「フラッシュレビュー」はデータ中心の簡潔な内容で、ポイントを絞ってオーディオ製品を解説します。
今回はSIMGOT EM2を取り上げます。SIMGOTは中国のオーディオメーカーで質の高いインイヤーモニター(IEM)製品で知られているメーカーです。SIMGOT EM2はあらゆる音楽に対応できるイヤホンラインナップを目指した同社の洛神シリーズのエントリーモデルであり、コスパの高さで有名なモデルです。
audio-sound @ hatenaはこの機種を「audio-sound @ hatena Highly Recommended」として、大多数の人にとって満足度が高いオーディオ製品であると推奨します。
基本スペック
- 周波数特性:15hz-40kHz
- インピーダンス:10Ω
- 感度:101dB
- ケーブルコネクタ:0.78mm 2pin
パッケージ
イヤホンのパッケージはこの価格帯ではわりと豪華です。付属品はイヤーピース(2種類)、革製キャリイングバッグ、取扱説明書です。パッケージはだいぶ前に手に入れて捨ててしまったので、パッケージ内容の実物写真は今回は割愛します。
装着サンプル
装着感は良好です。少し独特な形をしていますが、ノズルも適度に長く、耳が小さい人でも問題ないと思います。
音質
測定機材
- SAMURA HATS Type3500RHRシステム:HEAD & TORSO、左右S-Typeイヤーモデル(Type4565/4566:IEC60268-7準拠)
- AWA社製Type6162 711イヤーシミュレータ
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- アナライザソフト:TypeDSSF3-L
※イヤーシミュレーターの特性上、20hz以下と16khz以上の信頼性は高くありません。
周波数特性
上から順に、
- [AET07 M装着時]左右別
- [AET07 M装着時]左右平均
- [AET07 M装着時]左右別(自由音場補正済み)
- [AET07 M装着時]左右平均(自由音場補正済み)
- [標準イヤーピース(Eartip 1) M装着時]左右別
- [標準イヤーピース(Eartip 1) M装着時]左右平均
- [標準イヤーピース(Eartip 1) M装着時]左右別(自由音場補正済み)
- [標準イヤーピース(Eartip 1) M装着時]左右平均(自由音場補正済み)
- [標準イヤーピース(Eartip 2) M装着時]左右別
- [標準イヤーピース(Eartip 2) M装着時]左右平均
- [標準イヤーピース(Eartip 2) M装着時]左右別(自由音場補正済み)
- [標準イヤーピース(Eartip 2) M装着時]左右平均(自由音場補正済み)
- 標準イヤーピース比較(自由音場補正済み)
- 標準イヤーピース比較(自由音場補正済み/2khz-24khz拡大)
※「AET07 Mサイズ」は当ブログの測定用レファレンスイヤーピースです。それ以外のイヤーピースは特記がない限り、このイヤホンパッケージの標準添付のものです。
※また当ブログの自由音場補正については機材に合わせてサザン音響さんから提供された補正値を使用しております。
付属のイヤーピースは2種類ついてきます。Eartip 1は説明によると、中高域重視で光沢感のあるディテールサウンドを実現し、Eartip 2は同じく低域重視でニュートラル寄りと説明されています。測定結果はだいたい説明通りの雰囲気があります。とはいえ、変化量自体は大きくなさそうなので、サイズが適正なら、あまり聴感上の差はないかもしれません。
サウンドシグネチャー的にはフラットに近く、穏やかなU字型といったところでしょうか。中域でボーカルが少し強調され、中高域が前傾的な調整になっています。高域は少し派手で明るくディテール感を強調するモニターサウンドといったところです。しかし、中域がわりと目立ち、高域もディテールが良いので音楽的な雰囲気も充分にあり、楽しいサウンドで、とにかくバランスが良いのがこの機種の魅力です。
低域は見通しが良く、わずかに重みが強いかも知れませんが、ほとんどニュートラルでモニター的です。レイヤリングは良好ですが、輪郭は適度にしっかりしており、存在感はあまり強くないにも関わらず、個々の音が把握しやすいです。地熱のノイズ感もなく、中域下部の凹みによって中域に熱気が滲むこともほとんどありません。
その中域は完全に清潔というわけではありませんが、濁りは少なめです。低域との繋がりはわりと自然で、わずかに分離感が強い気がしますが、バランス感覚に優れている印象を受けます。中域も比較的モニター的と言えますが、ボーカル帯域には味付けがあり、わりと前面に出てきます。ボーカルは中庸で理性的、甘やかで子音に尖りがなく、息だけわずかにニュアンスが強調されています。女声ボーカルは少しコケティッシュにうわずる雰囲気があり、色気があります。ボーカルホンとしてわりと魅力的です。中高域の落ち着きによってボーカル帯域へのフォーカスも良好です。ボーカルボディも足りない感じはありません。またスネアが活き活きと聞こえます。
中域下部とともに後退的な中高域はボーカルの背景に奥行き感を出しています。高域はその静寂な背景から少し高く伸びるように聞こえます。また中高域は前傾的なので、落ち着いた雰囲気を守りながらも、艶やかな光沢感が強調されるようになっており、色づきが感じられます。
Moondrop Starfield/NF Audio NM2との比較
同じ価格帯で同じようにニュートラルなサウンドを持つMoondrop StarfieldおよびNF Audio NM2と比較します。
上のグラフはどれもAET07のMサイズをイヤーピースとして使用し、自由音場補正済み測定グラフが1khzで交差するように調整したものです。2番目のグラフは1khz以上の拡大図です。EM2はハイブリッドモデルなのでクロスオーバーの影響を考えなければいけませんから、確実とは言えませんが、今回測定された特性上言えることはEM2はStarfieldとNM2の真ん中の選択肢になりえ、かつ、低域はより深くまで拡張されているために少なくとも低域モニターとしてはそれらより優秀だろうということです。
ダイナミックドライバー単発のStarfieldやNM2と比べて、高域はバランスドアーマチュアドライバーとのハイブリッドになっているEM2の音はディテール感でより細かく、くっきりしており、明瞭感で優れて感じられます。またハイブリッドの質感の違いが影響しているのかも知れませんが、ボーカル帯域はわりとはっきり浮かび上がります。歪みも少なく感じられるので、明瞭性の高いサウンドが好きな場合、ほぼ同価格で買えるこれら3機種の中ではEM2を選択するのが個人的にはおすすめです。
パッケージとビルドクオリティの面ではMooondrop Starfieldには明らかに勝っており、NF Audio NM2にはわずかに劣るかもしれませんが、ほぼ同等です。
