Campfire Audio バランスドアーマチュア型イヤホン ANDROMEDA CAM-4808
今回取り上げる機種はハイエンドイヤホン、Campfire Audio ANDROMEDA 2020です。
Campfire Audioはポータブルアンプや高品質ケーブルで有名なALO Audio社のKen Ball氏が立ち上げたアメリカのイヤホン・ヘッドホンブランドです。非常に人気があるブランドですが、エントリークラスで2万円くらいから、主力はみんな10万円当たり前というような感じなので、基本的に私の購買対象ではありません。
なおこのレビューはONZO様の素晴らしいサービスを利用して作成されました。感謝とともにONZO様のますますのご発展をお祈り申し上げます。
ONZO様のサービスについて興味がある方は以下をご参照下さい。
audio-sound @ hatenaはこの機種を「audio-sound @ hatena Highly Recommended」として、大多数の人にとって満足度が高いオーディオ製品であると推奨します。
基本スペック
- ドライバー構成:5BA(Low×2、Mid×1、High×2)
- 周波数特性:5Hz~26kHz
- インピーダンス:12.8Ω
- 感度:112.8dB
- ケーブルコネクタ:mmcx
Campfire Audio ANDROMEDA 2020の特徴
インサイドマジックにより新章スタート!内部構造を一新し生まれ変わった「ANDROMEDA」
CampfireAudioで最も愛されているイヤホン「ANDROMEDA」。外観こそこれまでのANDROMEDAを踏襲していますが、ANDROMEDA2020は内部構造が大きく異なります。新構造「ソリッドボディ設計」により内部パーツが一つになり、筐体内の空間は音響性能をさらに向上するために細かく調整されています。このアプローチにより明瞭さと解像度が向上し、より洗練れされたサウンドへとアップデートしました。たくさんの人に愛されたANDROMEDAをより愛されるイヤホンとして生まれ変わらせるということは簡単なことではありません。しかしこの「ANDROMEDA2020」は内部構造というインサイドマジックにより、さらに愛される新しいANDROMEDAに生まれ変わりました。
アコースティックチャンバーなどの内部パーツを単一のパーツで成型した新構造「ソリッドボディ設計」を採用
ソリッドボディ設計はそれぞれのドライバーに最適化されたアコースティックチャンバーやアコースティックチューブなどの内部パーツを3Dプリンターで一つのパーツとして成型したまったく新しい構造をしています。このソリッドボディ設計によりパーツを少なくすることで、イヤホンのチューニングを細かく制御できるほか、可動部品が少なくなることで、耐久性が向上しました。
Tuned Acoustic Expansion Chamber(T.A.E.C)
特許出願中の独自技術「Tuned Acoustic Expansion Chamber (T.A.E.C)」は、従来までのイヤホン設計、つまりは、ドライバーに音導管(サウンドチューブ)を使用することでサウンドチューニングや音の伝達を行ってきたイヤホン設計とは全く異なる、音導管の代わりとして3Dプリンターで精密に形成した「アコースティックチャンバー(空気室)」を使用し、サウンドチューニングや音の伝達を行う新技術です。音導管を使用しないイヤホン設計を可能にしたことで、音導管内部で起こる音の共鳴など、音に対して雑味の原因となる問題を排除し、高域の周波数特性を改善。ドライバーが本来の持つサウンドを、より正確に伝達可能とします。
パッケージ
ONZOのレンタルバージョンなので、正規版とはパッケージ内容が違う可能性があります。
Campfire Audio製品を買ったことがないので中身の差はよくわかりませんが、外観は少なくともいつものCampfire Audio製品と大して変わりのない共通デザインです。
付属品は充分揃っていると思います。ただパッケージの開梱体験は豪華さや面白味に欠けるので、人によって物欲面でいまいち消化不良に思える可能性はありそうです。個人的にワクワクする感じはあまりありませんでした。
装着サンプル
