今回取り上げる機種は最新の完全ワイヤレスイヤホン、iTeknic IK-BH006です。
iTeknicはTaoTronicsやRAVPowerなどを展開するSunvalleyグループの子会社です。同グループの音響関連の主力であるTaoTronicsと独立している理由はわかりませんが、より低価格帯で製品を展開している印象があります。
audio-sound @ hatenaはこの機種を「audio-sound @ hatena Highly Recommended」として、大多数の人にとって満足度が高いオーディオ製品であると推奨します。
基本スペック
- 連続/最大再生時間:5h/30h
- 防水性能:IPX7
- 対応コーデック:AAC/SBC
- 技適番号:204-920517
iTeknic IK-BH006の特徴
ワイヤレス充電に対応
iTeknic IK-BH006の充電ケースはワイヤレス充電に対応しています。ただし、Qi規格ロゴはありません。Qi規格認証には一定の審査などが必要なため、一部メーカーはこれを省略していますが、大抵はQi規格に対応したワイヤレス充電器を用いれば問題なく置くだけ充電がます。
防水性能IPX7
iTeknic IK-BH006の防水性能はIPX7です。この防水性能はIPX等級では最高等級になっており、短時間であれば水没させてもイヤホンが故障することはありません。水たまりに落としても平気なので、激しい雨の中でも使えますし、水辺のような場所で使っていても安心です。
低消費電力チップAB1532+複合ダイアフラムによる高音質
iTeknicはAiroha社の通信SoC AB1532を内蔵しており、低消費電力で安定した安定した接続品質を実現しています。またPEEK+PUの複合ダイアフラムにより、「低音から高音までダイナミックさとクリアさを兼ね備えたバランスよいHi-Fiクオリティーのサウンド」を実現し、透き通った高音域と正確に調律された没入感の溢れるサウンドを生み出すとされています。
パッケージ
パッケージは価格帯では標準的なレベルです。パッケージデザインはiTeknicの共通デザインで、シンプルです。TaoTronics製品とほぼ変わりないデザインで、TaoTronicsがオレンジを基調としているのに対し、こちらは環境に配慮された紙を中心素材としたエコパッケージです。
付属品にはイヤーピースの替え、充電用USBケーブル(Type-C)、説明書などが含まれます。
装着サンプル
ソラマメ型デザインのイヤホンは一般的に耳への収まりは悪くないと思われますが、人によっては十分に安定感を得られるほど深くまで挿入されない感覚があるかもしれません。
LEDは曲再生中に穏やかに明滅するので、もし光るのを嫌な場合はご注意ください。派手な光り方はしませんが、暗がりでは目立つでしょう。
接続品質
AACでCayin N6II/E02と接続してテストしました。価格帯では優秀な接続品質です。人混みに行ってないのでわかりませんが、家庭内では安定しています。距離耐性は優秀で、5mくらい離れてもシームレスでそのままつながっています。遮蔽物があっても接続は維持され、全く切断はありませんでした。
ホワイトノイズはわずかにあるかもしれませんが、おそらくほとんどの人が気になりません。
インターフェース/操作方法
操作インターフェースはフェースプレート部分にあり、タッチ式です。
電源ON
ケースの蓋を開くと、自動で電源ONになります。
またマルチファンクションボタンを長押しすることで手動で電源ONにできます。
電源OFF
イヤホンをケースに収納し、蓋を閉じると自動で電源OFFになります。
また10分以上イヤホンに接続がない場合、自動で電源OFFします。
ペアリング
イヤホンは接続先がないと自動でペアリングモードになります。
リセット方法
イヤホンをケースに収納して、蓋を一度閉じてから開け、左右のマルチファンクションボタンを同時に10秒間長押しします。すると右側のLEDインジケーターが白色で3回点滅したらリセット成功です。
曲再生/停止
左右どちらかのマルチファンクションボタンを2回タップします。
曲送り
右耳側のマルチファンクションボタンを3回タップします。
曲戻し
左耳側のマルチファンクションボタンを3回タップします。
音量を上げる
右耳側のマルチファンクションボタンを1回タップします。
