現在日本で発売されている完全ワイヤレスイヤホンは多数あります。昨年(この記事の執筆時からの話なので、2017年になります)までは中華製の泡沫製品を除けば数えるほどしかなくて、それほど迷う必要の無かった完全ワイヤレスイヤホンですが、今年(2018年)に入って相次いで有名メーカーが実力派機種を発売、群雄割拠の様相を呈してきました。当ブログでもいろいろ紹介してきましたが、今回取り上げる機種はその中でもとくに人気が高く、数々の批評で高評価を勝ち取り、実力も折り紙付きの2機種です。
その2機種とは、 Jabra Elite Active 65t と BOSE SoundSport Free。
Jabraは北欧デンマークのメーカーで日本ではあまりピンとこない人も多いかも知れませんが、世界的にはアメリカを中心に人気のブランドです。そのJabraは有名オーディオメーカーとしては比較的多く、スポーツ向けのワイヤレスイヤホンをいろいろ発売していますが、完全ワイヤレスモデルとしては、メーカーフラッグシップと位置づけられている Jabra Elite Sport に次ぐ機種が Jabra Elite Active 65t です。実はElite Sportも評価は高いのですが、Elite Active 65t のほうが新しく、スペック上もいろいろと勝っているところがあるので、批評家・ユーザーの評価ともに Jabra Elite Active 65t のほうが良いです。
もう一方のアメリカを代表するオーディオブランド、BOSEについては語るまでもないでしょう。家電量販店でも専門コーナーが構えられていることが多く、製品を目にする機会は多いはずです。その完全ワイヤレスイヤホン BOSE SoundSport FreeはいかにもBOSEという重厚火力を誇る低域の量感が魅力で、日本でも高い人気を誇っています。
アメリカでは完全ワイヤレスのスポーツイヤホンではこの2機種が人気を二分しており、それぞれイヤホンとしての音質もさることながら、付属アプリも含めたガジェットとしての使い勝手の良さが好まれています。
日本でも、モノ雑誌がちょうど年末恒例の今年のベストバイみたいな特集をやっていて、完全ワイヤレス部門では「家電批評」がBOSE SoundSport Freeに肩入れし、反対に「GoodsPress」はJabra Elite Active 65tの弟分、Jabra Elite 65tを推してました。「MONOQLO」の推しはHavit G1だったかな。それぞれの購読層とコスパに対するスタンスの違いもわかるようなチョイスで、各々の個性が出てます。わかりやすい。そしてかなりのスピード感で製品を投入していながら、品質安定感の面でもたついたSONYの、賞レースに乗り遅れた感がどことなく出ている気もするとかしないとか。これらのモノ雑誌は全部Kindle Unlimitedやdマガジンで読み放題だよ!←宣伝
どうでもいいけど、「家電批評」よく読んだら、私の大好きなWestone W40名指しでディスられてました。ひでぇ。曰く、「音楽の楽しさが少ししか伝わらない」んですって。おそらくこの結論にいたるまで何かしらあるんだろうけど、いきなりこういう書き方されると死にたくなりますね。率直に言って、モノ雑誌のこういう意見を押しつけてくるところが嫌い。「この音が嫌いだ」とか「このイヤホンの嫌いなところ、悪いところはここだ」というのならわかります。「音楽の楽しさが少ししか伝わらない」という言い方には、そもそも語るべき大事なところ(「音楽の楽しさ」とは何か)が抜け落ちていて空疎だし、内容は空っぽなくせして、その音が好きな人の人格や誇りを幾分汚す言葉で、ひどくエグい。いや、これは他山の石。製品だけを見ていると忘れがちなことですが、私もレビューでこういう無価値で品がなく、自分と違う楽しみを持っている誰かを傷つけるだけの「音楽の楽しさが少ししか伝わらない」というような陳腐な言い方をしないよう、よく気をつけなければいけないですね。
閑話休題。私はBOSE SoundSport Freeについては以前からよく使っていてレビューも掲載致しましたが、今回サイバーマンデーのタイムセールで念願の Jabra Elite Active 65t を手に入れました。そこで今回BOSE SoundSport Freeと比較し、両者の使い勝手や音質の違いを紹介して、皆様の役に立ててくださればと思い、特集記事として執筆致しました。この記事の執筆時点では、まだ Jabra Elite Active 65tの個別レビュー記事は執筆しておりません(下位機種の Jabra Elite 65t についてはレビューしています)。
【比較ポイントその1】装着感
まず製品装着時のフィット感について比較してみます。これについては率直に言ってJabra Elite Active 65t のほうが優れています。BOSE SoundSport Free には重心が外向きで、着け心地に重いところがあり、よくイヤーピースを選ばないと歩いているだけで外れてしまいそうです。それに対し、Jabra Elite Active 65t はフィット感に優れ、付け心地に安定感があります。
【比較ポイントその2】連携アプリと機能