本体が少しゴツゴツしているところはあり、耳になんか入ってる感覚があるイヤホンですが、個人的には装着感は良好です。耳が小さい人は少し収まりづらいということもありそうな気はします。
音質
測定機材
- SAMURA HATS Type3500RHRシステム:HEAD & TORSO、左右S-Typeイヤーモデル(Type4565/4566:IEC60268-7準拠)
- AWA社製Type6162 711イヤーシミュレータ
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- アナライザソフト:TypeDSSF3-L/RightMark Audio Analyzer
※イヤーシミュレーターの特性上、20hz以下と16khz以上の信頼性は高くありません。
周波数特性
マガジン専用コンテンツになります。
サウンドシグネチャー解説
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THD+N特性
マガジン専用コンテンツになります。
音質解説
全体的な印象は比較的フラットに近く聞こえると思いますが、中域が前面に出てきやすく、また高域は少しシャープネスが強い印象を受けやすいところがあります。
※各評価項目はあくまでリファレンスサウンド(当サイトの機器測定における自由音場フラット)から見ての周波数特性データと私の聴感に基づく評価です。たとえば迫力のある低域を重視する人は「存在感」「太さ」「重み」「臨場感」が高い低域を好むと思いますが、このような音は本来最も重視されるべき「原音忠実度」はおそらくあまり高くありません。
再生機器にとって「原音忠実性」こそが最も重視されるべきというのはオーディオ界隈の共通認識であると思われますので、本ブログの音響機器の評価も「原音忠実性」を最も重視しています。
「原音忠実度」は基本的に高ければ高い方が多くの人にとって良いと思われますが、ほかの評価値は中間値である「B」を離れるほど原音忠実性が薄れます。そのため「S」や「A」はその音要素を好む人には最も心地よい音かも知れませんが、他の人には不快かも知れません。そして不快な音要素が決まっている人は、むしろその音要素が低い評価のものを選ぶとより心地よく音楽を楽しめると思います。
このように、当ブログでは原音忠実(リファレンスサウンド)からの距離を提示することで効率的にあなたの好みに合ったオーディオ機器を発見できるように工夫しています。
評価が高ければ高いだけ良い評価値というのは「原音忠実度」「クリア感」「おすすめ度」で、とくに「原音忠実度」+「クリア感」がオーディオ製品としての単純な優秀性を表します。
「原音忠実再生」についての参考動画:創造の館「いい音とは何か」
※以下のリンク先はpdfです。
低域
低域は比較的フラットに近く、わずかにリラックスして聞こえます。
低域は実際の存在感がそれほど弱いというわけではありませんが、高域の脆さが目立つために、聞こえる音としては重厚感はイマイチに思えるかも知れません。音量を上げるとその傾向は強まるでしょう。低域はかなりタイト系の音に聞こえますが、階層性の点ではベースとドラムキックの描き分けが良いかというと、実際はあんまりよくない気がします。低域と中域の繋がりはわりと自然です。
中域
ANDROMEDAの最大の魅力がどこにあるかというと、それはおそらく独特の硬い中域表現にあることはおそらく間違いありません。
ボーカルは一般にほぼ最前面に出てきます。中域はかなり音が硬い印象を受け、この硬さが音の輪郭をかっつりと描き出し、明瞭性につながっています。スネアやタムの音はかっつりした感じで輪郭強めに描き出され、ピアノも少しコンコンした硬質感のある音を奏でます。
ANDROMEDAは女声ボーカル向きのイヤホンとして紹介されることもありますが、実際のところ、女声ボーカルは息や子音のニュアンスは明瞭に強調され、声色は少し媚び、背景よりは明るく浮かび上がってフォーカスされます。芯があってハキハキとした印象で聞こえやすく、活き活きとしています。私の好みに比べると少しボディが足りないような印象があり、また深みに欠ける気もしますが、はっきりと女声ボーカルを楽しみたい人には魅力的に思えるでしょう。
低域の支えが若干弱いので、曲によっては打楽器の音がガタガタして聞こえるかも知れません。
