- 【1】装着感/遮音性/通信品質「軽量で耳によく嵌まる」
- 【2】外観・インターフェース・付属品「デザインはAZLAと同じようなハイブリッドデザインでおしゃれ。2pinリケーブル可能」
- 【3】音質「水面を思わせるディテールの良いドラムが波打つ鮮やかなベースラインと、浮かび上がるように明瞭に煌めく甘い女声ボーカルが魅力」
- 【4】官能性「ドラムの躍動感を感じつつ、深いベースラインが見えるディテールの高い低域と前面で妖艶なほどに魅惑する女声ボーカルがとにかくエモい」
- 【5】総評「1万円台前半で女声ボーカルを楽しむなら、まず聴いておいて損はない機種」
- 【6】1万円台の実力派機種との比較
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【1】装着感/遮音性/通信品質「軽量で耳によく嵌まる」
おすすめ度*1 |
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ASIN |
軽量プラスチックで良好な装着感を持っている。遮音性は高めで音漏れも少し。
【2】外観・インターフェース・付属品「デザインはAZLAと同じようなハイブリッドデザインでおしゃれ。2pinリケーブル可能」
付属品はイヤーピースの替え、キャリイングポーチ、説明書。ケーブルのタッチノイズはない。
フェイスプレートはAZLA系でよくある、金属のインナーハウジングをプラスチックで拡張したデザインで個人的には好み。
ちなみに後述するが、音質的にもこの価格帯のAZLA系とガチバトルしやすい。
このSIMGOTのIEMシリーズには「洛神」という名前が付けられているが、三國志ファンなら思わずニヤニヤしてしまうこと請け合い。洛神とは中国神話の伏羲の娘で、一般には黄河の神である河伯の妻とされる。三国時代魏の曹操の五男、陳思王曹植の「洛神賦」は三國志ファンなら、すぐに思い浮かぶ。
洛水に浮かび上がる女神の麗しい姿よろしく、波打つドラムサウンドと優美な女声ボーカル表現が最大の魅力だ。洛神賦は女神の姿態と容貌に至るまで詳細なディテールを語ってその艶美な様をふんだんに再現してみせるが、それに似たディテールの作り方をこのイヤホンに感じる。このSIMGOTはブランドイメージに中国古典を採用していて、文人的なセンスを感じ、個人的に非常に興味深い。下は顧愷之(真筆ではなく模写とされる)「洛神賦図」。
【3】音質「水面を思わせるディテールの良いドラムが波打つ鮮やかなベースラインと、浮かび上がるように明瞭に煌めく甘い女声ボーカルが魅力」
個人的にメイン購買帯になる1万円台の機種を究めたくて、ここ何回か重点的に1万円台の(個人的な)有力機種をレビューしてるけど、その中でも出色な機種の一つがこのSIMGOT EM2。
音響構成は1DDと1BAのハイブリッド。前回レビューしたIKKO OH1(これも1DD+1BAのハイブリッド)と同じように低域のディテール感と女声ボーカルの聴き応えに照準が当てられたサウンドを奏でるが、そのキャラクターは若干異なる。まず明らかに異なるのは低域。OH1は深掘りされるベースのほうが強いバランスで、中域の下よりもだいぶ前面に低域を出す味付けをしていたが、こちらはむしろドラムサウンドが活躍する中低域に重点が置かれている。そのためドラムのパワフルな鳴動が音場全体に波打つ躍動感を与えるところがあり、ロックでは中高域を押し上げるような元気な音を楽しめる。キックの叩き込みも良く、情感が乗る。
中高域ではやや密度感が高かったOH1と比べて、上の方の空間に背景の黒みが感じられ、そこに女声ボーカルやシンバル、電子音、管弦楽が鮮やかに浮かび上がる感じになる。その中でも女声ボーカルだけ浮き上がりが良いバランスになっており、地平線付近に集まる音の中で、頭一つ浮き上がって、あるいは頭一つ近くに聞こえてくるような浮揚感が感じられ、若干幻想感すら伴うほど艶めかしい。最近流行の「バンドリ」やら「ラブライブ」やらのガールズバンド系アニソンにはとくに強い印象。
