SONYが新しくリリースしたモニターヘッドホン「MDR-MV1」が話題です。日本国内だけでなく、世界中が今夢中であると言っても過言ではありません。
SONYは、音楽制作者に360 Reality Audio用コンテンツ作成のより良いツールを提供することを目的として、MDR-MV1を開発しています。このヘッドホンは、360 Reality Audioという独自形式を備えていますが、もちろん他のフォーマット(例:Dolby Atmos)でも使えます。
SONYによれば、MDR-MV1は、空間オーディオエンジニアにとって特に適しているとされていますが、従来のステレオ音源を扱うクリエイターにも十分な訴求力がある設計になっています。開放型の構造により、内部で反射音が最小限に抑えられ、密閉型ヘッドホンと比較して音響共鳴も大幅に排除されています。
SONY MDR-MV1の特徴
- スタジオミキシング&マスタリング用
- ステレオ&空間オーディオ/没入型モニタリング
- 自然な音場感を実現するオープンバック設計
- 40mmダイナミックドライバー、ネオジム磁石採用
- 5 Hz〜80 kHzの周波数特性
- 正確なハイレゾ音源の再生
- 快適なソフトスエードのイヤーパッド
- 24Ωのインピーダンス
- 耐久性のあるアルミ削り出しのビルドクオリティ
- 着脱式ケーブル、1/4″⇒3.5mmアダプター
SONYによると、MDR-MV1は色付けのない周波数特性で、プロダクションユースに適しているとされています。
MDR-MV1は通気性の良いイヤーパッドを採用しており、ケーブルなしで223gとかなり軽量であり、SONYは、長時間でも快適に装着できるフィット感を追求しました。
MDR-MV1はSONYの業務用モニターとしては初めてのオープンバック構造が採用されており、SONYによれば、これにより内部反射音を低減し、音響共鳴を排除しながら、自然で豊かな空間情報と音を正確に再現し、スタジオでの制作環境を仮想的に実現する際にも極めて高い透明性を実現できると主張しています。
SONYは、エンジニアが低歪み、高コンプライアンスな振動板形状、コルゲーションデザインを導き出し、MDR-MV1は一般的に低域再生能力に劣るとされる開放型でありながら密閉型に劣らない低域の周波数を再生できるとしています。
再生できる周波数特性レンジは非常に優れており、低音域から超高音域(5Hz~80kHz)まで再生することができます。
ケーブルのプラグは、制作現場で広く使われている高品質な6.35mm(1/4インチ)ステレオ標準プラグを採用しています。付属のプラグアダプターを使用することで、3.5mmステレオミニジャック搭載の機器にも接続が可能です。本体との接続部はネジ式で着脱可能なため、確実な接続とケーブル交換が可能です。
スタジオモニターとして求められるメンテナンス性についても十分配慮した先進的な設計を施したとSONYは述べています。
スペック
まずはいつも通り基本情報のおさらいです。
- 再生周波数:5Hz-80000Hz
- インピーダンス:24Ω
- 感度:100dB/mW
SONY MDR-MV1のインピーダンススペックは24Ωとコンシューマーモデルのヘッドホンと変わらない水準に設定されています。基本的に駆動に特別なデジタルオーディオプレーヤーやアンプを必要とせず、スマートフォンでも問題なく駆動できます。
シングルダイナミックドライバーモデルで制動特性も安定しているため、アンプによって急激に音が変わるということはほぼありません。基本的に再生機器を選ばないモニターと言えるでしょう。
パッケージ
最近のSONYの方針に基づき、MDR-MV1のパッケージはサステナブル社会を意識した環境配慮型パッケージで提供されます。
ボックスは紙製で環境に優しく、包装材も環境に配慮した素材が使われており、パッケージ全体がエコフレンドリーな雰囲気を感じさせます。
競合する製品、たとえばAustrian Audio Hi-X55やSHURE SRH1540と異なり、携行用のポーチやケースのようなものは全く付属しません。
プロ用製品のパッケージが簡素であることは珍しくないので、業務用としてこれを購入するユーザーがこの点を考慮するかはわかりませんが、一般的に付属品が豪華なコンシューマーモデルに慣れたユーザーには少し物寂しい構成であることは間違いないでしょう。
ただしSONYはMDR-M1STを段ボールそのままのような非常に簡素なパッケージで提供しているため、それに比べればだいぶまともになったと言えるかもしれません。
一方で、SONY MDR-7506のような製品はもっとおしゃれなパッケージで提供されています。
とにかく開梱体験に特別なものはありません。付属品は必要最低限で、パッケージの開梱はきわめて短時間に、おそらくほとんど感動なく終わります。
ビルドクオリティ
MDR-MV1のビルドは非常に印象的です。それは薄く軽量でありながら頑丈なアルミで成形されています。一部のレビュアーはそれがプラスチック製ではないかと誤解したほど、軽量です。
