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【カナル型イヤホン BGVP DMG レビュー】KnowlesのBAドライバーを無調整でぶっ込んだ感じの高域が異様に目立つ、独特のマニエリスム的音響は構図的には違和感を感じるが、幻想的で優美ではある。ノズルシステムは魅力に乏しく、危険性も高いので注意。

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BGVP DMG

BGVP DMG

BGVP DMG ハイブリッド型イヤホン ダイナミック型ドライバー×2 + バランスド・アーマチュア型ドライバー×4搭載 2DD+4BA ハイレゾ認定 ノズル交換可能 (3種類附属) 高音質 イヤホン 汎用MMCX端子搭載 リケーブル可能 金属筐体 5N OCC + 銀メッキケーブルのイヤホン (青色、マイクなし)

 

【0】緒言「DMGの音のサウンドイメージの美学を論じる」

 正直このイヤホンには困りました。音響表現は中華製多ドラにありがちな、調整不足で情緒不安定なところがあり、音場表現に不自然なところが多く、音を聴いていると何かと気持ち悪いところが多いので、個人的にはあまり好きな機種じゃないのですが、一方で音場表現を変だ歪んでると具体的に曲を挙げながら列挙するだけで、果たしてレビューとして意味をなすのかという根源的な問題がありました。読者だってそんなの求めてないでしょう。

 私のレビュー指針としてはオーディオ製品の魅力をわかりやすく伝えて楽しんでもらいたいっていのがあって、辛口レビューとか言ってこき下ろすだけのレビューとか自分で書いてても、他人の書いたのを読んでも嫌になりますし、それが何の役に立つのかわからないし、本当のレビューは辛口レビューとはそもそも書き方が違うと思うから自分でレビューしたいと思ったというのがレビューを始めたきっかけにあるのに、この機種の欠点をあげつらう感じで済ませては結局同じ穴の狢に過ぎなくなります。

 私自身としてはあまりこの機種を人にお勧めするつもりはなく、かなり否定的で、明確な問題点もあるので、手に入れた個体も返品手続きを開始しています。もう二度とこの機種を手に入れることはないでしょう。しかし、レビューを書くということは、そういう個人的な好悪の感情をまず横に置いて、その製品の欠点もまた個性あるいは独自の美学として受け入れて誠心誠意評価することではないかと考え直しました。昨日NUARL NT01AXとMTWのサウンドイメージを考えながら比較レビューを夢中になって書いていたときに、同じようにサウンドイメージをとっかかりにしてBGVP DMGの欠点に思えるところも、独自の美学として捉え直せるのではないかということに考えが至りました。

 そこでしっかりとBGVP DMGの音を確認し、この音がどんなサウンドイメージを見せているのかということを一生懸命考えてみました。このイヤホンはKnowlesの音のいいドライバーを明らかに充分な調整せずに使っており、そのせいで剥き出しな中高域音が不自然なほど近くに聞こえる独特の歪んだ音場表現を持っていて、それが率直に言って気持ち悪いのですが、肯定的に捉えれば非現実的で幻想的な音を奏でるともいえます。音場表現としては正しくないのですが、美学的には美しく見えることもあるこの感覚を、サウンドイメージとしてどう映像化するかというのを、いろいろ考えておりました。

 

 それで閃いたのが私の好きな画家の一人、エル・グレコです。後期ルネサンス、スペイン・マニエリスムの代表的画家ですが、彼は出自的にはオスマン帝国支配下の旧ビザンツ正教文化を受け継ぐイコン画家としてキャリアをスタートし、ヴェネツィアに渡ってルネサンス芸術を学び、事情は定かではありませんがミケランジェロを酷評してイタリア美術界から総スカンを食らい、スペインに向かって宗教画家として名声を博すようになります。

