【1】多様化するミドルレンジDAP
今回の特集はデジタルオーディオプレーヤーを扱います。この記事では私が個人的観点で選んだおすすめ機種を紹介しますが、しかし、その前にどういう選好で私が今回の特集記事のDAPを選んだかを説明することは有益であるように思われますので、しばし説明させていただきたく思います。
ミドルレンジからは本格的に高音質に
今回はミドルレンジ帯のDAPを紹介する記事となりますが、まずDAPのミドルレンジ帯とはどのくらいかということは問題になるかと思います。私の基準では今のところ10万円以上はハイエンドという扱いなので、ミドルレンジはだいたい5万円~10万円くらいになります。
この価格帯のDAPはスマホでは使われないような、ポータブルオーディオ向けの上級な専用DACチップを搭載している機種ばかりになり、音質的には明らかにスマホの最上級機種にも勝るくらいです。個人的にGRANBEATがなんだかんだいって使い勝手と音質のバランスで最高のDAPなんですが、Androidのバージョンが古いのでスマホで乗り換え先を探しましたが、試聴した感じ、現行のスマホではGRANBEAT越えはありません。
少なくとも当分の間はミドルレンジDAP以上の音質のスマホは登場しないと思われ、その点は明らかなこの価格帯のDAPのアドバンテージになります。エントリークラスDAPでもスマホに対してアドバンテージがありますが、人によってはそのアドバンテージをそれほど感じられないかも知れません。しかし、ミドルレンジ価格帯のDAPは明らかにスマホの音質との違いがはっきりわかるレベルです。メインDAPとして持つなら、この価格帯くらいの機種が個人的にはおすすめです。
ミドルレンジDAP製品の特徴
最近のミドルレンジDAPの特徴は以下のようになっています。
- スマホを明らかに越える上質な音質。
- 音質重視のため、電池持ちやワイヤレス対応などはよくないものも多い。
- バランス接続があるのが普通。
ミドルレンジ最強DAPは個人的にGRANBEAT
ちなみにこの価格帯で選ぶなら、個人的に使いやすさでは圧倒的にGRANBEATです。いろいろDAPを使ってますが、私の中ではこの機種が抜群に使いやすく、遊べます。ポータブル用としてはそれまではSONY NW-ZX300がお気に入りでしたが、GRANBEAT手に入れてからはNW-ZX300の存在感ほぼ皆無になりました。どちらかというとSONY製品はNW-A55が優秀すぎるっていうね。GRANBEATは一気に私の手持ちでは最も使用頻度が低いDAPの仲間入り。人によって使い勝手の評価に差はあると思いますので、一概には言えませんが、私の中ではGRANBEATが「総合的にはあらゆるDAPの中で最強」というのは今のところ不動です。
音質などを考えると、Cayin N6IIやHiby R6 Proのほうが満足度が高いこともあり、実際Hiby R6 Proの音は最高に好みですが、GRANBEATはイコライザーが私にとって抜群に使いやすく、通信相性があるあたりとか不満も多いものの、なんだかんだ言って楽しみが多くてGRANBEATが手放せません。
GRANBEATの後継機種を待っていたのですが、最近のONKYOは相当余裕がないらしく、後継機種は少なくとも2019年中は出ないとか。そういうわけでCayin N6IIやHiby R6 Proを買ったわけで、それらはよく選んで買ったので満足度は当然高いのですが、総合するとGRANBEATが一番というね。GRANBEATが壊れたら本当に困ります。
元々このGRANBEATに特別な思い入れなんかなくて、Bang&Olufsen E8 2.0のレビューするときに、相性が良さそうなのとスマホだと後々レビュー用に便利そうだからって理由で買ったんですけど、見事にハマりました。DP-X1Aとも比較したんですけど、GRANBEATのほうが欠点も含めて、総合的に私の趣向に合ってたのでDP-X1Aはすぐ手放しました。ONKYO系最強は私の中ではGRANBEAT。私の中でのDAPの概念を変えた恐るべき機種です。
そういうわけで「どれか1つDAP買うならどれ?」って聞かれたら、迷いなく「GRANBEATですね」って答えるんですけど、かといってGRANBEATがDAPとして必ずしも万能というわけではなくて、音質も価格帯でとりわけ良いというわけではないことを知ってるので、その良さを言語化して伝えるのはなかなか難しいです。結局、私の使い方ではGRANBEATが最強すぎるという、わかるんだかわからないんだか微妙なまとめ方をするしかありません。
【2】おすすめのミドルレンジクラスDAP
そういうわけで、今回はミドルレンジクラスのDAPの中から、とくにおすすめする機種を選り抜きました。
SONY NW-ZX300
