BGVPは、知る人ぞ知る中国のIEMメーカーです。このブランドを有名にしたのはその優れたチューニングが評価されているDM6です。BGVP DM8はBGVPの最新のフラッグシップモデルです。
audio-sound @ hatenaはこの機種を「audio-sound @ hatena Highly Recommended」として、大多数の人にとって満足度が高いオーディオ製品であると推奨します。
基本スペック
- ドライバー構成:8BA
- 周波数特性:10Hz~40kHz
- インピーダンス:12Ω
- 感度:110dB
- ケーブルコネクタ:mmcx
BGVP DM8の特徴
優れた製品で高く評価されてきたBGVP
BGVPは中国を拠点とするブランドで、BGVP DM6、DH3、DMGなどの優れた性能を持つIEMで知られています。BGVP DM6は、その価格帯において最も詳細な音響性能を持つ、最も知られているモデルの一つです。DM8は同じシリーズのフラッグシップなので、DM6の精密でディテール感のある音響性能がさらに向上されていることが期待されています。また、肌に優しい高品質の樹脂素材を使用した透明な3Dプリントイヤーシェルを採用しています。BGVP DM8は、4チャンネル4ウェイに複数のバランスドアーマチュアユニットを搭載したバランスドアーマチュアドライバーのみでの構成を特徴としています。
類を見ない美しさ
BGVP DM8は、肌に優しい高品質の樹脂素材を使用した3Dプリントの透明イヤーシェルが格別に際立って見えます。片面にはBGVPロゴ、もう片面にはDM8のブランドロゴが施されたシルバーの美しいフェイスプレートデザインを採用しています。ユーザーは、透明な樹脂シェルを介してイヤーシェル内部に搭載されたドライバユニットの、プロフェッショナルに整えられた配置を見ることができます。BGVP DM8は、ユーザーに最高の快適なフィット感を提供するため軽量性を重視し、抜群に人目を引くルックスを持っています。
ハイレゾ音響を実現
BGVP DM8は、その優れたハイレゾ特性によって、オーディオ愛好家の要望に応えます。SWFK、TWFK、RAFなどの定評あるシリーズのバランスドアーマチュアユニットを左右に配置したマルチBAドライバーを搭載しています。それらを4チャンネル4ウェイ構成で配置し、歪みのない生き生きとした音を出力します。このIEMの特徴は、クリーンでインパクトのあるローエンドと、チャーミングで明るいヴォーカル・パフォーマンス、そしてよく伸びた刺さりのない楽器音です。様々なジャンルの音楽に合わせられるよう専門的にチューニングされており、最高のオーディオ出力を提供します。
ユニバーサルMMCXコネクタ
BGVP DM8は、ユニバーサルMMCXコネクタを採用しており、高品質のケーブルが付属しています。これにより、ケーブルとIEM間に強固で安定した接続を提供します。また、将来的にケーブルをアップグレードする必要があると感じた場合にも、簡単にアップグレードすることができます。
パッケージ
BGVP DM8のパッケージングは価格のわりにかなり上質です。開梱体験は比較的シンプルです。50000円以下の価格設定ですが、付属品は揃っており、イヤーピースは豊富に付属しています。イヤホンケースも付属しており、標準ケーブルは品質も良く、2.5mmバランス接続に対応しています。3.5mmシングルエンド、4.4mmバランス接続に対応した変換プラグも用意されており、あらゆるデジタルオーディオプレーヤー(DAP)に接続できます。
本体のビルドクオリティも上質です。私が入手したのはウッドモデルです。非常に美しいウッドデザインのフェイスプレートは隅々まできれいに塗り上げられており、高級感があります。その色彩感覚はヴィヴィッドでありながら、深みのある落ち着きがあり、瑪瑙のように目を奪われる層状の紋様があります。
装着サンプル
厚みは少しありますが、比較的コンパクトで耳への収まりは良好です。
音質
測定機材
- SAMURA HATS Type3500RHRシステム:HEAD & TORSO、左右S-Typeイヤーモデル(Type4565/4566:IEC60268-7準拠)
- AWA社製Type6162 711イヤーシミュレータ
