ソニー・ミュージックソリューションズ ハイレゾ対応スタジオ用モニターヘッドホンSONY MDR-M1ST
- 【1】装着感/遮音性/通信品質「イヤーマフはほどよく厚く装着感が良い」
- 【2】外観・インターフェース・付属品「割愛」
- 【3】音質「質感的にはややドライで無味乾燥な感じがあるが、丸みのある聴き心地の良い形で音で定位よく聴かせる。低域やや強調でウォームだが、中高域以上も前傾して少し伸びてくる。全体的に前傾的で聴きづらい感じのない音響」
- 【4】官能性「音は武骨」
- 【5】総評「決して面白い音ではないが、完成度は高い」
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【1】装着感/遮音性/通信品質「イヤーマフはほどよく厚く装着感が良い」
おすすめ度*1 | |
---|---|
ASIN | |
スペック・評価 | |
再生周波数帯域 | 5~80000Hz |
インピーダンス | 24Ω |
感度 | 103db |
ドライバー構成 |
密閉ダイナミック型 |
音質傾向 |
弱ドンシャリ、ウォーム、ドライ、音が丸い、前進的な音響、モニターライク、粒立ちが良い |
ヘッドバンドの伸縮は結構よく、イヤーマフも厚めで装着感は良い。遮音性は素晴らしいというわけではないが、そこそこ良い。
テスト環境
今回のテストはCayin N6II/T01とAstell&Kern KANN CUBE、a&norma SR15、ONKYO GRANBEAT、Hiby R6 Pro、COLORFLY U6、COLORFLY U8で行っている。
【2】外観・インターフェース・付属品「割愛」
付属品はケーブル、説明書。ただしONZOのサブスク版なので製品版とパッケージ内容が一緒かは不明。
【3】音質「質感的にはややドライで無味乾燥な感じがあるが、丸みのある聴き心地の良い形で音で定位よく聴かせる。低域やや強調でウォームだが、中高域以上も前傾して少し伸びてくる。全体的に前傾的で聴きづらい感じのない音響」
音質的には低域が少し目立つ感じではあるので、その支配力は若干強く、音場は基本的にウォームになりやすい。その低域はパンチよりキックが強めで、ズドンズドン重みと広がりを出す感じであり、音楽全体の中では少し存在感が強めだが、それでも見通しを悪くするほど膨らんではいない。
中域はやや後退が見られる印象で、DAPによって低域がわずかに被さってくる感じがあるが、基本的には見通しが良い。音場はクリアというよりはほどほど厚みを持たせたウォームな感じで奥行き感や分離感はあるが、それを意識させすぎない。輪郭は丸く、定位感は良いが音に孤立感はなく、アコースティックな曲もデジタルな曲も、万能にリスニングできる感じになっている。
中高域は前傾的になっているようであるが、少し高いところで前傾しているようで、ボーカルは丸く甘味を出しつつも、基本的にのびやかさ重視である。シンバル、高域弦楽などは少しシャープネスを強調しているようではあるが、ボーカルの息感などはほとんど尖らず、子音はなめらかでふっくら聴き心地が良い。モニター的とは言いつつも、音をはっきり聴かせすぎて集中力を必要以上に要求することはしない、聞き疲れしすぎないバランスになっている。
高域はなだらかに閉じている。中域の濃さをしっかり感じさせつつ、大抵の電子音とボーカルに天井感を感じさせないあたりまではそれほど減衰せず、シャープネスに関わる高い帯域は巧みに減衰されている。全体としてマイルドで明るい。
このヘッドホンについて私が持つサウンドイメージを曲で表現するとなると、たとえば次のような曲になる。
DAP相性
KANN CUBEで聴いてみると重低音で広がりやすく、とくにロックではドラムとベースの熱量が高まりやすいところがある。KANN CUBEも素直なモニター的なところがあるのが影響するのか、基本的に中域は少し奥まって、低域支配を受けやすい感じで聞こえやすく、中高域でもう一度前に出てくるというようなバランスになっている。曲にもよるが、低域のドライブ感が出やすく、やや圧迫感が強い。
そういう意味では、実のところ同じESS系のDACを使っているにしても、Hiby R6 Proのほうが聴きやすい。素直に低域は厚みがある感じだが、中域により厚みがあり、中高域もしっかり前傾してくるので、低域に力負けしている感じがない。また重低音の広がりも相対的に抑制的で低域の量感の割に熱量が抑えられているように感じるのも大きいかも知れない。個人的にはKANN CUBEより濃く、味わい深く聞ける。
