今回取り上げる機種は最新の完全ワイヤレスイヤホン、UGREEN HiTuneです。
UGREENは各種PC/AV用ケーブルや変換器などで安くて比較的質の良い製品を作っていることで知られるメーカーで、オーディオ製品は今まであまり展開していなかったと思います。日本国内の正規代理店は中古PCの販売で知られるオーエープラザです。
audio-sound @ hatenaはこの機種を「audio-sound @ hatena Highly Recommended」として、大多数の人にとって満足度が高いオーディオ製品であると推奨します。
基本スペック
- 連続/最大再生時間:9h/27h
- 防水性能:IPX5
- 対応コーデック:aptX/AAC/SBC
- 技適番号:210-141980
UGREEN HiTuneの特徴
QCC3020を搭載し、エントリークラスでありながら高音質コーデックaptXに対応
UGREEN HiTuneは通信SoCとしてQualcomm社のQCC3020を採用しています。QCC3020は1万以上の完全ワイヤレスイヤホンにも採用されることの多い、定番の高品質完全ワイヤレスイヤホン用SoCで、高音質BluetoothコーデックであるaptXに対応しています。
エントリークラスとは思えない長時間音楽再生能力
QCC3020の電力効率性の高さのおかげで、1回フル充電するだけでイヤホン単体で最大9時間の長時間再生を実現しています。ケース込みで最大27時間の再生にも対応し、これはエントリークラスではかなり優秀なスペックです。
低域強調EQを搭載
UGREEN HiTuneにはイコライザーによる音質変更機能が付いており、ユーザーは標準のバランスモードと重低音モードから音質を自由に選択できます。気分や好みに合わせて、2種類の音質を楽しめるので、UGREEN HiTuneはユーザーの音楽ライフの幅を広げてくれます。
パッケージ
パッケージは価格帯では少し豪華です。パッケージデザインは本体が収まる層の下に付属品が収まっている機能的なデザインです。開梱体験はわりとシンプルですが、パッケージングの質は価格帯では高い方でしょう。
付属品にはイヤーピースの替え、充電用USBケーブル(Type-C)、説明書などが含まれます。説明書はこの価格帯では珍しいカラー印刷です。
ビルドクオリティは価格を考えると比較的上質です。基本はシンプルで癖を感じづらい黒を基調としながら、マットな仕上げでエレガントに見えます。
装着サンプル
かなりコンパクトな本体は耳への収まりは良いですが、耳から出る部分は少し多いように思えます。装着感は比較的良好で、耳が小さい人でも収まりは良いと思われます。
接続品質
aptXでCayin N6II/E02と接続してテストしました。価格帯では優秀な接続品質です。人混みに行ってないのでわかりませんが、家庭内では安定しています。距離耐性は優秀で、5mくらい離れてもシームレスでそのままつながっています。遮蔽物があっても接続は維持され、とくに切断もありませんでした。ただしときどき突然接続が切れることがあります。
QCC3020機種にありがちな接続当初の通信荒れのようなものは若干見られましたが、比較的すぐに収まりました。気になった点としては左右別でペアリングされないので、もしかするとTWS+には対応していないかもしれません(TWS+対応スマホを持ってないのでテストできません)。説明書には左のイヤホンが親機として固定だと銘記されているので、対応している可能性は低いです。
ホワイトノイズは少しあるかもしれませんが、おそらくほとんどの人が気になりません。ただ、もしかするとホワイトノイズを気にする人には少し不快に思える可能性はあります。
インターフェース/操作方法
操作インターフェースはフェースプレート部分にあり、タッチ式です。
電源ON
ケースからイヤホンを取り出すと、自動で電源ONになります。
またマルチファンクションボタンを2秒長押しすることで手動で電源ONにできます。
電源OFF
イヤホンをケースに収納すると、自動で電源OFFになります。
またマルチファンクションボタンを6秒長押しすることで手動で電源OFFにできます。
ペアリング
イヤホンは接続先がないと自動でペアリングモードになります。
また両方のイヤホンを別々の片耳モードでペアリングすることができます。この詳細については製品付属の説明書で確認してください。
リセット方法
イヤホンをケースに収納して、左右のマルチファンクションボタンを同時に8秒間長押しします。LEDインジケーターが青と白に交互に点滅したらリセット成功です。