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- アナライザソフト:TypeDSSF3-L/RightMark Audio Analyzer
※イヤーシミュレーターの特性上、20hz以下と16khz以上の信頼性は高くありません。
周波数特性
上から順に、
- [標準イヤーピース(バランス) S装着時]左右別
- [標準イヤーピース(バランス) S装着時]左右平均
- [標準イヤーピース(バランス) S装着時]左右別(自由音場補正済み)
- [標準イヤーピース(バランス) S装着時]左右平均(自由音場補正済み)
- [標準イヤーピース(ボーカル) S装着時]左右別
- [標準イヤーピース(ボーカル) S装着時]左右平均
- [標準イヤーピース(ボーカル) S装着時]左右別(自由音場補正済み)
- [標準イヤーピース(ボーカル) S装着時]左右平均(自由音場補正済み)
- [標準イヤーピース(ベース) S装着時]左右別
- [標準イヤーピース(ベース) S装着時]左右平均
- [標準イヤーピース(ベース) S装着時]左右別(自由音場補正済み)
- [標準イヤーピース(ベース) S装着時]左右平均(自由音場補正済み)
- イヤーピース比較(自由音場補正済み)
※当ブログの自由音場補正については機材に合わせてサザン音響さんから提供された補正値を使用しております。
サウンドシグネチャー解説
比較的フラットに近い、低域が持ち上がった緩やかなU字型のサウンドシグネチャーを持っています。全体として中高域に向かって奥行きが強調されるような音場構造を持っていますが、5khzのディップが音の切っ先を柔らかくしており、少し不自然な印象を与える可能性があります。
ギラつき感が大きく抑制されるので、ピアノは角が取れた印象で聞こえ、少しとろみの感じられる光沢感を出します。アコギのエッジも妙にまろやかな感じがあります。シンバルは歯切れが少し足りなく思える可能性があり、音の刻みに鮮烈さが足りない印象を受けるかもしれません。ボーカルも語尾近くで少し緩む感じが見られるかもしれません。それを嫋やかで心地よいと感じるか、ハリが足りないと思うかは好みによるでしょう。
THD+N特性
THD+N特性は高級オーディオ機器の場合、1%以内であることが望ましいです。下の図は上が@-40dB(適正音量レベル)における、スイープでの周波数毎のTHD+N特性、下が同条件で1khzでの音量レベルによるTHD+N特性です。このイヤホンはどちらでも概ね1%未満で優秀です。
- THDN平均値:0.26882676%
- THDNL平均値:0.37170185%
- THDNL平均値(-60dB以上):0.433796333333333%
音質解説
このイヤホンは低域が少し強調されたウォームサウンドで、また中域が前進的に聞こえるように音場の奥行き感が少し強調されています。ボーカルフォーカスは良好です。
※各評価項目はあくまでリファレンスサウンド(当サイトの機器測定における自由音場フラット)から見ての周波数特性データと私の聴感に基づく評価です。たとえば迫力のある低域を重視する人は「存在感」「太さ」「重み」「臨場感」が高い低域を好むと思いますが、このような音は本来最も重視されるべき「原音忠実度」はおそらくあまり高くありません。
再生機器にとって「原音忠実性」こそが最も重視されるべきというのはオーディオ界隈の共通認識であると思われますので、本ブログの音響機器の評価も「原音忠実性」を最も重視しています。
「原音忠実度」は基本的に高ければ高い方が多くの人にとって良いと思われますが、ほかの評価値は中間値である「B」を離れるほど原音忠実性が薄れます。そのため「S」や「A」はその音要素を好む人には最も心地よい音かも知れませんが、他の人には不快かも知れません。そして不快な音要素が決まっている人は、むしろその音要素が低い評価のものを選ぶとより心地よく音楽を楽しめると思います。
このように、当ブログでは原音忠実(リファレンスサウンド)からの距離を提示することで効率的にあなたの好みに合ったオーディオ機器を発見できるように工夫しています。
評価が高ければ高いだけ良い評価値というのは「原音忠実度」「クリア感」「おすすめ度」で、とくに「原音忠実度」+「クリア感」がオーディオ製品としての単純な優秀性を表します。
「原音忠実再生」についての参考動画:創造の館「いい音とは何か」
※以下のリンク先はpdfです。
