- 「リケーブルで音が変わる」は基本的にオカルトです
- リケーブルなど比較にならない効果をもたらす装着感
- まずは装着感の違いが音質に与える影響を実際に聴いてみましょう
- 装着感というのは大抵のイヤホンですぐズレる、時間経過でも
- 大事なのはイヤーピース、ケーブルなんて後回しでいい
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「リケーブルで音が変わる」は基本的にオカルトです
先日のレビューで実例を出して解説しましたが、基本的に「リケーブルで音が変わる」というのは迷信です。付属ケーブルの質がそもそも悪い、スペックが極端などといったイヤホンパッケージの仕様によっては変わる可能性がないわけではありませんが、まともに作られているイヤホンで、一般的なポータブルオーディオ環境で音を聴く前提に立つ限り、リケーブルによって音質変化を体感できることはほとんどありません。
しかし、世の中にはリケーブルに関する言説があふれており、実際に変化を体感したという主張がそこかしこで聞こえます。イヤホンのリケーブルによる音質変化を真顔でそれっぽく語る記事は、個人ブログだけでなく、大手オーディオメディアやメジャーなイヤホンメーカーのサイトにすらあるので、そんなもんなんだろうと思うかもしれません。
あなたもリケーブルして音が変わったと感じており、銀ケーブルにしたら高域が繊細になった、高級ケーブルにしたら情報量が増した、音場が広がったなんて体感をしたような実感があるかもしれません。でも待ってください。その変化、ほんとにリケーブルの効果ですか?
リケーブルなど比較にならない効果をもたらす装着感
毎日測定用生首の耳にイヤホンを突っ込んで、周波数特性を測定し、その後別の録音用生首に同じイヤホンを突っ込んで、音を実際に録音するということをしていると、普通に神経を使うようになることがあります。それは装着感です。
録音用生首でレコーディングシグネチャーを録る場合、装着感による誤差の少ない設計になっている測定用生首と異なって、装着感の影響がわりと露骨に出ます。そのため、測定グラフを参考にしながらリアルタイムで録音されている周波数特性を視認し、実際にモニターヘッドホンで音を確認しながら録音しています。
そうやって毎日録音していると自然と気づくことがあります。大抵のイヤホンで一定の装着感を保つのはわりと難しいということです。そして人間、わりと装着感に左右差があっても音楽を聴くのに気にならないだろうなということです。
まずは装着感の違いが音質に与える影響を実際に聴いてみましょう
以下の音源はBQEYZ KB1を録音用HATSに装着させて録音したものです。この録音でKB1の左耳側はほぼ適正な装着感で装着されていますが、右耳はかなり適正に近いものの、わずかに適正でなく、指で少しだけ調節すると、適正位置になる装着感で装着されています。この状態で右耳を指で調節して適正位置にしたり、少しだけずらしたりしたのが以下の音源です。
確認してもらえばわかりますが、わずかな装着感の変化ですが、周波数特性自体が変わるので、音場感を含め音の印象にかなりの変化があることがわかります。少なくとも下のケーブル違い(4芯銀線 vs 8芯銅線)の音源と違って、だれにでも音の変化がわかるでしょう。
※上の音源より音量が大きいので音を下げてください。
とはいえ、はじめの音源で装着感がずれている最初の状態がそんなに不自然に聞こえるかというと、わりとそうでもないでしょう。適正な装着位置に比べて音が軽いし、実際は聴き比べれば音場が傾いている印象を受けますが、すぐに変だとわかるかというと、ぶっちゃけそんなわからんのではないかと思います。そもそも適正な装着位置の音を知らない場合、適正な装着位置かどうかなんてわからないので、装着感がずれていても、そのイヤホンはそんな音なんだと思うかもしれません。
それに世の中には左右の個体差のあるイヤホンはわりと普通にありますし、人間の耳の側も普通は左右で形が違います。
装着感というのは大抵のイヤホンですぐズレる、時間経過でも
録音してると気づくのですが、大抵のイヤホンで装着感というのは実は音を鳴らしてるだけで自然とずれます。そのずれは実際上、大して大きくもないかなとも思いますが、私はリアルタイムで周波数を見ていてずれるとわりと気になるので、レコーディングシグネチャーは数曲ごとに装着感を調整しなおして収録しています。
一般の人の耳に左右差があるのはもちろん、使用状況によってユニバーサルタイプの大抵のイヤホンの装着感は普通にずれます。つまりイヤホンによっては音楽を長時間聞いてると音の印象が変わるということは普通にあります。そしてその変化はリケーブルより極端です。
大事なのはイヤーピース、ケーブルなんて後回しでいい
イヤホンの音質を丁寧に味わおうと思ったら、探すべきはまずイヤーピースで、装着感を追求しましょう。リケーブルによってあなたのイヤホンの解像度が上がったり音質が変化するかどうかはハイリスクローリターンのほとんど勝ち目のない賭けみたいなものですが、イヤーピースの変更の効果は確実に現れます。リケーブルによる変化がたとえあったとしても、それは装着感の変化で簡単にかき消されてしまうレベルです。
あなたが太い音を感じたいならやるべきことは、銅素材や太いケーブルを必死に探すことではなく、より密閉度の高いイヤーピースを探すことです。そして、繊細な音を感じたいならやるべきことは銀素材や細いケーブルを必死に探すことではなく、より通気性が良いイヤーピースを探すことです。
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