音量を下げる
左耳側のマルチファンクションボタンを1回タップします。
通話応答
着信時に左右どちらかのマルチファンクションボタンを2回タップします。
通話終了
通話中に左右どちらかのマルチファンクションボタンを2回タップします。
着信拒否
着信時に左右どちらかのマルチファンクションボタンを2秒長押しします。
音声アシスタントの起動
左右どちらかのマルチファンクションボタンを2秒長押しします。
音質
測定機材
- SAMURA HATS Type3500RHRシステム:HEAD & TORSO、左右S-Typeイヤーモデル(Type4565/4566:IEC60268-7準拠)
- AWA社製Type6162 711イヤーシミュレータ
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- アナライザソフト:TypeDSSF3-L/RightMark Audio Analyzer
※イヤーシミュレーターの特性上、20hz以下と16khz以上の信頼性は高くありません。
周波数特性
マガジン専用コンテンツになります。
サウンドシグネチャー解説
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THD+N特性
マガジン専用コンテンツになります。
音質解説
このイヤホンはかなりフラットに近いチューニングになっています。しかし、中域が少し前進し、低域にはわずかな凹凸があり、中域上部には静寂感があるなど、音楽は平板な雰囲気に聞こえない躍動感のあるチューニングがされています。
※各評価項目はあくまでリファレンスサウンド(当サイトの機器測定における自由音場フラット)から見ての周波数特性データと私の聴感に基づく評価です。たとえば迫力のある低域を重視する人は「存在感」「太さ」「重み」「臨場感」が高い低域を好むと思いますが、このような音は本来最も重視されるべき「原音忠実度」はおそらくあまり高くありません。
再生機器にとって「原音忠実性」こそが最も重視されるべきというのはオーディオ界隈の共通認識であると思われますので、本ブログの音響機器の評価も「原音忠実性」を最も重視しています。
「原音忠実度」は基本的に高ければ高い方が多くの人にとって良いと思われますが、ほかの評価値は中間値である「B」を離れるほど原音忠実性が薄れます。そのため「S」や「A」はその音要素を好む人には最も心地よい音かも知れませんが、他の人には不快かも知れません。そして不快な音要素が決まっている人は、むしろその音要素が低い評価のものを選ぶとより心地よく音楽を楽しめると思います。
このように、当ブログでは原音忠実(リファレンスサウンド)からの距離を提示することで効率的にあなたの好みに合ったオーディオ機器を発見できるように工夫しています。
評価が高ければ高いだけ良い評価値というのは「原音忠実度」「クリア感」「おすすめ度」で、とくに「原音忠実度」+「クリア感」がオーディオ製品としての単純な優秀性を表します。
「原音忠実再生」についての参考動画:創造の館「いい音とは何か」
※以下のリンク先はpdfです。
低域(原音忠実度:B+/臨場感:B/深さ:B+/重み:B+/太さ:B/存在感:B)
低域は深さに強調がある、比較的臨場感に優れたサウンドを持っています。
低域は深さがあり、重みがあって安定感が感じられ、エレキベースとドラムキックの描き分けも良好です。中域が前進しているため、低域はそれほど目立ちすぎず、また輪郭は少し硬く聞こえるために、音にタイトな引き締まり感があります。バスドラムは私の好みよりは少し薄く、低域弦楽は少し明るく聞こえる傾向があります。低域は山谷があり、グルーヴ感がわずかに強調されます。
中域(原音忠実度:A-/厚み:B/明るさ:B+/硬さ:B+/存在感:B+)
中域は前進的で、低域からは比較的自然につながっています。
中域は構造的にはウォームで安定的なので、ボーカルは相対的に見れば理性的でナチュラルで自然に聞こえますが、わずかに息が強調され、ハスキーに聞こえるかもしれません。中域の音は硬質で、基本的に構築感のあるサウンドですが、中域上部の落ち着きによって適度な静寂感が出て聞き心地が安定しています。スネアやタムは少し質感が硬くパワフルですが、かっつり完全に固まる感じはなく、響きにしなやかさがあります。このしなやかな感じが、硬めの少しきつく聞こえるかもしれない構築的な中域を聴きやすくしており、負担感がうまく消されています。
