おすすめ度*1 |
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ASIN |
洗練されたデザインと使い勝手で人気があるBOSE Quiet Comfort 35Ⅱ(QC35Ⅱ)。装着感も良好で、ゆるくないしっかりした付け心地でありながら、ふかふかのイヤーマフが耳当たりよく、実に快適だ。
遮音性に関してはアクティブノイズキャンセリング(ANC)オフの段階でもかなり高く、それなりに周辺音をカットしてくれるが、ANCをオンにすれば大きめの人の会話音くらいしか聞こえなくなる。人のスピーチは意図的に聞こえやすく調整しているらしく、ここらへんも小憎らしい。音楽に圧倒的に没入させつつ、駅などのガイダンスは聞こえるので、あとは音楽に没頭したい場面か、周りの音に注意すべき場面かで音量を調整すればいい。ANCはハイ(高)・ロー(低)・OFFを切り替え可能。
ただし、車の移動音などには気づきづらいこともあるので、街中を移動中に使うのは、個人的にはあまりおすすめしない。自転車やバイク、車を運転するときは必ず外すこと。これだけは事故ったらシャレになりません。
aptX対応ではない。通信品質は安定しており、わずかに遅延を感じるが、音飛びは感じられない。音楽鑑賞には全く問題が無い。
【1】外観・インターフェース・付属品
付属品はUSB充電ケーブル、AUXケーブル、戦用ケース、説明書。
2台までマルチポイント対応。スマホやタブレット向けには専用アプリ「BOSE CONNECT」でいろいろ調節できるそうだ。私はDAPで使っているので試してない。
【2】音質
音質的にはBOSEらしいというか、低域から音楽を構築するような、堅固さのある重厚なサウンドが特徴。密度感のある曲を聴くと、足場から音楽が組み上げられて建設されていくようなしっかりした骨格感が出る表現力が特徴で、情感に訴えかけるところはないので量感の割に表情は案外落ち着いているが、個々の楽器が機能的に役割を果たしてくれる充実感がある。印象としては仕事熱心というくらいの情熱があるが、曲に入り込みすぎずに完成図はつねに意識して音を鳴らしている、そういう理性も兼ね備えた音。このバランス感覚がジャンルを変えても比較的羽目を外さない安定感につながっていて、大抵どんな曲を聴いても、「そうそうこんな感じ」を実現してくれる、顧客第一主義的職人気質の万能感には、面白味がなさすぎてやや呆れつつも愛着を感じざるを得ない。それがBOSEサウンド。
[高音]:演出感はあまり感じない。音は太め(秦基博「水彩の月」、井口裕香「Hey World」、多田葵「灼け落ちない翼」でテスト)
[中音]:音は太い。煌めき感や透明感は強くなく、音に宝飾感はあまり出ず、どちらかというと工業製品的な音。ノイズ感やざらざら感がなく、とにかく無骨で色味が濃い。多少熱い熱気は感じるが、有機的に温度を広げる感じではなく、いわば放射熱のようなイメージで、背景の空間は黒く、しっかり冷えた場所がある。
[低音]:ぶっとい振動。100hz~30hzまでしっかりした存在感。20hzでも揺れを感じる。芯が太く、一定の地熱感も出るが、膨張感は強いほうではなく輪郭感があり、土台をしっかり構築する地盤のような音。すべての音をこの土台で受け止め、支えて音を構築していく(分島花音「killy killy JOKER」、UVERWorld「CORE PRIDE」、重低音音源動画でテスト)
[解像度・立体感]:厚い若干無機的な低域の土台をしっかり聴かせ、その上に同じく重厚感のある中域、太い高域を乗せるビルのような音の作り方。個々の音の色味を濃い目にしっかり出す解像感なので、発色は暗めな印象ではある(petit milady「azurite」、分島花音「world's end, girl's londo」でテスト)
