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【コラム】イヤホンの理想形に近い音を実現する「SoundPEATS Gamer No.1」。それは大多数の人にほぼ完璧なステレオイメージを心理的に実現する

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SoundPEATS Gamer No.1

SoundPEATS Gamer No.1

 

 長年の間、あらゆるレコーディングスタッフ、サウンドエンジニア、作曲家、演奏家そしてオーディオマニアは音楽を完璧に再現する音響平面、すなわちパーフェクトなステレオイメージモニターを追い求めてきました。

 

 まっとうなオーディオメーカーであれば、その最終的な目標は完璧なステレオイメージをもたらす音響機器の製造にあります。もちろん世の中にはそれを目標としないオーディオメーカーも数多くありますが、少なくともプロの音響現場に製品を提供しようというメーカーが実現しようとしているのが完璧なステレオイメージであることは間違いありません。

 

 完璧なステレオイメージを心理的に実現することを考える場合、理想的な音響機器は鼓膜付近で聞こえる音平面が聴取音量の等ラウドネス曲線の逆補正カーブに近似していることが求められます。その要件を充分に満たす音響機器は、再生される音楽と等量の広さと正確な水平定位、垂直定位を持った心理的音響平面を人間の頭の中心付近から形成します。そして、そのような心理的ステレオイメージを理論上完璧に再現できるのは、正しい装着感が得られれば耳から動くことのないカナル型イヤホンです。

 

 これまで私は理論上、こうした完璧なステレオイメージが存在することはわかっていましたが、その音を聴いたことがありませんでした。基本的にこれまで私が聴いてきたイヤホンは完璧なステレオイメージにほど遠かったからです。

 

 私のブログにいくつかある計測データの内、この完璧なステレオイメージに関わるのは心理的イメージの正確性に関わる「ラウドネスステータス」です。はっきり言ってしまえば、私のブログを正しく理解していれば、確認すべきデータはラウドネスステータスとTHDだけだということはお分かりだと思いますが、この界隈には多くの人がいるので、様々な考え方があり、そうした人のニーズを満たすために多くのデータを掲載しています。

 

 御託を並べるのは辞めましょう。以下に公開するのがSoundPEATS Gamer No.1のラウドネスステータスです。

画像11

 

 このグラフはまっすぐなほど、より均質な心理的音エネルギーが期待されることを表しており、つまり、より完璧な心理的ステレオイメージが期待できることを意味します。実際には個人の心理的音響平面は耳の形状などにより異なりますが、等ラウドネス曲線を適用することで、大多数の若い健聴者の平均的な心理音響平面の基礎データを得ることが出来ます。

 

 私は今までかなりの数のイヤホン・ヘッドホンをレビューしてきましたが、ここまで完璧なチューニングは見たことがありません。ハイエンド機種でもこんなまっすぐはありません。そして偶然こんなチューニングが出来上がるわけはないので、SoundPEATSは明らかに狙って音作りしています。Gamer No.1以前に私のリファレンスだった、AKG N5005、final A3000、EarFun Air Proもここまで完璧ではありません。

 

 AKG N5005は中域が完璧に近いのですが、高域で音が聞こえにくく音の伸びに限界を感じます。A3000は逆に高域は完璧に近く聞こえますが、中域が暗すぎます。ただし、A3000の中域が暗いのは意図的で、実際には現実世界の定位に合わせて定位の中心点を頭の中心より奥に離した位置に持っていきたかったんだと思います。ただそのせいでGamer No.1の完璧に近い音響平面を聞いたあとだと、定位に違和感を感じ、空間が窮屈です。以前はN5005やA3000が理想的な中域の典型かと思ってたんですけど、Gamer No.1のほうが音に澱みがありません。

 

 ただ、ここまでのところでも、私は正直自分自身でこのグラフの意味を本質的には理解していなかったと言わざるを得ません。なぜなら、ここまで完璧な一貫性のあるラウドネスステータスを持つ機種を聴いたことがなかったので、完璧に近い心理的音響平面とはどんな音がするのかについて、聴いたことがなかったからです。つまり理屈の上でこう聞こえるだろうというような空想実験にとどまってたんですが、実際に音を聞いたら、その意味がわかりました。「百聞は一聴にしかず」ですね。

 

 SoundPEATS Gamer No.1の音は驚異的です。すべての音が均質に、上下と左右に広がります。その心理的音響空間は私にとってほぼ完璧なので、ほとんどの曲でボーカルがきわめてまっすぐに立って、頭の中心で聞こえます。とくにステレオ再生を前提に制作されたと思われる曲は、多くの場合、楽器の最前列がボーカルと同じ水平位置で横に聞こえるので、モニターディスプレイのように「まったいら」に聞こえます。これはGamer No.1のチューニングが本来、ゲーム画面とゲーム音が空間的に適切に同期することを目的としていたためだと思われますが、それが結果的にオーディオ的に完璧に近い音平面を形成したのでしょう。ただし、ゲームモードの超ドンシャリチューニングの意図は個人的には未だ謎です。シアター空間の再現を狙ったのかな?

