただこれはあくまで私の経験上の話で、万人がそうなのかわからないんですけど、曲を聞き込むと小音量でも脳内で明確に音像が補われるところがあって、小音量のほうがむしろ自分の最良のイメージに近い音楽が楽しめる場合もあります。それと同じようにギターのカッティングとかシンバルの音の風味なんかも意外と音の風味を目立たせすぎないバランスで聞かされたほうが、逆に空気感を醸してくる場合もあって、このOriolus Finschiのさわやかな抜け心地で音を滞留させたり固着させない鳴らし方に、私はむしろ濃厚な情感を感じてしまうという矛盾したところもあります。

 


Don't be afraid![通常盤]

 

挟間美帆「マジャール・ダンス」

 低域に厚みはありますけど、中高域の見通し感が良くて、すっきりしているんで、かなりスムースで都会的なJAZZに聞こえます。オーケストラ系の「White Falcon」のところでも述べましたが、木管や金管は若干明るすぎるバランスかも知れないので、空気感は少し晴れてしまっていて、曲全体が、渋みのない屈託ない表現に聞こえるところはあります。

 


ダンサー・イン・ノーホエア

 

【5】総評「2万円台で音の分離感が良くて、かなり幅広い曲に対応し、聞き疲れしない音像重視のイヤホンを探しているならオススメ」

 実力派揃いの2万円台の中では個人的にかなりおすすめの機種です。音質的に比較的万能に聴かせてくれるところがあり、分離感と音の抜けがよくて、しかも音の厚みは一定程度保たれているというなかなかお目にかかれない良チューニングで、最近のデジタル曲からアナログ曲まで、かなりレベルの高い表現で聴かせてくれます。

 臭みの少ない音で、音像をとことん聞き込んで楽しめる秀逸イヤホンを探しているなら、候補に入れてみてはいかがでしょう?

Oriolus Finschi

 

 

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*1:おすすめ度とは、あくまで主観的に「ここが面白い!ここが味わい深い!」と思ったポイントです。たとえば低域が「5」だからといって低音が支配的で低域重視で鳴りますというわけではなく、「低域の表現が丁寧でうまいなぁ」とか「これはちょっと他では味わえないかも」といった特徴的な音、魅力的な音がポイント高めになります。そのイヤホンの販売価格帯も考慮した主観的な評価です。

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