今回取り上げる機種は最新の完全ワイヤレスイヤホン、GRADO GT220です。
GRADOは高級かつユニークなヘッドホンを作っているアメリカのオーディオメーカーで、その製品のほとんどは開放型ヘッドホンです。GRADOサウンドとも言うべき独特のハウスサウンドがあり、ハマるとこのメーカーのヘッドホンを聴かないと頭がおかしくなる病気にかかってしまうくらい一部に人気があります。かくいう私も定期的にPS2000eを聴かないと禁断症状が出る謎の病気にかかっています。
そんなGRADOが出した完全ワイヤレスイヤホンがGRADO GT220です。
なおこのレビューはONZO様の素晴らしいサービスを利用して作成されました。感謝とともにONZO様のますますのご発展をお祈り申し上げます。
ONZO様のサービスについて興味がある方は以下をご参照下さい。
audio-sound @ hatenaはこの機種を「audio-sound @ hatena Highly Recommended」として、大多数の人にとって満足度が高いオーディオ製品であると推奨します。
基本スペック
- 連続/最大再生時間:6h/36h
- 防水性能:おそらくありません
- 対応コーデック:aptX/AAC/SBC
- 技適番号:217-204018
GRADO GT220の特徴
QCC3020を搭載し、高音質コーデックaptXに対応
GRADO GT220は通信SoCとしてQualcomm社のQCC3020を採用しています。QCC3020は定番の高品質完全ワイヤレスイヤホン用SoCで、高音質BluetoothコーデックであるaptXに対応しています。
ただ、QCC3020はエントリークラスにも採用されることが多くなってきているので、価格の割には物足りなく思えるところもあります。
Qiワイヤレス充電に対応した充電ケース
GRADO GT220はQi規格のワイヤレス充電に対応しており、対応する規格の充電器と組み合わせれば、ケーブルレスで「置くだけ」での充電が可能になります。
2年の開発期間を経て作られたプレミアムサウンドと使い心地
GRADO GT220はストレスフリーの長時間リスニングを可能にする軽量ポリカーボネートを新設計のハウジングに採用し、独自のチューニング技術で最適化した8mm径ダイナミックドライバーを搭載しています。また、ツイストロック方式により、外耳道はしっかりと密閉し、優れたフィッティング性能が実現されています。
N.Y.の老舗プレミアムヘッドホンメーカーによる、ワンランク上の完全ワイヤレスイヤホン。それがGT220なのです。
パッケージ
今回レビューする製品はONZOのレンタル品のため、正規品とはパッケージ内容が異なっている可能性があります。
パッケージは価格帯では標準的です。透明なプラスチックパッケージ内にGRADOヘッドホンと同じようなデザインの箱が収められています。開梱体験は比較シンプルです。
付属品にはイヤーピースの替え、充電用USBケーブル(Type-C)、説明書(英語)などが含まれます。
ビルドクオリティは価格を考えると標準的です。基本はシンプルで癖を感じづらい黒を基調としながら、マットな仕上げでエレガントに見えます。ただ、価格を考えるとシンプルすぎる気がして物足りないことも事実です。ケースの質感はもっとこだわったほうがよかったかもしれません。
装着サンプル
かなりコンパクトな本体は耳への収まりは良いですが、耳から出る部分は少し多いように思えます。装着感は比較的良好で、耳が小さい人でも収まりは良いと思われます。
接続品質
aptXでCayin N6II/E02と接続してテストしました。価格帯では標準的かやや劣る接続品質です。人混みに行ってないのでわかりませんが、家庭内では安定しています。距離耐性は優秀で、5mくらい離れてもシームレスでそのままつながっています。遮蔽物があっても接続は維持されますが、やや不安定になります。切断しませんが、プチプチします。価格を考えるとワイヤレス品質はもっと安定感が欲しいところです。
QCC3020機種にありがちな接続当初の通信荒れのようなものは見られませんでした。気になった点としては左右別でペアリングされないので、もしかするとTWS+には対応していないかもしれません(TWS+対応スマホを持ってないのでテストできません)。
ホワイトノイズはわずかにあるかもしれませんが、おそらくほとんどの人が気になりません。
インターフェース/操作方法
操作インターフェースはフェースプレート部分にあり、タッチ式です。
電源ON
ケースからイヤホンを取り出すと、自動で電源ONになります。
また5秒長押しすることで手動で電源ONにできます。
電源OFF
イヤホンをケースに収納すると、自動で電源OFFになります。
ペアリング
イヤホンは接続先がないと自動でペアリングモードになります。
また左右どちらかのイヤホンのマルチファンクションボタンを5秒長押しすると手動でペアリングモードにできます。
リセット方法
イヤホンをケースに収納して、左右どちらかのマルチファンクションボタンを同時に3回タップします。LEDインジケーターが点滅したあと消灯したらリセット成功です。
曲再生/停止
右耳側のマルチファンクションボタンを1回タップします。
曲送り
右耳側のマルチファンクションボタンを2回タップします。
曲戻し
右耳側のマルチファンクションボタンを3回タップします。
音量を上げる
右耳側のマルチファンクションボタンを長押しします。
