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【頭外定位イヤーピース LIZER LAB JIJU FIN & JIJU JET レビュー】使用条件下でとくにナレーション作品の解像度の改善が期待できるが、頭外定位感に直接どの程度影響するかは難しい

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LIZERLAB JIJUFIN & JIJUJET

LIZERLAB JIJUFIN & JIJUJET

 

 この記事ではLIZER LABの頭外定位イヤーピース「LIZERLAB JIJUFIN」と「LIZERLAB JIJUJET」を紹介します。

 

www.youtube.com

 

LIZERLAB JIJUFINの概要

 音の方向感を司るとされる耳珠(じじゅ)付近に僅かな音を放出・反射させて取り込み、フェーズプラグで栓をしカップ内の反響や防振対策を同時に行う事で頭外定位や臨場感、自然な定位感の向上を図っています。

 

 今回、第三弾の改良型「JIJUFIN」はフェーズプラグの形状を大きく変更する事で、機能面は維持しつつも、FINの追加等により更に自然な視聴感が体感できるものと致しました。(FINを追加する事で、拡散効果と自然な定位感)

 

LIZERLAB JIJUFIN

 

JIJUFINの特徴、自然な拡散効果のある反射音の実現

 JIJUシリーズの開発目標は頭内定位するイヤホンの音の不自然さを解消することにありました。LIZER LABによれば、JIJUFINはイヤホンの課題である頭内定位の解消を目的として、直接音だけでなく、自然な音場に存在する反射音も再現し、より没入感の高いサウンド再現を狙ったものです。

 

 

パッケージ開封動画

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予備考察

 JIJUFINを受け取った私は、これをレビューするに当たって予備考察を行いました。予備考察で検証課題として設定したのは以下のポイントです。

 

  • LIZERLABの製品説明に基づくと、JIJUは構造上、直接音と初期反射音の増大が見込まれると説明されている。したがって、時間周波数領域で何らかの変化が確認されるはずである
  • また直接音や初期反射音の増大は音の明瞭度に影響を与えると思われる。そのため、その効果を測定で観測することは可能かもしれない。演奏をどう聞かせるかという室内音響とは異なり、録音された音楽をそのまま再現することが求められるイヤホン、ヘッドホンなどでは明瞭度の向上はほとんど単純にプラス効果をもたらすと考えられる。したがって、改善効果が見られれば、音楽の解像(イメージング)にプラスの効果を与えるということが立証できることとなり、LIZERLABの主張する頭外定位感の向上という効果に補助的な効用が見込める(一般に解像度が高いほうが音楽そのものに含まれる立体感情報をより忠実に再現できるため、よりホログラフィックな音響をもたらすと考えられる)。
  • またLIZERLABの開発目標が正しいかどうかの検証として、使用条件にしたがって適切に使用された場合と適切に使用されていない場合で効果に顕著な差があるかを検証する。これはJIJUの完成製品が実際にLIZERLABの理論を裏付けるものになっているかの側面的な検証となり、LIZERLABの開発の方向性が適切かどうかを一定程度判断できる材料となる。

 

 したがって今回のレビューでは音楽の明瞭性に改善効果があることを立証することに重点を置くことにしました。

 

初期測定

 そこでまず第一段階としてHATSを用い、JIJUFINを使って実際に初期測定を行いました。これにはJIJUFINの使用条件に合致するイヤホンである「ThieAudio Legacy 2」を用いました。

 

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 それによって得られた測定値では音楽明瞭度に関わるC80および音声明瞭度に関わるC50に改善が見られたため、少なくとも初期測定段階ではLIZERLABの主張に対し、一定の根拠が得られるだろうことが見積もられました。

www.ear-phone-review.com

 

測定されたC80の改善

 

 しかし、この段階で従来のJIJUシリーズでも感じた困難に直面します。簡単に言えば、JIJUの特殊な形状がHATSに装着するのに向かないため、検証の効率が悪いことです。

 

 私のHATSではJIJUを測定や録音に十分な時間安定して装着することがほとんどできず、測定に非常に時間がかかります。JIJUに振り向けることができる時間が私に無限にあればよかったのですが、ほかのレビュー依頼を受けていたこともあり、検証時間の短縮化が求められました。検証には十分な数のイヤホンで試す必要があります。

 

カプラーによる測定にシフト

 検証を高速化するため、HATSでの測定は諦めました。JIJUのサウンドを十全に再現するためには耳介の反射音が必要とされるため、耳介の存在しないカプラーでの測定には聴感再現の厳密性に少し疑問があったものの、十分なサンプルデータを得るために、より簡単に検証できるカプラーでの測定に切り替えました。

 

 今回の検証ではほとんど直接音の変化にフォーカスしていることもあり、カプラーでの初期測定でC50には安定した改善傾向が見られたため、カプラー測定でもデータとして有意義なものが得られると判断しました。JIJUの構造上、耳介がなくても直接音の増大は観測されるはずだからであり、初期測定の分析から実際の測定データがそれを裏付けていると思われたからです。

 

カプラーによる測定で確認されたJIJUFINおよびJIJUJETの効果

  1. 適切な条件で使用された場合、音声明瞭度C50の改善効果が期待できる
  2. 上の結果から直接音と初期反射音のエネルギーが増大していることはおそらく間違いない
  3. 適切に使用しないとほとんど効果がない

 

使用に適切なイヤホンでの測定

 JIJUシリーズは構造上、イヤホンのベント穴が後方側にあるイヤホンでは効果があまり望めないと説明されています。そこでThieAudio Legacy 2同様ベント穴が前側にあるか、完全に密閉されているイヤホンいくつかでJIJUを使用してカプラーで測定しました。