レコーディングシグネチャー
レコーディングシグネチャーの基本的な原理、楽しみ方については以下を参考にして下さい。
参考用にレコーディングシグネチャーを掲載します。自由音場補正済みです。ソースはFiiO M15を用いています。イヤーピースは標準イヤーピースのEartip 1 Mサイズ、ゲインは高設定です。
レコーディングシグネチャーで使用している楽曲は私も大好きなゲームメーカー日本ファルコム様のものを使用させて頂いております。
JAZZ
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Sophisticated Fight / 英雄伝説 空の軌跡FC&SC スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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町「ペンタウァ」 / ファルコムベストサウンドコレクション -All in All- / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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Desire / The Songs of Zemeth ~Ys VI Vocal Version / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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花と風のうた / 「Zwei!!」 スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
OST
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Sophisticated Fight / 英雄伝説 空の軌跡FC Evolution オリジナルサウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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浮遊大陸アルジェス -Introduction- / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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QUATERA WOODS / イースVI -ナピシュテムの匣- オリジナル・サウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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永劫の夢、大空の記憶 -Online Version- (Bonus Track) / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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ユルギナイツヨサ / 日本ファルコム 英雄伝説 零の軌跡 スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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アプリエス神殿 / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
クラシック
- Sophisticated Fight / We Love 空の軌跡 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- FEENA / イース ピアノコレクション / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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第3部「白き魔女」: 白き魔女 / 交響曲「ガガーブトリロジー」 ~白き魔女~朱紅い雫~海の檻歌~ / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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組曲 LILIA (ファルコム ネオクラシック フロム スタディオズ イン ロンドンシティ) / ベリー・ベスト・オブ・イース / Copyright © Nihon Falcom Corporation
ロック
- Sophisticated Fight / 空の軌跡ざんまい / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- TO MAKE THE END OF BATTLE / Ys Ⅰ&Ⅱ ベストサウンドコレクション / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- The Decisive Collision / 英雄伝説 閃の軌跡 スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- GENS D'ARMES / イースVIII -Lacrimosa of DANA- オリジナルサウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- Mighty Obstacle (2003) / Music From The History Of Ys / Copyright © Nihon Falcom Corporation
総評
ニュートラル系サウンドを愛する人、甘味のあるボーカルを愛する人にSIMGOT EM2は大変魅力的に映る機種であることは間違いありません。ビルドクオリティも高く、パッケージ内容も豪華で、デザインも独特の雰囲気があり、所有欲を満たしてくれるイヤホンです。音質のバランスも良く、ボーカルを丁寧に聴かせながら、艶やかで華やかな雰囲気も加味して楽器音を聴かせてくれ、明瞭性も高めのクリアな質感を出してくれるので、一般にこの価格帯では満足度は高いと思われます。
この機種はしかし、私のお気に入り機種であることは事実なので、些か評価が甘い可能性はあります。
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