音量を下げる
左耳側のマルチファンクションボタンを長押しします。
通話応答
着信時に左耳側のマルチファンクションボタンを1回タップします。
通話終了
通話中に左耳側のマルチファンクションボタンを1回タップします。
着信拒否
着信時に左耳側のマルチファンクションボタンを2回タップします。
音声アシスタントの起動
左耳側のマルチファンクションボタンを3回タップします。
音質
測定機材
- SAMURA HATS Type3500RHRシステム:HEAD & TORSO、左右S-Typeイヤーモデル(Type4565/4566:IEC60268-7準拠)
- AWA社製Type6162 711イヤーシミュレータ
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- アナライザソフト:TypeDSSF3-L/RightMark Audio Analyzer
※イヤーシミュレーターの特性上、20hz以下と16khz以上の信頼性は高くありません。
周波数特性
マガジン専用コンテンツになります。
サウンドシグネチャー解説
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THD+N特性
マガジン専用コンテンツになります。
音質解説
全体的な印象は中域が引っ込んでいる弱ドンシャリサウンドです。中域のマージンは比較的広いようなので、中域が聞こえづらいということはありませんが、音楽の全体印象は少し暗めです。
※各評価項目はあくまでリファレンスサウンド(当サイトの機器測定における自由音場フラット)から見ての周波数特性データと私の聴感に基づく評価です。たとえば迫力のある低域を重視する人は「存在感」「太さ」「重み」「臨場感」が高い低域を好むと思いますが、このような音は本来最も重視されるべき「原音忠実度」はおそらくあまり高くありません。
再生機器にとって「原音忠実性」こそが最も重視されるべきというのはオーディオ界隈の共通認識であると思われますので、本ブログの音響機器の評価も「原音忠実性」を最も重視しています。
「原音忠実度」は基本的に高ければ高い方が多くの人にとって良いと思われますが、ほかの評価値は中間値である「B」を離れるほど原音忠実性が薄れます。そのため「S」や「A」はその音要素を好む人には最も心地よい音かも知れませんが、他の人には不快かも知れません。そして不快な音要素が決まっている人は、むしろその音要素が低い評価のものを選ぶとより心地よく音楽を楽しめると思います。
このように、当ブログでは原音忠実(リファレンスサウンド)からの距離を提示することで効率的にあなたの好みに合ったオーディオ機器を発見できるように工夫しています。
評価が高ければ高いだけ良い評価値というのは「原音忠実度」「クリア感」「おすすめ度」で、とくに「原音忠実度」+「クリア感」がオーディオ製品としての単純な優秀性を表します。
「原音忠実再生」についての参考動画:創造の館「いい音とは何か」
※以下のリンク先はpdfです。
低域(原音忠実度:C+/臨場感:B+/深さ:A/重み:A/太さ:A-/存在感:A-)
低域は少しリラックスして聞こえます。重みと深さのある低域で、全体印象は安定的です。
ドラムはかなり太さがあり、どっしりと目立ちますし、エレキベースの幅も少し広く聞こえます。ややブーミーなところがあり、熱気があってライブ感がありますが、エレキベースとドラムキックの描き分けは少し緩く、人によってはもっさりした感じがあると思われます。中域へのつながりもよく、厚みもしっかりしているので、ボリューム感がありますが、篭もり感を気にする人には少し苦手に思えるでしょう。
中域(原音忠実度:B-/厚み:B+/明るさ:B-/硬さ:B+/存在感:C+)
中域は全体の中では凹んでいますが、マージンは少し広く、ボーカルが聞こえづらいということはそれほどありません。一般にこのイヤホンのグルーヴの中心は中域に存在すると思われます。
中域は低域方向で少し埋没感があり、ボーカルは最前列ではありません。曲によって空間がややもやもやして聞こえる場合があります。中域は少し暗い雰囲気でぼんやりして透明感に欠ける印象があるかも知れません。中域単独領域での構造はウォームで安定感があります。あまりみずみずしさが感じられません。
高域(原音忠実度:C/艶やかさ:A-/鋭さ:B/脆さ:B+/荒さ:B-/繊細さ:B/存在感:B+)
高域はマイクロディテールはあまり強調されませんが、光沢感は少し強くギラつくので、明瞭感は強調されています。
シンバルやハイハットはシャリシャリというよりは少しチャリチャリとツヤのあるサウンドになり、若干派手に聞こえますが、わりと静かで曲の静寂感をかき乱す感じはありません。エレキギターやアコースティックギターは少し色気を増して聞こえますが、目立ちすぎないので印象的には比較的自然な質感に聞こえます。
グルーヴ/音場/クリア感(グルーヴの中心:中域/音場:B+/クリア感:B)
※一般にグルーヴの最も大きいところが最も活き活きと聞こえるので、音楽の中心になります。グルーヴの中心範囲の大きさは変動的です。グルーヴの中心は個人の音楽の好みを決定し、音響機器選択のヒントになります。音響機器のグルーヴの中心が個人の好みと離れている場合、むしろその不自然さが強調され、その音響機器を楽しくないと感じる可能性が高いです。音場の評価はBが自然な広さです。クリア感の評価は全高調波歪の測定値を参照して決めています。
