エイジングは心理的な現象だということを正しく理解する
このブログを読んでいる人はわかるでしょうが、私は基本的にイヤホンのエイジングの物理的効果否定論者です。とくに低品質の中華イヤホンメーカーが物理的エイジングを強調している現況で、それを真に受けている人には声を大にして言いたいですが、イヤホンの振動板に物理的エイジング効果は無視して良いほどほとんどなく、もし時間経過によって音質が馴染んだと感じたなら、それは脳科学的にそのイヤホンに音慣れしたに過ぎません。彼らは返品率を下げるために物理的エイジングという迷信を利用しているに過ぎず、彼ら自身がそれを立証しようともしていません。
脳の音慣れはどんな音響機器に対しても起こるので、それをイヤホンの特性変化のせいだと勘違いしているのがいわゆる物理的エイジング論ですが、一流メーカーのサウンドエンジニアはこの物理的エイジングについてはほぼ明確に否定しています。ここらへんの事情については以前お話ししました。
というわけで、私はエイジングをほぼ純粋にリスナー自身の内的な変化と捉えているわけですが、それに立脚すれば世に溢れるエイジング手法の中から、真に効果のある正しい手法を選び出すことが出来ます。
エイジングを心理現象だと捉えれば、たとえば、ピンクノイズを一定時間以上出せとか、新品は耳で音楽を聴く前に、慣らし運転をして振動板を成熟させろとかいうのがほとんど意味がないことはわかります。むしろ心理的エイジング効果を高めるためには、積極的に音楽を聴きましょう。
物理的エイジングをいまだに主張する人は、音源の音が偏ってはいけないとか、ノイズ音の方が振動板を均等に馴らすことができるとか意味不明なことを言うでしょうが、そんなのは無視しましょう。リスナーが自分でイヤホンを長時間聴かなければエイジング効果は出てきません。
私が以前体験した実例からわかる教訓
実例を示しましょう。私は以前、KZ ZS10とかいう機種を買い、最初聴いたときあまりにひどい音だったので、メーカーの指定通りプレイリストを鳴らして200時間以上エイジングしました。その間私はZS10の音なんて一切聴いていませんでしたが、200時間後に聴いた音はまたどうしようもなくひどくてこのイヤホンは使い物にならんという印象を受けました。
しかしネット上での評判が良いこともあるので、使っていればそのうち変わるかもと思って、今度は無理にエイジングなどせず、ときどき音を聴いて使うという使い方を1ヶ月間続けました。その結果、脳における音慣れ効果がしっかり出たのか、だいぶ聴き心地は改善されました。
このあたりは新旧のレビュー記事で変化を記録しています。
最初のレビュー記事で物理的エイジングを200時間しているわけですが、記事にあるようにそれでは効果を感じませんでした。音を聴いて脳を馴らす心理的エイジングを施した2回目のレビューでは印象が段違いになっています。
今となっては物理的エイジングと心理的エイジングを峻別できているので、理由はわかるのですが、この結果の違いは当時しばらく引っかかっていて、私はエイジングって何だろって真剣に考え、まずエイジング関係の信頼できそうなネット記事や論文、一流オーディオメーカーの見解などを収集し、さらにいろいろ音響心理学の本を読んだ結果、おそらくエイジングは内的な心理現象であろうという結論に達しました。
世の中にはエイジング用CDだとかエイジング用マシンなんてのも売っていたりしますが、そんなのは効果が無いので買う必要はありません。エイジングの正しい方法、それは新品のイヤホンを一定時間そのまま聞き続けることです。仮に物理的エイジングにわずかな効果があったとしても、これによって物理的エイジングも自然に達成されますから問題ありません。聴かずに長時間ピンクノイズとか流すのが一番無駄で馬鹿らしい行動なので今すぐ止めましょう。
以下に私の知見に基づいた、正しいエイジング方法を紹介いたします。
【私が提唱する正しいエイジング方法】
- 一番大事なことはエイジングを信じることです。聞き続けていれば、脳が音慣れして聞こえが改善されるということに自信を持ち、信頼してください。必ず効果が表れます。万が一、効果が表れない場合はそのイヤホンはあなたに合わないイヤホンですから、エイジングに効果がなかったわけではないと考えましょう。
- 聴いてもいないのにイヤホンにピンクノイズを流しつつづけるとか無駄なことはやめましょう。自分で音を聴かないとエイジングに効果はほとんど出てきません。もちろんこれらの儀式に効果があると思っている人は宗派は違いますが信仰心が強いので、プラシーボ効果で音質改善を感じているのでしょうが、正しい心理的エイジング信者には効果が望めないのでやめましょう。正しい信仰を持ち、正しい儀式を行うことが大事です。
- 新品のイヤホンを開けて、片っ端から好きな曲を聴き続けましょう。1週間程度はそのイヤホンだけを使い続けることが大事です。もし1週間経ってエイジング効果を感じないか、その音がまだ気に入らないままだったら、そのイヤホンはあなたに合わない製品なので、返品しましょう。amazonの通販で音質が合わないといって返品しようとすると、中華の販売者はメールで「エイジングが足りないんじゃないですか?当社のイヤホンは200時間のエージング推奨です」とか頭の悪いメッセージを送ってくるかも知れませんが、無視して返品しましょう。彼らの主張に科学的根拠はありません。
- 1週間聞き続けたころには充分にエイジングが完了しているはずです。だいぶそのイヤホンを聴きやすくなっているはずで、篭もりも減り、解像度感も心持ち増し、音像も以前より耳に馴染む音になっているはずですが、それでも気に入らない音の場合はそのイヤホンは結局あなたに合わないイヤホンなので、それ以上エイジングするのを諦めて返品期間が残っているうちに返品しましょう。どちらにせよそれ以上エイジングしても音は大してよくなりません。
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