【1】DAPを持ち運ぶならこだわりたい「電池持ち」
今回の特集はデジタルオーディオプレーヤーを扱います。この記事では私が個人的観点で選んだおすすめ機種を紹介しますが、しかし、その前にどういう選好で私が今回の特集記事のDAPを選んだかを説明することは有益であるように思われますので、しばし説明させていただきたく思います。
バッテリー性能の重要性
デジタルオーディオプレーヤーをどのように使うかは人それぞれですが、多くの場合ポータブルに持ち運ぶという人が多いと思われます。そもそも家庭内で使うならPC含め据え置きで問題ないわけですし、デジタルオーディオプレーヤーをわざわざ選択する人の多くが持ち運びを考えているでしょう。
というわけで、デジタルオーディオプレーヤーを「携帯機器」として捉える場合、最も重要な要素の一つは充電持ちになります。複数持ち運ぶならともかく、1台を持ち運ぶという場合、とくにこの再生時間がどれほど確保されているかというのは大きなポイントになります。
目安としてはできれば10時間はほしいです。最近の完全ワイヤレスイヤホンなどは5時間以上連続再生時間を確保しているものも多く、少し長めに外出した際に一日中音楽を楽しむということを考えると、半日程度の再生時間はあるとうれしいです。もちろんモバイルバッテリーを使えばある程度再生時間の欠点は補えますが、使ったことがある人なら分かるように、モバイルバッテリーでの充電というのも意外と面倒で、頻繁に外出時充電するというのは煩わしいでしょう。
バッテリー性能は減る
もう一つ考えたいポイントはバッテリーは消耗品だということです。リチウムイオン電池は普通に毎日使っていると、2年程度でその駆動時間は半分になります。つまり当初10時間再生出来たポータブルオーディオプレーヤーも2年後には5時間程度しか再生時間が期待できなくなるということです。したがって、今の時点で再生時間が充分だと思っていても、数年後まで使うことを考えると不十分ということがあります。とくにポータブルオーディオプレーヤーはスマホと違って、バッテリー寿命が減ったからと言って簡単にバッテリー交換できるものでもありません。
そのため、ポータブルで長く使いたい場合には、バッテリー性能はとくに大きなポイントになります。
【2】電池持ち重視の方におすすめするDAP
そういうわけで、今回はバッテリー持ちを考えて、とくにおすすめする機種を選り抜きました。
SONY NW-A55
- 高音 6/10
- 中音 5/10
- 低音 6/10
- 音場 5/10
- 情報量 5/10
- 音の傾向 はっきり系
- アプリ対応力 1/10
- 通信対応力 7/10
- 対応コーデック SBC / aptX / aptX HD / LDAC
- 拡張性 16GB (+128GB)
- DAC 独自
- ハイレゾ 384khz/32bit DSD256
- バランス接続 なし
- 実売価格 2万円前後
電池持ちでDAPを選ぶならSONY製をおすすめする。どの機種も余計な発熱はなく、電池効率が非常に良い。
音質はドンシャリ系ではっきりコントラストをつけて音を聴かせるタイプ。輪郭も良く、低価格の割にはっきりと音楽をクリアに感じさせてくれるところがあり、スピード感もある。とくに下位モデルのNW-S313と聞き比べると表現力に圧倒的差を感じる。
インターフェースは独自だが、反応は良く操作性も機敏。問題はスマホアプリに対応しておらず、自社のHeadphones Connectでさえ使えないところ。しかし完全ワイヤレスイヤホン相手に携帯して使うなら現状最強クラスのコスパを誇る。
SONY独自デザインのOSとUIで、転送ケーブルまで独自規格でアプリ対応含め全てが前時代的なのが欠点。
SONY NW-ZX300
- 高音 6/10
- 中音 6/10
- 低音 7/10
- 音場 6/10
- 情報量 7/10
- 音の傾向 濃厚系
- アプリ対応力 1/10
- 通信対応力 7/10
- 対応コーデック SBC / aptX / aptX HD / LDAC
- 拡張性 64GB (+128GB)
- DAC 独自
- ハイレゾ 384khz/32bit DSD256
- バランス接続 4.4mm
- 実売価格 5万円前後
SONY系のミドルレンジDAP。バランス接続可能になったのがNW-A50との大きな違いで、本格的に有線イヤホンの上位機種を楽しむなら、この機種を買うことをおすすめする。さらに上位のNW-WM1クラスになると携行性に難が出てくるので、この機種はある意味最も実用性が高い。電池持ちはNW-A55に匹敵し、ほぼ同等の使い勝手。
音質はNW-A55に比べて輪郭も太さもあり、低域の重厚感も増した音を奏で、シャープネスはほどよく抑えられたややマイルド系サウンドになっている。そのため価格帯のほかのDAPと比べても濃厚感のある音となっており、ボリューム感重視で充実して音楽を聴きたい人にはかなり有力な選択肢。一方で、見通し感重視の人には、高域までクリアな感触があるNW-A55の方が印象が良かったりするかも知れない。
NW-A55と同じく、SONY独自デザインのOSとUIで、転送ケーブルまで独自規格でアプリ対応含め全てが前時代的なのが欠点。
ONKYO GRANBEAT DP-CMX1
- 高音 7/10
- 中音 7/10
- 低音 6/10
- 音場 7/10
- 情報量 7/10
- 音の傾向 すっきり系
- アプリ対応力 10/10
- 通信対応力 8/10
- 対応コーデック SBC / aptX / aptX HD
- 拡張性 128GB (+256GB)
- DAC ES9018C2M×2
- ハイレゾ 384khz/24bit DSD256
- バランス接続 2.5mm
- 実売価格 5万円前後