 こうした複雑な美術遍歴が彼の作品も表れています。ここは美術作品の評論をする場所ではないので簡潔に説明しますが、エル・グレコの作風の特徴としてはまず「光」の表現が挙げられます。エル・グレコの作品に登場する人物はそれぞれが光源となって光を発しているようであり、明らかに自然の状態を超えて光に溢れています。エル・グレコは構図よりも色彩感を重視していたと言われており、色味は全体的にヴィヴィッドです。構図は全体的に細長く、高さが強調され、優美な雰囲気を持っていますが、人体の不自然なエクステントは解剖学的には全く正しくありません。非現実的で幻想的になっています。

The Holy Family with Mary Magdalen

マグダラのマリアと聖家族

 このエル・グレコの美的感覚が、BGVP DMGの音質とよく似ていると私は感じました。BGVP DMGの音質は高域が強調され、引き延ばされており、しかもかなり近く配置されて音場全体を明るく感じさせるようになっています。これは光を強調し、色をヴィヴィッドに表現して、高さを強調するエル・グレコの絵画を思わせる音です。DMGの音の気持ち悪さ、非現実性はこうしたマニエリスム的な幻想性として肯定できるのではないかと私は考えました。もちろんそれによって音楽がどう豊かになるのかは判然としないのですが、こうした独特の美的感覚を持っているとDMGを捉え直すことで、肯定的にレビューできる気がしたのは事実です。

 今回は自分が高く評価しない、好きでない製品をレビューするわけですが、サウンドイメージを手がかりになるべくこの機種の音を、皆様に丁寧に伝えられるよう努力したいと思います。

 

【1】装着感/遮音性/通信品質「若干不安定なところもあるが、ほぼ安定した品質」

おすすめ度*1

NICEHCK M6

ASIN

B07G8CSQQH

 シュア掛けタイプのハウジングの装着感は悪くない。遮音性はほどほど。音漏れは少し。

 

 外観的にそっくりなイヤホンにNICEHCK M6というのがあるが、とくにライセンス関係があるわけではない。BGVP側は一方的にパクられたと考えており、声明文を公式に出してM6を非難している。私はM6側にも問い合わせたが、とくにメッセージはなく、BGVPの行動は無視している様子。

 現状BGVP側の方がだいぶ正論を言っている感じで、NICEHCKはなぜダンマリしてるのかわからないが、この件については他で詳しく述べたので繰り返さない。

 

www.ear-phone-review.com

 

【2】外観・インターフェース・付属品「ノズルシステムは煩わしいだけで構造的にも固定が悪く危険」

 付属品は多数のイヤーピースの替え、耳掛け用ケーブルガイド、3種類の音質ノズル。リケーブル可能。標準ケーブルにタッチノイズはない。

 

 音質を変更するノズルシステムは音の高低バランスを変えるだけで音味を本格的に変えるわけではないタイプで、面白味に欠けるし、なくてもいい。

 むしろ危険なのはこのノズルがネジ回しで本体に収まる形式になっているが、同じようなノズルシステム採用機に比べて固定が甘く、使用中に取れやすいことである。短時間の使用ではそれほど問題とならないが、外出時に長時間使用していると、場合によってこの部分が緩くなってノズルが取れ、耳穴に残ったり、紛失してしまうということがありうる。私はテスト中にノズルが取れて耳穴に残ってしまい、ちょっとこわい思いをした。このノズルのデザインはNICEHCK M6も共通であり、危険である。

 大幅に音味を変えるHA-FD01SPのノズルシステムとは異なり、大した効果の無いノズルシステムなので、ハイリスクローリターンであり、これはちゃんと固定される構造に設計し直すか、いっそなくした方がいい。

BGVP DMGBGVP DMG

 

【3】音質「高域の発色が目立つ独特の美学を持つ幻想的な音」

 このイヤホンはノズル変更によっても音味自体に大した変化はないので、以下は標準ノズルの音質でのレビューになる。ノズルごとの音質のわずかな違いについては総評で軽く述べる。

 