上に示した「洛神賦図」で洛神が左側に艶めかしく浮かび上がる様子が描かれているが、ボーカル表現の浮揚感はまさにあんな感じで、暗い空間にそれだけがくっきり浮かび上がるような幻想的な印象を受ける。
[高音]:基本的には抜けが良いが、ガラス質の光沢感には強調があり、メリハリ感をだしながら抜ける。アクセントのキラキラ感を出しつつ、刺々しさは抑えているバランス。音の粒は明るい印象を受けるが、黒い背景を白化させないのでコントラストをかき乱さない(秦基博「水彩の月」、井口裕香「Hey World」、多田葵「灼け落ちない翼」でテスト)
[中音]:目立って凹む段差はなく、低域との連携はスムーズ。中域の上の方がわずかに出張ってきており、ピアノの光沢感や女声ボーカルは浮き上がって聞こえてくる傾向があり、弦楽やギターエッジもやや上方向にのびやかに感じるので、ディストーションが高域に向かって歪み、アコギはキラキラ系で少し浮かれた感じになることは確かだが、この機種の場合低域ドラムの引き締めが結構強いので、地平線に意識が向きやすく、根元はそれほど見えないが、音の組み立てで低域から分断されている感じはない。実際低域付近でもボーカルはやや遠くはなるが全く埋もれず明瞭。
[低音]:100hz~40hzくらいまで比較的平坦に減衰しているような振動を感じる。30hzで沈み、20hzでもわずかに振動を感じる。低域ではドラムの厚いボディと鳴動感、鼓面の弾けもバランスよく表現され、スパイシーさと重量感のバランスがよく非常に精彩を感じる一方、ベースギターの存在感も充分だが、ドラムの音圧でまれに寸断される場合がある。この点については官能性で詳しく述べる(分島花音「killy killy JOKER」、UVERWorld「CORE PRIDE」、重低音音源動画でテスト)
[解像度・立体感]:立体感的にはドンシャリ傾向になる。ドラムラインと女声ボーカルラインが最も浮き上がる感じになっており、そのため、何度か述べているように波打つ水面に女声ボーカルが浮揚しているような幻想感が感じられる。女声ボーカルもドラムラインに反響する波打つ揺らぎを感じさせるところがあり、上に伸びる場面では抑揚が丁寧に感じられる。バラード系楽曲ではこの抑揚を存分に味わえるだろう。
とくに女声ボーカル周りの調整はかなりギリギリの絶妙を攻めているところがあって、イコライザーでちょっとブーストする方向でいじるとすぐギャンギャンする。あくまで推測に過ぎないが、標準で充分な聴き応えを出すために中高域の女声ボーカル付近のチューニングはかなり丁寧になされた印象がある。さもなければ偶然に絶妙な配合になったんだろうか。
立体感的にはやや前面に出てくるボーカルの位置関係を考えるとやや前屈みで奥行き感はそれほどでもなく、左右も一定の幅は感じるが、ドラムやギターの端を捉えて聞いてみると、耳から離れないところにあるので、それほど広いわけでもない(petit milady「azurite」、分島花音「world's end, girl's londo」でテスト)
[パーカッション・リズム]:何度か繰り返しているが、パーカッション周りが個人的に好みなので、この点は高く評価したい。上の方でスパイシーに弾けながら厚みを感じさせるリアルな革張り感のある鼓面、ほどよく肉の詰まり感じさせる中空、下方向で感じられる量的にうるさすぎない確かな鳴動感と、ドラムの精彩はこの価格帯では最上位クラスと言っても良い。ハイハットは切っ先はあまり強調しないが、塩振りされている感じはあり、粒感は細かめ。ドライさはそれほど強調されない(東京カランコロン「スパイス」、nano.RIPE「ツマビクヒトリ」、JOY「アイオライト」でテスト)
