「フラッシュレビュー」はデータ中心の簡潔な内容で、ポイントを絞ってオーディオ製品を解説します。
今回取り上げる機種はnewspring NSE1000-Bです。
newspringは日特(NITTOKU)のオーディオブランドです。日特は35年以上にわたり、日本のオーディオブランドのOEM/ODMを手掛けてきた日本のオーディオ界の縁の下の力持ちです。
その日特が自社ブランドとしてオーディオ事業に参加した第一号がnewspring NSE1000シリーズになります。NSE1000はいくつかの素材違いでリリースされていますが、Newspring NSE1000-Bはハウジングに真鍮を採用したバリエーションモデルになります。
なおこのレビューはONZO様の素晴らしいサービスを利用して作成されました。感謝とともにONZO様のますますのご発展をお祈り申し上げます。
ONZO様のサービスについて興味がある方は以下をご参照下さい。
基本スペック
- 周波数特性:5Hz~66000Hz
- インピーダンス:16Ω
- 感度:105dB
- ケーブルコネクタ:mmcx
パッケージ
ONZOのレンタルバージョンなので、正規版とはパッケージ内容が違う可能性があります。パッケージは10万円以上という価格を考えると、決してチープとは言えませんが、意外と味気ないです。独特な付属品としてmmcx取り外し器がついているのは面白いです。
イヤホン本体のビルドクオリティは悪くないですが、デザインが保守的で、あまり面白みを感じません。10万円以上もするイヤホンのくせして、付属ケーブルのタッチノイズがひどいのもなかなか幻滅させてくれます。いいケーブルなのかもしれませんが、イライラするのでリケーブルした方がいいでしょう。
装着サンプル
耳への収まりは良く、遮音性も良好です。
音質
測定機材
- SAMURA HATS Type3500RHRシステム:HEAD & TORSO、左右S-Typeイヤーモデル(Type4565/4566:IEC60268-7準拠)
- AWA社製Type6162 711イヤーシミュレータ
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- アナライザソフト:TypeDSSF3-L
※イヤーシミュレーターの特性上、20hz以下と16khz以上の信頼性は高くありません。
周波数特性
上から順に、
- [標準イヤーピースS装着時]左右別
- [標準イヤーピースS装着時]左右平均
- [標準イヤーピースS装着時]左右別(自由音場補正済み)
- [標準イヤーピースS装着時]左右平均(自由音場補正済み)
※当ブログの自由音場補正については機材に合わせてサザン音響さんから提供された補正値を使用しております。
率直に言って、左右差がありすぎて標準イヤーピースでは本来のサウンドシグネチャーがどんな形なのかさっぱりわかりませんが、おそらく右が正解に近いでしょう。だとしたら低域寄りのドンシャリです。
そもそも測定前に耳に入れた段階で音場が明らかに傾いて聞こえるんで、「おかしいなぁ」と思い、左右付け替えてシュア掛けして聴くと、音場の傾きが逆に聞こえるんで、露骨な左右差があるのかなと予想しました。実際測定してみると、標準イヤーピースではサイズを変えても装着感を調整しても左右差は消えないので、これは個体として左右差があるとしか思えません。
ただこのnewspringというメーカーは定評があるという触れ込みですし、プロモーション動画などでは出荷時にしっかり左右をペアリングしているという話なので、ここまで露骨に左右差が出る製品を出荷するとは考えづらいです。しかし、この段階で測定用HATSのほうの相性の問題を考えて、すでに録音用HATSでも測定し、左右差があることは確認してたので、測定側のトラブルとも考えられませんでした。だいいち、聴感上明らかに左右がずれています。どうもしっくりこないんですよね。
で、いろいろ検証してたんですが、その過程でわりと面白い事実がわかりました。どうも標準イヤーピースがよくありません。
検証の最初はスパイラルドットのSサイズで測定してみたんですが、まあ以下のように標準イヤーピースと同じような左右差がそのまま出ています。
ところが、いろいろ試してた中に、何についてきたのかわからないんですが、ゴム栓みたいな硬いシリコンの完全ワイヤレスイヤホン用のイヤーピースがあったんで、それを装着して測定すると劇的に左右差が改善されました。
ただ私にはゴム栓イヤーピースの装着感が合わないので、完全ワイヤレスイヤホン用のものに目星を合わせて、ほかのイヤーピースで左右差が少ないものを探すと、SpinFit CP360やNUARL Block Fit+などがありました。
ここまでの音質傾向の比較をまとめると以下のようになります。右側はすべてのイヤーピースでほとんど変わらないのですが、左側がイヤーピースによって劇的に変わり、その差はわりと大きいようです。どうしてこうなるのか、いくつか仮説らしきものを考えてみましたが、率直に言って、よくわからないとしておくのがよい気がします。
そういうわけで、私の測定値と聴感上の印象から述べますと、このイヤホンを使っていて音の定位が悪いと感じる場合は、SpinFit CP360やNUARL Block Ear+あたりに変えるのをおすすめします。
ただぶっちゃけた話、イヤホンに左右差が結構あっても、おそらく大抵の人はそれほど違和感なく音楽を聴けます。私だって、このNSE1000-Bくらい左右差があれば、変な音だなぁとは思いますが、わりと左右差があっても普通の音楽を聴いていて違和感を感じることはほとんどありません。ピンクノイズとか聞くとわかりやすいですけどね。だいいち、左右差が的確にわかり、それにこだわるほど定位や音にうるさい人が、不完全極まりない音響機器であるイヤホンなんかで音楽を聴くわけがないと思います。
