「フラッシュレビュー」はデータ中心の簡潔な内容で、ポイントを絞ってオーディオ製品を解説します。
今回取り上げる機種はKinera YH623です。
Kineraは当ブログではこれまで何度も紹介してきた中国のインイヤーモニター(IEM)メーカーです。日本ではあまり知られていませんが、海外のオーディオファンの間では人気の高い中華イヤホンブランドの一つで、幅広い価格帯でコストパフォーマンスに優れた製品作りをしていることで知られています。そのイヤホンはただ音質チューニングにおいて優れているだけでなく、デザイン面でも優秀で所有欲を満たしてくれる、いつまでも身につけていたいような製品作りをしているのが特徴です。
最近発売されたKinera Freyaのレベルの高さには個人的に驚かされました。
さて、そのKineraがブランドとして初めてリリースした完全ワイヤレスイヤホンが、今回紹介するKinera YH623です。
audio-sound @ hatenaはこの機種を「audio-sound @ hatena Highly Recommended」として、大多数の人にとって満足度が高いオーディオ製品であると推奨します。
基本スペック
- 連続/最大再生時間:8h/24h
- 防水性能:IPX4
- 対応コーデック:aptX/AAC/SBC
- 技適番号:215-JRA018
パッケージ
価格帯ではパッケージはわりと豪華です。最近のKinera製品の共通デザインである六角形パッケージになっています。付属品はイヤーピース、充電用ケース、充電用ケーブル(Type-C)、説明書です。
装着サンプル
ユニバーサルIEMのようなデザインになっており、耳への収まりは比較的良好です。
接続品質
aptXでCayin N6II/E02と接続してテストしました。左右別々でペアリングされるので、おそらくTWS+に対応していると思われます。
価格帯では標準以上で、わりと優秀な接続品質です。人混みに行ってないのでわかりませんが、家庭内ではそこそこ良いです。距離耐性はそれなりに良好で、5m離れても充分繋がっていますが、シームレスではなく、距離に応じて少しの途絶があります。遮蔽物があってもつながっていますが、やはり少し不安定になり、音ズレや途絶などが少し出るようになりますが、接続自体は維持されます。
またホワイトノイズは少しありますが、敏感な人でないと気にならないのではないかと思います。
音質
測定機材
- SAMURA HATS Type3500RHRシステム:HEAD & TORSO、左右S-Typeイヤーモデル(Type4565/4566:IEC60268-7準拠)
- AWA社製Type6162 711イヤーシミュレータ
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- アナライザソフト:TypeDSSF3-L
※イヤーシミュレーターの特性上、20hz以下と16khz以上の信頼性は高くありません。
周波数特性
上から順に、
- [AET07 S装着時]左右別
- [AET07 S装着時]左右平均
- [AET07 S装着時]左右別(自由音場補正済み)
- [AET07 S装着時]左右平均(自由音場補正済み)
- [標準イヤーピース S装着時]左右別
- [標準イヤーピース S装着時]左右平均
- [標準イヤーピース S装着時]左右別(自由音場補正済み)
- [標準イヤーピース S装着時]左右平均(自由音場補正済み)
- 標準イヤーピース比較(自由音場補正済み)
- 標準イヤーピース比較(自由音場補正済み/2khz-24khz拡大)
※「AET07 Sサイズ」は当ブログの測定用レファレンスイヤーピースです。それ以外のイヤーピースは特記がない限り、このイヤホンパッケージの標準添付のものです。
※また当ブログの自由音場補正については機材に合わせてサザン音響さんから提供された補正値を使用しております。
私の個体の測定値にわりと露骨な左右差がある理由はよくわかりません。
全体を見ると穏やかなU字型といった形をしています。低域の隆起が少し強く、全体としてウォームなサウンドシグネチャーと言えます。
低域は重みが強調され、太さがあり、厚みもあるので肉厚に聞こえます。バスドラムのキックは踏み込みが重く、太さもあってボディの鳴りが良く、床鳴り感も充分ですが、深いところの地熱感は少し抑制されています。それでも温かみがあり、熱気のある低域で、中域は少し熱気に滲んで聞こえやすいところがあります。低域弦楽は重みと厚みが適度にあり、濃厚感は充分でしょう。エレキベースはキックに比べると黒みが強くなく、深さの点で少し抑制的に聞こえますが、温かみがあり、ジンジンしたサウンドを聴かせてくれます。ブリブリ感もあるので、わりとエッジは活きが良く聞こえます。
中域下部はそれほど清潔ではありません。そのためとくにロックなどではボーカルは少しもやもやした中で聞こえる傾向にありますが、逆にポップスでは甘味や潤い感を感じさせてくれ、中域上部に透明感を感じさせてくれます。
たとえばAKINO Arai × AKINO from bless4「月明かりのMonologue」のような曲ではボーカルはリッチで、甘やかなボディを持って聞こえ、広がりとのびやかさのあるみずみずしく暖かい温度感のある声を楽しめます。ふくよかですが、ボーカルニュアンスと息の伸びはわずかに強調され、尖りは全くなく安定感がありながら、語尾にのびやかさがあり、ボーカルは活き活きと聞こえます。藤井風「優しさ」でも甘い吐息を伴った温かみのある抱擁感のあるボーカルを味わえますし、てこぴかり「ふたり少女」では穏やかで少し大人びた、ノスタルジックな少し濃い桃色の色づきのよいボイスが堪能できます。
ボーカル周りの楽器音の色づきも良く、適度な、しつこくないギラつきがあって、楽器音の音像はくっきりとした輪郭線を伴って描かれます。アコースティックギターを聴いてみると、少し濃い金色の色づきを伴う濃厚なサウンドがそこにあります。低域と中域下部の支えが音楽全体に安定感をもたらしており、充実感は高めです。
高域はピーク感が少なく、手がかりはわりとはっきりしていますが、シャープネスは抑えめで中域に調和的です。適度な静寂感がありますが、決して地味ではない高域で、光沢感はしっかりしているため、音場は暗くありません。しかし、高域はのびやかですが、それほど開放的ではなく、風通しは強くなく、どちらといえば閉じた音場のように思えます。
全体として見ると、中域に濃厚な甘味があり、わりとムード感を出すのがうまいイヤホンで、どちらかというとゆったりとした曲と相性が良さそうな雰囲気を受けます。パワフルなドラムが好きな人にもおすすめできます。
