興味の赴くままにオーディオ製品を取り上げる「物欲探訪」。
今回取り上げる製品は中華イヤホンの新興ブランド「XSL」が作ったfinal A8000のクローン系中華イヤホン「XSL X-One」です。
final A8000のサウンドをかなり忠実に再現
X-ONEは日本でも人気のfinal Audio A8000に基づいて調整されており、ブランドの主張によると、その音質の再現度はオリジナルのA8000の85%以上に達しているとされています。わずか5000円台の価格で10数万円のfinal A8000のサウンドの大部分に匹敵するサウンドを実現しているとすれば、たしかに彼らの主張通り、フラッグシップクラスのイヤホンと言えるかもしれません。
もう一つ今購入を考えているイヤホン#Xsl X-ONE
— audio-sound @ hatena (@audio_sound_Twr) April 26, 2023
A8000のローコストクローン系サウンドとのことだけど、周波数特性を見る限り、低域がオリジナルより強めhttps://t.co/YVCF2h1t42 pic.twitter.com/6J5FovYbMp
スペック
- ドライバータイプ:シングルダイナミックドライバー
- 周波数特性:8-48kHz
- 感度:108dB
- インピーダンス:32Ω
スペック面はかなり標準的な仕様のイヤホンです。スマホで鳴らしにくいというイヤホンとは思えません。周波数レンジが48kHzとハイレゾ相当まで伸びていると主張されていますが、そもそもメーカー自身が公開している測定値が20~20kHzの可聴域範囲のものなので、実際のところは分かりません。少なくともハイレゾ認証はとってないでしょう。
外観の美しさ
ハウジングはCNCアルミニウムが使用されているようです。フェイスプレートは5つの非対称傾斜面に分割され、3次元立体感覚のある造形がされているようです。これはおそらくオリジナルのA8000からインスピレーションを受けていると思われますが、オリジナルのA3000やA4000などのAシリーズの下位機種は樹脂筐体になるため、金属筐体というだけで少なくとも耐久性で勝る可能性があります。
XSLはアルミニウム合金を外観の美しさや耐久性だけでなく、安定した音響性能の点も考慮して採用したと述べています。
後述するビデオレビューなどで実物を見る限りでも、安っぽくはなさそうです。サンドブラスト加工が施され、わりと上質な外観に見えます。
DLCドライバー
音響の核となるドライバーは10mm径のDLC(ダイヤモンドライクカーボン)振動板が採用されています。
Head-fiに分解レビューで有名なHi Fri氏の分解写真が掲載されており、そのドライバーが一時期話題になった$599の「MiM Audio Dark Magician」と同等クラスであることが示唆されました。
Dark MagicianはCNT振動板、X-OneはDLC振動板で一見違うように思うかもしれませんが、DLC振動板はCNT振動板にDLCコーティングを施したものをいうことが多いので、おそらく同一品質というのは矛盾することではないかもしれません。
MiM Audio Dark Magicianはマイナーですが、一部の中華イヤホンマニアの間ではFAudioに似ている外観からもいろいろ憶測を生み、音質的にもかなり優れているというレビューが出て話題になった機種です。
私がずっと愛好し、最も素晴らしいダイナミックドライバーイヤホンと考えてきたTanchjim Oxygenに対し、Dark Magicianはその王座を奪うというほどではないとは思いますが、ほぼ同等のものとしてシングルダイナミックドライバーの王座を分かち合うことができると思います。
XSL X-Oneのレビュー
私の好きなAkros先生が早速レビューを掲載しています。
X-Oneはノーマルなシグネチャーを持っていますが、しかしニュートラルからはベースがかなり強調されているということができます。一部の人はそれを少し暗く、ウォームなサウンドだと思うかもしれません。
私が見ても妥当な意見のように思えます。実際に測定してみないとわかりませんが、中域付近は比較的きれいに整っているように思われます。
まとめ
XSLのラインナップにはXSL X-Zeroというモデルもあり、こちらはTripowin OlinaやMeleのデザインから影響を受けているようです。私の推測ではそれはXINHS XINHS-02とほとんど同じものだと思われます。
XSL製品はTripowinといった、より海外で成功している上位ブランドと同じようなOEM受注企業が明らかに請け負っており、こうしたブランドと協業した際のチューニングデータのノウハウなどが生かされているように思われます。
中国の低価格イヤホン産業はただ高品質になっているのみならず、売れたモデルのノウハウがほかのブランドでもすぐに生かされ、無名の新興ブランドでも優れた製品が提供できるようになってきているようです。
XSL X-Oneもパッケージの全体の出来は別として、造型だけを見るとビルドクオリティは1万円以上のイヤホンと同等として問題ないように思えますし、音質も以前の中華イヤホンと比べて合理的に思えるものになっています。
何より、以前は、中華イヤホンは海外のモデルを参照するとき、粗悪なコピー品の偽物を作って売るのが普通でした。しかし、最近はX-Oneのように、より高い先進国の製品と同等の音やクオリティをより安く提供するという方向に変わってきています。これはわりと無視できない変化のように思われます。つまり、中華ブランドがもう先進国のブランドと勝負できるという自信が、こういう売り方の変化に表れてきているのではないでしょうか。