- 高音 6/10
- 中音 6/10
- 低音 7/10
- 音場 6/10
- 情報量 7/10
- 音の傾向 濃厚系
- アプリ対応力 1/10
- 通信対応力 7/10
- 対応コーデック SBC / aptX / aptX HD / LDAC
- 拡張性 64GB (+128GB)
- DAC 独自
- ハイレゾ 384khz/32bit DSD256
- バランス接続 4.4mm
- 実売価格 5万円前後
SONY系のミドルレンジDAP。バランス接続可能になったのが下位機種のNW-A50シリーズとの大きな違いで、本格的に有線イヤホンの上位機種を楽しむなら、この機種を買うことをおすすめする。さらに上位のNW-WM1クラスになると携行性に難が出てくるので、この機種はある意味最も実用性が高い。電池持ちはミドルレンジDAPの中でも抜群に良く、使い勝手の良さが何よりの魅力。
音質はNW-A55に比べて輪郭も太さもあり、低域の重厚感も増した音を奏で、シャープネスはほどよく抑えられたややマイルド系サウンドになっている。そのため価格帯のほかのDAPと比べても濃厚感のある音となっており、ボリューム感重視で充実して音楽を聴きたい人にはかなり有力な選択肢。一方で、見通し感重視の人には、高域までクリアな感触があるNW-A55の方が印象が良かったりするかも知れない。
SONY独自デザインのOSとUIで、転送ケーブルまで独自規格でアプリ対応含め全てが前時代的なのが欠点。
ONKYO GRANBEAT DP-CMX1
- 高音 7/10
- 中音 7/10
- 低音 6/10
- 音場 7/10
- 情報量 7/10
- 音の傾向 すっきり系
- アプリ対応力 10/10
- 通信対応力 8/10
- 対応コーデック SBC / aptX / aptX HD
- 拡張性 128GB (+256GB)
- DAC ES9018C2M×2
- ハイレゾ 384khz/24bit DSD256
- バランス接続 2.5mm
- 実売価格 5万円前後
この機種はDAPというよりスマホ。そのためDAPとして考えると電池容量は抜群に良く、余計なゲームアプリなどを入れずにDAPに特化すれば電池持ちは非常に良い。スマホなのでアプリ対応も良く、電池持ちと使い勝手を両立させるなら現状最も有力候補。標準のストレージ容量に優れていることも美点として挙げられる。ただし、Androidのバージョンは古いので最新のアプリに対応できなくなってきているのは欠点になる。
ONKYO系DAPは通信的な相性も多いが、その欠点も引きずってしまっている。完全ワイヤレスイヤホンの一部とはまともに通信できないこともある。
音質はESS系らしく、解像度感重視ですっきりしたサウンド。ほぼほぼフラットでクセがない上に、HF Playerにカスタマイズが加えられた専用プレーヤーアプリはイコライザー機能が優秀で、プリセットを使えばどんなジャンルでも万能に味わえる。このイコライザーはワイヤレスオーディオにも適用される。
Astell&Kern AK70 mkII
- 高音 6/10
- 中音 7/10
- 低音 7/10
- 音場 6/10
- 情報量 6/10
- 音の傾向 すっきり系
- アプリ対応力 5/10
- 通信対応力 7/10
- 対応コーデック SBC / aptX / aptX HD
- 拡張性 64GB (+400GB)
- DAC CS4398×2
- ハイレゾ 384khz/32bit DSD64
- バランス接続 2.5mm
- 実売価格 5万円前後
Astell&Kernブランドの現行のエントリーモデルDAPだが、価格的にも実力でもミドルレンジDAP級。スペックやデザイン的にはやや古い印象は否めない。
音質的な評価が高いAstell&Kernらしく、エントリークラスでもクオリティは高めで、色づけの少ないサウンド。ボーカル表現は定評があり、やや厚めにしっかり聞かせてくれる。Astell&Kernのサウンドの特徴として見通し感と音の輪郭、各音域のバランスが良いので、エントリークラスでも解像度が高い印象を受けること。ドンシャリのようにコントラスト感を強調するところがなく、メリハリをあまり強調する感じでないにも関わらず、輪郭や見通し感がよく、実際はメリハリ感が感じられる。音が上品なのにメリハリ感があるというこのギャップ萌えさせてくれる音に惹かれる人は多い。というより私は惹かれた。
次に紹介する上位機種のSR15とサウンドキャラクターにあまり差が無いので、コスパ重視でこちらを選んでもよい。電池持ちだけはあまり良くない。
a&norma SR15
- 高音 7/10
- 中音 7/10
- 低音 7/10
- 音場 7/10
- 情報量 7/10
