中華発の興味深いイヤホンが最近発売された。MUISCMAKER TONEKING BL1である。最近amazonでは中国製の多ドライバーイヤホンがいろいろ出回っている。それらはスペックだけ見ると驚くべきものがあるが、大抵音質は落ち着きがないものが多くて、どうなんだというのが多いが、このBL1は平面駆動型ドライバーだというので興味を惹かれた。
平面駆動型って?
ダイナミックドライバーは振動板をマグネットで振動させることで音を出す。で、大抵のイヤホンではこの振動板がドーム型をしているのだが、平面駆動型はこれを平面状にしている。ドーム型振動板では中心部と外周部の動きが一致しないので細かな分割振動やら特定帯域での凹凸が生じやすい。それに対し、平面振動板は振動板そのものにコイルが埋め込まれており、振動板全体から一様に振動波が出るため、音の振動をより純粋に伝えることができ、レスポンスもよくなるので音の瞬発力も高まるというわけだ。
ただイヤホンレベルでこれを実現するのが難しいらしく、ヘッドホンでは平面駆動型はそれなりの数があるが、イヤホンレベルで実現しているのはAUDEZ'Eっていうメーカーだけだったはず。それもあまりかっこよくない。
それに比べるとこのMUISCMAKER TONEKING BL1はマイカプレートをあしらったカスタムIEMのようなデザインだし、好感が持てたので今回手に入れてみた。とりあえず本格的なレビューの前にファーストインプレッションとして、手持ちの中から競合するだろう機種と聞き比べて、中華製平面駆動型の実力を見てみた。
【課題曲聞き比べ】三月のパンタシア「星の涙」
課題曲は三月のパンタシアの「星の涙」。この曲を選んだ理由はもちろん好きな曲だっていうのもあるんだけど、背景音や金物の音も多くて密度感があって、楽器のスピード感も認識しやすいので、駆動型による音の立ち上がり、広がり方の違い、密度感の差なんかも認識できるかなって思ったから。
知識的には平面駆動型がどんな鳴り方なのかいまいちピンときてないところもあるので、比較対象はBAとDDの購買層が被りそうなイヤホンから選んだ。Etymotic Research ER3XRとRHA MA750だ。
一応それぞれ簡単に説明すると、前者はBAドライバーイヤホンの名機ER4シリーズの低価格版で、製造拠点を中国に移して廉価に仕上げられている高コスパ機。ER4シリーズとの違いもあって、インピーダンスや感度の数値が変わっているので、音量をとりやすくなっており、プレーヤー側にそれなりの実力を求めるところのあったER4シリーズよりはコンシューマーが使いやすい感じになっている。後者のRHA MA750はすごく人気が高い機種で、高いコントラスト感のある音で中高域をきれいに聴かせてくれるにも関わらず、手頃な値段で手に入る高コスパ機として知られている。
VS ER3XR
まずER3XRとの聞き比べでは金物の発色などコントラスト感はMUISCMAKER TONEKING BL1は勝っている。ただER3XRの材質感はサラサラしていて耳当たりが良く、発色では劣るが、表現として心地よい。こういうどことなく格調を感じるというか、品の良い音を出すのがEtymotic Research製品の特徴。全体的な見通し感としては、ER3XRのほうが音の締まりが良く輪郭に優れていて、明瞭感に勝り、背景まで見通せる。MUISCMAKER TONEKING BL1の音はダイナミック型らしく厚みがあり、音にふっくらしたところがあるので、優美さでは勝る印象だ。
総評としては解像感や音の質感のなめらかさで心地よく感じるのはER3XRのほうで、平面駆動型の特徴であるはずの瞬発力もはっきりと優位性を感じるものはなかった。それにつけても驚くのは、音場表現ではダイナミック型に劣ると言われがちなBAだが、ER3XRの音は狭い印象を受けない。実売価格ではER3XRのほうがお値打ちなので、個人的にはMUISCMAKER TONEKING BL1よりはER3XRのコスパの良さに驚く印象だ。
VS RHA MA750
次にMA750と比べてみる。MA750は黒みを作る低域の締まった背景に、キラキラと中高域を表現する傾向があるが、この曲ではその魅力を十分に発揮する。シンバルのコントラスト感がはっきりしている。個々の音のメリハリ感もよく、ボーカルも分離してよく味わえる。それに比べるとMUISCMAKER TONEKING BL1は背景音の中に全体を少し溶け込ませているところもあり、調和的だ。コントラスト感では明らかに劣る。音が全体的にまろやかで、背景の透明感が感じられるという意味では見通しが良い。やはりどことなく優美さの感じられる音である。
総評としてはRHA MA750のほうが個人的には優れる。メリハリ感やボーカルの味わいは断然良いので、解像度感が高く思えるし、コントラスト感があるので一つ一つの音がくっきりと聞こえてきて、とくにサビでの盛り上がりの妙味は増す。
【総評】中華初の平面駆動型は充分に水準が高くなってきているが、一流のコスパプレイヤーには敵わない
中華発、いや中華初と言った方が明確だろう平面駆動型イヤホンはたしかに十分魅力的でなかなかの満足度を感じさせてくれる。だが、私の大好きな高コスパの名機たちに比べると、それぞれにだいぶ劣るところがある。これらの高コスパ機と比べたいと思わせるほどの実力はあったことは確かで、素直に面白く、表現力もしっかりしているのだが、まだ何か足りないものを感じる。全体的には発色もなかなかによく、低域も出ていて、優美さを感じられる音で好印象だが、平面駆動型すげぇって思わせるほどのアピールポイントが感じられなかった。通常のイヤホンってことになれば、コスパ的にはつらいものを感じてしまうのは事実だ。
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