今回取り上げる機種は半開放型ヘッドホン、Sound Warrior SW-HP100です。
Sound Warriorは城下工業の音響ブランドです。城下工業は大正12年に最初は生糸製造所として創業した老舗オーディオメーカーで、音響・通信機器を中心に販売しています。
Sound Warrior SW-HP100はその城下工業から発売されているモニターヘッドホンです。
なおこのレビューは城下工業のレンタル試聴サービスを利用して作成されました。このサービスは現在、Yahooショッピングと楽天市場の2プラットフォームで利用できます。城下産業のレンタル試聴サービスについて興味がある方は以下をご参照下さい。
audio-sound @ hatenaはこの機種を「audio-sound @ hatena Highly Recommended」として、大多数の人にとって満足度が高いオーディオ製品であると推奨します。
基本スペック
- 周波数特性:10Hz~35kHz
- インピーダンス:38Ω
- 感度:98dB
城下工業 Sound Warrior SW-HP100の特徴
SOUND WARRIOR初のセミオープン型ヘッドホン
SOUND WARRIOR初のセミオープン型ヘッドホンを開発するにあたって、ドライバーユニットを新たに選定、採用しました。
イヤーパッドについても、SW-HP10sやSW-HP20で快適な装着感にご好評をいただいているエルゴノミックデザインは踏襲しつつ、本機の音作りをする上で生地を見直し変更しています。これによって密閉型では実現が難しかった、セミオープン型ならではの音の抜けの良さや圧迫感のない自然な再生音を実現しています。
ボーカル再生にこだわったサウンドチューニング
本機では、中高音域の明瞭度や透明感を重視してチューニングを施しています。 特にボーカル域において、明瞭で透き通るような再生音をお楽しみいただけます。
また、ハウジング内部を左右完全対称の構造とすることで、しっかりとした定位感を得ることも可能にしました。
ボーカルだけではなく、各楽器の定位や音の粒立ち、遠近感なども感じていただきながら音楽をお楽しみください。
快適な装着感と高い耐久性を両立
従来のSW-HPシリーズで重視してきた、快適な装着感と高耐久性・頑強性は本機でも継承しています。
本体のケース素材にはSW-HP10sやSW-HP20でも採用しているワレや劣化が少なく、高い耐久性・頑強性が実現できるナイロン樹脂を採用しました。また、人間工学に基づいたエルゴノミックデザインを採用したイヤーパッドは、抜群のフィット感を実現。
ひとつひとつの素材を吟味して、快適な装着感と高い耐久性を両立したヘッドホンを作り上げました。
ケーブル着脱が可能
本機ではケーブルの着脱が可能となっています。
ヘッドホン本体側着脱部はΦ2.5mmモノラルミニジャック×2(L/R)を採用し、SW-HP20と共通のケーブルをご使用いただけます。オプション品であるバランス型XLR接続コード(SWA-HP20-XLR)を接続し、SWD-HA10などバランス接続(XLR)に対応したヘッドホンアンプと接続することで、左右の分離が向上しクリアで立体的な再生音がお楽しみいただけます。
パッケージ
今回レビューする製品はレンタル品のため、正規品とはパッケージ内容が異なっており、そもそも箱は付属しません。しかし、おそらくSW-HP100のパッケージはSW-HP10Sのパッケージとそれほど変わらないと思われるので、パッケージについてはSW-HP10Sのレビューを参考にしてください。
本体のビルドクオリティは実際は悪くありませんが、見た目はややプラスチッキーで少しチープに思えるかも知れません。しかしプラスチック素材はほかの機材を傷つけないようにするためというプロ的観点から採用されているとのことです。
装着サンプル
装着感は軽量でやや側圧は強めです。クッションパッドのおかげで耳が痛くなることはなく、快適です。それでも3時間くらい装着していると、さすがに少し痛くなってはきます。半開放型なので、遮音性はそれほど高くありません。
音質
測定機材
- SAMURA HATS Type3500RHRシステム:HEAD & TORSO、左右S-Typeイヤーモデル(Type4565/4566:IEC60268-7準拠)
- AWA社製Type6162 711イヤーシミュレータ
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- アナライザソフト:TypeDSSF3-L
※イヤーシミュレーターの特性上、20hz以下と16khz以上の信頼性は高くありません。
周波数特性
マガジン専用コンテンツになります。
サウンドシグネチャー解説
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THD+N特性
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音質解説
城下工業 Sound Warrior SW-HP100のサウンドはモニターヘッドホンとして正統派であり、中域の心臓部をくっきり、前進的に聴かせます。押し出し感はかなり強い印象を受けるでしょう。
