「フラッシュレビュー」はデータ中心の簡潔な内容で、ポイントを絞ってオーディオ製品を解説します。
今回取り上げる製品は廉価な価格で手に入るイヤホン用純銀ケーブルKBEAR KBX4904です。また比較用として同じブランドでほぼ同価格の単結晶銅ケーブルKBEAR KB4905も取り上げます。
audio-sound @ hatenaはこの機種を「audio-sound @ hatena Recommended」として、比較的多数の人にとって買って損がないオーディオ製品であると推奨します。
基本スペック
KBEAR KBX4904
- ケーブル長:約1.2m
- 材料:純銀
- 規格:4芯
KBEAR KBX4905
- ケーブル長:約1.2m
- 材料:UPOCC(UP単結晶銅)、 高純度の銀箔糸線の混合線
- 規格:8芯
パッケージ
パッケージングはこの価格帯では標準クラス以上です。本体のビルドクオリティも価格帯では標準以上でわりとしっかりしています。最近の1万円台~2万円台のイヤホンの付属ケーブルと比べてもいい勝負ができそうです。ケーブルのコーティングがしっかりしていて滑らかで取り回しが良く、絡まりづらいので、5000円以下のイヤホンに付属しているケーブルよりは確実に上質で、明確なランクアップが期待できます。
2万円以上のイヤホンの付属ケーブルと比べても、どこぞの自称プレミアムブランドの2020 Libertyとかいうイヤホンについてたケーブルよりはるかにまともでプレミアムです。あの取り回しの悪いチープなケーブルを付属させるくらいなら、このKBEARのケーブルを付属すればいいのにと本気で思います。
KBX4904
KBX4905
装着サンプル
KBX4904
KBX4905
音質
測定機材
- SAMURA HATS Type3500RHRシステム:HEAD & TORSO、左右S-Typeイヤーモデル(Type4565/4566:IEC60268-7準拠)
- AWA社製Type6162 711イヤーシミュレータ
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- アナライザソフト:TypeDSSF3-L
※イヤーシミュレーターの特性上、20hz以下と16khz以上の信頼性は高くありません。
周波数特性
使用イヤーピースはJVCスパイラルドット Sサイズです。
上から順に、
- [FiiO FH3 標準ケーブル]左右別
- [FiiO FH3 標準ケーブル]左右平均
- [FiiO FH3 標準ケーブル]左右別(自由音場補正済み)
- [FiiO FH3 標準ケーブル]左右平均(自由音場補正済み)
- [KBEAR KBX4904]左右別
- [KBEAR KBX4904]左右平均
- [KBEAR KBX4904]左右別(自由音場補正済み)
- [KBEAR KBX4904]左右平均(自由音場補正済み)
- [KBEAR KBX4905]左右別
- [KBEAR KBX4905]左右平均
- [KBEAR KBX4905]左右別(自由音場補正済み)
- [KBEAR KBX4905]左右平均(自由音場補正済み)
- ケーブル測定比較(自由音場補正済み)
※また当ブログの自由音場補正については機材に合わせてサザン音響さんから提供された補正値を使用しております。
さて、ケーブルによる周波数特性変化は可聴域のはるか外側の超々高域に存在していることが知られており、また聴覚心理学の実験では、可聴域の外側の超々高域音は音響のプロであっても聞き取ることは基本的に不可能であることが知られています。
基本的にケーブルの変化が音質に影響する効果の大きさについて、私は懐疑的ですが、今回は変化を捉えやすいよう、比較的高域で細かなピークがあり、測定時の左右差が少なく、mmcxで固定がしっかりしており、装着感が良好なので測定誤差が少ないうえ、ハイブリッド構成でインピーダンスにクロスオーバーの影響が出やすいと思われるので、ケーブル抵抗値の変化が捉えやすいことが期待される、FiiO FH3でテストしました。
結論から言えば、周波数測定値にはこれといった変化が確認されないので、ケーブルの変更による音質変化は、今回使用したFiiO FH3ではほとんど体感できなさそうな気がします。少なくともFiiO FH3に関する限り、装着感の違いのほうが音質に与える影響が大きいと考えられるので、音質の改善や変化を期待するならば、イヤーピースの変更を検討した方がはるかに合理的でコスパもよいでしょう。
私の聴感上の印象としてはKBEAR KBX4904を使用するとわずかに高域がすっきりする気がしますが、はっきりとわかる感じではなく、むしろ変化がないといったほうが適当に思えます。個人的な見解としては、基本的にイヤホン用のリケーブル製品というのは、材質が音質に対して何かしらの効果を与えることを期待して購入するようなものではありません。バランス接続したい、タッチノイズを改善したい、取り回しをよくしたい、外観を美しくしたいなど、実用上の問題の解決のほうを優先して選んだほうが最終的には満足できる気がします。