低域(原音忠実度:B/臨場感:B-/深さ:B+/重み:B+/太さ:B+/存在感: B+)
低域は重みに強調があり、リラックスしたサウンドになっています。
深く重いところに強調があるのでブーム感は比較的感じられますが、タイトな低域ではなく、比較的ゆったりとしています。ドラムキックは重みがしっかりしているので、わりとはっきり聞こえますが、ベースはやや幅広で輪郭は緩く聞こえるところがあります。重厚感は一定程度ありますが、低域の傾斜は緩やかなので、重厚さが強い感じはありません。
中域(原音忠実度:B+/厚み:B/明るさ:B/硬さ:B/存在感:B+)
中域は低域から滑らかにつながっていますが、わずかに分離感があり、前進的に聞こえます。高域とはかなり分離的です。
ボーカルは一般に最前列に近く聞こえます。サウンドはくっきり解像され、色づきは悪くありませんが、エッジが丸く聞こえる感じがあり、音の解像感は輪郭が少し緩く思える可能性があります。ピアノ音はマイルドで、スネアやタムもパワフルですが、スナッピーさに欠け、いまいちキレが足りないと思うかもしれません。全体的に少し優しくゆったりとしており、温和な雰囲気があって、中域は響きに余裕が感じられます。ボーカルはハキハキした感じが少し抑えられているため、ニュアンスが足りなく思うかもしれませんが、ふっくらして甘い声色で聞こえます。少し成熟した声に聞こえやすいです。
高域(原音忠実度:C+/艶やかさ:B-/鋭さ:B-/脆さ:B-/荒さ:C/繊細さ:C+/存在感:C+)
高域はマイクロディテールがやや強めに強調されますが、ギラつき感は強くないので歯切れは穏やかで、アグレッシブさは強くありません。
高域は中高域は少しおとなしく、バイオリンや金管の音は派手さが少し抑えられ、やや薄味に聞こえます。中域が強調されるので、少しみずみずしく、透明感がある聞こえ方になりますが、木管の響きは少し力なくハリが足りない印象を受けます。全体的に芯が柔らかい、嫋やかな物腰の音に聞こえやすく、マイルドで優雅、少し上品に思えますが、キレ味に欠ける印象を受けやすいのも事実です。聞き疲れすることはない高域ですが、エネルギッシュさに欠けるところがあります。
グルーヴ/音場/クリア感(グルーヴの中心:中域~中高域/音場:B+/クリア感:B-)
※一般にグルーヴの最も大きいところが最も活き活きと聞こえるので、音楽の中心になります。グルーヴの中心範囲の大きさは変動的です。グルーヴの中心は個人の音楽の好みを決定し、音響機器選択のヒントになります。音響機器のグルーヴの中心が個人の好みと離れている場合、むしろその不自然さが強調され、その音響機器を楽しくないと感じる可能性が高いです。音場の評価はBが自然な広さです。クリア感の評価は全高調波歪の測定値を参照して決めています。
このイヤホンのグルーヴの中心は一般に中域~中高域に存在すると思われます。
音場は奥行き感が少し強調されます。幅は少し広く、高さは普通か、もしかするとボーカルが高い位置で聞こえるところがあるので、印象的には天井が少し近いかもしれません。
音質総評(原音忠実度:B-/おすすめ度:B+/個人的な好み:A)
中域が非常に印象的に聞こえるイヤホンですが、エッジ感にシャープさがいまいち足りない感じがあるので、手がかりがしっかりしていない感じがあるのが難しいところです。人によっては音の輪郭が少しぼけた感じに聞こえる印象があるかもしれません。また金管などは少し肺活量が足りない感じで、音のハリがいまいちで華やかさに欠け、音の抜けが弱々しく思えるかもしれません。どうしてもアグレッシブさに不足が出やすいイヤホンです。
静寂感があり、中域の透明感がきれいに出る感じは好みですし、低域に不足感がなく、音楽全体の安定感にも優れているところも個人的には親しみが持てます。音がマイルドでとろみのようなものが感じられるのも、嫌いではありません。
音質的な特徴
美点
- 嫋やかで豊饒な中域
- マイルドでスムーズなサウンド
- ウォームで聴き心地が安定している
- くっきりして透明度の高い中域
- ボーカルが甘く豊満
- 中域への適切なフォーカス
- 色気の感じられるサウンド
- ゆったりしたサウンド
- 中域に調和的な高域
- 柔らかく、耳当たりの良いサウンド
欠点
- ボーカルニュアンスに欠ける
- エッジ感が足りない
- 高域がおとなしすぎる可能性
音楽鑑賞