この中域は個人的によくできている気がします。音量を上げると、ボーカルが素直に前面に出てきますが、シャウティになることがありません。
高域(原音忠実度:C+/艶やかさ:C+/鋭さ:C/脆さ:B+/荒さ:C-/繊細さ:B/存在感:B-)
高域は脆さだけは強調はされますが、わりと静かで地味です。
脆さの強調によって、わずかに音楽は繊細に聞こえやすいですが、耳にひっかかるほど目立つことはありません。シンバルの音はシャリシャリというよりはシュリシュリに近い、静かで清潔な印象で聞こえます。シンバルクラッシュも適正音量より音量が大きい時でさえ、ほとんど透明でシルキーに聞こえるので、不快要素になる可能性はなく、とても安定しています。ただし、ギラツキ感などは少し足りないので、高域好きの人には基本的にちょっと地味すぎるかもしれません。
グルーヴ/音場/クリア感(グルーヴの中心:中低域~中域/音場:B+/クリア感:C+)
※一般にグルーヴの最も大きいところが最も活き活きと聞こえるので、音楽の中心になります。グルーヴの中心範囲の大きさは変動的です。グルーヴの中心は個人の音楽の好みを決定し、音響機器選択のヒントになります。音響機器のグルーヴの中心が個人の好みと離れている場合、むしろその不自然さが強調され、その音響機器を楽しくないと感じる可能性が高いです。音場の評価はBが自然な広さです。クリア感の評価は全高調波歪の測定値を参照して決めています。
このイヤホンのグルーヴの中心は一般に中高域から高域に存在すると思われます。
音場は奥行きが少し広く、深さで優れ、高さと幅もわずかに広く聞こえます。
音質総評(原音忠実度:B+/おすすめ度:B+/個人的な好み:A)
全体的にバランスがよく、フラットに近く、中域が構築的にしっかり聞こえ、静寂感もある聞き心地の良いサウンドです。ただし、基本的に2020年12月の段階で、SoCなど基本構成が1世代前の機種になるので、相応のオーディオスペックの差が存在してしまうことは事実で、最新のエントリーモデルであるSoundPEATS SonicやTaoTronics SoundLiberty 97などに比べると、若干音のクリア感に欠ける印象を受けるでしょう。
個人的にはかなり好みの音質で、低域は若干軽っぽいとは思いますが、中域にしっかりフォーカスされ、明るく見通しが良い、音場が広く感じられる点がとても気に入っています。中域が広くきれいで、ボーカル中心で聴きたいときにはとても役立ってくれます。
TaoTronics SoundLiberty 77との違い
TaoTronics SoundLiberty 77とはイヤホンのデザインは共通のようですが、ケースデザインや付属品などが異なっています。とくにSoundLiberty 77は充電端子がUSB Micro-Bですが、IK-BH006はType-Cです。
音質の詳しい違いについては有料記事に書いています。基本的により明るく派手な音が好きならSoundLiberty 77を選ぶのが良いでしょう。
音質的な特徴
美点
- 全体的な原音忠実度が比較的高い
- 音の質感がわりと自然
- 静寂感があって聞きやすい
- 少し繊細で爽やか
- 前面に出てくるボーカル
- 広く聞こえる中域
- 深みがあり、質感的にも原音忠実性が高い低域
- ほどよい臨場感
- 構築的なサウンド
- 甘みのある中域
- 全体的に強調されるグルーヴ感
- しなやかなサウンド
欠点
- 高域が少しおとなしく、派手さに欠ける
- 色気に欠ける
- 人によっては低域の量感に不足が感じる可能性
- 人によっては厚みに欠ける中域
音楽鑑賞
FLOW「DAYS」
かなり中域が構築的にきれいに聞こえますが、音が硬くてカツカツしすぎることがなく、少し遠ざかりながらしなやかに音が抜ける空間性が感じられます。難点があるとすれば、高域がわずかにおとなしすぎて、色気は少し足りないと思う可能性がありますが、そのかわり、なめらかで聞き心地の良い適度に地味なサウンドが味わえます。また低域は若干薄味ですが、そのおかげで中域よりうるさくなることがないので、とくに中域をしっかり聞きたい人にとって、かなり魅力的なイヤホンに思えるはずです。中域にせまっ苦しい感じは全くありません。