曲再生/停止
左右どちらかのマルチファンクションボタンを1回タップします。
曲送り
左右どちらかのマルチファンクションボタンを2回タップします。
曲戻し
左右どちらかのマルチファンクションボタンを3回タップします。
通話応答
着信時に左右どちらかのマルチファンクションボタンを1回タップします。
通話終了
通話中に左右どちらかのマルチファンクションボタンを1回タップします。
着信拒否
着信時に左右どちらかのマルチファンクションボタンを2秒長押しします。
音声アシスタントの起動
左右どちらかのマルチファンクションボタンを2秒長押しします。
EQモードの切り替え
左右どちらかのマルチファンクションボタンを4回タップします。
音質
測定機材
- SAMURA HATS Type3500RHRシステム:HEAD & TORSO、左右S-Typeイヤーモデル(Type4565/4566:IEC60268-7準拠)
- AWA社製Type6162 711イヤーシミュレータ
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- アナライザソフト:TypeDSSF3-L/RightMark Audio Analyzer
※イヤーシミュレーターの特性上、20hz以下と16khz以上の信頼性は高くありません。
周波数特性
マガジン専用コンテンツになります。
サウンドシグネチャー解説
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THD+N特性
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EQの効果について
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音質解説
全体的な印象はかなりバランスが良く、低域から中域にかけてはかなりナチュラルに聞こえるでしょう。高域だけは少しクセが目立ちやすいですが、この価格帯の完全ワイヤレスイヤホンで原音忠実度が高いサウンドを楽しみたいと思う場合、かなり有力な選択肢になりえます。この機種は低域EQを搭載していますが、以下のレビューは標準のバランスモードで聴いてます。
※各評価項目はあくまでリファレンスサウンド(当サイトの機器測定における自由音場フラット)から見ての周波数特性データと私の聴感に基づく評価です。たとえば迫力のある低域を重視する人は「存在感」「太さ」「重み」「臨場感」が高い低域を好むと思いますが、このような音は本来最も重視されるべき「原音忠実度」はおそらくあまり高くありません。
再生機器にとって「原音忠実性」こそが最も重視されるべきというのはオーディオ界隈の共通認識であると思われますので、本ブログの音響機器の評価も「原音忠実性」を最も重視しています。
「原音忠実度」は基本的に高ければ高い方が多くの人にとって良いと思われますが、ほかの評価値は中間値である「B」を離れるほど原音忠実性が薄れます。そのため「S」や「A」はその音要素を好む人には最も心地よい音かも知れませんが、他の人には不快かも知れません。そして不快な音要素が決まっている人は、むしろその音要素が低い評価のものを選ぶとより心地よく音楽を楽しめると思います。
このように、当ブログでは原音忠実(リファレンスサウンド)からの距離を提示することで効率的にあなたの好みに合ったオーディオ機器を発見できるように工夫しています。
評価が高ければ高いだけ良い評価値というのは「原音忠実度」「クリア感」「おすすめ度」で、とくに「原音忠実度」+「クリア感」がオーディオ製品としての単純な優秀性を表します。
「原音忠実再生」についての参考動画:創造の館「いい音とは何か」
※以下のリンク先はpdfです。
低域(原音忠実度:B+/臨場感:B/深さ:B+/重み:B+/太さ:B/存在感:B+)
低域はわずかにリラックスして聞こえますが、かなり原音忠実性が高く、階層性はしっかりしています。
重みや深さが少し意識されやすいですが、中域への繋がりも比較的滑らかです。ベースとバスドラムの描き分けは比較的自然で、混濁感はありません。ローエンドはブーミーさは強調されない自然な減衰ですが、わずかにブンブン感が強く、熱気は強いように思えます。しかし、エレキベースの熱気が強いロックを聴いても中域が濁ることはほとんどありません。低域弦楽の響きはかなり自然に近く聞こえます。
人によっては高域の強調によって低域音の印象はタイトに聞こえるように思えるかも知れませんが、実際の厚みは概ねナチュラルです。
