NF AUDIO ダイナミック密閉型カナルイヤホン(レッド)NF AUDIO NA1 NF-NA1-RD
- 軽量で装着感が良く、ビルドクオリティが高い
- 光沢感と輪郭の明瞭感があり、クリアなモニターサウンド
- シャープネスは抑えめで聴きづらい要素は少ない
- 【1】装着感/遮音性/通信品質「IEMデザインで耳への収まりが良い」
- 【2】外観・インターフェース・付属品「ビルドクオリティは充分に高級感あり。2pinリケーブル可能」
- 【3】音質「この価格帯では素晴らしい見通し感を持ち、ナチュラルクリアな高解像度系サウンドを持つ」
- 【4】官能性「中高域をくっきり押し出して聴かせてくれる」
- 【5】総評「モニター的で手がかりのある音をしっかり聴きたいならおすすめ」
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【1】装着感/遮音性/通信品質「IEMデザインで耳への収まりが良い」
おすすめ度*1 | |
---|---|
ASIN | |
B082DTW3XK |
ハウジングのデザインは航空機レベルのアルミニウムが使われており、非常に軽量です。またカスタムIEMを意識したノズルデザインになっており、装着性は良好で、遮音性も悪くありません。
テスト環境
今回のテストはFiiO M15、Galaxy A30、ONKYO GRANBEAT、Shanling M6、FiiO M11 Pro SSで行っています。ゲイン設定は基本的に「高」設定です。
装着サンプル
【2】外観・インターフェース・付属品「ビルドクオリティは充分に高級感あり。2pinリケーブル可能」
付属品はイヤーピースの替え(2種類)、クリーニングブラシ、説明書です。ケーブル端子は2pinです。イヤーピースは低域強調タイプとバランスタイプが付属します。HiFiGOのレビューなどを見ると、おそらくキャリイングケースも付属していると思われます。
ONZOのサブスク版なので付属品の詳細はこれ以上は割愛します。ONZOのサービスについて興味がある方は以下をご確認下さい。
スペック情報
- 再生周波数帯域:9~40000Hz
- インピーダンス:18Ω
- 感度:110dB
- ドライバー:ダイナミック型
【3】音質「この価格帯では素晴らしい見通し感を持ち、ナチュラルクリアな高解像度系サウンドを持つ」
今回は標準イヤピの中で、シリコンのバランスタイプのLサイズを使って音質を確認しています。
周波数特性イメージ(試験運用中)
※周波数特性イメージはあくまでレビューの便宜上、個人的に周波数分布のだいたいのイメージを掴むための参考情報で、測定方法も測定されたデータも非常にアバウトで厳密な信頼性や正確性に欠けます。いずれ勉強を深めて信頼性を高めていきたいとは思いますが、本ブログは周波数特性の測定をメインとしていませんので、期待しないで下さい。私自身も聴感上の音像印象の解釈の補助として利用しているだけで、この周波数特性イメージを全面的に信頼し、依拠しているわけではありません。
※またイヤホンの周波数特性イメージはヘッドホンの測定値との互換性を持たせるために、外耳道を疑似的に再現した環境で測定されています。
レコーディングシグネチャー(試験運用中)
レコーディングシグネチャーはバイノーラル録音されていますが、品質は良くありません。人工的に外耳道に近い環境を作って録音していますので、それなりに自然に近い音になっているとは思いますが、聴いたそのままの音質とは異なりますので、あくまで参考情報ということでお願いします。
原曲
銀の意志 Silver Will / 空の軌跡ざんまい / Copyright © Nihon Falcom Corporation
ファーストインプレッション
このイヤホンについてのファーストインプレッションはこちらで詳しく書いております。参考になれば幸いです。