[ボーカル傾向]:男声ボーカルも女声ボーカルにはしっかりした太さがあり、抑揚もかなりきれいに出てセクシーに聞こえる。「ツ」音やサ行の尖りはほとんどないが、唾や息感はかなり明瞭に感じられるのはこの抑揚の良さのおかげだろう。女声ボーカルはとくに抑揚と発色の妙味に優れ、時に幻想的に聞こえる。つまるところ好みの音というわけなんだけどね。男声ボーカルにドライさはないから、もう少し暗めでビターに聞きたいって人はいそうだし、息感に強調を入れてハスキーな方が良いって人もいるだろうから、そういう人向きではない、つややか系に属する声色であることは確かということだけは指摘したい。
【4】官能性「ドラムの躍動感を感じつつ、深いベースラインが見えるディテールの高い低域と前面で妖艶なほどに魅惑する女声ボーカルがとにかくエモい」
雨宮天「奏」
前回OH1のレビューでかなりべた褒めしたこの曲だけど、OH1とは別の意味でこのEM2の表現はエモい。
まず低域はOH1では深くじんわりと胸に響くベースギターの深掘りサウンドが素晴らしかったが、こちらはベースよりはドラムが主役。熱気のある輪郭感の確かな、ウォームなキックで情感をたたき込んでくる。アコースティックギターとピアノもつややかで、こちらはOH1よりは光沢を強調してよりキラキラ。女声ボーカルはちょっと甘味を出しつつ、少し明るく、コケティッシュさが出ている。OH1がもう少しじんわりと切々と情感を歌っていたとすれば、こちらは青春時代の輝きと脈打つ感動を上気した感じで聞かせる艶めかしさがある。
低域のリアリティという面ではより前面に出て迫力のあるOH1のほうが充実感があるかもしれないが、こちらは情感にメリハリと抑揚が聞いており、アコースティックギターの音色にもエロティシズムがあって妙に惹きつけられる。OH1の雨宮天にはじんわりと潤った情緒を感じたが、こちらはちょっとセクシーで、聴き込むと少しドキドキしちゃうくらいのバランス。
ClariS「irony」
元気のあるドラムサウンドと艶めかしい抑揚のあるボーカルを味わうなら、おすすめはこの曲。ベースはしっかり聞こえるけど、重たくならないバランスで、ドラムが躍動的に音場を弾ませるから、重みはあるけど、もっさり感はない。中高域はキラキラ感を散りばめるほどには明るいが、暗い背景もしっかり見えているから、ボーカルの艶めかしい抑揚のある色味が鮮やかに浮かび上がる空間もしっかりある。上では少し透明感も出して透けて輝くし。1万円台前半でこの音響はレベル高いね?
水瀬いのり「Wishing」
弦楽とピアノにかなりの光沢の強調が加えられており、ボーカルのリバーブのかかり具合も相まって、中高域付近はかなり幻想的に聞こえる。どうしてもボーカル周りの密度が高い印象を受けるので、ゆったり浸るというよりは意外と集中力を要求するバランスではあるが、非常に聴き応えがある。低域方向ではベースとドラムがレイヤー感が丁寧な音出しをしており、とくにヤマ場でキックでしっかりと鳴動感を音場に加えるドラムが秀逸。この名曲を1万円台で楽しむなら、有力候補。
だってさ、ボーカルの抑揚と息感がすっごく艶めかしくて、コケティッシュに耳をくすぐってくるんだよ?
TVアニメ「 Re:ゼロから始める異世界生活 」後期エンディングテーマ「 Stay Alive 」
Pastel*Palettes「天下トーイツA to Z☆」
ボーカルの半ば幻想的なきらびやかな感じと楽しい躍動的なドラムサウンドの組み合わせは情感に訴えかける曲だけじゃなくて、こういう元気な曲でも魅力的に聴かせてくれる。相変わらず謎のバンドリスパイラルに陥ってて、この曲もamazon musicがオススメするままにいつの間にかプレイリストに入ってたけど、私は断じてバンドリファンじゃない。アニメは最近1期確認したけど。そして結構面白かったけど。
まあとにかくこの曲を明るく楽しく華やかにうまく聴かせてくれるんだよね、このイヤホン。和風っぽい琴の音もつややかに聞こえるし、快活なボーカルがただ明るいだけじゃなくて妙に魅惑的に媚びてくるような甘味があって、やっぱり抑揚が丁寧だから可愛く聞こえるのかな。やばいね。
同性愛の気はないはずだけど、このイヤホンで聴いてたらEd Sheeranの声さえ蠱惑的に聞こえるからね。間違えるな?コイツ男だぞ?