 音質的には高域が妙に明るく、近く、なおかつ低域との連携があまり良くなく中空に浮き上がって出てくるので、定位感的には非現実的で、幻想的な雰囲気になる。どうしてこういう変なバランスになっているのかはわからないが、おそらくKnowlesのドライバーをそのまま調整せずによく聞こえる位置に詰め込んで、低域音を担当するDDは音量バランスだけ適当に合わせたんじゃないかと思う。そのため低域の音とはだいぶ分離して、中高域だけ手前で異様に発色よく聞こえてくるおかしなバランスになってしまったのだろう。そのせいでオーケストラのような定位感が大事な曲はすぐ破綻する。

 一方でこうした調整のメリットもあって、単純にボーカルの聞こえは良く、高域の鮮明感と生々しさも増すから、見通しがよく開放感があるように錯覚しやすい。私の経験上も高域音の存在感が強いほど曲の明度は増して感じられるので、それに伴って見通しよいように思えることが多い。ただ本当に開放的なイヤホンは圧迫感を感じないものだが、このイヤホンの場合、高域音が結構近く出てくるので圧迫感を感じ、聞き疲れしやすい。実際の音場は中高域が前に出てくる形で、だいぶ前屈みな感じになっている。

 こうした表現は不自然に高域の聞こえをよくしているから、なんとなくひずんだ感じになっているので、幻想感は出る。

 この機種のレビューでは低域のパワフルさを強調する声が強く、実際NICEHCK  M6より輪郭がよく存在感の強い低域を感じるが、それらは厚みはあるものの深い位置に押し込まれている印象があり、空間を支配する感じではない。むしろ大抵の曲では出張ってくる幻想的な中高域の主張が勝る。

 

[高音]:高域が近く聞こえる癖がある。妙に伸びるので、突き抜け感は良好。高域の存在感はかなり強調されており、精彩感はあるので、その点高域好きの人は解像度感を感じるのかも知れない。煌めき感や透明感は強調されず、自然な色味がある(秦基博「水彩の月」、井口裕香「Hey World」、多田葵「灼け落ちない翼」でテスト)

[中音]:ややドンシャリ傾向があって中域付近が少しスカスカするかもしれないが、中低域付近が出張ってきやすいのでそれほどスカスカ感はない。どちらかといえば目立つ高域を支える役回りになりやすく、地味ではある。

[低音]:厚みのあるぶっとい振動で100hz~40hzまで素直な減衰。30hzでややおとなしくなり、20hzはほぼ無音(分島花音「killy killy JOKER」、UVERWorld「CORE PRIDE」、重低音音源動画でテスト)

[解像度・立体感]:高域が近めのバランスで出るので、印象的には前屈みに感じることが多い(petit milady「azurite」、分島花音「world's end, girl's londo」でテスト)

[パーカッション・リズム]:かなり締まりと張りのある音でバッツンバッツンという元気な爆発力のあるドラム表現になる。肉厚さも充分。シンバルの粒感と発色は良く、ロックではパーカッション周りは結構気持ちよく聴けそうだ(東京カランコロン「スパイス」、nano.RIPE「ツマビクヒトリ」、JOY「アイオライト」でテスト)

[ボーカル傾向]:M6で感じた中域付近での分離感の悪さはあまりなく、ボーカルがかなり明瞭に分離されている。のびやかさは丁寧に出るので突き抜け感も感じられる。

 

【4】官能性「爆発力のある低域火力を受けながら、自己主張の強い幻想的な中高域が異次元の立体感で迫る。音場の歪みはVR的な鳴らし方だと理解すれば良いかもしれない」

 このイヤホンの音響は私には、サラウンド対応ゲーミングヘッドセットで音楽を聴いているみたいに定位感が変なので、あんまり長く聴いていると脳がおかしくなりそうなんで、今回は官能性テストはあまり長くやっていません。どちらにせよこれまでのBGVP DMG関連の記事でいろいろ曲を紹介して官能性については充分情報を提示していると思うので、もっと情報が欲しい方はそちらを参照してください。

 