FLOW「World End」
中域の色づきは良く、低域にライブ感もあるので、このイヤホンの表現にはわりと説得力を感じます。ボーカルフォーカスは良く、しっかりと太く確かな濃厚感とともに聞こえるので、ボリューム感は十分です。ただ語尾があまり勢いよく伸びていかないので、何となく尻すぼみな感じがあり、ギターエッジもややゆるやかに聞こえるのでハングリーさに欠ける感じがあります。全体的にゆったりとしていて、どこか優雅なサウンドになっています。聞き心地はいいですし、歌詞に反して優しさで癒してくれるようなところがありますが、やはりいまいちキレがない感じが物足りません。アタック不足に思えます。
鈴木みのり「心が、青い。」
ハキハキせずに、嫋やかにゆるく抜けていくボーカルの雰囲気は、この曲に合ってそうです。アコースティックギターも少しエッジがぼんやりしていて、どことなくノスタルジックな穏やかな聴かせ方で、ピアノも角が丸く甘みのある暖かなメロウサウンドになっています。音楽が全体的に調和的でややレトロに聞こえる感じが、この曲の甘味をとてもうまく引き出してくれます。
ヨルシカ「風を食む」
中域に透明感があり、ボーカルが少し優しく、ニュアンスを強調せずにふっくらしている感じは、ハミングのように軽やかなこの曲の表現と相性が良いように思えます。音量を上げてもボーカルにささくれ立つような感じはなく、どこまでも滑らかに聞こえます。全体的に温かみがあり、調和的で、派手さが抑えられていて、どこか素朴に聞こえるサウンドはこの曲の雰囲気に合っています。
レコーディングシグネチャー
レコーディングシグネチャーの基本的な原理、楽しみ方については以下を参考にして下さい。
参考用にレコーディングシグネチャーを掲載します。ソースはFiiO M15を用いています。使用イヤーピースは標準イヤーピース(バランス)のSサイズです。ゲインは低設定です。
レコーディングシグネチャーで使用している楽曲は私も大好きなゲームメーカー日本ファルコム様のものを使用させて頂いております。
録音機材
- SAMREC HATS Type2500RSシステム:HEAD & TORSO、Type4172マイクX2搭載
- 5055Prot 実時間2ch 自由音場補正フィルター(特注)
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- レコーディングソフト:Audacity
GENS D'ARMES(ロック系)
GENS D'ARMES / イースVIII -Lacrimosa of DANA- オリジナルサウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
白き魔女(クラシック系)
第3部「白き魔女」: 白き魔女 / 交響曲「ガガーブトリロジー」 ~白き魔女~朱紅い雫~海の檻歌~ / Copyright © Nihon Falcom Corporation
The Silver Will -ギンノイシ-(EDM系)
The Silver Will -ギンノイシ- / 空の軌跡ざんまい / Copyright © Nihon Falcom Corporation
Sophisticated Fight(JAZZ系)
Sophisticated Fight / 英雄伝説 空の軌跡FC&SC スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
浮遊大陸アルジェス -Introduction-(OST系)
浮遊大陸アルジェス -Introduction- / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
総評
BGVP DM8は滑らかで安定的、温和でウォームなサウンドで、中域を丁寧に聴かせるイヤホンです。その甘くふっくらとした、ニュアンスの柔らかい調和的なボーカル表現はどこか懐かしく、メロウでノスタルジックな雰囲気があります。マイルドで耳当たりが良く、音量を上げても荒れるところのないイヤホンです。ビルドクオリティやパッケージクオリティも価格の標準以上のため、この価格帯で音楽的な中域を持つイヤホンを探している人の最適解になりえます。
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