MDR-MV1のプロダクトデザインは新しいようで、実際には前世代までのSONYのスタジオモニターのデザイン文法を随所に取り入れており、製品群に通底する統一感が維持されています。
とくにこのProfessionalロゴはMDR-7506の熱心なファンである私の目に留まりました。これはMDR-7506のイヤーカップの帯(「青帯」)と同じ色合いであり、世界のスタジオで今でも愛用され続けているこの世界的なヒット商品のデザイン文法を踏襲して見せることで、このヘッドホンでSONYが世界標準を目指しているという壮大な野望をささやかに表明したのかもしれません。
SONYの自信の表れを感じます。
周波数特性
サウンドについてはMDR-MV1のレビュー記事などですでに詳しく解説していますが、別記事の内容をもう一度掲載します。
先行していくつかのサイトで周波数特性が公開されているのを確認しています。私の測定値ともほぼ同じなので、それら先行で公開されている周波数特性を見てみましょう。
SONYはMDR-MV1が優れた空間表現能力を持っていると主張しています。
少なくとも周波数特性を見る限り、SONYの主張は正しく、高域は適正音量時での非常に正確な定位感とディテールの再現を目指して調整されていることがわかります。
一方で中域はステージングが強調され、ボーカルが前に、楽器音はそれを取り囲むように、奥行き感が強調されており、面白みがありますが、正確な立体感と質感表現を多少犠牲にしています。
このような調整だとステレオ録音でも少しサラウンド感が出て、没入感が増す傾向があり、立体音響向けを謳うMDR-MV1のステレオ録音再生用の音としてはこういう味付けが良いと判断したのかもしれません。
伝統的なスタジオモニターは、中域でとくに正確な質感表現を実現することを目指すことが多く、楽器とボーカルを同等のバランスで重みづけすることが一般的だと思います。
一方で、SONYはMDR-M1STでもボーカル重視の調整をしていたので、こうした調整はSONYのサウンド哲学に基づいている可能性があります。
私の知り合いのオーディオマニアでもステレオ録音のボーカルを前に出したほうが自然だというような主張をしている人はいましたし、実際ボーカルが前に出てきたほうが作業がしやすいという人もいるんでしょう。こういう考え方自体は珍しくありません。
私個人の意見としては、元のステレオ録音音源が同等に重みづけしているものに不自然に差をつけることは、原曲の立体感の正確な把握に悪影響を与えると思います。私自身、MDR-MV1のサウンドに窮屈さを感じることは事実です。その曲がどんな再生環境で再生されるかわからないのだから、モニターヘッドホンは努めて中立的であったほうがツールとしては使い勝手が良いでしょう。けれども、これは考え方次第とも言えます。
また、SONYは開放型でありながら密閉型ヘッドホン並みの優れた低域特性を実現したと主張していますが、それは周波数特性の上ではほとんど全くその通りです。少なくともMDR-M1STより低域特性は優れています。
海外レビューまとめ
Sony MDR-MV1は、ミキシングおよびマスタリング空間音声用に設計されたオープンバックヘッドホンです。 エンジニアリングと音響的な精度が高く、正確なイメージングで音楽の各パートをピンポイントで分離して提示します。 低、中、高音域は、低域が厚く、自然なミッドベースを提供し、適度なサブベースロールオフを備えています。 中音域は、高音域に向かって急速に増加し、オーバートーンに強調されたギターやボーカルは、低域の基底音を混雑させるリスクを回避しています。 トレブルは、上部高音域で強化されていますが、やや過剰な存在感を生じることがあります。 トレブルにはEQを適用することで、この過剰感を緩和することができます。全体的に軽量で快適なデザインになっており、長時間の使用にも最適です。
Sony MDR-MV1は、周波数帯域が広く、正確なサウンドステージを持っており、3次元ミキシングに適していると主張されています。低域は深く、中域はクリアで精度が高く、高域も十分にクリアである思います。また、360度のサラウンド効果を持っていると主張されていますが、この機能については実用性については未だ議論があります。
MDR-MV1は、中性で色がなく、それでも暖かみがあり、分析的に「冷たく」聞こえないような音を求めるユーザーに最も納得できるでしょう。超低域から信じられないほど高い80 kHzまでの周波数範囲で音を再生し、新しく開発されたHDドライバーは3Dオーディオの再生にも適しています。全体的に、音は快適で、詳細さがあるにもかかわらず、分析的に「冷たく」聞こえず、音色を変えません。
もしあなたが、ニュートラルで色付けのないサウンド、そしてある種の暖かさ、しかし分析的に「冷たい」サウンドではない、ミキシング&マスタリング用ヘッドホンをお探しなら、Sony MDR-MV1をぜひ候補に挙げてみて下さい。
MDR-MV1は、無共振の超深音域から、淡々とした中音域、開放的でありながら控えめな高音域まで、幅広い音域をカバーしています。このサウンドは、高い装着感とスムーズなハンドリングと相まって、このオープン型ヘッドホンをプロの音楽再生に適していることは間違いありません。
