Geek Wold GK10 有線イヤフォン5ハイブリッドドライバーIEMイヤフォンHiFiインイヤーモニター1BA + 2DD +2ピエゾユニットオーディオファン
今世界中のイヤホンマニアが最も熱狂しているイヤホンは何ですか?それはGeek Wold GK10です。
GK10はHead-fiで$200クラスに匹敵し、$100以下では敵なしとまで断言するレビューによって一気に注目を集め、今年最大規模の「お祭り騒ぎ」を巻き起こしています。
多くのレビュアーを巻き込み、その真価について今なお議論が続いています。
しかし、実際のところ、Geek Wold GK10についてはその弱点はすでに明らかになっており、周波数特性を確認した賢明なレビュアーとオーディオマニアは、それがHype(ごまかし、誇大広告)であることを見抜いています。
ですが、このことはGeek Wold GK10が$200クラスに値するという実感に基づいた当初の報告が、虚偽であったり誇大であったというわけではないですし、それは実際に、私の予想では、大多数の人にとって、$200クラスの多くのイヤホンに匹敵し凌駕する良質なイヤホンである可能性が高いです(しかし、私の採点表はそれを$100以下で飛び抜けて優れているなんて決して書きません)。
この記事では、Geek Wold GK10を良質なサウンドとする人の心理と聴感に迫ってみましょう。その解決の糸口は争点となっている低域にあります。
低域の神秘
オーディオファンにとって低域は最も難解な世界の一つです。
そこは重低域(概ね63Hz以下)・低域(概ね63Hz以上100Hz~125Hz以下)・中低域(概ね100Hz~125Hz以上250~300Hz以下)と分かれています。
重低域
重低域はベースヘッド(低域ジャンキー、低域好き、低域マニア)の領域です。ここはランブル(Rumble)とサンプ(Thump)が存在する世界で、音楽の「鼓動」が生み出される場所です。本当のサンプやランブルは音楽を躍動的に感じさせる打撃力を生み出し、耳の中でドクンドクンとイヤホンが振動するような鳴動感を作り出し、高いグルーヴ感をもたらします。
ベースヘッドにとってこのサンプとランブルの存在感の大きさこそが真の音楽の証ですが、ベースヘッド以外の一般人にとって、このサンプとランブルは音像を揺さぶるノイズのように聞こえます。
もう一つ、重低域には床、地面(Ground)があります。これは臨場感に関わります。ベースヘッドではない人でも臨場感を重視する人もいます。生々しい音を求めるベースヘッドには必須の領域です。
低域
一般人の世界へようこそ。ここには音楽の底、基盤(Bottom)が存在しています。ベースヘッド以外の一般人にとって、重低域領域はノイズでしかありません。あなたがベースヘッドかベースヘッドでないかを判別する簡単な方法は、重低域が低域より持ち上がっている音を聴いたときに、音楽を心地よく感じるかどうかです。
実例を上げましょう。下はUGREEN Hitune X5のオーディオステータス*1です。左から4番目のBottomを確認してください。このイヤホンはBottomが全体の中で高い位置にあり、さらにその隣のGround、Rumble、Thumpが高い位置にありますね?こういうイヤホンはベースヘッド向きであり、一般人が聴くと音楽が揺さぶられているように思えてノイズを感じますが、ベースヘッドには必須の臨場感を生み出すことができるイヤホンです*2。
次にSoundPEATS T2のANCモードを見てみます。これはすごいですね。Bottomの先が更に伸びています。低域ジャンキーにとって至福の製品であることがわかります。基本的にベースヘッドはランブルとサンプのことしか考えてません。なぜなら他の要素は音楽にとって「お飾り」だからです。
下はJPRiDE TWS-5 ANCのオーディオステータスです。重低域が貧弱ですが、Bottomは十分にあり、全体の中でも高い位置にいることがわかります。この低域は一般人向けです。ベースヘッドはこの低域を軽蔑するでしょう。
中低域
今回の核心部分です。中低域から中域下部は、音楽の力強さと聴き心地に作用します。このあたりの成分が多いほど、人は音楽が太く、パンチが感じられ、量感と温かみがあり、懐が深く調和的な印象を受ける傾向があります。つまり、より音楽的に感じることがあります。しかし、この領域は同時に籠もりにもつながりやすく、音楽の正確な表現を求めるオーディオマニアほど、適正量に敏感である領域です。
いよいよGeek Wold GK10のオーディオステータスを確認してみましょう。ブーム感(Boom)と暖かさ(Warmth)を確認してください。全体の中でかなり高いですよね?GK10を測定した多くのオーディオマニアがGK10がHypeであると判断した理由はこれです。
一般に、BoomやWarmthが高い音は心地よく聞こえますが、それは中域を強く濁らせ、曖昧にするので、熟練したオーディオマニアは中域のイメージングに悪影響を与えることを知っています。この領域は音楽のエネルギーに関わりますが、ここが全体の中で大きな存在感を示すと、音楽は膨張して聞こえ、飽和します。それは音楽の心臓部である中域を窮屈にする最大の原因の一つです。