音量を上げても子音がギスギスすることがほぼないのも美点でしょう。気持ちよく音量を上げることができます。しかし、野暮なことを言うようですが、気持ち良い音でも音量の上げすぎには注意しましょう。
平井堅「大きな古時計(Ken's Bar version)」
ピアノを聴くと少し明るく硬い感じが目立つ音ですが、空間に静寂感があるので、意外としっとり聞けます。ボーカルはのびやかですが、色気は少し抑え目で、音量を上げてもうるさくがなることはありません。この曲のボーカルは前面に出てきて、少しも隠されず、あますところなく聞き取れる感覚があります。暗さが足りないので、ムード感という点では人によって不足を感じることがあるかもしれないところだけは場合によって難点になるでしょう。暗いサウンドが好きな人にはちょっと物足りなさが出ると思います。
鈴木みのり「Crosswalk」
この曲は個人的に大好きなんですが、このイヤホンのこの曲のボーカルの聴かせ方はすごく好きですね。SoundLiberty 97のような媚びたツヤツヤした感じもいいんですけど、こちらの声はより清純に聞こえるというか、素直な甘みがあります。ピアノもきれいに硬く聞こえるんですが、煌めきすぎないのでボーカルを邪魔することがありません。ボーカル周辺は適度に賑やかですが、静寂感も少し強いので落ち着きも同じくらい感じられ、ボーカルは本当に生き生きと聞こえます。色香のあるエロティシズムとは違う、もっと健康的で素直な歌声が楽しめます。
レコーディングシグネチャー
レコーディングシグネチャーの基本的な原理、楽しみ方については以下を参考にして下さい。
参考用にレコーディングシグネチャーを掲載します。ソースはFiiO M15を用いています。使用イヤーピースは標準イヤーピースのSサイズで、コーデックはSBCです。
レコーディングシグネチャーで使用している楽曲は私も大好きなゲームメーカー日本ファルコム様のものを使用させて頂いております。
録音機材
- SAMREC HATS Type2500RSシステム:HEAD & TORSO、Type4172マイクX2搭載
- 5055Prot 実時間2ch 自由音場補正フィルター(特注)
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- レコーディングソフト:Audacity
GENS D'ARMES(ロック系)
GENS D'ARMES / イースVIII -Lacrimosa of DANA- オリジナルサウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
白き魔女(クラシック系)
第3部「白き魔女」: 白き魔女 / 交響曲「ガガーブトリロジー」 ~白き魔女~朱紅い雫~海の檻歌~ / Copyright © Nihon Falcom Corporation
The Silver Will -ギンノイシ-(EDM系)
The Silver Will -ギンノイシ- / 空の軌跡ざんまい / Copyright © Nihon Falcom Corporation
Sophisticated Fight(JAZZ系)
Sophisticated Fight / 英雄伝説 空の軌跡FC&SC スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
浮遊大陸アルジェス -Introduction-(OST系)
浮遊大陸アルジェス -Introduction- / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
総評
iTeknic IK-BH006はその元気でしなやかなサウンドによって活力を与えてくれます。前面に出てくるボーカルは健康的でスポーティーに聞こえます。媚びた感じはなく、素直でまっすぐに歌い上げる清純なボーカル表現が好きなら、たちまちIK-BH006を持ち歩きたくなるに違いありません。
ワイヤレス充電に対応するなど、機能的にもエントリーモデルとしては比較的上質で、スペック的にも不足はありませんが、オーディオスペック的には最新のエントリーモデルに少し劣ってしまうところがあるので、同じ価格くらいでも最新モデルの方が音がクリアに聞こえるでしょう。
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