おすすめ度*1 |
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ASIN |
このイヤホンの型番だが、CHMYというメーカーのCHMYという型番の製品らしい。製品として後続が出る予定がないのかメーカー名そのままの型番にやや当惑するが、パッケージを見回しても型番表記はないし、説明書に型番CHMYと堂々と書かれているので、そういうことなのだろう。しかし機器の通信デバイスによる認識では「X13」名義で、どうもこのX13と同じ機種で間違いないと思う。そこでレビューの表記は「CHMY X13」名義とした。
ネックバンド形式のワイヤレスイヤホンで、比較的コードに煩わされずに使える形式。耳への収まりはよく、装着感は良好。
aptXに対応する。スマホやSONY NW-A25で通信テストしたが、管見の限り問題なくaptX対応機器として認識され、通信も安定している。手に入れた個体をテストした感じでは、音響機器から5m離れる程度では通信にノイズや途絶が発生するなどの支障は一切なく、シームレスに使える印象だ。
【1】外観・インターフェース・付属品
付属品はイヤーピースの替え、イヤーウィング、充電用USBケーブル、日本語マニュアル。日本語マニュアルはカラーでしっかりしている。細身の平形コードにタッチノイズはほぼなく、マフラーをしてみて装着した感じでも、こすれてコードノイズが発生することは稀なように思う。
【2】音質
まず一聴してわかる存在感増し増しの低域がこのイヤホンの印象を決定づける。音の傾向としては図太くブーミーで耳に粘っこく、音楽空間の手前に陣取って曲全体の最前線を形成する。そのためとくに低域ドラムが強めの曲はその支配力が極端に出て、ボーカルなどを背景に押しやりがちである。低域自体の鳴りはブーミーとはいえ、端にはしっかりとした輪郭感があり、人によっては案外タイトな味わいに感じることもありそうで、一直線にうるさい演出という感じではない。クラブサウンド的なデジタルな低域音との相性は良く、味わい深いが、一般的なポップスやロックサウンドでは粗に感じやすいかもしれない。弾け振動するドラム音ではなく、クラシックの低域弦楽のような音にまとまりがあって深掘りされるような音には強みを感じる。
曲調は全体的にもっさりしがちでボーカルも暗く感じられやすいので、女性ボーカルのアニソンはくぐもる印象になりがちだろう。全体的に外連味には乏しく、野武士のような図太い低域がほぼ全て。
[高音]:高域はかなり奥まり、低域の影に隠れる。尖った感じはなく、自然だが低域の支配力のせいかボソボソして感じられるかも知れない(秦基博「水彩の月」、井口裕香「Hey World」、多田葵「灼け落ちない翼」でテスト)
[中音]:中域は比較的左右奥行きに広く、定位感はそれなりに感じられる。精彩は個々の音は悪くないと思うが、全体として低域に押されて目立ちづらく演出力は強くない。しかし低域が収まる場面では中高域弦楽にのびやかさやそれなりの味があることがわかる。
[低音]:低域は深く厚い。下方向にブーミーで表面には革張り的な反発力を感じるが、下に下に音が溜まっていきそこから反発して押し上がってくる印象。ドラムの表面の弾けは弱いので爆発力には乏しい(分島花音「killy killy JOKER」、UVERWorld「CORE PRIDE」、重低音音源動画でテスト)
[解像度・立体感]:前面にしっかりと陣取る低域のせいか下を意識しやすい。高さも奥まって出やすく、低域が曲全体を囲い込んでしまっている感じがあるので、突き抜けづらく開放感には乏しい(petit milady「azurite」、分島花音「world's end, girl's londo」でテスト)
[パーカッション・リズム]:重厚な迫力は圧倒的。爆発力は無いが胸にしっかりと迫ってくるドラムの「重み」が味わいの中心になり、疾走感より断然安定感に振れている(東京カランコロン「スパイス」、nano.RIPE「ツマビクヒトリ」、JOY「アイオライト」でテスト)
[ボーカル傾向]:尖る感じもなく、自然だが、ほとんどの曲で低域支配が強く、ボーカルが主役になりづらいため、ボーカルはどちらかといえば脇役
【3】官能性
fhána「Appl(E)ication」はかなり低域のドラムとベースが足場を強く作る。ボーカルがやや低域に囚われがちで開放感が減じているのもそうだが、特に耳に残響感を強く残すほどの重量表現をよしと見るかうるさいと見るかで大きく印象が変わる。おそらくこの曲が好きという人でも、味わいの好みの傾向によって意見は分かれるだろう。
光田康典「ブランデンブルク協奏曲5番 第一楽章」アレンジバージョンはクラシックを劇伴調ゲームミュージックにうまくアレンジした隠れた名曲だが、その中高域を邪魔しない、定位感もある深掘りの良質な低域表現はこのイヤホンで聞くと量感増し増しで曲全体の説得力をより鮮明に伝えてくれる。まとまりのよい低域表現ではブーミーな粗が出にくくて素直に味わいが増す印象だ。