 以下のデータは青が各イヤホンの標準イヤーピース、赤がJIJUFINを使用しての測定データです。

 

 ここでは代表例としてAudiosense DT600およびDT100のデータを示しますが、こうしたイヤホンではC50に改善効果が見られました。一方でC80には良くなる場合と悪くなる場合があり、明確な改善効果を測定で確認できませんでした。

 

Audiosense DT100での測定結果(左がC80 右がC50)
Audiosense DT600での測定結果(左がC80 右がC50)

 

使用に不適切なイヤホンでの測定

 使用に不適切なイヤホンはベント穴がイヤーノズルの後ろ側についているものです。公式にこのような構造のイヤホンでの使用には適さないことが表明されています。いくつか測定して傾向を確認しましたが、ここでは代表例としてTForce Yuan Li(プレファイナル版)とSoundPEATS H2を使用した測定結果を掲載します。

 

 C50でほとんど変化がないことから、後方ベント穴によってJIJUの効果は打ち消されてしまうというLIZERLABの説明と解釈はおそらく正しいと思われます。とはいえ、なんでこうなるかは個人的には少し納得できず、よくわかりません。

 

SoundPEATS H2での測定結果(左がC80 右がC50)
TForce Yuan Li(プレファイナル版)での測定結果(左がC80 右がC50)

 

JIJUで「頭外定位感」は得られるのか?

 率直に言うと、私は今の段階のJIJUのみの効果ではっきりとした頭外定位感を得るのは不可能だと考えています。JIJUはたしかに、構造的に直接音を増加させ、音楽をより明瞭に描き出し、音楽そのものに存在する立体感の再現度を上げるため、音楽のホログラフィーを向上させる可能性があります。

 

 ただ、私個人の感想で言えば、ステレオ録音された音源を解像度を高くして聴いても、ステレオ音源としか聞こえないのであり、頭外定位感を得るためには立体音響技術を導入する必要があるでしょう。手っ取り早く確実に思えるのは音楽ソースの側に立体音響情報をもたせることです。

 

 最近Dolby AtmosとSONY 360 Reality Audioについてプレゼンを体験する機会がありましたが、360 Reality Audioで作られた以下の音源は、多くのヘッドホンやイヤホンで非常に立体的に聞こえ、頭内定位感をかなり克服しているように思われます。

 

www.youtube.com

 

 音楽ソース側の立体感の向上は、イヤホン自身が音場感を持つ意味をなくしているばかりか、イヤホンは聴感上、より中立的であることを求められる時代をもたらすでしょう。これまで以上に音楽ソースのピュアな立体感の再現度の良し悪し、つまり解像度とサウンドバランスにおける中立性が要求スペックの重要課題となります。その意味で、JIJUは明瞭度の改善に貢献する可能性があり、本格的な立体音響時代の到来において補助的な製品として深化される可能性があります。

 

 逆に立体音響時代が実現しないにせよ、オーディオは音楽ソース側の革新的な進化と完全ワイヤレスイヤホンに象徴されるオーディオ機器のあり方自体の変化*1によって、その設計思想が根本的に変化するかもしれない時期に来ており、その中で既存のイヤーピースと異なるアプローチをしているJIJUのプロジェクトは非常に面白いと言えるでしょう。まだ課題は多いと思われるものの、個人的には将来性を感じます。

 

 つまるところ、JIJUは副次的に頭内定位感の克服に貢献するアイテムであるかもしれませんが、今のところダイレクトに頭外定位感をもたらすアイテムとは個人的には言い難いです。頭内定位の克服は主に音楽ソースの側から、具体的には新世代立体音響技術の普及によってもたらされると思われます。

 

JIJUFINとJIJUJETの違いについて

 最後にJIJUFINと前世代のJIJUJETの違いについてです。

 

 最大の違いは周波数特性にあります。JIJUFINは低域の再現度が従来のJETより改善されており、周波数特性で普通のイヤーピースにより近くなっています。逆にJIJUJETは低域を抑え、インナーイヤー型のような少し高域寄りの、明るく開放的な音をもたらします。

 

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周波数特性の測定グラフ(赤がJIJUFIN、緑がJIJUJET、青が標準イヤーピース)



 

まとめ

 JIJUシリーズの最大の効果はいまのところ直接音の向上による音声明瞭度C50の改善にあると言え、とくにASMRやボイスドラマなど音声中心の作品に高い改善効果が期待できます。音楽明瞭度C80で改善が見られると言えるかどうかは今のところ私にはよくわかりませんし、その他の要素について改善効果があるかも今後の検証課題と言えます。

 

 課題点としては、現状でペアリングの良いイヤホンが限られていること、装着感でまだ難しいところがある点が挙げられますが、欠点だった低域の再現度は最新のJIJUFINで改善されており、着実に進歩していることがわかります。

 

JIJUFIN

JIJUFIN

 

LIZER LAB JIJU JET

LIZER LAB JIJU JET

¥3,680~

 
 
 
 

 

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*1:立体音響技術が完全に普及し、完全ワイヤレスイヤホンのバッテリーとレイテンシーの問題が解決されれば、誰もが完全ワイヤレスデバイスを通じて、不必要な音をカットし、周囲の音を聴覚に最適化して正確に透過しながら、固定して右から音楽を、左から別の音声情報を、前方からナビゲーション音声を聞くなどといったARサウンド環境が可能になるからです。

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