長所
- 共振のない低音域
- きめ細かな中音域
- 優れた音声明瞭度
- 開放感のある音
- 快適な装着感
- スムーズな操作性
短所
- 高音域がややこもっている。
- 簡素すぎるかもしれないパッケージ内容
- アプリ接続の初期設定に手間がかかる
MDR-7506 は、現時点でも世界で最も使用されているアクティブ モニタリング ヘッドホンです。 おかげで、ソニーはこのようなオープンバックモニタリングヘッドホンを出しても不思議ではない会社になりました。
実はモニタリングヘッドホンの種類は1つだけではありません。 アプリケーションによって必要な機能は異なります。 MDR-7506 のような完全密閉型モニタリングヘッドホンは、録音とパフォーマンスの確認用です。一方で、ミキシングやマスタリングの目的では、遮音性や音漏れよりも、サウンド全体のバランスが重要です。
MDR-MV1は、まさにそのミキシングとマスタリングに最適化されたヘッドホンです。 特に立体音響モニタリングを考慮し、モニタースピーカーで聴いているかのような自然な音場感を重視しました。 デザインはプロオーディオヘッドホンとして実用性を徹底的に重視しました。 こういうぶっきらぼうなデザインがむしろ良い感じですし、信頼感を感じます。
MDR-MV1は、オープン型ヘッドホンとして非常に優れた音質を持っています。特に、ステレオサウンドモニタリングを考慮して、モニタースピーカーを通して聴いているかのような自然な音場を重視しています。低音帯幅を確保するために、ドライバーの背面にダクト構造が追加されています。
低音で倍音が強調されていますが、これには低音域がより深く感じられる効果もあります。40mmのオープンバックヘッドホンとしては、確かに超低音がよく聞こえる感覚があります。 これからMDR-7506と実際の音を比較し、測定器で録音してみます。
全体的には、自然で広がりのある音が特徴で、ジャンルや好みを問わずに良い音です。また、中音域が強く、ボーカルやメロディックな楽器が明確に強調されるチューニングになっています。全体的なエネルギーが高く、高音から超高音まで特徴的な高解像度音源を判断するのに良い方法です。
このヘッドホンは、ドラマ鑑賞などの音楽以外の用途にも適しています。特に、スタジオでの音楽制作や編集、モニタリングに適しています。また、家庭でテレビを見ながら使用するにも適しており、長時間使用しても快適に過ごせます。全体的に、ヘッドホンとしての使い勝手も高く、音質も優れているため、幅広い層におすすめできます。
レビュー記事
個人的な感想
そうですね、オーディオ用語では音色が響かず質感が正確に聞こえるのをデッド、響いている空間性がある音をライブというのですが、MDR-MV1はライブな音です。
— audio-sound @ hatena (@audio_sound_Twr) May 13, 2023
SONYのキャッチコピーが「これはヘッドホンじゃない、スタジオだ。」というのがじつに示唆的で、スタジオのライブ感を示唆しています pic.twitter.com/TQuz4XnblE
それでもMDR-M1STの頃よりはるかに良くなっており、水準が全然違うので、これは根底から音作りを考え直して、相当本気で作ったことがわかります。
— audio-sound @ hatena (@audio_sound_Twr) May 13, 2023
空間オーディオの時代だから空間性に徹底的にこだわってみるというのがやっぱりSONYらしくていいと思いますね。
でもリスニングヘッドホンやゲーミング用途としても優秀だと思います。ゲームや映像の持つ臨場感みたいなのはうまく引き出してくれるヘッドホンだと思います。
— audio-sound @ hatena (@audio_sound_Twr) May 13, 2023
まとめ
SONY MDR-MV1はSONYの業務用スタジオモニターの革新的な製品であるだけでなく、コンシューマーが映像コンテンツや音楽コンテンツ、ゲーミングコンテンツを再生するヘッドホンとしても新しい価値を提案しているモデルであることに様々なレビュアーが気づき、感銘を受けています。
とくに私を驚かせたのは韓国のYoutubeレビュアーで、彼の測定は私とほとんど同じであるだけでなく、その考察も私がMDR-MV1を手に入れて感じたこと、レビューで説明したことをより明確にしているところもあり、大変感銘を受けました。とても素晴らしいレビューだと思います。
SONY MDR-MV1は私がレビューで指摘したように、決して安い機種ではありませんし、ずば抜けてコスパが良いとか音が並外れて凄いというような機種ではありません。しかし、それは明らかに次の時代のモニターヘッドホンの一つの標準として多くの人々が情熱と技術を傾けて作ったものであることは、多くのレビュアーがその魅力について語るのを抑えきれないことからも明快です。
MDR-MV1のサウンドはここに紹介した以外の多くのオーディオコミュニティにも波紋を広げており、これから数か月にわたってもっと興味深い洞察が生まれ続けるかもしれません。