Audiosenseの新作AUDIOSENSE DT300を手に入れたので、ファーストインプレッションをお届けします。
よりよいサウンドバランスを実現するためには駆動に工夫が必要
まず到着後すぐにAudiosense DT300をFiiO M15で音出ししてみましたが、一聴してウォームで地味な音でした。聴き心地は悪くなく、中域もまろやかに聞こえますが、解像度が足りません。明らかに高域の不足がありました。
Audiosense DT600もDAPではウォームに聞こえる傾向があったので、DT600のときに使った82Ωのアッテネータ「Etymotic Research R38-24」を試してみました。
REW周波数特性
結果は効果てきめんです。以下にREWで測定した出力インピーダンスほぼ0Ω時(DAPでの再生に近い)と出力インピーダンスほぼ82Ω時の周波数特性(@1kHzで正規化)を掲載します。
グラフに見慣れていない人のために簡単に説明すると、出力インピーダンスがほぼ0Ωのときには低域と高域ともに拡張性に欠け、レンジ感がよりナローであるだけでなく、中低域から中域下部がニュートラルよりかなり隆起するので、全体的にウォームなサウンドになります。
したがって一般に、サウンドバランスはほぼ0Ω時よりほぼ82Ω時のほうが良好と言え、実際にNeutralityとFidelityに基づく私の評価スキームでも82Ω時のほうがスコアが遥かに良好になります。
DT300 (imp 0Ω) | DT300 (imp 82Ω) | |||
質感 | B | 質感 | S+ | |
定位 | B- | 定位 | B+ | |
全体の原音忠実度 | A | 全体の原音忠実度 | A+ |
質感S+はすごいですね。この意味は中域のNeutralityが満点に近いということです。これをDT600の出力インピーダンス85.3Ω設定時のスコアと比較してみましょう。DT600のスコアは以下になります。
DT600 (imp 85.3Ω) | |
質感 | B+ |
定位 | B- |
全体の原音忠実度 | S- |
このスコア比較による意味は、私の評価スキームでは、録音音源に対する忠実性(客観的サウンドバランス)を重視する場合は、DT600がわずかに優れているが、ニュートラルサウンドを好む場合はDT300のほうが良い、つまりDT300のほうがPreference Rating(主観的選好性と主観的サウンドバランス)において優れている可能性が高いということです。
私の評価スキームでは、総合的にはNeutralityとFidelityの両方の合計(ただし両者は完全に両立しない)がより高いイヤホンをサウンドバランスにおいて優れていると評価するのですが、その点においてはDT300(出力インピーダンス82Ω時)がこのなかで最も優れているとされています。
実際私の聴感上も、DT600(出力インピーダンス85.3Ω時)は中域下部がニュートラルより後退しており、中域上部と中高域に張り出し感があるために、いわゆるHonkyかつTinnyなサウンドになっており、DT600の中域の解像度はあまり高くなく、質感もDT300に比べると不自然で、ボーカルも少しシャウティです。
それに対して、DT300(出力インピーダンス82Ω時)は中域下部から中域上部までほぼ完璧にニュートラルなので、音像にほとんど凹凸がなく、質感は非常に自然で、ボーカルも非常に聞き取りやすく不快感が全くありません。個人的にはDT600よりDT300推しです。
補足説明
この記事に以下のようなコメントを頂きました。同じような印象を持っている方のためにも補足説明を記載します。
出力インピーダンスというのはアンプのスペックの一つです。この記事で解説されていることは、Audiosense DT300は出力インピーダンスの影響を受けやすく、アンプとの相性があるということです。そして、一般的には出力インピーダンスが低いアンプほど性能が良いとされ、IEMはなるべく低出力インピーダンスでの駆動が基本的に推奨されることは事実ですが、このイヤホンはその常識が通用しないということを私はこの記事で説明したのです。つまり、Audiosense DT300は基本的に上級者、あるいはエキスパート向けで、良い音で聞くには、IEMの駆動に関するしっかりした知識が十分に必要なうえに、さらにその常識を捨てるというアクロバティックな発想が必要ということです。
もちろんDAPで駆動してもこのIEMはひどい音で聞こえるということはありませんが、その音質はわりと平凡ですよ、しかもAudiosenseが意図している音とは異なりますよ、ということを解説しました。
そして駆動の仕方によって、このIEMは音が全く違うように聞こえるということに注意してくださいということです。このIEMに関しては駆動環境を明記していないレビューや評判、感想はその聴感の正確性以前に、全く当てになりませんよ、ということです。そして駆動環境が分かれば、その人がDT300を設計意図に近い音で聞いているかどうかはすぐに判断できます。
つまり、このイヤホンはまさに七変化と言えるような音の変化と最適駆動時の非常に優れたサウンドバランスを持つという、実に面白い機種で、本当のオーディオマニアほど魅了され、これ1つでいろんな音質が楽しめる、ゴールに近いと思える機種ですが、おそらくそれに気づく人は多くないでしょう。もちろんこの記事の通りにすれば、初心者でもDT300をその設計意図に近い、よい音で聞けます。私のようなレビュアーはそういう人たちのためにいるのです。
IEMの駆動に関しては以下の記事を参考にしてください。
なお、Audiosense DT100も実際は多くの人が想定しているよりも高い出力インピーダンスの機器に合わせて設計されていることはほぼ確実です。つまり、Audiosenseの最近の製品はDAP向けに作られてません。DT200についてはまだ調べてませんが、私のDT100のレビューは近日中にリライトされることになります。DT100の有料レビューを購読している方は「制動特性」を見れば、そのことがわかります。
まとめ
現段階ではDT300の制動特性を厳密に分析していないので、DT300の最適駆動の設定がどこにあるかはわかりませんが、いまのところ82Ωのアッテネータを使ったサウンドはバランス的には非常に優れています。それは私にとってDT600を凌ぐと言えますね。
- Audiosense DT300は高い出力インピーダンスの機器で鳴らしたほうがサウンドバランスが良い
- Audiosense DT300を高い出力インピーダンスで駆動した場合、DT600よりNeutralityが高くなるので、より多くの人にとって好ましい可能性が高い
- ただし、原音忠実性を重視する場合はDT600のほうが優れている
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