高域
高域はマイクロディテールが少し強く強調され、わずかにギラつきも強めで派手めの音になります。
シンバルはかなり音が硬く、ギラつきも強く、ギラギラジャキジャキした歯ごたえの強い感じで聞こえます。このシンバルの音は、音量を上げてもそれほどうるさくならないので、案外気持ち良い気もしますが、質感がジャリジャリしていて、やや浮かび上がって聞こえることは事実です。
音場の開放感はあまり強くなく、高さは案外と低めで、中域へのフォーカス感が強いです。
グルーヴ/音場/クリア感
※一般にグルーヴの最も大きいところが最も活き活きと聞こえるので、音楽の中心になります。グルーヴの中心範囲の大きさは変動的です。グルーヴの中心は個人の音楽の好みを決定し、音響機器選択のヒントになります。音響機器のグルーヴの中心が個人の好みと離れている場合、むしろその不自然さが強調され、その音響機器を楽しくないと感じる可能性が高いです。音場の評価はBが自然な広さです。クリア感の評価は全高調波歪の測定値を参照して決めています。
このイヤホンのグルーヴの中心は一般に中域~中高域に存在すると思われます。
音場はやや平面的です。奥行きは少し物足りず、高さはもしかすると少し低く感じるかも知れません。深さ、幅はほぼナチュラルだと思います。
音質総評
ANDROMEDAの硬い音は印象的に明るく聞こえるところがあり、明晰性の高いサウンドに思えて好ましく思えるかも知れません。明瞭な音は一般に好まれる傾向があるので、多くの人にとって第一印象が良いことは確かでしょう。
しかし、一般的に人間は少し柔らかい音を好むことが知られており、また低域はどちらかというと多めの量感を好むということが研究結果で指摘されています(もちろんこれは全体傾向であり、同じ研究では、音質の嗜好には大きな個人差があるだけでなく、同じ個人でも聴く曲によって好みの音質はだいぶ異なることも指摘されています。)*1。このイヤホンはそういう全体傾向からすると音が少し硬すぎ、低域の存在感も少し足りないことが多い気がします。レンジ感も高級イヤホンのわりにそれほどないようです。また高域は少しピーキーになりやすく、演出感も強めで好きな人はとことんはまりそうですが、微妙な人にはかなり微妙でしょう。
私の個人的な感想としては、全体的に音がかっつり硬めにしっかり聞こえる感じがこのイヤホンが好まれている最大のポイントで、中域でわりと音が一つ一つ分離されてしっかり構築的に聞こえるというあたりに人気の秘密がありそうです。
個人的な好みから言うと、ANDROMEDAの音は悪くないですが、じゃあこれを10万円以上出して欲しいかと言われると、いろいろ物足りません。まず全体的に音が硬くて、音楽に深みが出にくく、最初は気持ち良く聞こえても、音楽表現がどうも無機質的で味気ないところがあって、アニソンのような曲、明るいロックなどはいいですが、クラシックやJAZZは表面的で臨場感や空気感にも欠け、ちょっと楽しめません。
音質的な特徴
美点
- 硬質で明瞭性が高い
- タイトな音
- 派手で賑やかな雰囲気がある
- ボーカルニュアンスが活き活きしている
- 中域への適切なフォーカス
- 色気の感じられるサウンド
- リズム感の強調
- しっかりした骨組の感じられる構築的なサウンド
- 歯切れが良い
欠点
- 音が全体的に無機質
- 安定感に欠ける
- 存在感の薄い低域
- 平面的な音場
音楽鑑賞
スピラ・スピカ「Re:RISE」
私の考えるANDROMEDAに合いそうな曲。
この曲の高域のエネルギッシュな感じはよく出ていて、シンバルは結構気持ちいいですね、ちょっと不自然だけど。聴いてるとANDROMEDAってやっぱり少しボーカルのボディが薄いので、意外とがシャウティになりやすいかもねって気づきます。音量上げると少し子音がきつくなりますね。それでも耳に痛いって感じはありません。ボーカルとエレキギター、ドラムパート、シンバルというロックの中域から高域にかけての心臓部みたいなのはしっかり構築的に聴かせてくれます。個人的にはやっぱり低域ジャンキーなので、エレキベースとバスドラムキックが薄味なのが気に入らないかな。
富田美優「Present Moment」