- 音の傾向 すっきり系
- アプリ対応力 5/10
- 通信対応力 7/10
- 対応コーデック SBC / aptX / aptX HD
- 拡張性 64GB (+400GB)
- DAC CS43198×2
- ハイレゾ 768khz/32bit DSD256
- バランス接続 2.5mm
- 実売価格 8万円前後
個人的にこの機種はAK70mkⅡの置き換えかと思っていたんだけど、そうじゃなくてAK300あたりの置き換えっぽい。
音質は若干中域を強調するようで、なめらかな質感のジェントルサウンドといった印象。音の広がりを感じさせてくれる濃厚系の色合いを持ちつつ、しかし、見通し感と輪郭もよくて音に太すぎる感じがなく、意外とすっきり聴けるというなかなか凝ったバランス感覚を持っている。意外と風味を出すんだけど、濃厚にならずになんとなく淡泊という音質は意外とお気に入り。実際の解像度以上に解像度感があってコスパ良く思えるところもある。ミドルレンジ帯ボーカル最強伝説の噂すらある。
斜めのデザインの画面で最初は奇抜だなと思ったけど、これはなかなか操作性がよくて使い心地も上々。電池持ちだけはあまりよくない。
個人的にはあまり後先考えずに、ウマ娘コラボに飛びついて買った機種だけど、結構お気に入り。お気に入りだけど、使い勝手は普通でNW-ZX300のほうが使いやすい。音は好き。
FiiO M11
- 高音 7/10
- 中音 7/10
- 低音 7/10
- 音場 7/10
- 情報量 7/10
- 音の傾向 すっきり系
- アプリ対応力 6/10
- 通信対応力 7/10
- 対応コーデック SBC / aptX / aptX HD / LDAC / HWA
- 拡張性 32GB (+4TB)
- DAC AK4493EQ×2
- ハイレゾ 384khz/32bit DSD256
- バランス接続 2.5mm / 4.4mm
- 実売価格 5万円前後
FiiOのMシリーズの2019年8月現在のフラッグシップだが、位置づけ的にはミドルレンジDAP。Mシリーズは以前のXシリーズと比べて使い勝手が格段に向上しており、SONY製DAPとも充分に勝負できる品質になった。それでもまだいろいろクセがあるけど。
音質は明るめで伸びの良いすっきり系。ESS系のDACに比べると解像感はそれほどでもないかなと思うが、下位機種のように濃厚感を強調する感じがなく、比較的ニュートラルで解像度が良く感じられる。
OSはAndroidベースの独自仕様で、スマホアプリをがんがん入れることはできない。完全ワイヤレスイヤホンのアプリも対応が悪い。よって、せっかくワイヤレス接続の電池持ちがよさそうなのに、完全ワイヤレスイヤホンとの相性は高くなさそうなところが非常に残念。仕様面で非常に魅力的な機種だが、相変わらずのFiiOっぽい使い勝手の悪さも感じるので、個人的にはスルーした。
COWON PLENUE D2
- 高音 7/10
- 中音 7/10
- 低音 7/10
- 音場 7/10
- 情報量 7/10
- 音の傾向 すっきり系
- アプリ対応力 1/10
- 通信対応力 0/10
- 対応コーデック なし
- 拡張性 64GB (+128GB)
- DAC CS43131×2
- ハイレゾ 192khz/24bit DSD128
- バランス接続 2.5mm
- 実売価格 4万円前後
COWONのPLENUE D2は有線イヤホン向けのDAPとしては非常に魅力的。少なくともバッテリー性能は抜群に優秀で、MP3品質で最大45時間、ハイレゾ音源でも30時間程度の再生時間を誇っている。
音質もすっきりと透明感を重視して見通しが良いながら、中域で甘味を出すことも忘れない品の良いサウンド。さらに40種類以上の優れたイコライザー機能を持つJetEffectが使えるほか、5種類のDACフィルターを使うことができる。イコライザーはともかく、DACフィルターを変更可能なDAPは稀。
一方でこの機種はあらゆる意味で前時代的という明確な欠点がある。Wifi機能はなく、ワイヤレスオーディオに対応せず、UIは古くさく、ハイレゾ再生能力も中途半端。現在の水準だと384khz/32bit DSD256まで対応するのがミドルレンジ帯のDAPとして一つの指標となっているが、これを満たしていない。最近は一般的になっているUSB-DAC機能も搭載していない。有線イヤホン/ヘッドホン相手には真のポータブル性を発揮してくれるものの、完全ワイヤレス/サブスクの現代的な音楽環境に全く対応していない。したがって、メインDAPとしてこれを選ぶのは、それほどおすすめできる選択肢ではない。
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