どちらにせよ今回手に入れたnewspring NSE1000-Bの個体はまともな個体ではなさそうなので、レビューはここまでにします。この個体を長く聴いてると変な聞き癖が付きそうなので。
追記:ケーブルの検証
標準ケーブルが何か悪さをしている可能性があるので、リケーブルして測定差が出るか検証しました。リケーブル対象はKBEAR KBX4904(純銀/4芯)です。イヤーピースは標準イヤーピースを用いました。
可能性は低いと思ってましたが、やはりケーブルが原因ではないようです。
追記:左右を入れ替えて検証
測定系のトラブルの可能性があったので、左右を入れ替えても左右差が出るか確認しました。ケーブルの左右を付け替え、右耳に左耳イヤホンを上下逆転して突っ込み、左耳に右耳イヤホンを上下逆転して突っ込むというように、シュア掛けスタイルで測定します。
やはり左右差がほぼ逆転して出現しましたが、興味深いことに、標準イヤーピースを使用したにもかかわらず、左右差が減っています。この結果はいささか意外でした。
そうすると最初の標準イヤーピースの測定の際の装着感が緩かった可能性があり、今回はきつめにねじ込んで測定してみました。結果は以下のように左右差を減少させることに成功しました。スパイラルドットなどでも同じような測定結果が出たので油断しましたが、最初の測定結果は装着感が甘かったとみるのが適当かもしれません。ただこれに気づくまで標準イヤーピースで何度も測定しましたが、最初の測定値に近い結果ばかり出てましたので、普通につけると最初のイヤーピースの感じになりやすいと思われます。つまり、装着感次第では左右差を減らせるという言い方もできます。
さて、左右逆転と左右正常の周波数測定値の平均を重ねてみるとかなりぴったりと重なるので、測定系の問題の可能性は低いと思われます。
レコーディングシグネチャー
レコーディングシグネチャーの基本的な原理、楽しみ方については以下を参考にして下さい。
参考用にレコーディングシグネチャーを掲載します。ソースはFiiO M15を用いています。イヤーピースは標準イヤーピース SサイズとNUARL Block Ear+ Sサイズを使い、ゲインは高設定です。
レコーディングシグネチャーで使用している楽曲は私も大好きなゲームメーカー日本ファルコム様のものを使用させて頂いております。
録音機材
- SAMREC HATS Type2500RSシステム:HEAD & TORSO、Type4172マイクX2搭載
- 5055Prot 実時間2ch 自由音場補正フィルター(特注)
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- レコーディングソフト:Audacity
GENS D'ARMES(ロック系)
GENS D'ARMES / イースVIII -Lacrimosa of DANA- オリジナルサウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- 原曲
- Newspring NSE1000-B(標準イヤーピース)
- Newspring NSE1000-B(NUARL Block Ear+)
ケノーピ火山(JAZZ系)
ケノーピ火山 / 「Zwei!!」 スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- 原曲
- Newspring NSE1000-B(標準イヤーピース)
- Newspring NSE1000-B(NUARL Block Ear+)
浮遊大陸アルジェス -Introduction-(OST系)
浮遊大陸アルジェス -Introduction- / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- 原曲
- Newspring NSE1000-B(標準イヤーピース)
- Newspring NSE1000-B(NUARL Block Ear+)
愛を感じていたい「終焉」(ポップス系)
愛を感じていたい「終焉」 / オリジナル・サウンドトラック 「海の檻歌」~後編~ / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- 原曲
- Newspring NSE1000-B(標準イヤーピース)
- Newspring NSE1000-B(NUARL Block Ear+)
総評
newspring NSE1000-Bはおそらく低域がやや持ち上がった典型的なU字弱ドンシャリの音質を持っていると思われます。基本的なチューニング方向はNSE1000-Aとおそらくほとんど変わらず、高域を引っ込めてバランスを調整したように思われます。ブラスらしい全体的に引き締まった芯のあるサウンドを感じます。
万全のNSE1000-Bの音を聞いたわけではないと思いますので、最終的な評価は控えますが、今のところ10万円払うようなイヤホンではない印象を受けます。このメーカーはイヤホンパッケージの全体像を軽視しているような雰囲気があり、とくに装着感と音質全般に関わる音の出口であるイヤーピースはもっと作り込むべきでしょう。10万円のイヤホンを買うようなオーディオファンならアフターマーケットのイヤーピースを自分で探すだろうと思っているのかもしれませんが、個人的にはむしろ高級なイヤホンほどイヤーピースは豊富に付属すべきですし、イヤホン好きならば当然イヤーピースの重要性はわかっているはずです。そうした点からも、このメーカーが新規参入者とは思えないほど気鋭に乏しく、とにかく保守的な発想でイヤホンを作っている印象はぬぐえません。
個人的にはわりと期待していたのですが、どうもこのメーカーの製品には「心躍る」要素がありません。10万円の値札で出すなら、もっとこれでもかと魅力的な何かを詰め込んでほしいと思います。
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