※各評価項目はあくまでリファレンスサウンド(当サイトの機器測定における自由音場フラット)から見ての周波数特性データと私の聴感に基づく評価です。たとえば迫力のある低域を重視する人は「存在感」「太さ」「重み」「臨場感」が高い低域を好むと思いますが、このような音は本来最も重視されるべき「原音忠実度」はおそらくあまり高くありません。
再生機器にとって「原音忠実性」こそが最も重視されるべきというのはオーディオ界隈の共通認識であると思われますので、本ブログの音響機器の評価も「原音忠実性」を最も重視しています。
「原音忠実度」は基本的に高ければ高い方が多くの人にとって良いと思われますが、ほかの評価値は中間値である「B」を離れるほど原音忠実性が薄れます。そのため「S」や「A」はその音要素を好む人には最も心地よい音かも知れませんが、他の人には不快かも知れません。そして不快な音要素が決まっている人は、むしろその音要素が低い評価のものを選ぶとより心地よく音楽を楽しめると思います。
このように、当ブログでは原音忠実(リファレンスサウンド)からの距離を提示することで効率的にあなたの好みに合ったオーディオ機器を発見できるように工夫しています。
評価が高ければ高いだけ良い評価値というのは「原音忠実度」「クリア感」「おすすめ度」で、とくに「原音忠実度」+「クリア感」がオーディオ製品としての単純な優秀性を表します。
「原音忠実再生」についての参考動画:創造の館「いい音とは何か」
※以下のリンク先はpdfです。
低域(原音忠実度:C+/臨場感:C-/深さ:C-/重み:B-/太さ:A-/存在感:B)
城下工業 Sound Warrior SW-HP100の低域は開放型に近い、深みのないサウンドです。太さは強く強調されるので、力感は出ると思いますが、臨場感には欠けます。
深い重低域が生み出す地熱に由来するノイズ感はほとんどないので、低域はすっきりしています。重みの強調はあるので、バスドラムキックはドシドシと重いですが、あまり実体感がありません。エレキベースも薄味です。
中域(原音忠実度:A-/厚み:A-/明るさ:B/硬さ:B+/存在感:B+)
中域は前進的で、構築的でかっつりしているというよりはがっつりしていると感じるくらい、押し出されて聞こえます。
中域はかなりはっきりと硬く構築的に聞こえ、音の手がかりがしっかりと聞こえます。中域に音が集まりやすい傾向があるので、わずかに情報量が多く、奥行き感はあるので定位感は少し整理されていますが、それでもいっぺんに音が押し出されて聞こえてくるので、やや圧迫感を感じやすいです。ボーカルは全体的に少し芯が強く、太めに聞こえやすいので、女声ボーカルも男性的に聞こえるところがあるかもしれません。
高域(原音忠実度:B-/艶やかさ:B/鋭さ:C+/脆さ:B+/荒さ:C+/繊細さ:B+/存在感:B-)
高域は中域とは分離的です。艶やかさとマイクロディテールは中庸よりは強調されており、ディテール感は少し繊細に聞こえます。
高域は中域と釣り合いが取れており、少し光沢が強く、マイクロディテールも強調されて聞こえます。しかし低域から中域までの心臓部が強固な存在感を持っているので、音楽全体の中ではそれほど強く主張することはなく、粒立ち感は少し強いかなと思いますが、うるさい感じはあまりないでしょう。
グルーヴ/音場/クリア感(グルーヴの中心:中低域~中域上部/音場:B/クリア感:A-)
※一般にグルーヴの最も大きいところが最も活き活きと聞こえるので、音楽の中心になります。グルーヴの中心範囲の大きさは変動的です。グルーヴの中心は個人の音楽の好みを決定し、音響機器選択のヒントになります。音響機器のグルーヴの中心が個人の好みと離れている場合、むしろその不自然さが強調され、その音響機器を楽しくないと感じる可能性が高いです。音場の評価はBが自然な広さです。クリア感の評価は全高調波歪の測定値を参照して決めています。
このヘッドホンのグルーヴの中心は一般に中低域~中域上部に存在すると思われます。
音場は中域に寄っている印象を受けやすく、奥行きに優れ、高さは少し強調されて聞こえますが、深みがありません。左右の幅もあまり広く感じないでしょう。
音質総評(原音忠実度:B+/おすすめ度:B-/個人的な好み:B-)
中域を太く厚く、光沢やディテールも強めにがっちりと構築的に聴きたい人には悪くないヘッドホンです。目鼻立ちが整った、とてもわかりやすい濃い音がしますが、少し中域の情報量が多すぎて、曲によって眩暈がします。
個人用途として考えた場合、モニターヘッドホンとして中域をしっかり聞かせてくれるので、曲の心臓部をかなり的確に把握できるため、曲の最終確認にはいいかもしれません。しかし、この用途ではVictor HA-MX100Vのほうが空間的にもう少し余裕をもって定位させて聞かせてくれ、より聞き疲れしにくく、優れているでしょう。価格差がほとんどないので、私はSW-HP100よりはVictor HA-MX100Vをおすすめします。
中域の情報量が多い感じは、ミックスの効果を効率的に確認する用途に使うには悪くないかもしれませんが、重低域がほとんど出ていないことに注意する必要があります。この点でEDMやDJミックスなどミキシングを積極的に多用する用途では、あきらかにYAMAHA HPH-MT8のほうが効果的に活躍してくれるでしょう。