そもそもリケーブル製品というのは本来オーディオ信号のロスや改変がないのが理想的なので、このKBEAR KBX4904/KBX4905のどちらも品質は素晴らしく、少なくともFiiO FH3では安心して使える素晴らしいケーブルだということがわかります。
リケーブルでよくある俗説については以前こちらの記事にまとめましたので、参考にしたい場合はお読みください。
クロストーク
ケーブルにクロストークがあるとステレオイメージが崩れるので音場感に影響が出ることが想定できます。実際のところ、レコーディングシグネチャーを確認していただければ音場感に目に見えた変化はないことが確認できると思いますが、クロストークも測定しました。
ケーブルには左側コネクタのみにFiiO FH3を取り付け、信号レベルを-20dB@1kHzになるよう調整します。
その状態で左側イヤホンからの出力レベルを0にし、右側信号からのクロストークが発生するか確認します。
まずFiiO FH3の標準ケーブルですが、環境ノイズは確認できますが、1kHzのクロストークはほぼ確認できません。
同様にKBEAR KBX4904ですが、クロストークはほぼないようです。
KBEAR KBX4905にはわずかにクロストークが確認できますが、かなり低水準で事実上無視できます。
私の測定では、KBEAR KBX4904/KBX4905を使用することでFiiO FH3の音場感に体感できるほどの大きな変化が現れることはないので安心して交換できるということは言える気がします。
レコーディングシグネチャー
レコーディングシグネチャーの基本的な原理、楽しみ方については以下を参考にして下さい。
参考用にレコーディングシグネチャーを掲載します。ソースはFiiO M15を用いています。ゲインは高設定です。イヤホンはFiiO FH3を使用しています。
レコーディングシグネチャーで使用している楽曲は私も大好きなゲームメーカー日本ファルコム様のものを使用させて頂いております。
録音機材
- SAMREC HATS Type2500RSシステム:HEAD & TORSO、Type4172マイクX2搭載
- 5055Prot 実時間2ch 自由音場補正フィルター(特注)
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- レコーディングソフト:Audacity
GENS D'ARMES(ロック系)
GENS D'ARMES / イースVIII -Lacrimosa of DANA- オリジナルサウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
小さな英雄(クラシック系)
第3部「白き魔女」: 小さな英雄 / 交響曲「ガガーブトリロジー」 ~白き魔女~朱紅い雫~海の檻歌~ / Copyright © Nihon Falcom Corporation
ケノーピ火山(JAZZ系)
ケノーピ火山 / 「Zwei!!」 スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
浮遊大陸アルジェス -Introduction-(OST系)
浮遊大陸アルジェス -Introduction- / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
総評
恥ずかしながら、イヤホンやリケーブル製品を大量に買っているのに、私にはリケーブルの音質上の効果なるものが何なのか、率直に言って、いまだによくわからないので、KBEAR KBX4904/KBX4905の音質について語るべき言葉は特にありません。少なくとも一般的なポータブルオーディオ環境において、イヤホンのリケーブルが体感できるほどの「物理的な」音質上の効果を発揮するのかについては疑問です。
KBEAR KBX4904/KBX4905の品質は価格の割には高いと思われるので、少なくともこのケーブルに変えたことによってあなたのイヤホンが台無しになるという可能性はかなり低いような気がします。持っているイヤホンのケーブルがチープな品質だと感じたら、これを買うことで簡単にアップグレードできるはずです。バランス接続用のケーブルとしても十分信頼性が期待できるのではないでしょうか。
デザインに関していえば、この2つのリケーブル製品は取り回しが良く、コネクタのビルドクオリティも良好で、価格以上の価値が感じられ、わりと満足できるでしょう。
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