たとえば、GK10のサウンドはボーカルの下半分にもやもやした部分があり、湯気で隠れているように聞こえます。その下のBottomの見通しも悪いので、低域のリズム感があいまいに聞こえ、音楽の底辺が安定していません。つまり、中域から下がぼんやりしていて、浅く聞こえるのです。音楽の過渡応答も悪く感じ、立体感がぼやけるように感じられます。中域が膨らんでいるように感じられ、お湯に浸かっているようなサウンドに聞こえます。
しかし、その曖昧さはそれを心地よいと感じる人も多いです*3し、とくにミキシングに詳しくないリスナーは「どろどろした」サウンドについて、それほど敏感ではありません*4。
問題を理解するために試してみることは簡単です。EQで500Hzを-2dBほど、250Hzを-9dBほど、125Hzを-7dBほどカットしてみましょう。それまでGK10が聞かせていたサウンドがいかにファットであったか理解するはずです。隠れていたものが聞こえてきましたか?ボーカルが靄の中からはっきり出てきたでしょ?あなたはそれをボーカルが湯船から出てきたように感じるかもしれません。
なぜオーディオマニアが中低域にこだわり、中低域が膨張しているサウンドを低く評価するかはだいたい理解したと思いますが、だからといって、ファットなサウンドに感じる心地よさが偽物だと言っているわけではありません。むしろ疲労感が溜まっている時には、その暖かくぼんやりした感じが快適であることさえあります。その表現は正確とは言えないということだけ理解すればいいのです。GK10の音を愛していることは、あなたがガチガチのオーディオマニアではなく、むしろ常識的でまともである証拠とさえ言えます。GK10が他のイヤホンでは味わえない、音楽を楽しむのに快適な何かを提供していることは事実だと言える側面があるのですから。
GK10のサウンドについて言えることは、普段DTMをやっている人や、より音楽の質感や立体感を重視する人にとって、GK10の表現は我慢できないほどひどい音に聞こえている可能性があるということ、それはボーカルをあいまいに聞かせているということ、そしてベースヘッドはこの低域には満足しないということです。私にはGK10のランブルは本物のランブルの残り滓のような倍音が響いているだけで、芯のない、本物らしさに欠ける鳴動に聞こえます。
犠牲にされているものを理解した上で、GK10の心地よく、バランス感覚の良いサウンドを褒め称えることに、誰も異議をさし挟むことはないでしょう。あなたにとってそれが$200以上のサウンドに聞こえる、そのことは間違いではありません。
Geek Wold GK10についてのレビュー
有料レビューはこちら。
私の無料レビューはまだ執筆途中ですが、Crinがかなり適切なインプレッションを提供しています。
この記事の続き
おまけ:Crinの記事についたコメントが的確すぎてワロタw
なぜ(あなたも含めて)多くの人がバーンイン(エイジング)を信じているのか、不思議です。つまり、事実ではないことを証明する科学的なテスト(周波数測定グラフ、録音、ブラインドテストなど)はありますが、存在することを証明した実験は(少なくとも今日まで)ありません。
バーンインは、ドライバーの問題ではなく、あなたの耳が、イヤホンのサウンドシグネチャーに徐々に適応していくことです。
この主張は科学的にも証明されています。人間の感覚はすべて環境に順応するもので、目は照明のない部屋にしばらくいると真っ暗な中でもかすかに物が見えるようになり、鼻はその環境に一定時間いると嫌な臭いを「排除」できるようになり、食べ物を大量に食べても辛いとは思わなくなる...。
バーンインは存在しますが、それは音響ドライバーではなく、あなた自身の耳と心で起こることです。ですから、この周波数特性のグラフは、どれだけバーンインしても変わりません。むしろ、かなり平均的な$50のIEMを長期間聴いたことで、低音が浮いたIEF-Neutralサウンドから、ニュートラルサウンドについて新しい知見を得たかもしれません。しかし、Crinがドライバーのバーンインを信じていないからといって、Crinのレビュー(または他の人のレビュー)が信頼できないとは言わないでください。耳の錯覚に粉飾されることなく、オーディオの背後にある実際の科学を読みに行きましょう。
さて、エイジングについては以下にまとめています。
【関連記事】
*1:オーディオステータスはそのイヤホンの自由音場補正済み周波数特性から導き出された各要素の模式図で、原音(録音)忠実性を重視するリスナーのための指標です。
*2:奇妙なことに思うかもしれませんが、より高齢の成熟したリスナーほどいずれ重低域を嫌うようになります。つまりベースヘッドはその大多数が若いリスナーです。彼らの大半は年齢による聴覚の変化で50歳になるまでには概ねベースヘッドを卒業します。これはとくに10kHz以上の聴覚上の減衰が関わっています。また40万積の法則を思い出す人もいるでしょう。この法則が正しいとして、その意味するところに従えば、高域の聴覚の衰えは音楽を美しく聴くために、低域に同様の衰えを求めますが、人間の聴覚は加齢によって高域ほど低域は衰えません。
*3:私も実際にはそう感じます。それに、お風呂に入っていると気持ちよくありませんか?
*4:ミキシングエンジニアが中低域に敏感なのは彼らがそのように訓練されているからであり、イヤホンをたくさん聞いてきたオーディオマニアがここに敏感なのも経験によるものです。