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【コラム】KZ ZEX Pro炎上騒動に寄せて

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KZ ZEX Pro

KZ ZEX Pro

 

 KZ ZEX Pro騒動について知りたい人のために簡単にまとめ、私の考えを述べておきます。この騒動はKZ ZEX Proの静電型ドライバーとBA型ドライバーが機能していないのではないかというレビュアーの指摘から発生しました。その後、実際にほとんど機能していないことがほぼ確実になっています。

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 私もZEX Proの制動特性を確認すると、静電型や静磁型のドライバーを使っている製品で見られる、高域の独特の特性が見られなかったので、おかしいと思っていました。

 

 

 この騒動についてのKZの声明文が出ていますので、以下に掲載します。

 

KZ Statement

 

We have noticed recently negative public opinion of our IEM models, it's a heated discussion, and cause some of customers are concerns about our products. We deeply apologize for this.

 

Due to our design defects of model DQ6S, there will be a percentage of potential risk that it is blocked by glue during the mass production process, which causes a series of arguments in social media. We will improve our follow-up product quality inspection process as soon as possible to ensure that similar defective products will not happen again. Meanwhile, the assembly process is optimized as soon as possible to make it more stable in subsequent mass production.

 

We need to explain to everyone that all of our products with BA, EST do work, and this can be proved by any testing. Even if BA and EST with low sound pressure, it does not mean they are useless. Even if the IEM acoustic graph was defined and recognized for so many years, there is nothing standard graph to prove that what such graph can satisfy everyone's listening preferences. That's why meaningful exist many different brands in the market, and various products have different sounds timbre styles. The graph is just a reference value to measure the sensitivity response of sound at each frequency, not an absolute value. Meanwhile, there is no academic certification that can prove whose sounds quality standard can be judged completely good or not only by relying on the graph. If the BA or EST sound pressure value is adjusted too high, there will be a more obvious harsh sound. Our early products a few years ago were often complained by customers about the problem of high-frequency harshness. So we all corrected that later.

 

We recommend that you can test our IEM details. Obviously, you will find almost all of our IEM with much higher sound pressure output value than similar competing products from other brands, and even higher than those brands that sell a hundred US dollars or a thousand US dollars. We are very confident in our patented dynamic technical technology, and our original design intention is keen to improve the sound style timbre of hybrid products with BA.

 

Our business style is a little bit different from others, we are more traditional. Because we mainly operate production and just get all focus on our product R&D. However, we are not good at brand promotion and so on, that's the reason why we keep silent and take action slowly to respond to the public's doubts about the product. This is a good lesson for us. Thank you to all fans who pay attention to our brand, and keep our product improvements.

 

All in all, we apologize for the inconvenience caused by the recent product problems, and we will definitely figure out them as soon as possible. We sincerely apologize for the inconvenience caused to you and all KZ fans! If the COVID-19 is overcome in the coming future, we welcome all HiFi fans who are interested in KZ to get the opportunity to visit our factory and provide us with more suggestions.

 

KZ Official
09/03/2022

 

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KZ 声明文

 

 最近、弊社IEMモデルに対する否定的な意見が多く、議論が白熱しており、一部のお客様が弊社製品に懸念を抱いていることに気づきました。このような事態を招いたことを深くお詫び申し上げます。

 

 DQ6Sは、設計上の不具合により、製造時に接着剤で塞がれる可能性が一定割合存在するため、ソーシャルメディア上で議論が巻き起こっています。今後、同様の不具合が二度と発生しないよう、製品品質検査のチェックプロセスを早急に改善します。一方、組立工程は早急に最適化し、今後の製造品質の安定化を図ります。

 

 私たちは、BA、ESTを搭載したすべての製品が機能することを皆さんに説明する必要があり、これはさまざまなテストによって証明することができます。たとえ音圧の低いBAやESTであっても、機能しないということはありません。IEMの音響グラフは長年にわたって明確化され、認識されてきましたが、どのようなグラフがすべての人の聴感上の好みを満たすことができるかを証明する標準的なグラフは存在しないのです。だからこそ、市場には様々なブランドが存在し、製品ごとに音の音色が異なることに意味があるのです。グラフはあくまでも周波数ごとの音の感度特性を測るための参考値であり、絶対値ではありません。また、グラフだけで、その音質水準が完全に良好か否かを判断できる学術的な証明はありません。BAやESTの音圧値を高くしすぎると、明らかに耳障りな音になります。数年前の初期の製品では、高域がきついという問題でお客様からよくクレームがありました。そこで、後に全員でそれを修正しました。