Aimer「ポラリス」も同様に良質な低域の量感増しで説得力を感じる。中高域の色づきにやや欠け、この曲の隠れた持ち味でもある細やかなきらめき感はやや薄く、全体としてモノクロ感は増しているように思うものの、逆に言えばボーカルとドラムがリードするメインのストーリーラインともいうべき曲の芯はよりはっきりしている。
山崎あおい「君のいない夏なんて嫌いだ」はこのイヤホンの低域増し増しブーミーな味付けのおかげで、最初のサビでの低域ドラムが盛り上げる序盤のクライマックスの感動はなかなか。その後ドラムがレギュラーメンバー入りして曲を引っ張っていくところは若干うるさく思うところもあるだろうけれども、ここと最終盤のクライマックスでのドラムの活躍する場面は中毒性がうまく出ている。ただし比較的メインに近い役割での出番が多いピアノはともかく、弦楽はドラムの背景に隠れがちで情感面での物足りなさを感じるかも知れない。
悪い例を示すと、高鈴「愛してる」はこのイヤホンで聞くと、低域が妙に耳に粘っこく、他のほとんど全ての楽器を台無しにしている印象であった。
【4】総評
aptX対応ということもあり、とにかく耳に絡んでくるほどの低域が好きという低域ジャンキーにはワイヤレスモデルにおける一つの福音になるかもしれない。ただしその音はどちらかといえばブーミーで、技巧的というよりは単純に量的表現で押し込んでくるタイプで、よく語られる「良質な低域」という括りからは離れていて耳当たりがよいという感じではない。しかし、やはり低域が聞こえてくるだけで曲の味がぐっと引き立つのは事実であり、中高域が低域に単純に負けているという以外に粗っぽい粗がなく、シャリシャリするような不快感がないので実際のところ、なかなかに魅力的だ。低域音とボーカルの粗は出やすいので劇伴サントラやクラブサウンド向けとしたが、実際にはもうちょっと万能に楽しめる。
通信性能の安定性と流行のネックバンドタイプであることなども考慮すると、実用面・コレクターズアイテム面での魅力も結構備えていて、コスパは実際のところかなり良好である。
【5】このイヤホン向きの曲
このイヤホンはこの曲と出会うために生まれてきたと言ってもいいだろう。多くの曲ではボーカルに開放感を感じづらく、なんとなく消化不良になりがちなこのイヤホンだが、この曲の丁寧な空間表現と低域重視ながらも中域とボーカルの効果を意識した絶妙なバランス感覚は見事にそうした特性を中和・昇華させ、説得力のある重厚で充実した音楽空間を作っている。一部の細かな演出音は価格なりの解像度だが、個人的には霞んで全く気にならない。どちらかというとこのイヤホンがいいというよりは、むしろこの曲が神曲というのが正解なのだが、しかし低価格ではなかなか味わえない神コラボ。
金管と弦楽の精彩が少し足りず、ハイハットも若干粗く精彩に欠けるところはあるが、低域の密度感で満足できる表現を提供してくれる。充実しながらも支配欲を感じさせない紳士的な低域表現の曲なので、ボーカルもはっきりと聞こえて埋没しない。
この曲を聞いても圧倒的滞留感は遺憾なく味わえる。後半に楽器が増えるところで弦楽の利きがやや弱いかといったあたりで物言いがつきそうではあるが、この曲を聞くには合っているイヤホンであるということ自体に異論がつくことはないように思う。
この曲はこのイヤホンで聞くとなかなかに面白い。大抵のイヤホンではボーカル中心に心地よく滑らかに滑っていくムードミュージックという感じで聴かせると思う。しかし、このイヤホンではそれほど目立たない低域が強調され、蓮の葉の下に隠れて澱を内に抱える水面下の情景が曲にたゆたう。その結果、表出される水面上のボーカルとその下に隠れた深く複雑な心情という、この曲のテーマに合致した演出になっており、「睡蓮」の曲名にふさわしい味付けを体感できる。またこの曲の辛島美登里の歌声はとくに大人びて、年季の入ったワインの渋くも芳醇なものになっており、ボーカルが暗く出て声が若い曲では感じやすいこのイヤホンの傾向の欠点を感じづらい。なお名曲「笑顔を探して」も聞いた感じなかなかに相性が良いので、辛島先生の曲には比較的向いているのかも知れない。(辛島美登里「睡蓮」)
重厚で素直に楽しい。曲調の濃さはボーカルの妙に心をえぐってくる渋みも含めて、かなり強調されて表現されてきて、厚切りステーキのようにわかりやすい、おいしい味わい。(manzo「溝ノ口太陽族」)
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*1:おすすめ度とは、あくまで主観的に「ここが面白い!ここが味わい深い!」と思ったポイントです。たとえば低域が「5」だからといって低音が支配的で低域重視で鳴りますというわけではなく、「低域の表現が丁寧でうまいなぁ」とか「これはちょっと他では味わえないかも」といった特徴的な音、魅力的な音がポイント高めになります。そのイヤホンの販売価格帯も考慮した主観的な評価です。