音域印象
明瞭感がある、くっきりしている、光沢感がある、クリア、奥行きがある、モニター的、温かみがある、立体感がある、押し出し感がある、ギターがきれい、高域が清潔
低域「ウォーム、モニター的、自然」
ダイナミック型らしい、厚みと暖かみが感じられる低域です。とびきりクリアで見通しが良いという感じではないかも知れませんが、かといって暖かみでドロドロしている感じでもなく、エレキベースが少し暖かく厚みがありますが、アタックも適度にあるので躍動感もそれなりにあります。しかしタイトではありません。輪郭も強調されないのでくっきりした感じはあまりなく、少し緩い、濃厚感を出すライブ感のある音になります。
ドラムキックはベースとのぶつかりを避ける感じはなく、どちらかといえば一体的に聞こえます。しかし、アタックを効かせるようになっているので、埋没感はありません。ただ個人的な印象では、どちらかというとキックよりベースの方が活き活きして聞こえやすいと思います。深い感じはあまりなく、音に地熱はありますが、それが出過ぎないモニター的な雰囲気は維持されています。この鳴らし方はWestoneのWシリーズやBシリーズ的かなとも思えます。
低域弦楽は厚みはあまり強調されません。重みは少し感じられますが、重厚感のあるどっしりとした感じは強くなく、どちらかというと躍動的で活き活きした感じを重視した音です。そのためJAZZでは少し床面に波打つグルーヴ感が感じられるでしょう。
低域は全体的な評価としては、ライブ感を少し重視しつつもモニター的です。ディテール感を出し過ぎず、リスニングの心地よさを追究しながら、空間を適度に埋めて足場に充実感をもたらしています。深みや重みを出して箱を感じさせるという味付けでもなく、どちらかというと自然な原音の雰囲気をやや暖かく聞かせるタイプで、比較的万能ではありますが、低域好きを満足させる量感や存在感もなく、中庸なバランスの音です。変な言い方になりますが、個人的にあまり個性的に思えないのが個性といった感じの低域という評価です。
中域「奥行き、ウォーム、艶がある」
中域は下では低域との繋がりが良く、中域下は低域の支えを受けてそのまま実体感や根立ちを感じさせます。中域と低域のつながりは親和的で立体感を強調する感じはあまりないので、低域音との混濁が気になるかも知れませんが、実際のところ、中域はよく前傾して中域それ自体で立体感をよく出しているので、低域がやや近い印象を受ける以外は中域の見通しに悪影響はありません。むしろ低域からそのまませり上がっていくように広がりのある音は自然で、ここでも聴き心地の良さにつながっています。
中高域に向かって前傾が見られるので、音は少しせり出してくるように聞こえ、ピアノ音にはみずみずしい光沢感と硬い手がかりがあります。ハンマーの打ち込みはわずかに強調されますが、それほど強くないので、基本的にはマイルドで、しかもくっきりと聞こえてくるのでメロディーは充分に音楽的かつモニター的にわかりやすく聞こえてきます。
アコースティックギターはきらびやかさの点では必ずしも優れていませんが、アタックがあり、少し音の穂先が伸びて高域で澄んだ感じがあります。中高域では粒立ち感がはっきりと感じられ、刻みよく、少し黄金色に音色を聴かせてくれるでしょう。錆びた感じや涸れた感じはなく、基本的には潤い感のある音に聞こえるはずです。
エレキギターはクランチでもディストーションでも歪みは適度に強調されて、色気を出して活き活きとしたサウンドを聴かせてくれます。重厚感には若干欠け、やや頑丈さの足りない、前屈みなギターサウンドですが、疾走感は充分でノリは良いです。
中域は前屈みで奥行きが適度に感じられる立体な雰囲気があります。低域が親和的な割に曲によっては支えが緩い感覚を受ける人もいるかも知れませんが、熱量が適度に中和されているので、モニター的なわかりやすい音です。分離感も適度にあり、手がかりもくっきり出すので、音像はわかりやすく明瞭感があります。