 

 可能であればIEMの細部までテストすることをお勧めします。私たちのIEMのほとんどすべての製品が、他のブランドから同様の競合製品よりもはるかに高い音圧出力値で、さらに$100または$1000で販売されているブランドよりも高くなっていることが明らかになるでしょう。私たちは、特許を取得したダイナミック技術に自信を持ち、BAとのハイブリッド製品のサウンドスタイルの音色を向上させるために、独自の設計意図を強く持っています。

 

 私たちのビジネススタイルは他と少し異なっており、より伝統的な手法をとっています。なぜなら、私たちは生産を主軸に行っており、ひたすらプロダクトR&D(新製品の開発や既存製品の品質向上のために行う研究開発)にすべての焦点を向けているからです。しかし、ブランドプロモーションなどは得意としておらず、そのために、世間の疑問にはとりあえず沈黙しながら、ゆっくりと対応することにしています。今回の事態は、私たちにとって良い教訓です。私たちのブランドに注目し、製品の改良を継続的に支援してくれているファンの皆さんに感謝します。

 

 全体として、最近の製品問題でご迷惑をおかけしたことをお詫びし、必ず一刻も早く解決します。KZファンの皆様には大変ご迷惑をおかけいたしますが、何卒よろしくお願いいたします。COVID-19が近い将来克服されたら、KZに興味を持っているすべてのHiFiファンは、私たちの工場を訪問する機会を得て、私たちに多くの提案を提供することを歓迎します。

 

KZ Official
09/03/2022

 
 
 
 
 
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 この声明文を読めば、KZが製造工程の効率化や製造技術そのものに優れていても、品質管理はそうでもなく、音響設計においてはあまり科学的な思考を持たないブランドであることはすぐに看取できます。すべての人が一番だという音響グラフはないにしても、大多数が好む音響グラフというものがあるという考え方が現在の主流ですそして、訓練されたリスナーはそれをよく理解するというのは少なくとも実験によって裏付けられています一般消費者の好みが安定せず、一般にいろいろな音を好むというのは事実ですが、だからといって良い音を認識できないわけではありません。もちろん個々人の聴覚能力は異なるので振れ幅があるのは事実(たとえば音の好みに男女差があることは確実ですし、高齢者はおそらく高域難聴のせいでハーマンターゲットのような音を好みません)ですし、経験の浅い大学生くらいであれば、メチャクチャな音でも好きになる人が多いことが確かめられていますが、オーディオを聴く経験を積むと、メチャクチャな音を好む人はだんだんいなくなるということです。まあ、KZが音響設計であまり科学的でないことは以前からわかりきっていることなので、ここでくどくど述べる必要はないでしょう。

 

 この声明文で最も重要なのは、彼らにとってKZ ZEX Proは正常に作られた製品であり、手違いでああなっているわけではないということです。まあ、予想通りです。私があんまりKZが好きじゃないと普段から言ってるのは彼らのこういうところです。それにご存知のように、私は以前からKZ製品は1DDかドライバーが少ないほうが音響的にも優れていることが多いことを説明しており、レビューでもKZ製品ではEDXやCCA CRAのような1DD機を高く評価していることは、読者ならご存知でしょう。

www.audio-sound-premium.com

 

 つまり、この件でほとんど鳴らないドライバーがKZ ZEX Proにあったかどうかは私にとってはわりとどうでもよいことです。それによって何かを失ったと感じたならば、それはZEX Proを理解していなかっただけです。それは最初からそうだったのであって、一部が壊れていたわけではないようです。この騒動でZEX Proが失ったものはせいぜいマルチドライバー信者の期待くらいのもんでしょう。

 

 KZ自身はそれがほとんど鳴らないとしても何らかのために適切に機能していると考えていることははっきりしていますし、実際消費者はそれを良いものとして受け入れたのですから、たしかにあまり問題はなさそうです。KZはほとんど鳴らないドライバーを積むメリットについては科学的な根拠を示して語ることもしていませんし、私にはいつものKZ節にしか思えませんが、だからといって私にはKZ ZEX Proを買うべきでない理由にはなりません。ドライバーの分だけ値段が高くなったかもしれませんが、音質やビルドクオリティから考えて不当な価格とも思えません。もっと安く作れたはずだということは言えても、ZEX Proの値段が不当だということにはならないでしょう。私個人としては、むしろZEX Proに抱いていた疑問が氷解して清々しいくらいですね。