[パーカッション・リズム]:ドラムは膨張した感じもありながら輪郭も強いので、肉厚でぎっしりしているイメージになる。地熱感そこそこ。粘りはあるが目立たない。バズンバズンといった感じ。シンバルはそれなりに粒感があり、ドライな色味も加えるが目立ちすぎない仕事師的な音で好感が持てるが、ドラムの量感に比べるとおとなしく、ドラム優位(東京カランコロン「スパイス」、nano.RIPE「ツマビクヒトリ」、JOY「アイオライト」でテスト)
[ボーカル傾向]:太い。女性ボーカルは高域でも少し太く、濃厚。また声の端が空間からやや盛り上がったような段差を感じさせる消失感があり、全体的にエンボスがかかっているような分離感がある。
なお、上は一般的な使用環境であるワイヤレスモードでの音質だが、ワイヤードモードでの音質については下の別記事をどうぞ。
【3】官能性
まずこのヘッドホンで聴いて欲しい曲として個人的におすすめしたいのが、ずっと真夜中でいいのに。「秒針を噛む」。バンド名に「。」が入っているとややこしいが、「ずっと真夜中でいいのに。」というバンドの曲だ。宣伝するつもりはないが、ミニアルバム「正しい偽りからの起床」発売中。厨二病的世界観が実に素晴らしい。←あ、これ言うと怒られそう。
でもmoraの「正しい偽りからの起床」の音源、ハイレゾじゃなかったけどね。別にハイレゾにこだわっているわけじゃないんだけど、「ハイレゾ or DSDで聴いてないの?プププ」とかいうやつが世の中には結構いてムカつく。しかも音楽配信側がそんな姿勢でさらにムカつく(その点mp3でいいじゃん的なamazon musicには妙に好感が持てる)。それに踊らされてちょっと高いハイレゾ音源買っちゃう自分にまたムカつく。それだけ。だから音質にこだわるなら、本当は「正しい偽りからの起床」のCD買って取り込んだ方が良いんだろうけど、最近はもう、そのちょっとした作業が手間。「moraで落としてどうぞ」、「amazon musicで再生してどうぞ」が手軽すぎて、完全に巨大資本主義に取り込まれてしまっている。我ながら哀れだ。
愚痴はともかく、この曲の聴き応えに関しては率直に言ってQC35Ⅱに惚れる。私が最も愛するSENNHEISER HD599に比べると熱気と迫力で圧倒的差があり、空間の充実感でも、とても勝負にならないが、これは相手が悪すぎる(HD599に対する私の入れ込みもひどすぎる)。HD599と似たような熱気を感じさせるワイヤレスヘッドホンOneOdio A1と比べてみると、低域火力と音の締まりと濃さに圧倒的差があり、今度はA1が勝負にならない。価格差を考えれば当然だが、OneOdio A1のなんちゃってSENNHEISER HD599なヌルイほんわかサウンドを軽く吹っ飛ばすパワフルさで一気に曲に引き込んでくる。OneOdio A1だって使い勝手が良く、音質も価格を考えると破格と言ってよい良機種だが、やはり越えられない差というものはある。同じようにPanasonic RP-HTX80Bというもう一人のお気に入りとも比べてみるが、RP-HTX80Bも音に厚みがあるとはいえ、締まり方は断然格が違う。結局のところ音の濃さとそれからくる曲の骨格に圧倒的差があり、ビルド感が段違い。この曲のように重量感のある世界観をがっつり聞かせてくる曲には仕事師QC35Ⅱはめっぽう強い。
こういうのうまいなと思ったのは内田真礼「君のヒロインでいるために」を聴いたとき。TVアニメ「SSSS.GRIDMAN」のED曲「youthful beautiful」のカップリング曲。実は「youthful beautiful」のほうもHD599とQC35Ⅱは、前者の熱量と後者の音の締まり具合の差で甲乙付けがたいんだけど、このカップリング曲に関してはQC35Ⅱに明確に軍配を上げる。はっきり言うと、大きなポイントは見通しの差。HD599の熱量感はたしかに充実感与えてくれるんだけど、あまりに強すぎるところがあって、この曲だと、歌詞にあるちょっと小狡い軽妙な愛らしさがあまり感じられなくなってしまう。その点仕事師QC35Ⅱはそれぞれの音に厚みを出して重厚感を出して充実させつつ、熱量は上げすぎない、冷めた背景を残していて愛くるしいボーカルがより分離して駆け引きしてくる。