録音から作曲、ミキシング、マスタリング、音源チェックまで総合的に趣味的にこなす、DTMerにとってはどうでしょうか?この用途では同じ城下工業のSound Warrior SW-HP10Sが優れています。長時間聞いても疲れない音、存在感は強くないがより深くまで出る低域、把握しやすい情報量と音域ごとの音の分布のバランスの良さなど、万能機として優れています。音楽鑑賞にも使いやすいヘッドホンで、どれか1本で済ますとなると、SW-HP10Sのほうが使い勝手が格段に良いと思えるはずです。
音質的な特徴
美点
- 中域の情報量が多い
- 奥行き感がある
- 安定感がある
- 中域への適切なフォーカス
- 硬めで手掛かりがしっかりと聞こえる構築的な中域
- ノイズ感が少ない
- ディテールの良いサウンド
- 押し出し感が強く、音が近い
- パワフルで迫力のあるサウンド
欠点
- 圧迫感が出やすい
- 女声ボーカルに嫋やかさがなく、野太く男性的に聞こえる
- 硬い音
- 臨場感に欠ける
- 聴き疲れしやすい
音楽鑑賞
WestLife「I Wanna Grow Old With You」
輪郭感はがっつりしており、力感も十分で非常にパワフルで充実感のあるサウンドが楽しめます。低域の深いところは出ていないので、臨場感は少しありませんが、中域以上が聞こえづらくなることはありません。ボーカルはハリがあり、力強い説得力のある声色です。楽器音はボリューミーで音の一つ一つが太く、存在感があり、ボーカルの周囲はかなり音が集まって賑やかで豪華に聞こえます。そのサウンドには口径の大きい高級スピーカーで聴くような迫力があります。
Suchmos「STAY TUNE」
音が太く、厚みもあってパワフルな感じが、この曲のハングリーさをうまく引き出してくれるので説得力を感じます。すこしがつがつとした、逃げ場のないくらいの押し出し感の強い音が、この曲の野性味を否応なしに耳にぶっこんできます。この遠慮会釈なく音をひたすらにぶっこんでくる感じはなかなかにワイルドで気持ち良い。
谷村新司「AURA」
あくまで個人的好みから言えば、この曲を聴くならSW-HP10Sのほうがもう少し軽やかで、色気があって好きです。SW-HP100の表現は率直に言って少し太く濃く、ボーカルの底にうなるような深み、のどぼとけが振動している感じがあって、より力強いです。ただそのせいか音楽全体が重たい表現になっていて、聴きごたえはあるんですが、どうも逃げ場がない感じがあります。気持ちの落ち着く余裕がなく、音楽をとにかく中域中心にがっつり聴かされる感じです。迫力は素晴らしく、説得力を感じるんですが、少し聞き疲れます。
レコーディングシグネチャー
レコーディングシグネチャーの基本的な原理、楽しみ方については以下を参考にして下さい。
参考用にレコーディングシグネチャーを掲載します。ソースはFiiO M15を用いています。ゲインは低設定です。
レコーディングシグネチャーで使用している楽曲は私も大好きなゲームメーカー日本ファルコム様のものを使用させて頂いております。
録音機材
- SAMREC HATS Type2500RSシステム:HEAD & TORSO、Type4172マイクX2搭載
- 5055Prot 実時間2ch 自由音場補正フィルター(特注)
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- レコーディングソフト:Audacity
GENS D'ARMES(ロック系)
GENS D'ARMES / イースVIII -Lacrimosa of DANA- オリジナルサウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
白き魔女(クラシック系)
第3部「白き魔女」: 白き魔女 / 交響曲「ガガーブトリロジー」 ~白き魔女~朱紅い雫~海の檻歌~ / Copyright © Nihon Falcom Corporation
The Silver Will -ギンノイシ-(EDM系)
The Silver Will -ギンノイシ- / 空の軌跡ざんまい / Copyright © Nihon Falcom Corporation
Sophisticated Fight(JAZZ系)
Sophisticated Fight / 英雄伝説 空の軌跡FC&SC スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
浮遊大陸アルジェス -Introduction-(OST系)
浮遊大陸アルジェス -Introduction- / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
総評
城下工業 Sound Warrior SW-HP100は構築感に優れ、パワフルでリッチな中域を聴かせるモニターヘッドホンです。そのサウンドはしっかりした高級スピーカーで聴くような力感と情報量の多さを感じることができますが、やや圧迫感が強く、聞き疲れしやすい感じがあります。全体的にくっきりがっつり力感豊かに音を聞かせる、わりとパワフル系のヘッドホンです。
モニターヘッドホンの中で評価すると、業務用としてはいいでしょうが、個人で使用することを考える場合、SW-HP10Sのほうがいろいろと使い勝手が良く、万能系に思えるでしょう。こちらはむしろ中域で迫力あるサウンドを楽しみたい人向きです。
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