Jess Glynne「123」
女声ボーカルの抑揚が良いので、アイドル系や声優系の明るい声だけではなく、もう少し技巧的なR&Bシンガーも味わい深い。私の大好きなJess Glynneのこの曲を聴くにはベースに充分な厚みがあるし、音場が広すぎないので逆に適度な密度感があってハンドパーカッションも生々しく聞こえる。金管の色づきが渋すぎない感じで明るめなのもこの曲向き。
安月名莉子「rise」
唐突にSIMGOT EM2で楽しめる曲を挙げると、例えば安月名莉子「rise」。ドラムラインとちょっと煌びやかなアコギとシンバル中心になるんだけど、サビでは弦楽の煌めく伸びやかな感じが春めいて美しい。こういう伸びやか系の曲はとても聴き応えあり https://t.co/MKHkTeZrnb @YouTubeさんから
— audio-sound @ hatena (@audio_sound_Twr) 2019年5月24日
TVアニメ「 やがて君になる 」オープニングテーマ「 君にふれて 」
nonoc「Relive」
SIMGOT EM2で聴き応えを感じる曲っていうと、たとえばnonoc「Relive」。最近のお気に入り曲だけど、ドラムサウンドと底の分離が良くて、レイヤー感のある低域とツヤツヤ系のピアノ、浮かれるギター、ほどよいスピード感。そして艶めかしいボーカルね。https://t.co/ZcIhtIg3IT @YouTubeさんから
— audio-sound @ hatena (@audio_sound_Twr) 2019年5月22日
OVA 「 Re:ゼロから始める異世界生活 Memory Snow 」 Memory Album
【5】総評「1万円台前半で女声ボーカルを楽しむなら、まず聴いておいて損はない機種」
1万円台前半というかなり廉価な価格設定で、よくここまで作り込んできたなという機種。個人的にはIKKO OH1と同じく、粒ぞろいのこの価格帯では出色の存在で、かなりの魅力を感じる。まあ私は元低域ジャンキーだから、低域につい目が向きがちなので、低域のディテールが良いこの機種を高く評価しているところはあるから、それは差し引いて見て欲しいにしても、ボーカルもかなりコケティッシュで艶やかな声色を出すから、女声ボーカル好きには一度は聴いて欲しいと思う機種。おすすめです。
ガチライバルになりそうなのはIKKO OH1とAZLA ORTAだけど、それらよりは一回り安い値段で買えるっていうアドバンテージがある。
【6】1万円台の実力派機種との比較
vs FiiO FH1
FH1は音質傾向が異なるのでガチバトル対象じゃありません。FiiO FH1はEM2のつややか系の音とは違って、より緻密でドライ系の細かさを味わう感じになります。FH1の低域はEM2よりはおとなしめです。女声ボーカルはより息の質感重視でハスキーに聞こえやすいです。EM2の得意なアイドルや声優系のコケティッシュな声よりは、より唸りや息感を多用するボーカル向きです。たとえばYUIとかね。あとは美波?
ギターの刻みもドライで緻密感があり、キラキラしちゃうEM2とは違って浮かれた感じがなく、しっとり聴けます。
vs AZLA ORTA
低域のドラムサウンドのディテール感に関してはほぼ同等な相手がAZLA ORTAになります。ただし、AZLA HORIZONもEM2よりも音が濃いところがありますが、AZLA ORTAは1ドライバーゆえか、なおさら中低域に音が寄っており、どちらかといえば男声ボーカルや低い女声ボーカルを濃厚に聴くのに向きます。個人的にはAimerのややダークな系統な曲はAZLA ORTAで聴き応えを感じるかな。
vs IKKO OH1
EM2と同じく、低域の存在感の強いドンシャリ風のサウンド傾向を持つOH1とは得意ジャンルが重なるように思いますが、官能性で解説したようにドラムとベースの力関係が異なります。ボーカルの明るさにも若干の差がありますが、たとえばOH1のほうがより迫力を感じるのは広く深いベースの音色が説得力を出すこのような曲です。OH1はこの曲でヘッドホンクラスの沈み込みが味わえます。EM2ではベースにこれほどの広大さを感じることはできません。
vs TFZ No.3
大好きなchiho feat. majiko「エガオノカナタ」でEM2とNo.3の違いを説明します。まず低域はNo.3は床面の主張が強く、黒みも強いのでコントラスト感の高い音響を楽しめますが、中高域で分離が悪く、ガチャガチャしやすいところがあります。あとはボーカルのディテールが意外に甘くて、この曲だとデュエットの重なりが強くて分離が悪い印象を受けます。一体感が高いって肯定的に評価することも可能ですけどね。EM2は床面をそれほどビシバシ強調しないので、低域により自然な厚みがあります。中高域のディテールは私の聴いている感じではNo.3より整理されていて、ガチャガチャ感は出ないですし、ボーカル同士の干渉する部分は感じられて、デュエットが重なる場面でもそれぞれの歌い手の声が即かず離れずに表現されています。
ボーカルはEM2が好みですし、なんとなく私はTFZに対して評価が厳しい自覚があるので、もしかするとNo.3に対しては辛い比較になっている可能性はあります。TFZのビシバシが好きって人もいるでしょうし。ただ中高域の分離感が見た目ほどよくないのは、たぶん1ドラの限界だと思いますけど。
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*1:おすすめ度とは、あくまで主観的に「ここが面白い!ここが味わい深い!」と思ったポイントです。たとえば低域が「5」だからといって低音が支配的で低域重視で鳴りますというわけではなく、「低域の表現が丁寧でうまいなぁ」とか「これはちょっと他では味わえないかも」といった特徴的な音、魅力的な音がポイント高めになります。そのイヤホンの販売価格帯も考慮した主観的な評価です。