それぞれスマホ・タブレット用の連携アプリがあります。Elite Active 65t には「Jabra Sound+」、Bose SoundSport Freeには「Bose Connect」が付属します。私はあまりスマホやタブレットで外出時に音楽を聴くことがなく、それらの機器で完全ワイヤレスイヤホンを使わないタイプですが、そういう人でも製品ファームウェアのアップデートに使いますので、とくに開封したての時はスマホにアプリを入れて一度は接続しましょう。
「Jabra Sound+」
アプリの比較ですが、どちらも完全ワイヤレスイヤホンの機能を高めてくれるところがありますが、設計思想に若干の違いがあります。まず「Jabra Sound+」は音質的な機能へのこだわりがあり、イコライザー機能や周辺音を取り込む「ヒアスルー機能」、通話マイクの品質を改善する機能などが使えます。スポーツモデルらしく運動管理機能も付いており、Apple HealthやGoogle Fitとデータ連係できます。このうち、各種レビューが多く賞賛している機能はマイク品質調整機能です。頻繁に通話機能を使う人には、かなりありがたく思えるでしょう。
欠点としては、私自身はあまり使ってないのでわかりませんが、まれに接続を勝手に切ってしまうなどの症状が出たりするそう。とくにHUAWEIのスマホと相性が悪いとか。ちなみに私はHUAWEIのタブレット「Huawei MediaPad M3 Lite 10 wp」を使ってアプリ接続しますが、今のところ切断される症状はありません。
まあ、そもそもMediaPad M3 Lite 10 wpはharman/kardonの立体音響スピーカーを搭載しているので、動画などはこちらで音を聞いた方がよほどよい。外出時はあまり動画を見ないので、日常的にはイヤホンをつないで使っておらず、もっぱらファームウェアアップデートのみの利用ですから、それくらいの使用頻度の私の感想など、参考にはならないでしょうが。
「Jabra Sound+」を動作させるためにはほかに「Jabra Service」という補助アプリが必要で、これは初回起動時にガイダンスに従えば自動的にインストールされると思いますが、アプリがこのように2つに分かれていてちょっと複雑なのが、もしかすると不具合を起こしやすい原因になるのかも知れません。こればっかりは実際のスマホ・タブレットとアプリの相性にもよるので、なんとも言いづらいところはありますが、相性が悪いと言われているHUAWEIのタブレットでも、私は問題なく使えているとだけお伝えします。
「BOSE Connect」
「Jabra Sound+」が名前のとおり音質面での機能を充実させた設計になっているとすれば、対照的なことに「BOSE Connect」のほうは、こちらも名前の通りイヤホンとの連携性を充実させた設計になっています。バッテリー残量表示や、イヤホン紛失時のGPS追跡機能、タイマーで接続を切断する機能、アプリ上でイヤホンを他の機器と接続させる機能といったものが搭載されています。
最終的にはどちらもあまり使ってないので正直なくてもいいくらいですが、個人的な感想を言えば、「Jabra Sound+」のほうが音質へのこだわりが感じられて、私好みです。あくまで個人的な感想ですが、「BOSE Connect」があって楽しいという話は聞きませんが、「Jabra Sound+」があって楽しいというレビューはそこそこ見ます。驚くほど便利というわけではないので、ここらへんは個人のライフスタイルに合わせて選ぶといいでしょう。
充電ケース
コンパクトで携行性が高いのはJabra Elite Active 65t のほうです。ただ蓋の開閉はBose SoundSport Freeがスムーズで取り出しも楽です。
連続再生時間
私の知っているフランスのAV機器レビュー専門サイトが正確に実測したデータを出しています。それによると、Jabra Elite Active 65t の下位機種Elite 65t はイヤホンの連続再生時間は一回の満充電あたり6時間27分とダントツ。Jabra Elite Active 65t は若干機能が多いので、もう少し短いでしょうが、仕様はほぼ変わらないので匹敵する性能であることは確かなはず。同じ条件でBose SoundSport Freeは5時間20分です。どちらも性能的には現状かなり長めの連続再生時間を誇ることは間違いありません。
防塵防水性能
Jabra Elite Active 65t はIP56の防塵防水性能、Bose SoundSport Freeは防塵は不明でIPX4の防水性能です。環境適応性ではJabra Elite Active 65t のほうが勝っています。
対応コーデック
どちらもSBC/AAC対応です。
通信品質
最終的には使用環境の違いもあるので一概には言えませんが、私の使用環境での通信安定性ではJabra Elite Active 65tが勝ります。Bose SoundSport Freeは接続する機器によってわずかながら遅延があり、動画では口パクするところがあります。あと通信遅延のせいか、曲をスキップするときに昔のカセットテープのようにキュルキュルする音が出たりブチブチした音を出したりします。