同じくESS系のCOLORFLY U6は中域で厚みを出す傾向はHiby R6 Proに近いが、より低域が抑制的でボーカルフォーカス良く聞こえる。同じCOLORFLYでもU8はさらに音が淡い感じで、低域も少し薄味で均したように柔らかくなっており、中高域も色味を抑えて聞き取りやすい。さらに同じくESS系のGRANBEATはCOLORFLY U6に近いバランスに聞こえるが、たぶん低域が少し厚いのか中高域の発色不足か、U6に比べると透明感が少なめで少しもっさりしている気がする。
a&norma SR15だと独特の音を均したような厚みと広がりのありつつも、すっきりした音の鳴らし方がそのまま表れ、低域はややドスドスと重み重視になるが、充実感の高い音になる。中高域の発色も良い。
N6II/T01もドスドス低域の厚みを出しつつ、中域もより厚く、さらに中高域は少し硬質に輝きを強調する。
美点
- ウォームで聴き心地が良い
- ニュートラルに近いドライな音質で臭みが少ない
- 音に丸みと広がり、厚みがあって聞きづらさがない
- 左右が広い
- 全体的に前進的な音響構造になっているので、音が分かりやすい
- 低域はほどよくボリュームがあり、重低音の広がりも良い
- 中高域が良く聞こえ、高さもあり抜けも良い
- 高域ではシンバル・弦楽に手がかりが多くはっきり浮かび上がる
- 高域の上の方はマイルドカーブしている
- アコースティックにもデジタルにもよりすぎないナチュラル系中庸サウンド
欠点
- 低域は少し支配的で、曲にもよるがボリュームを上げると膨らみやすい
- シャープネスをあまり強調しない
- 前進的な音なので曲によって圧迫感が出る
[高音]:高域は少し高いところからマイルドカーブで後退しており、高域のシンバルのシャーンという高い空気感は結構出るし、白味も感じるが、音楽全体を見ると抑えめ。高域をほどよくディテールがわかるところまで持って行きつつ、音楽全体の中で派手に目立ちすぎないよう適度な後退が加えられている(秦基博「水彩の月」、井口裕香「Hey World」、多田葵「灼け落ちない翼」でテスト)
[中音]:中高域はツヤを少し強調しつつも、みずみずしい感じは抑えめで、光沢でキラキラしすぎないように調整されている。女声ボーカルは中高域で少し伸びて前傾してくるように思うが、ボーカルフォーカスは中庸。左右が少し広く整理されてボーカル周りがすっきりしており、そのおかげで聞こえが良い感じで、フォーカス感が強いというわけではない。
[低音]:100hz~40hzまでブーンという太さはあるがまとまりはよい感じの振動。30hzで沈み、20hzでほぼ無音。ベースの深みと広がりはよく、下に重心を下げる感じはある。バスドラキックはズドンと一気に来ないで中低域で一度膨らむ感じがあり、意外とゆるく柔らかい膜のような地鳴り感を持っている。低域は柔らかめではあるが、見通しは良く、音の広がりはよくフォーカスされている(分島花音「killy killy JOKER」、UVERWorld「CORE PRIDE」、重低音音源動画でテスト)
[解像度・立体感]:低域が少し強調される印象があるので、ロックなんかでは深さと広がりでやや重心は下に向くようなことも多いかも知れない。低域はやや支配力が強い印象。ボーカルと低域の距離感はそれなりにあるため、混濁することはほとんどないが、それでも音量を上げると曲によっては低域が膨らんできて被さる感じはある。中域で左右は広く、定位はよい。奥行きはそれほど強調されない(petit milady「azurite」、分島花音「world's end, girl's londo」でテスト)
[パーカッション・リズム]:ドラムは全体として見ると、樽形のような中低域で膨らみ、下で重い感じに聞こえる。タムやスネアの鼓面の明るさは強調されず、バツバツしているドライな革張り感を感じる。キックは重くはっきり出るが、ズドンと一点に重みをかける感じではなく、少し膜を張るような、ボズンと言った感じの広がりのある音になる。全体的に見るとバッツンバッツンしているちょっと膨らみのある感じ。ハイハットはチンチンしているあたりも比較的濃く、高いところでも白味を出すのでそれなりに存在感がある(東京カランコロン「スパイス」、nano.RIPE「ツマビクヒトリ」、JOY「アイオライト」でテスト)