はっきり言って、QC35Ⅱにはライブ感はあまりないので、「youthful beautiful」のような曲にはちょっとのめり込めないが、「君のヒロインでいるために」くらいの曲だと深入りしない適度な距離感がうまく感じられる。「youthful beautiful」に関しても、ライブ感が足りなくて物足りないというのはあくまでHD599と比較しての話であり、スタジオサウンド的な音では周りを見回してもここまで厚く充実して聴かせるものは少なく、敵はほぼいない。
次に紹介するのは大橋彩香「Finding Lover」。TVアニメ「叛逆性ミリオンアーサー」OP「ハイライト」のカップリング曲。ブーム感のある近未来的なテクノ感のある曲で個人的にイチ押し。正直「ハイライト」も爽快な明るいロックサウンドで気持ちよい曲だと思うが、このシングルに関してはこのMVで「Finding Lover」を聴いたから買った。こっちがメイン。
で、この曲なんか音楽を丁寧にビルドアップしていくQC35Ⅱが面目躍如するところで、全体的に臭みを出さずに音の性質に忠実な、悪く言えば少し面白味のない無機的な鳴らし方で仕事をするところが、見事にフィットする。低域の重厚な迫力を出しつつ、それが支配的というほどは強くなく、ボーカルや他の音が広がっていく空間がしっかり維持されている。個々の音も演出感が少なくて太く無骨なんだが、この曲ではそんな感じが近未来感のある音響に合っている。これは文句ない。同じような曲だと渕上舞「Migratory」なんかこのヘッドホンで聞くと最高に盛り上がる。あるいは、少ししっとり感がある曲で、高域での透明感に不足を感じるかも知れないが、KARAK「いつかまた生まれた時のために」も悪くない。
そうすると「こいつはテクノ風のダンスミュージック向きかい?」という声も聞こえてきそうだが、必ずしもそうではない。最初の「秒針を噛む」でも感じられたように、アコースティックな音も一定の風味をしっかり出すのが仕事師たる所以。たとえばTVアニメ「ハクメイとミコチ」のED曲「Harvest moon night」は私が朝に夕に聞き惚れている名曲アニソンだが、JAZZ風のアコースティックサウンドでノスタルジックな風味があるのが特徴だ。率直に言ってさきの「Finding Lover」とは正反対の方向を向いていると言って良い。しかし、QC35Ⅱの実直と言える音響は、こうした曲でもしっかりと風味を感じさせるほどの濃厚感を出し、充分に楽しませてくれる。むしろこの曲では風味が出すぎることもあるので、QC35Ⅱくらいの入れ込みすぎない濃厚な音をより自然で快適な音に感じる人も多いはずだ。
傾向をガラリと変えて、rionos「ウィアートル」を聴いてみる。そうすると、途端に繊細さのある濃淡の美しい音を出すのも、このヘッドホンの小憎らしいところだ。ボーカルの味はふっくら甘く、息感もきれいでシャープさも充分、空間への溶け込み方もなめらか。「Harvest moon night」でも感じさせてくれた楽器のうまい風味の出し方がここでも味わえ、光沢感と温もり感のある空間も、率直に言って満足。音に包まれてリラックスできる。同様の感覚で聴ける曲と言えば、たとえばLia「一番の宝物」もそう。素直にこのヘッドホンのうまさを実感できる。ここではアニメ映画「さよならの朝に約束の花をかざろう」の予告動画を挙げる。背景で流れている曲が「ウィアートル」。