中域(原音忠実度:B+/厚み:B+/明るさ:B-/硬さ:B/存在感:B-)
中域は全体の中ではほんのわずか凹んでいますが、マージンは広く取られているので、埋没感はなく、ほとんどニュートラルです。
中域の質感はかなり自然に聞こえ、透明感があり、楽器音はかなり自然に近いみずみずしさで聞こえます。それでも全体印象はわずかにドライかも知れません。中域は全体的に落ち着いています。
グルーヴの中心は中域の中心付近から高域にかけて存在し、一般に中域は最も印象的に聞こえるので、ボーカルや中域へのフォーカスがしっかりしており、多くの人にとって聴き心地は安定しているでしょう。
ボーカルは少し息の伸びが強調されやすいですが、基本的にかなりナチュラルに近く聞こえるものの、曲によっては子音や息が妙に強調されてシャウティに感じる可能性があります。
高域(原音忠実度:C/艶やかさ:B-/鋭さ:B/脆さ:S-/荒さ:B-/繊細さ:A+/存在感:A)
高域も非常にニュートラルに近いですが、輝度だけは極端に強調されています。そのため、マイクロディテールは少し極端な印象を受け、高域は全体の中では浮き上がります。
しかしギラつきは抑えめのため、たとえばシンバルやハイハットは比較的清潔で透明感のあるシルキーな質感で聞こえやすく、シャリシャリよりはシンシンに近いシュリっとした耳当たりの良い音です。そのため多くの人にとって、音量を上げなければそれほど不快要素にはならないと思われますが、それでも高域に敏感な人にはちょっとうるさいでしょう。抜けもよく調整されているので、後味も引かない、かなり良質な調整に思えます。
グルーヴ/音場/クリア感(グルーヴの中心:中域上部~高域/音場:B+/クリア感:B)
※一般にグルーヴの最も大きいところが最も活き活きと聞こえるので、音楽の中心になります。グルーヴの中心範囲の大きさは変動的です。グルーヴの中心は個人の音楽の好みを決定し、音響機器選択のヒントになります。音響機器のグルーヴの中心が個人の好みと離れている場合、むしろその不自然さが強調され、その音響機器を楽しくないと感じる可能性が高いです。音場の評価はBが自然な広さです。クリア感の評価は全高調波歪の測定値を参照して決めています。
このイヤホンのグルーヴの中心は一般に中域から高域に比較的広く存在すると思われます。
音場は少し奥行きと深さが強調されています。高さと幅はほぼナチュラルだと思いますが、全体の中では中域の比率は少し広めです。
音質総評(原音忠実度:B+/おすすめ度:B/個人的な好み:B-)
低価格完全ワイヤレスイヤホンの中では全体印象の原音忠実度はかなり高く、おそらく私が今まで聴いてきた中では抜群です。低域から中高域にかけては本当にクセが少なく、かなり原音忠実な雰囲気ですが、高域だけは露骨に強調されるので、よく言えば繊細、悪く言えば砂っぽい脆い印象が強くなります。おそらく音楽の全体の違和感は多くの人にとってそれほどないと思いますが、高域に敏感な人だけはわりとシャカついて不自然に感じるかも知れません。しかし、メタルミュージックを聴く人にはこの価格帯では得がたい理想的なイヤホンに思える可能性はあります。
多くの曲で破綻がほとんど出ないので個人的にはかなりおすすめですが、高域が妙にドライで繊細になりすぎるのが、やや苦しいときがあります。たとえばクラシックを聴くとシンバルが妙に不自然なピシャァァアアアッって音で聞こえるのが目立って気持ち悪いです。単純に雰囲気台無し。他の楽器音が比較的ナチュラルに近いだけにシンバルだけが指揮者の頭の上に浮き上がって広く滞留するような印象で聞こえるのはかなり悪目立ちします。
ポップスを聴いていても、うるさい範囲は狭いですが、上の方でガシャガシャする感じはやはり目立ちやすく、人によってはかなりがさつでノイジーな音でしょう。要はハイハットがマラカスのように聞こえるシェイカーサウンドです。
音質的な特徴
美点
- 全体的な原音忠実度が高い
- 音の質感がわりと自然
- 繊細で風通しの良い雰囲気
- 自然に近いボーカル表現
- さわやかな音
- 広く聞こえる中域
- 少し深く、質感的に自然な低域
欠点
- とにかくシンバル系がシャカシャカとうるさく、マラカスのように聞こえる
- 音がスースーする
- ボーカルの息感の強調がしつこく、子音も少しうるさく、場合によってかなりシャウティでハスキー
- クラッシュ感が強すぎて時々音楽がガシャガシャする
- 静寂感に欠ける
- 聞き疲れしやすい
音楽鑑賞
KIX・S「もう一度TENDERNESS」