レコーディングシグネチャー
レコーディングシグネチャーの基本的な原理、楽しみ方については以下を参考にして下さい。
参考用にレコーディングシグネチャーを掲載します。自由音場補正済みです。ソースはFiiO M15を用いています。イヤーピースは標準イヤーピースのSサイズ、コーデックはaptXです。
レコーディングシグネチャーで使用している楽曲は私も大好きなゲームメーカー日本ファルコム様のものを使用させて頂いております。
JAZZ
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Sophisticated Fight / 英雄伝説 空の軌跡FC&SC スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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町「ペンタウァ」 / ファルコムベストサウンドコレクション -All in All- / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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Desire / The Songs of Zemeth ~Ys VI Vocal Version / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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花と風のうた / 「Zwei!!」 スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
OST
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Sophisticated Fight / 英雄伝説 空の軌跡FC Evolution オリジナルサウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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浮遊大陸アルジェス -Introduction- / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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QUATERA WOODS / イースVI -ナピシュテムの匣- オリジナル・サウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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永劫の夢、大空の記憶 -Online Version- (Bonus Track) / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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ユルギナイツヨサ / 日本ファルコム 英雄伝説 零の軌跡 スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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アプリエス神殿 / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
クラシック
- Sophisticated Fight / We Love 空の軌跡 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- FEENA / イース ピアノコレクション / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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第3部「白き魔女」: 白き魔女 / 交響曲「ガガーブトリロジー」 ~白き魔女~朱紅い雫~海の檻歌~ / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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組曲 LILIA (ファルコム ネオクラシック フロム スタディオズ イン ロンドンシティ) / ベリー・ベスト・オブ・イース / Copyright © Nihon Falcom Corporation
ロック
- Sophisticated Fight / 空の軌跡ざんまい / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- TO MAKE THE END OF BATTLE / Ys Ⅰ&Ⅱ ベストサウンドコレクション / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- The Decisive Collision / 英雄伝説 閃の軌跡 スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- GENS D'ARMES / イースVIII -Lacrimosa of DANA- オリジナルサウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- Mighty Obstacle (2003) / Music From The History Of Ys / Copyright © Nihon Falcom Corporation
総評
ウォームで聞き心地がよく、リッチで充実感のある甘いサウンドが好きなら、かなりおすすめできるイヤホンです。中域下部がやや豊満になりやすく、濁る感じはあるので、中域の清潔感を重視する人には向きませんが、逆にノスタルジックなセピアに色づく甘い音が好きな人にはかなり好まれるサウンドでしょう。男声・女声ともに甘くピーク感のない滑らかな声が楽しめます。
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