高域「アタック、マイルド、清潔」
高域はあえて踏み込んで語るとすれば、「女性的な雰囲気」を持っています。私のよく知っているメーカーではSIMGOTがこのような高域の味付けを好み、音楽全体に優雅で嫋やかな透明感を出しています。まず高域の高いところは閉じており、中域の甘味への配慮が見られることはすぐにわかります。手がかりが多めであるにも関わらず、弦楽を聴けば分かりますが、音にギスギス感がなく、優雅な気品さえあります。こうした弦楽の「ヒステリックさを抜く」手法はモニター的なサウンド作りでは往々にして見られます。
周波数レスポンスはあくまで客観的データのひとつですが、およそ10kHzあたりまでフラットネスが確保されていると、音声の艶やかな表現とともに空間的な広がりが出てきます。その先が勘所なのですが、16kHzに向けてゆるやかに減衰させていくのが自由音場でのフラットネスに近いようです。#224やりすぎ pic.twitter.com/3qUhrL5qer
— ロッキー須山@みどりが森ってどこだろな (@kindo3) June 8, 2018
とくにこのイヤホンの場合、中高域で艶やかさや手がかり感、光沢感などがやや押し出し気味に強調され、音像をくっきりさせ、華やかさを感じさせるところがあるので、この音の味をどのように高くし、横に広がるように感じさせるかというのがポイントになりますが、まず煌めき成分を適度に調節して音を派手になりやすい臭み成分を抜いて、聞き苦しさを抜き、一方できらびやかさは抑えつつも、ハイハットのクラッシュは清潔に目立つようになっています。やや音が薄い感じではありますが、繊細にシャーンと抜けの空気感を感じさせてくれることで、全体の清涼感につなげており、また前屈み気味の音楽全体の閉塞感を中和しています。シンバルの音は濁りが少なく、少しタイトでアタックがあり、派手ではありませんが、よく走ります。
弦楽はこすれる音がやや強く、手がかり感がありますが、高域に向かっては優雅な物腰で筋立ち感はあまり出さずに透明な雰囲気でよく伸びます。倍音をギリギリ強調する感じもほとんどないので、艶のある滑らかかつのびやかなバイオリンが好きなら、このイヤホンの表現はきっと気に入るでしょう。自らが目立ちすぎずに風味をたっぷりと利かせて伸びやかな雰囲気を曲に加えてくれます。
高域は総合すると、中高域の手がかり感や音像の明瞭性を考慮して組み立てられているように思われます。そのため拡張性は高く、よく伸びて開放感もありますが、どこか女性的で優雅な雰囲気になります。この「女性的」という言葉で勘違いして欲しくないのは、それは「弱々しい」という意味ではないということです。たしかに柔軟で、嫋やかであり、透明感がある高域ですが、アタックとクラッシュは比較的しっかりしており、派手な主張はありませんが、存在感があり、しっかりとパートナーである中高域を支える、芯のあるレディを演じています。
ボーカル「甘い、中庸、のびやか」
低域と中域の繋がりが良く、ボディに薄い感じはないと思いますが、かといってがっしりもしていません。女声ボーカルは中高域に向かって前向きに聞こえてきますから、存在感はしっかりしており、甘味もあり、子音がきついということも普通はないと思いますが、息は少し伸びます。曲によっては少し語尾が伸びる雰囲気があるかも知れません。サビでは少し伸びやかに聞こえることが多いですが、弾む声色ではなく、穏和で聴きやすい性質を持っています。
音場「高さ、見通し、暖かみ」
高域に抜けの高さを感じられるようになっており、風通しは適度に良いです。それでいて音が細くならずに中高域でしっかりと手がかりを暖かみもある中で感じられるよう丁寧に調節されており、モニター的であると同時にリスニングの安定感もあります。ただし音楽全体はやや穏和で落ち着いて聞こえやすいです。