個人的にこのヘッドホンを購入しようと思った理由の一つは、このヘッドホンで聴いた、瀬名「TSUBASA」がよかったからだ。この曲は「機神大戦ギガンティック・フォーミュラ」とかいう、もはやほとんどの人が見向きもしないであろう10年以上前に放映されていた泡沫アニメのED曲だが、個人的には熱心に聴き続けている。しかし、若干癖の強い曲で飽きやすいところもあり、バランス感覚が良いヘッドホンでないと、どことなく野暮く聞こえるところがある。どこらへんがダメになるかというと、クライマックスのベースと弦楽がガンガン頑張るところで、ここでどっちかが頑張り過ぎちゃうと、どうしてもそっちに引っ張られて単調になってしまい、ここまでせっかく構築してきた緻密な世界観が失われる気がして興ざめする。だが、このヘッドホンの色味の少ない、骨格バランスも良い表現が秀逸で、そうした破綻につながるわずかな臭みも出さずに、濃厚な味はそのままにしっかり聴かせてくれる。私がQC35Ⅱを愛らしいと思うのはこういう他にはちょっと真似できないくらい、繊細さとは幾分異なる技巧的な意味で仕事が丁寧なところだ。最近の曲で言うと、たとえばKalafina「メルヒェン」とか高橋李依「Stay Alive」みたいな、ちょっとアクの強い曲を聴くにはおすすめだ。
なお「機神大戦ギガンティック・フォーミュラ」については劇伴曲を澤野弘之が提供しており、私はこれで澤野弘之を知った。
【4】総評
使い勝手については文句なく、音質も安定のBOSEサウンドという感じで、「味足らず」と枕詞を投げかけつつ、下の句の終わりは「やっぱいいよね」で終わる。どんな曲でも「そうこんな感じ」を丁寧に提示し、破綻させない愚直で無骨な職人気質。それが何よりも魅力。
ノイズキャンセリング機能も優秀で、使用状況に配慮した調整もなされており、リスナーの利便性に寄り添うその姿勢は、使い勝手の良さに如実に表れている。音質もさることながら、そのエレガントな使い心地はたしかなプレミアム感がある。インターフェースも洗練されており、無駄がなく難解なところがない。パッケージから使用までの流れもスムーズだ。パッケージを開ければ商品は使用可能な完成された形でケースに収まっている。ケースを取り出したその目の前には、使い方のわかりやすいガイドがある。そこには難解な説明書なんかない。
amazonなんかに通じる顧客第一主義のアメリカ資本主義的精神を感じさせる良機種だ。イヤーマフはフカフカ優しく快適な付け心地で、外観も洗練されていて小憎らしいほどおしゃれ。思わず街に出かけるときに意味も無く持ち歩きたくなってしまう。ちょっと休憩する時間があれば、すぐ装着して音楽を楽しむ自分を演出できる、そんなアイテム。そして持ち運べるほどにほどよく軽量。卑劣な資本主義の権化とも言うべき、逃れがたい誘惑がそこにはある。
【5】このヘッドホン向きの曲
私は常日頃、Jess Glynneにどっぷりというくらい彼女の歌が生活に馴染んでいるが、そんな私が、愛するSENNHEISER HD599と比べても遜色ないと思えるのがこのヘッドホン。HD599が熱気をよく伝えるとすれば、QC35Ⅱは曲の骨格をより明瞭に提示し、とくに緻密感の強いこの曲ではHD599をしのぐ立体感を感じさせる。
全体の重厚感と個々の音の鮮明さのバランス感覚が良いので、たとえばこの曲なんかしっかりした骨格を感じながら、ボーカルのほどよいキラキラ感を自然な味で聴かせてくれる。
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*1:おすすめ度とは、あくまで主観的に「ここが面白い!ここが味わい深い!」と思ったポイントです。たとえば低域が「5」だからといって低音が支配的で低域重視で鳴りますというわけではなく、「低域の表現が丁寧でうまいなぁ」とか「これはちょっと他では味わえないかも」といった特徴的な音、魅力的な音がポイント高めになります。そのイヤホンの販売価格帯も考慮した主観的な評価です。