UVERWorld「CORE PRIDE」

  独特の味を存分に体感するならまずこの曲を聴くことをオススメする。大抵のイヤホンだとドラムの支配的な領域の中で、ボーカルが聞こえてくるバランスになるはずなのだが、このイヤホンの中高域は尋常でない存在感を持っているので、空間を歪ませてドラムの中から異様に伸びてくる。ボーカルどこにいんの?目の前覆い被さってんの?っていう話になるんだけど、気にしてたら始まらない。このボーカルの浮き上がり感はハンパなく、顔の近くで縦横無尽に歌い続ける。ピアノやシンバルもやたら出張ってきて、耳の裏側くらいまで出てきて鳴らす定位感はいろいろおかしいんだけど、気にしたら楽しめなくなる。

 


CORE PRIDE

 

久石譲「竜の少年」

 幻想的な中高域表現を活かせるといえば、たとえばこの曲。これも楽器の位置関係とか考えると、自分の立ち位置がヴァイオリンパートの中とかなるんでおかしいんだけど、むしろ映画の世界に入っていると考えると、なんとなく納得できる。前屈みに頭を包み込んできて、頭の後ろまで広がる弦楽音が圧倒的に飲み込んできて、没入感はかなりすごい。明らかに不自然な3D音響なんだけど、難しく考えずに幻想的雰囲気に浸るなら、悪くないだろう。

 


竜の少年

 

さユり「来世で会おう」

 こういう上から下までぎっしりした曲を、まるで広角レンズで覗くみたいに聴くことができる。低域は存在感あるけどだいぶ下にあり、中高域が前屈みに包み込んできて、ボーカルは不自然なほど近い。迫力と歪んだ空間表現の妙味みたいなのはあって、圧倒されるところはあるんだけど、正常な定位感ではないので、非現実的な音響である。

 


来世で会おう

 

【5】総評「空間表現が奇妙だけど、それが幻想的な味を出してはいる。現状ではノズルシステムは致命的に必要性が薄いどころか危険。金ノズルがオススメ」

 はっきり言って3D酔いするようなところがあって気持ち悪い音だけど、妙に幻想的でもあって気に入る人は結構惹き込まれると思う。意外と圧迫感があるので聞き疲れはしやすい。最近のデジタル加工されている曲だとあまり不自然に感じないのかも知れないけど、オーケストラやJAZZのビッグバンド構成の曲を聴くと空間の歪みが目立って、とても不自然で聴けやしないだろう。M6のレビューで紹介したMYTH & ROIDのように幻想的で非日常的な音響を使っている曲なら、妙味が増すところはあるかもしれない。

 3種あるノズルの中では低域強調という金ノズルで聴いたときが最も音のコントラスト感が増すので、引き締まった感じが出る。自己主張がやや強く出張りすぎな高域も収まるので、バランス的にもこのノズルが一番だろう。ノズルが取れると危険なので、金ノズルを接着剤で本体にくっつけてしまうのがいいかもしれない。元々高域の出張る感じがあるので、高域の銀色ノズルの効果はシンバルのシャリ味が必要以上に増して鼻につく感じになる以外有益な点はほとんどない。個人的にはシャリ味の目立ちはあまり好きじゃないので、なくても全く問題ないノズルだが、金属光沢感が好きな人には逆に必須アイテムかも知れない。

 このノズルシステムはテスト中何度か取れて耳に残ったので少し背筋が凍ったので注意。固定が甘く、耳を痛めることがあるかもしれない。

 

 

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*1:おすすめ度とは、あくまで主観的に「ここが面白い!ここが味わい深い!」と思ったポイントです。たとえば低域が「5」だからといって低音が支配的で低域重視で鳴りますというわけではなく、「低域の表現が丁寧でうまいなぁ」とか「これはちょっと他では味わえないかも」といった特徴的な音、魅力的な音がポイント高めになります。そのイヤホンの販売価格帯も考慮した主観的な評価です。

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