【比較ポイントその3】音質
私が一番取り上げたいのはここです。
さて、ここで一言断っておきますが、Jabra Elite Active 65t は、下位機種である Jabra Elite 65t と音質的な差はありません。私のようにスマホをあまり使わず、DAPから音楽を聴くようなタイプにはJabra Elite 65tのほうがライフスタイルに合い、廉価なのでお得感があるでしょう。以前の私もそのため Elite 65t のほうを買いました。「じゃあなんであんた、いまさらになってElite Active 65t 買ったのよ?」って話ですが、何でですかね?誰か教えてください。
と、冗談はともかく、Jabra Elite 65t に比べて防水性能が高かったり、加速度センサーがついてフィットネス機能が強化されていたりします。耳に当たる部分のコーティングも異なっていて、耳当たりが違います。Jabra Elite 65t も付け心地は良かったですが、さらに馴染みやすい穏やかな付け心地になっています。
やや回り道してしまいました。話を戻します。そういうわけで今回は課題曲をピックアップして、Jabra Elite Active 65t と Bose SoundSport Free の音質を比較します。
[課題曲]TVアニメ「宇宙よりも遠い場所」ED「ここから、ここから」
この曲については何度も語っているので、さすがに「またか」と呆れられても困るため、この曲の詳細については割愛します。詳しくはこちらを参照。
さて、両者の音質の違いですが、にわかJVC党らしく、JVC製品でたとえるなら、さながらJabra Elite Active 65t はHA-FD01のようにソリッド感のあるシャープサウンドであり(しかもHA-FD01が音質変更機構を備えているが如くにアプリにイコライザーを搭載している)、Bose SoundSport FreeはJVC HA-FX1100のような低域火力のある迫力サウンドであるということができます。はい、自分で言ってて、わかりづらい。なんのこっちゃ。
Jabra Elite Active 65tは刻みの良いシャープなエッジ感のある音で煌めき感や透明感に優れているのが特徴です。たとえばこの曲だとドラムはシャープでタンタンと明るい音、ハイハットもシャリシャリキラキラ、ピアノは光沢感強め、ギターも明るくどこか牧歌的といった具合。そうすると「ボーカルなんて結構シャリシャリ痛く出てくるんじゃないの?」と思うかも知れないけど、これがJabra Elite Active 65t のいいところで、たしかにシャープなエッジ感で息に尖る感じがありながら、瑞々しくてフレッシュに聞こえる。明るく楽しげな色合いを出しながら、それを誇張しすぎてちょっとくどすぎるところまではいかないバランス感覚があります。印象としては若々しく、どこまでも弾けて快活で、少しだけほろ苦さを感じさせるほどの情緒感は出す、そんなキラキラ青春サウンド。このイヤホンはいろんなレビューで演出過剰と釘を刺されてはいますが、それでも「気持ちいい!」って思わせる爽快さが魅力です。
一方、出だしからしてBose SoundSport Freeは違います。だいぶ柔らかめの入り方でドラムもおとなしく膨張感があり、ハイハットも湧き出るようにやわらかな音。ピアノは少し穏やかな、つややかな光沢感があり、ギターはややエッジに幅が合って暖色な肌触りがありながら色味はあくまでドライ。ボーカルは太く、あたたかで調和的にのびていきます。印象としては、Jabra Elite Active 65t に比べてしっとりした大人びた声色で、耳に優しい。まるで物語の先にある予定調和を知っているかのような安心感のある音です。沁み入る「味わい深さ」があります。
私の好みとしてはどちらかというとBose SoundSport Freeですが、一概にどちらが優れているという感じでもありません。たとえばJabra Elite Active 65tの音には明瞭で覚醒を促すところがあるので、朝起きてはっきりしない頭の焦点を合わせるのには最適です。出社や登校途中にスイッチを入れて、一日を最高のスタートで始めるには最高の相棒になってくれます。それに対して、Bose SoundSport Freeの感慨深く、パワフルだがゆったりした感じのある音響は、帰宅途中や帰宅後に音楽をくつろいで疲れを落とす時にふさわしいです。
スポーツ中のリスニングモデルとしては、これも音には好みがあるので一概に言えないところもありますが、覚醒感を促すJabra Elite Active 65tのフレッシュな音の方が合っているかも知れません。
【総評】
以上で今回のささやかな比較レビューを終わります。Jabra Elite Active 65tとBose SoundSport Freeはどちらも合理的な機能性を愛するアメリカ人の心を離さない魅力的な機種ですが、それぞれの音楽へのアプローチの仕方にはだいぶ差があります。この比較レビューで少しでもそれぞれのイメージを伝えられたのなら、幸いです。両方の使い勝手と音質を兼ね備えた機種があれば一番良いのですが、世の中そうはいかないわけで、それだけがもどかしいところ。