[ボーカル傾向]:男声ボーカルも女声ボーカルもほどよいボディを持っており、一定の太さでまっすぐのびるような、安定的な聞こえ方に感じる。ボーカルはやや乾燥したような、無愛想な声色で女声ボーカルは中高域で少し伸びる感じがある。ボーカルはそれ自身が浮かび上がりがよいという感じではないにも関わらず、ボーカル周りに楽器はほとんどかかってこないようによく調整されている感じがある。
【4】官能性「音は武骨」
(K)NoW_NAME「Knew Day」
【ONKYO GRANBEAT/Hiby R6 Pro/Cayin N6IIで鑑賞】ぶっちゃけこの曲はあまり楽しくないです。一番の理由はたぶん弦楽。なんかのびてるけど、ヒステリックさとか鮮やかさに欠けるんで、演出感が足りない感じがあります。あと奥行き感の不足かな。
GRANBEATで聴くとあまりに面白くないんで、Hiby R6 Proに替えてみると弦楽やピアノに潤い感が出て、だいぶ楽しくなります。Cayin N6II/T01にすると、中域がちょっと濃厚になる上に、高域弦楽が少し硬めに出てくるようになるんで存在感が増して、これもよかったです。
KANN CUBEは意外と弦楽きれいに聞こえる気もして悪くないような気がするんですけど、低域ちょっとうるさい気がするのと、音がドライでちょっと親しめない感じなんで、詳細なんですが、なんとなく聴かされている感じがあります。
どちらにせよ音は結構前進的で奥行き出さずにどれもこれも聴かせる感じですが、それでいてほどよくボーカル周りとか整理されていて、聞き苦しい感じはないです。音の質感は本当に無愛想な印象ですが、聴き心地自体は良いです。音はあんまり親しめない感じですけど。
TVアニメ『灰と幻想のグリムガル』オープニング・テーマ 「Knew day」
時瀬高校箏曲部「龍星群」
【COLORFLY U8/COLORFLY U8/Hiby R6 Proで鑑賞】この曲がきれいに聴けるってのはそうなんですけど、私が言いたいのはむしろこのモニターがDAPの違いをきれいに出してくれるということを言いたい。この曲は箏の音色一色なんですが、このヘッドホンで聞くと、DAPごとの潤いの出し方の違いがすぐ分かります。
手持ちで一番箏の潤い感をみずみずしく出してくれるのはCOLORFLY U8。率直に言ってやばいです。弦から水がにじみ出るような感触を味わえます。同じCOLORFLYでもU6はだいぶ硬くて、水が滴る感じより弦の張りが強いので、なんかほぐれてないなって印象があります。
U8に匹敵する潤いを感じるのはHiby R6 Proでこちらはもう少し弦が濃い音なので、濃厚感があり、滴るというよりは力強く搾り取られるような潤いがあります。
自身があまり色づけせず、音の質感を無愛想だけど丁寧に表現してくれるところのあるM1STだからこそ、DAPの色づけ方の違いを追究できる感じはあります。そういう意味で、よいモニターヘッドホンです。
【5】総評「決して面白い音ではないが、完成度は高い」
個人的には聴いていて楽しいかって言うと、そうでもないヘッドホンです。プロ機材を使ってレビューしているわけではないので、あくまでホビー用途としてどうかという話になるのですが、DAPの違いみたいなのを研究するにはいいかもしれないけど、普段から楽しく音楽を聴ける感じではあんまりないかなという印象です。どうも武骨なところがあって、音に風味みたいなのを自ら出していく感じではありません。まあそういうのをモニターというので、当然ではあるんですけど。
モニターヘッドホンという割に意外と低域が強いのも個人的にはちょっとなぁと思うところはあり、DAP次第ではありますが、曲によっては音量上げると低域うるさくなります。たぶん量感的にはそうでもないはずなんですけど、中域以上に派手さがないので、相対的に低域支配力が強く聞こえます。もう少し抑えてもよかったかもしれません。
ソニー・ミュージックソリューションズ ハイレゾ対応スタジオ用モニターヘッドホンSONY MDR-M1ST
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*1:おすすめ度とは、あくまで主観的に「ここが面白い!ここが味わい深い!」と思ったポイントです。たとえば低域が「5」だからといって低音が支配的で低域重視で鳴りますというわけではなく、「低域の表現が丁寧でうまいなぁ」とか「これはちょっと他では味わえないかも」といった特徴的な音、魅力的な音がポイント高めになります。そのイヤホンの販売価格帯も考慮した主観的な評価です。