わりとこういう明るいロック系の曲とは相性が良いです。妙にシンバルがうるさいのも演出感と思えますし、エレキギターのエッジ感がかなり強化されて、歪みの出方もかなり強くはっきりと聞こえるので、中毒性は高いでしょう。またボーカルの息がかなり高く伸びるので、そのギターディストーションといっしょに高く突き抜ける感じが出るのも良いです。ハイトーン系ボイスの語尾が最後まで味わえるような感覚があります。ただし色気はあんまりないのでエロティシズムはそれほど感じません。
sajou no hana「青嵐のあとで」
低域や中域はかなりナチュラルなので、そのあたりは非常に原音忠実的で聴き心地が良いですが、好みを分けるのはやはり高域です。
率直に言ってガシャガシャした感じが強く、ボーカルのサ行も少し強調されすぎている気がするので、全体的にがさつな雰囲気があります。個人的には輝度が高すぎてマイクロディテール感が露骨に高く、妙に音が分析的すぎてうるさすぎる気がしますが、逆にシンバルの狂ったような疾走感にノリの良さを感じる人もいるでしょう。分析的に聴くのが好きな人にはかなり細かく音が聞こえる気がして、いいんじゃないでしょうか。
EGOIST「エウテルペ」
わりと暗めのこういう曲だと高域のうるささ加減はだいぶ落ち着くので、かなり聴きやすいです。それでもボーカルは妙にスーハーしますし、シンバルは妙にシャコシャコした音で聞こえるので、個人的には少しそわそわして落ち着きません。しかし、人によっては、触れたら崩れてしまいそうな、かなり繊細な雰囲気が良いというかも知れません。
レコーディングシグネチャー
レコーディングシグネチャーの基本的な原理、楽しみ方については以下を参考にして下さい。
参考用にレコーディングシグネチャーを掲載します。ソースはFiiO M15を用いています。使用イヤーピースは標準イヤーピースのSサイズで、コーデックはaptXです。
レコーディングシグネチャーで使用している楽曲は私も大好きなゲームメーカー日本ファルコム様のものを使用させて頂いております。
録音機材
- SAMREC HATS Type2500RSシステム:HEAD & TORSO、Type4172マイクX2搭載
- 5055Prot 実時間2ch 自由音場補正フィルター(特注)
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- レコーディングソフト:Audacity
GENS D'ARMES(ロック系)
GENS D'ARMES / イースVIII -Lacrimosa of DANA- オリジナルサウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
白き魔女(クラシック系)
第3部「白き魔女」: 白き魔女 / 交響曲「ガガーブトリロジー」 ~白き魔女~朱紅い雫~海の檻歌~ / Copyright © Nihon Falcom Corporation
The Silver Will -ギンノイシ-(EDM系)
The Silver Will -ギンノイシ- / 空の軌跡ざんまい / Copyright © Nihon Falcom Corporation
Sophisticated Fight(JAZZ系)
Sophisticated Fight / 英雄伝説 空の軌跡FC&SC スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
浮遊大陸アルジェス -Introduction-(OST系)
浮遊大陸アルジェス -Introduction- / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
総評
UGREEN HiTuneは低価格でありながら、比較的優秀なスペックと原音忠実性の高いサウンドを持っていますが、そのサウンドは繊細さに全振りしたような、高域で露骨な癖が出るところがあります。そのため、原音忠実度が高いのに必ずしも万能系とは言えず、高域に敏感な人には聞き苦しいイヤホンです。逆に言えば、繊細なサウンドが好きな人にはとことん好ましいイヤホンで、理想形に近いかも知れません。
使い勝手の点では、イヤホン側で音量調節ができない、EQの効果が微妙(詳しくは有料記事を見てね!)、接続品質が安定しているようで、ときどき変に乱れるなど、少し癖を感じます。
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