 

 私が今回の件で本当に馬鹿らしいと思ったのは、Crinが社会実験だと称して承認欲求のようなものを満たすためにKZ ZEX Proを利用したことです。最初からCRNとして出せば良いものを、回りくどいことをしてファンを少し混乱させたばかりか(ZEX ProのあとにCRNが出てきて戸惑った人も多いでしょう)、はたから見れば明らかに自分の評判を高めるために利用しました。私は彼のことが好きですし、大変尊敬していますが、ZEX Proで彼が示したやり方は好ましいものとは考えていません。そして、今回のやり方はKZらしくなかったような気もします。

 

 

 

 ただしこうした考えは、私が音響製品を誇張して売るという手法そのものを嫌っているせいかもしれません。はっきり言ってしまえば、ZEX Proはそのポテンシャルに対して、必要以上に宣伝されすぎたと思っています。Crinは自らの名声と評判、人気をKZ ZEX Proを売ることに使っただけでなく、KZ ZEX Proが話題になったり売れることを通じて承認欲求を満たそうとしたように思われます。そうしたことが重なり、KZ ZEX Proが過剰に注目されすぎたのです。

 

 Crinのこの件についての見解は以下で確認できます。

crinacle.com

 

 ところで、今回の騒動で私がKZとZEX Proに失望したかと聞かれれば否です。ZEX Proが大抵の数万円台のイヤホンよりよいかもしれないことは事実だと思ってますし、ドライバーの数について私はこだわりを持っていません。ドライバー数が多いほど音が良いと思い込んでる人(KZファンには多いかもしれない)には衝撃を与えるでしょうから、KZが自らのファンを自身で掘り崩した可能性はありますが、それだけです。むしろ声明文からもわかるように、KZ自身は平常運転しています。

 

 私はKZが好きではありませんが、だからといってKZ製品が好きでないわけではありません。同様に私はTRNが好きではありませんが、TRN MT1TRN VX Proを気に入っていることを公言してはばかりません。逆にAudiosenseのことは個人的に大変好きですが、Audiosense AQ4のような製品を人に勧める気持ちになることはありませんし、SoundPEATSも好きですが、だからといって彼らの製品すべてを「コスパ最強!」なんて連呼する必要を感じません。

 

 MST(静磁型)をEST(静電型)と呼んでいることを批判する人もいます。私は静磁型を静電型とすることに抵抗がないので、どっちでもよいと思っています。これまで測定したデータから、それらが特性上似通っていることも知っており、静磁型は静電型と同様に、かなり品質の高い音を実現できるだろうことはShuoer Tapeを通じて理解しています。Tapeは本当に素晴らしいイヤホンですね。

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 KZは私を感動させるイヤホンをいくつか作っており、CCA CRAなんてかなりお気に入りです。それ以上にゴミのようなイヤホンを大量に作っていますが、それはKZに限ったことではありません。数万、十数万という値札でゴミを売りつけようとしないだけ良心的です。

 

 さらに重要なのは、彼らに決して技術力がないわけではないということです。彼らが品質管理に問題を抱えており、音響設計思想が独特なのは事実ですが、KZの製造品質は急速に進化しており、彼らのイヤホンはこれからも市場を席巻すると思います。実際に彼らに欠けているものがそう多くはないことが、KZ ZEX Proを通じて証明されました。

 

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 こういうことが起こると、ことさらにKZを悪く言っている声を聴くことも増えるかもしれません。欠点がないブランドは存在しないので、悪いところを探せばいくらでも悪く言えるでしょう。しかし、安心してください。彼らは悪い製品を作っているわけではありません。むしろ価格を考えると素晴らしい製品を作っています。ZEX Proはそういう製品の一つです。そして、私はそのことを知っているので、普段は「変な音の製品ばかり作りやがって」とこき下ろしたとしても、こういうときにはKZを応援したくなるのです。

 

 KZ嫌いな私ですが、KZを尊敬していないというわけではないのです。彼らがこの危機を乗り越えて、またあっと驚かせる製品を作ってくれることを願います。もちろん、あなたがどう思うかは自由です。

www.ear-phone-review.com

 

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