音場は充分に奥行きがありますが、前屈みなところもあって、また低域であまり立体感がないので、曲によって頭内的な印象を受ける感じも出やすいかも知れません。そのため、価格帯では音場が広いという方ではないと思いますが、奥行きと高さでは優れていると判断されると思います。
全体印象
モニター的に聴き心地の良い音と音像の明瞭感のバランスをうまくとっており、ナチュラルで万能といえる音質を持っています。全体として攻撃性は適度に抑えている感じがあり、活き活きしているサウンドとは言い難いですが、音像の解像感はよく、中高域でくっきりはっきり音が聞こえます。女声ボーカルや甘い男声ボーカルが好きな人にもおすすめできます。
音質因子評価
音質因子 | 評価 |
鮮やかさ (鮮やか/色味が薄い) |
鮮やか。音像の明瞭感は高めです。 |
鋭さ (鋭い/鈍い) |
普通。エッジは少し立つ感じもありますが、ギラつきを抑えることで目立たないように調整されています。 |
明るさ (明るい/暗い) |
やや明るい。中高域の鮮やかさが基本的には音楽を少し明るく感じさせます。 |
派手さ (派手/地味) |
やや派手。ギラつきは抑えていますが。クラッシュ感などは派手ですし、艶もやや強調されます。 |
硬さ (硬い/柔らかい) |
やや硬い。ソリッド感は強調されていますが、一方で低域が適度に中和してくれます。 |
尖り (尖っている/丸みがある) |
やや尖る。ギラつき感が抑えられていますが、エッジは少し鋭いです。 |
穏やかさ (穏やか/騒々しい) |
やや穏やか。低域がやや厚みを感じさせ、高域でも派手さを抑えているため、のびやかな雰囲気の割に安定的で甘味も多いように聞こえます。 |
力強さ (力強い/嫋やか) |
普通。マッチョな音ではありません。アタックは適度にあります。 |
豊かさ (豊か/貧弱) |
普通。音が細くなる感じはあまりありませんが、音が豊穣というわけでもありません。 |
太さ (太い/細い) |
普通。音はナチュラルな太さに近く思えます。 |
手触り (ざらざら/滑らか) |
やや滑らか。粒立ちは細かいですが、マイルドなので手触りはツルッとした感じです。 |
粒感 (きめの細かい/粗い) |
ややきめの細かい。煌めき感は抑えているのであまり目立たないと思いますが、案外粒立ちは細かいです。 |
清潔感 (澄んだ/濁った) |
やや澄んだ。清潔感があります。 |
潤い (潤いのある/乾いた) |
普通。少し潤っているくらいかもしれませんが、個人的にハイハットにあまりみずみずしさを感じないので、全体として見ると普通かなとも思います。 |
重さ (重い/軽い) |
普通。少しのびやかさが強い気もしますが、だいたい中庸な重心を持っていると思います。 |
ボーカル因子評価
ボーカル因子 | 男声 | 女声 |
澄んでいるか (澄んでいる/濁っている) |
やや澄んでいる | やや澄んでいる |
明るいか (明るい/暗い) |
やや明るい | やや明るい |
伸びやかか (伸びる、突き抜ける/天井感がある) |
やや伸びやか | やや伸びやか |
潤っているか (しっとりしている/乾いている) |
普通 | 普通 |
太いか (太い/細い) |
普通 | 普通 |
濃いか (濃い/薄い) |
普通 | 普通 |
子音が強調されるか (目立つ/目立たない) |
普通 | 普通 |
空間因子評価
空間因子 | 評価 |
主に中域の密度 (ぎっしり/スカスカ) |
普通 |
主に高域の高さ (抜けが良い/天井感がある) |
やや抜けが良い |
主に低域の深さ (深掘り感がある/浮き上がりがよい) |
普通 |
主に中域の奥行き感 (前進的/後傾的/前傾的/後退的) |
やや前傾的 |
主に低域と中域の横幅 (広い/狭い) |
やや広い |
定位感 (頭内的/頭外的) |
普通 |
分離感 (拡散的/密集的) |
やや拡散的 |
美点
- 見通しが良い
- 手がかりが多い
- 甘味がある