この機種はDAPというよりスマホ。そのためDAPとして考えると電池容量は抜群に良く、余計なゲームアプリなどを入れずにDAPに特化すれば電池持ちは非常に良い。スマホなのでアプリ対応も良く、電池持ちと使い勝手を両立させるなら現状最も有力候補。標準のストレージ容量に優れていることも美点として挙げられる。ただし、Androidのバージョンは古いので最新のアプリに対応できなくなってきているのは欠点になる。
ONKYO系DAPは通信的な相性も多いが、その欠点も引きずってしまっている。完全ワイヤレスイヤホンの一部とはまともに通信できないこともある。
音質はESS系らしく、解像度感重視ですっきりしたサウンド。ほぼほぼフラットでクセがない上に、HF Playerにカスタマイズが加えられた専用プレーヤーアプリはイコライザー機能が優秀で、プリセットを使えばどんなジャンルでも万能に味わえる。このイコライザーはワイヤレスオーディオにも適用される。
SONY NW-WM1A
- 高音 7/10
- 中音 8/10
- 低音 8/10
- 音場 8/10
- 情報量 7/10
- 音の傾向 ゆったり系
- アプリ対応力 1/10
- 通信対応力 6/10
- 対応コーデック SBC / aptX / aptX HD / LDAC
- 拡張性 128GB (+128GB)
- DAC 独自
- ハイレゾ 384khz/32bit DSD256
- バランス接続 4.4mm
- 実売価格 11万円前後
電池持ちの観点からこの機種を紹介しているが、個人的な観点から言わせてもらうと、10万円以上出すなら電池持ちよりも機能性などいろいろ考慮するべき点が多くなるので、前時代的な設計のSONY製品より魅力的なDAPはたくさんある。あくまで今回の特集の観点からこの機種を紹介するが、私はこの機種にあまり魅力を感じない。
音質はゆったりと中域から低域に雄大な音を聴かせるバランスで、とくにクラシックと相性は抜群。リラックスしたサウンドで滑らかに心地よく厚みのある音を聴かせる。反面、高域はあまり脚色やディテールに詳細さが感じられず、若干没個性的であるように感じられるかも知れない。中域から低域にかけての豊かさという面では現状かなり優れた機種の一つであるが、目立って優位というわけでもない。
しかし一番の欠点は、SONY独自デザインのOSとUIで、転送ケーブルまで独自規格でアプリ対応含め全てが前時代的だというところ。さすがに長く使うことを前提に選ぶ10万円以上の価格帯で、古くさいところのあるDAPを買う気はあまりしない。
FiiO M11
- 高音 7/10
- 中音 7/10
- 低音 7/10
- 音場 7/10
- 情報量 7/10
- 音の傾向 すっきり系
- アプリ対応力 6/10
- 通信対応力 7/10
- 対応コーデック SBC / aptX / aptX HD / LDAC / HWA
- 拡張性 32GB (+4TB)
- DAC AK4493EQ×2
- ハイレゾ 384khz/32bit DSD256
- バランス接続 2.5mm / 4.4mm
- 実売価格 5万円前後
この機種は有線接続時の電池持ちはそうでもないが、ワイヤレス接続だとLDACで48時間持つという驚異的なスペックを持っている。選んだ理由はそれだけ。
音質は明るめで伸びの良いすっきり系。ESS系のDACに比べると解像感はそれほどでもないかなと思うが、下位機種のように濃厚感を強調する感じがなく、比較的ニュートラルで解像度が良く感じられる。
OSはAndroidベースの独自仕様で、スマホアプリをがんがん入れることはできない。完全ワイヤレスイヤホンのアプリも対応が悪い。よって、せっかくワイヤレス接続の電池持ちがよさそうなのに、完全ワイヤレスイヤホンとの相性は高くなさそうなところが非常に残念。仕様面で非常に魅力的な機種だが、相変わらずのFiiOっぽい使い勝手の悪さも感じるので、個人的にはスルーした。
COWON PLENUE D2
- 高音 7/10
- 中音 7/10
- 低音 7/10
- 音場 7/10
- 情報量 7/10
- 音の傾向 すっきり系
- アプリ対応力 1/10
- 通信対応力 0/10
- 対応コーデック なし
- 拡張性 64GB (+128GB)
- DAC CS43131×2
- ハイレゾ 192khz/24bit DSD128
- バランス接続 2.5mm
- 実売価格 4万円前後
COWONのPLENUE D2は有線イヤホン向けのDAPとしては非常に魅力的。少なくともバッテリー性能は抜群に優秀で、MP3品質で最大45時間、ハイレゾ音源でも30時間程度の再生時間を誇っている。
音質もすっきりと透明感を重視して見通しが良いながら、中域で甘味を出すことも忘れない品の良いサウンド。さらに40種類以上の優れたイコライザー機能を持つJetEffectが使えるほか、5種類のDACフィルターを使うことができる。イコライザーはともかく、DACフィルターを変更可能なDAPは稀。
一方でこの機種はあらゆる意味で前時代的という明確な欠点がある。Wifi機能はなく、ワイヤレスオーディオに対応せず、UIは古くさく、ハイレゾ再生能力も中途半端。現在の水準だと384khz/32bit DSD256まで対応するのがミドルレンジ帯のDAPとして一つの指標となっているが、これを満たしていない。最近は一般的になっているUSB-DAC機能も搭載していない。有線イヤホン/ヘッドホン相手には真のポータブル性を発揮してくれるものの、完全ワイヤレス/サブスクの現代的な音楽環境に全く対応していない。したがって、メインDAPとしてこれを選ぶのは、それほどおすすめできる選択肢ではない。
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