この曲も音数的なことを考えると、比較的よく聞こえます。しかし、個人的な好みからすると、ガシャガシャした感じが強いですし、ボーカルは妙に直線的に上に抜けるし、ドラムはやたら直情的で深みのない浅い響きのような気がします。聞こえは良いけど、静寂感もないし、表面的な音楽表現に思えます。意外とグルーヴ感も感じられません。案外ダイナミズムがない音です。
なんていうか、パッと聴きではいろいろ音が聞こえる感じがあって楽しいけど、全体は平面的で低域も存在感が薄いので安定感や重厚感、深みがありません。上辺だけの付き合いをしている「お友達」との会話のように、音楽の表皮だけなぞっているような聴こえ方に思えます。
同じブランドのARAは結構ANDROMEDAと音質が似ているんですが、グルーヴはARAのほうが少しノリが良く聞こえるんで、この曲を聴くならARAのほうが好きかな。
(K)NoW_NAME「Before dawn」
かなりかっつり明瞭に聞こえて、わりといいなぁなんて思うんですが、やっぱりこのイヤホン、ディテールはかなりうまく出してくれるんですが、いまいちムードを出すのは下手くそですね。なんていうか音楽のガワだけ聴かせてる感じで、意外と表現が直線的で静的に聞こえるので、いまいちボーカルに情感が感じられないかな。なんかリハーサルの音楽聴いてるみたい。
レコーディングシグネチャー
レコーディングシグネチャーの基本的な原理、楽しみ方については以下を参考にして下さい。
参考用にレコーディングシグネチャーを掲載します。ソースはFiiO M15を用いています。使用イヤーピースは標準イヤーピース(final E)のMSサイズです。
レコーディングシグネチャーで使用している楽曲は私も大好きなゲームメーカー日本ファルコム様のものを使用させて頂いております。
録音機材
- SAMREC HATS Type2500RSシステム:HEAD & TORSO、Type4172マイクX2搭載
- 5055Prot 実時間2ch 自由音場補正フィルター(特注)
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- レコーディングソフト:Audacity
GENS D'ARMES(ロック系)
GENS D'ARMES / イースVIII -Lacrimosa of DANA- オリジナルサウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
白き魔女(クラシック系)
第3部「白き魔女」: 白き魔女 / 交響曲「ガガーブトリロジー」 ~白き魔女~朱紅い雫~海の檻歌~ / Copyright © Nihon Falcom Corporation
The Silver Will -ギンノイシ-(EDM系)
The Silver Will -ギンノイシ- / 空の軌跡ざんまい / Copyright © Nihon Falcom Corporation
Sophisticated Fight(JAZZ系)
Sophisticated Fight / 英雄伝説 空の軌跡FC&SC スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
浮遊大陸アルジェス -Introduction-(OST系)
浮遊大陸アルジェス -Introduction- / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
総評
Campfire Audio ANDROMEDA 2020は非常にディテール感に優れた輪郭のきれいな明瞭感のある少し硬質なサウンドを聴かせてくれます。女声ボーカルも活き活きと聞こえ、精彩のある音は実際以上に解像感が高く思えます。そのサウンドはやや平面的でレンジ感の点でもあまり優秀さを感じないところがネックですが、とくにアニソンやアイドルソングのような元気な女声ボーカルの曲ではとても魅力的なサウンドに思えるはずです。またリズム楽器がかっつり手がかりよく聞こえるので、ドラム好きの人も気に入るかも知れません。
Campfire Audio バランスドアーマチュア型イヤホン ANDROMEDA CAM-4808
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*1:近藤他 1965/小谷律他 1968など