- 適度な潤い感
- 音の粒立ちが良い
- アタック感がある
- 透明感がある
- 明るい
- ウォーム
- 風通しが良い
欠点
- 低域が無個性
- 煌めき感に欠ける
- 派手さに欠ける
音質特性(サウンドシグネチャー)
[高域]
- 抜けの高さ*2:A
- 金属光沢感:B
- クラッシュ:A
- アタック:A
- ツヤ:A
- ディテール:A
煌めき感やシャープネス、派手さにつながる感じはないので、一聴した印象では繊細さに欠けるように感じられるかも知れませんが、実際は透明感があって抜けもよく、風通しの良い清潔な繊細さを持つ高域です。しかしわかりやすくギラつくメタリックな音を求めている場合は魅力に乏しいでしょう。
[中域]
- 甘味:A
- 広がり:B
- 濃厚感:B
- コク:B
- 太さ:B
- ディテール:A
中域は温かみがあり、清潔とは言えませんが、立体感があり、ディテールは良好です。分解能が高いというわけではないので、マイクロディテールに優れるわけではありませんが、音像をくっきりと聴かせてくれます。低域がやや無個性で見通しも優れているわけではないという点でも、中域はコントラストの上でくっきりと聞こえる感覚があります。
[低域]
- 深さ:B
- 重さ:B
- パンチ:B
- 厚み:B
- 熱気:B
- 鳴動:B
- ディテール:B
低域はクリアというわけでもなく、ブーミーというわけでもなく、タイトかというとそうでもなく、ある意味無個性で平凡と言えます。ただし、アタックはしっかりしているので、音に埋没感はありません。
[解像度・立体感]
音場はそれなりに広く、開放的です。ですが、あまり頭外的でもなく、幅に優れているというわけでもありません。低域が中域と親和的で、それ自体でも立体感が薄い気がするので、それが少し頭内を意識させている可能性は大いにあります。
[パーカッション・リズム]
- ドラムの雰囲気:バスドラキックよりスネアのほうがわずかに活き活きしており、より前面に聞こえる。アタックはあり、スナッピーが走る感じもあるが、パワフルかというとそうでもないといった感じのバズンバズンくらいの音。
- ハイハットの雰囲気:ハイハットは清潔に白く、シュリシュリした感じに高く聞こえやすい。
- 弾け:A
- 粘り:B
- 重み:B
- 濃さ:B
- スピード感:B
パーカッションは一般にスピード感の遅れはありません。スネアが活き活きして聞こえ、どんな曲でも埋没感は基本的にないと思いますが、厚みや胴鳴り感は案外薄いので、上半身を使って必死に打ち込んでる割に、音の深さはそれほどでもなく、またキックは相対的にちょっとおとなしい印象を受けるかも知れません。ハイハットは濃い感じではなく、薄く清潔に走ってくれます。
[ボーカル傾向]
ボーカルはボディは多くの曲で充分にあり、子音は一般的に尖りませんし、かすれる感じもありません。息は清潔に伸び、その点で語尾が伸びたり、サ行だけわずかに刺さりやすい可能性もありますが、私の場合、刺さる感じはありませんでした。のびやかさは充分で甘味もあります。
【4】官能性「中高域をくっきり押し出して聴かせてくれる」
7!!「バイバイ」(vs Moondrop Starfield)
【Shanling M6で鑑賞】まず出だしのギターエッジは鮮やかで粒立ちがよく、刻みは非常に印象的で、入りの引き込まれ感は充分です。音数が多くなる場面でもドラムサウンドには充分なアタックがあり、埋没感がありません。ボーカルを中心にやや前屈みに音楽が聞こえてくる感じがあり、わずかに圧迫感を感じるかも知れませんが、その上ではハイハットが一段と高く清潔にしっかりと風通しの良い音を出して走ってくれるので、音楽の疾走感は失われません。中高域にしっかりとした焦点があり、安定感とあたたかみの上でも聴き心地が良い感じでありながら、繊細な疾走感も丁寧に出るので、音楽がもっさりすることがありません。