 

 とにかく、Gamer No.1の音響空間では、ステレオ再生の音楽であれば、たとえばバイオリンやドラムの音もほぼまっすぐ上に伸びるので、定位が明瞭です。音楽の全体像を映す鏡のように聞こえます。ただし、ステレオ録音された音源はそのまま音源が頭の中心から展開されて聞こえるので、頭にはりついて再現され、ボーカル曲では頭の中心でボーカルの立ち位置から展開されて聞こえるように再現されます。つまりスピーカー再生や生演奏と異なり、音場は広いですが、定位の中心点は完全に頭内的になり、音源や演奏者との距離感がかなり消失したように聞こえます。そのためデジタルに構成された曲より生録音の音源のほうが一般に聴き心地が良いですね。最終的に距離的な不自然さを解消するには録音音源側でバイノーラル対応するなどの処理が必要でしょう。ただし、重低域を足すと音がより自然な空間表現になるので、Gamer No.1の場合、単純に拡張性の不足、具体的には低域の深さが足りないせいで音響空間の展開が足りないのが違和感の原因になっている可能性もあります。

 

 その心理的音響空間ではイヤホンのクセ、つまり存在感はほとんど消えるので、finalの言葉を借りれば、完全な「トランスペアレント」に近い音楽再生が可能になります。

 

 重要なのはそれが現実世界の生演奏の音や頭外定位するスピーカーの音とは本質的に異なるという点です。これを理解しないと完璧な心理的音響平面を持つ機器を製造することは出来ませんし、その音をいびつだと片付けてしまいかねません。心理的音響平面は頭の中に形成される音のディスプレイモニターに映し出されたステレオイメージです。それはテレビの映像が本当の現場とは異なっているのと同じ原理です。したがって、完璧な心理音響平面は完璧に定位感や音像のイメージを再現しますが、その聞こえ方はスピーカーや生演奏といった現実世界の聞こえ方とは異なる、0距離の心理平面からプロットされる音になるので、聞き取り方に慣れが必要な可能性があります。ただ一度慣れてしまえば、テレビの映像が生々しく見えるのと同じように、正確なイメージングで音を聞けるようになります。

 

  とにかく、心ある人はこのイヤホンの音を聴いてみると良いでしょう。イヤホンチューニングに興味がある人は特に。格好の研究対象です。現状では私はこのイヤホン以外で音楽を聴く気がしません。私には、どのイヤホンもイメージングがお粗末すぎて、心理音響平面に限界や極端な凹凸があって、音が求められる位置から遠ざかっていきます。

 

 しかし、このイヤホンは有線でないし、ドライバーの品質的に解像度が足りないので、私はこのサウンドのさらに向こう側を求めています。Gamer No.1は現状存在するあらゆるイヤホンよりまともですが、それでもまだ私の求める理想的な音平面には拡張性をはじめだいぶ足りません。どこかのイヤホンメーカーがもっと高い解像度で音平面をより均質で拡張したサウンドの製品を出してくれないか待っています。私の意見ではおそらく、多くのメーカーの中で、SoundPEATS以外では、finalかSONY、Edifier、そしてオーストラリアの無名に近いメーカー「Prisma Audio」がそのサウンドに最も近い位置にいるように思いますが、そのどれもがGamer No.1に一歩遅れています。AKGは比較的完璧に近かったIEM Target 2017を捨て、IEM Target 2019になって遠ざかりました。

 

 Moondrop?あそこはあのなんとかカーブに数年はしがみつくでしょうから、遠回りしそうですね。完璧な心理音響平面を実現するには、finalのように一度現実世界の音響空間に基づく発想を捨ててから再構成しないといけないと思われます。つまり、現実世界のリスニングルームでスピーカー、ヘッドホン、イヤホンの音を聴きながら製品作りをするというような発想を一度捨てなければいけません。まあ、ファンも多いし、Moondropはしばらくは安泰でしょう。

 

  とはいえ、こんな話題は大多数の人にはどうでもいいことでしょう。大多数の人はイヤホンをただ楽しみたいだけですから、正確なステレオイメージを実現する心理音響平面なんていう究極のオーディオ的目標に関心はないはずです。毎日飽きもせずリリースされ製造され続けているほとんどの製品を聴く限り、オーディオメーカーの大半もそうでしょう。一部のプロ用オーディオ機器を製造しているメーカーだけはわりと興味があるでしょうが。私も本当に最近まで完璧なステレオイメージの良さが体感的にわかってなかったので、ここまで切実ではありませんでした。

 

 以前はイヤホンの音なんて最終的には好みだと思ってましたし、特定のイヤホン以外の製品のイメージングが不自然に聞こえすぎて物足りなく思うなんてことはありませんでした。

 

 そもそも、このイヤホンのもたらした「ほぼ完璧なステレオイメージ」が持っている驚異的で革新的な意味を理解できる人がそんなに多いとも思えません。そして私には耳が2つしかないので、他の人の聞こえ方なんて知りませんから、この音が他の人にどう聴こえるかなんてわかりません。つまり、私の主張が正しいかどうかは個々人が判断すべきことです。私自身は多くの人に理解してもらおうなんて思いません。なぜなら私には私に聞こえる音がすべてで、他人の耳の心配をする必要性はありません。私はイヤホンを布教したいわけじゃないですし、このブログの目的の大部分は自分自身がのちのち楽しめるように、音響機器の個人的な評価と製品情報をなるべく客観的に保存することにあります。

 

 この記事でわざわざGamer No.1を特筆したのは、どこかのメーカーの人がこの音に興味を持って、私にとってより良いイヤホンを作ってくれないかなと思っただけです。まあ、安いイヤホンなので、興味があったらGamer No.1を聴いておくことをおすすめします。

 

 これ、中国じゃ売ってないらしいので、今のところ日本人だけがこのサウンドの知見を体験でき、製品作り(←これ重要!)や曲制作の現場に生かすことが出来ます。

 

 

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