同じ価格帯で同じく音場が開放的なMoondrop Starfieldと聞き比べてみます。まずすぐ気づくのは出だしのエレキギターの雰囲気の違いです。NA1に比べるとクリアで少し清潔な感じでエッジは細かく聞こえるのですが、ボディが少し透明で、薄い音に聞こえます。その分ギター自身のエッジのギラつき感やハイハットの細かな粒立ち感がよりメタリックに煌めいて強調され、繊細さの点で勝っているとも言えるかも知れませんが、なんていうか爽やかすぎて、この曲の主題を考えると、若干感情の入り込みが足りない気がします。
一方で、Starfieldのほうが低域の深いところが持ち上がっているので、キックやベースがより存在感があり、しっかり深みを出してくれるので、音場の広さ的には有利となっており中域の奥行きがより明確です。ボーカル周りも清潔なので、よりフォーカスされて聞こえる印象があるかも知れません。またわずかにハスキーさが目立ちます。
率直に言って、個人的にはStarFieldはこういう曲を聴くには爽やかすぎます。少なくとも泣きながら強がっている感情がよりよく感じられるのは、私の場合、NA1のほうです。
今井麻美「朝焼けのスターマイン」(vs SIMGOT EM2)
【FiiO M15(Pure Music Mode)で鑑賞】中高域は艶やかで手ががり感とガラス質の光沢感も丁寧に出すので、こういう曲とは相性が良く思えます。チャリチャリした粒立ち感のある雰囲気の中で、ボーカルも甘味が乗って少し伸びやかに聞こえてきます。そのボーカルは媚びを出しつつも、媚びすぎない清潔感のある息を持っていて、空に向かってすーっと気持ち良く伸びます。全体的にくっきりした中高域の色づき感がポップスを少し明るく明瞭に味わわせてくれます。
同じ価格帯で同じように女声ボーカルで定評のあるSIMGOT EM2と聞き比べてみます。周波数特性イメージを見ても、両者の間にほとんど違いはないように思えるかも知れません。しかしSIMGOTは魔法の杖を持っているかのようです。ボーカルは明らかにより甘く、艶やかで、ディテールの上でもわずかに向上して聞こえます。息の伸びはより自然で温かみがあり、よりコケティッシュな色気があります。信じられないことですが、この曲に関する限り、私の耳でより人間的で官能的な音を鳴らしてくれるのはSIMGOT EM2のほうです。NA1の音はもう少しくっきりしていて、わずかに硬い、手応えが強い音で、明瞭性では勝っていますが、ほんわかした人肌の雰囲気がわずかに足りません!
私がSIMGOT好きだということを割り引いて考えて下さい。それでも、「よりボーカルに色気を求めるならば、SIMGOT EM2を選ぶべき」という私の意見は皆に支持されると信じています。より正確でモニター的なサウンドを求めるならば、NA1のほうが満足できる可能性が高いです。
ツユ「やっぱり雨は降るんだね」(vs TinHiFi T4)
【FiiO M11 Pro SS(Pure Music Mode)で鑑賞】ロックだと個人的にはやはり、低域の無個性な感じが若干気になります。ライブ感も少しありますが、ベース音がわずかに支配的でややmuddyな感じはあり、逆にこの曲では途中ベースが抜けてドラムが低域の主役になる場面がありますが、そこでは今まであんまり目立たなかったドンドコ感がちょっと強めに出たりと、まあ、ある意味味わいの違いが素直に感じられて面白いと言えますが、なんか一貫性がない気がするんですよね。いやドンドコ感出すならもっと普段からドンドコしとけやってのが私の意見です。まあある意味モニター的で良いと言えるのかも。そういうわけでこの曲に関する限り、このイヤホンの低域の聴かせ方はぶっちゃけあんまり好きじゃないんですが、エレキギターなんかは逆に良く映えますし、ボーカルも甘味と熱気があって生々しさがあります。
と言いつつ、この低域のつまらなさはおそらくM11 Proに責任を求めた方がいい気もします。ぶっちゃけM15で聴くと、もっと活き活きした低域があって、やる気が違います。このイヤホンのおかげでM11 Proの低域のやる気不足が個人的にM11 Proがあまり好きではない理由なのかなということがわかったのは儲けものです。まあM11 Proのほうがよりフラットな音と言えるのは事実なので、結局レビュー用に買っちゃったんですがね!w
さて、比較対象はTinHiFi T4です。なんだかんだいってT4はコスパが良く、NA1とも充分勝負できる音ではあると思います。ただ、NA1がしっかり手ががりを表現してくっきり感を出す系統の音なのに対し、T4の音は中高域でツルツルしていて、スムーズです。だからこの曲でも流れるように音楽が聴け、そこが私も好きなんですが、なんていうか感情の乗る感じは薄いかも知れません。押し出し感がないです。その代わりNA1にあった圧迫感みたいなのが減っているので、よりすっきり聴きやすいですし、ボーカル周りもすっきりしてるのでフォーカス感はよりよいでしょう。さらに低域の存在感もあるのでNA1よりは床面がはっきりした箱の感覚もあります。
そういうわけで、価格差を考えると比較的T4をべた褒めしたみたいな感じに受け取られかねませんし、実際ハイファイな音に聞こえるのはT4のほうだと思いますが、NA1のほうが音が鮮やかで濃厚感があるので、とくにボーカルやギターサウンドの色気は私の場合、NA1のほうが圧倒的に良いです。まあこれは私がどちらかといえば濃い音の方が好きだというせいもあるかもしれません。
個人的にはどちらかというとこの曲を聴くなら、NA1の方が好きですが、価格差を考えると、むしろT4コスパ良すぎって感想しかありません。それでもこういう曲はギターやボーカルに押し出し感があった方が満足できると思うので、NA1みたいなイヤホンの方がいいんじゃないでしょうか。
【5】総評「モニター的で手がかりのある音をしっかり聴きたいならおすすめ」
中高域のくっきり感を丁寧に聴かせてくれ、音像がはっきりとわかりやすいのが特徴のモニター的なイヤホンです。高域は透明で一聴した印象ではそれほど主張がないように思うかも知れませんが、実際は風通しが良く開放的です。中域は甘味があり、ボーカルも前面に押し出されて楽しめます。押し出し感は強めですが、充実感のあるモニターサウンドというべきで、ビルドクオリティも考慮すると、全体の完成度は高めです。
- くっきり明瞭な中高域
- 透明で清潔な高さもある高域
- 低域は無個性
NF AUDIO ダイナミック密閉型カナルイヤホン(レッド)NF AUDIO NA1 NF-NA1-RD
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*1:おすすめ度とは、あくまで主観的に「ここが面白い!ここが味わい深い!」と思ったポイントです。たとえば低域が「5」だからといって低音が支配的で低域重視で鳴りますというわけではなく、「低域の表現が丁寧でうまいなぁ」とか「これはちょっと他では味わえないかも」といった特徴的な音、魅力的な音がポイント高めになります。そのイヤホンの販売価格帯も考慮した主観的な評価です。
*2:全般的に言えることですが、この評価は主観的であり、しかも音はバランスと好みが大事だということに留意して下さい。Aのほうがその分野では優れていると判断していますが、たとえばシャリ付きが苦手な人はクラッシュがAの評価のイヤホンは避けるべきです。あと稀にSが出てくると思いますが、Sは「やりすぎ」という意味で、必ずしも良い評価とは限りません。ただしその音質特性が好きな人には良いでしょう。
*3:価格帯を考慮した相対評価です。
*4:価格帯を考慮した相対評価です。
*5:価格帯を考慮した相対評価です。
*6:主にサ行が刺さるかどうかです。スーハーしている感じが強いかです。
*7:主にツ音が尖るかどうかです。Aに行くほど尖ります。