このイヤホンのグルーヴの中心は一般に中域に存在すると思われます。
音場は奥行きと深さが強調されています。高さは少し低いかも知れません。幅はほぼナチュラルだと思います。全体の中では中域の比率は少し広めです。
音質総評(原音忠実度:B-/おすすめ度:B/個人的な好み:B+)
GRADOらしい色気があるサウンドですが、ヘッドホンほどグルーヴを強調する感じではないので、全体はわりと安定的で聴きやすいです。ただノリノリなGRADOサウンドが好きな人には思ったよりGRADOっぽくないと思うかも知れません。静かに色気を出す落ち着いたサウンドです。
個人的にはこういう系統の少し暗くて聴きやすく、静寂感があって、少し重厚で色気もほんのりあるといったサウンドは好きなので、わりと甘い評価になりがちです。聞き疲れしにくいことは確かで、ゆったり音楽を楽しむのに向きます。
音質的な特徴
美点
- 心が落ち着くダークサウンド
- 重厚感がある
- 静寂感がある
- 色気のあるサウンド
- 聞き疲れしにくい音
- ボリューム感がある
- ライブ感に優れる
- 中域への適切なフォーカス
欠点
- 篭もったように聞こえやすい
- ボーカルの雰囲気が暗い
- シャープネスが緩く、音の輪郭が鈍い
- 解像感は少し低い
- もっさりしやすい
音楽鑑賞
北出里奈「アントワネットブルー」
重厚で静かな曲です。
私にとってGRADO GT220は、この曲の重厚感と静かな色気のある雰囲気を丁寧に出してくれる感じがあり、好きな聴かせ方です。ボーカルは暗い感じですが、アンニュイではなく、少し媚びて艶やかな感じに聞こえます。わずかに音数が減ったような感じになり、静寂感は増し、ボーカルフォーカスも良好です。
Annabel「夜の国」
わりと高域はガチャガチャチャリチャリしてて、もしかすると人によってうるさいかもしれないんですが、個人的には全体が暗くて落ち着いた印象なのでほとんど気になりません。電子音の光沢感はツヤが乗ってきれいに聞こえるので、結構な色気があってエロティシズムが感じられます。
Daryl Hall & John Oates「Someday We'll Know」
個人的にはGRADOというと聴くのは決まってDaryl Hall & John Oates。早速GT220でも聴いてみます。GRADOらしいうまい色気の出し方で、ボーカルやエレキギターを艶やかに聴かせてくれ、スネアのリズムも少しキレが良い感じに聞こえますが、ヘッドホンモデルと違って、グルーヴのうねる感じはそれほど強くないので、臭みがありません。それを良いと感じるか、味気ないと感じるかは微妙なところですが、このGT220の少し静かに丁寧に聴かせる方向性は、個人的には好きかな。
レコーディングシグネチャー
レコーディングシグネチャーの基本的な原理、楽しみ方については以下を参考にして下さい。
参考用にレコーディングシグネチャーを掲載します。ソースはFiiO M15を用いています。使用イヤーピースは標準イヤーピースのSサイズで、コーデックはaptXです。
レコーディングシグネチャーで使用している楽曲は私も大好きなゲームメーカー日本ファルコム様のものを使用させて頂いております。
録音機材
- SAMREC HATS Type2500RSシステム:HEAD & TORSO、Type4172マイクX2搭載
- 5055Prot 実時間2ch 自由音場補正フィルター(特注)
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- レコーディングソフト:Audacity
GENS D'ARMES(ロック系)
GENS D'ARMES / イースVIII -Lacrimosa of DANA- オリジナルサウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
白き魔女(クラシック系)
第3部「白き魔女」: 白き魔女 / 交響曲「ガガーブトリロジー」 ~白き魔女~朱紅い雫~海の檻歌~ / Copyright © Nihon Falcom Corporation
The Silver Will -ギンノイシ-(EDM系)
The Silver Will -ギンノイシ- / 空の軌跡ざんまい / Copyright © Nihon Falcom Corporation
Sophisticated Fight(JAZZ系)
Sophisticated Fight / 英雄伝説 空の軌跡FC&SC スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
浮遊大陸アルジェス -Introduction-(OST系)
浮遊大陸アルジェス -Introduction- / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
総評
GRADO GT220は静かでありながら、GRADOらしい色気を感じさせるサウンドを持っています。それは重厚で成熟した大人の音楽空間をもたらしてくれるように思えます。音質は個人的にかなり気に入ったのですが、やはりスペックやビルドクオリティなどを考えると、3万円レベルの価格設定は高すぎるように思えます。
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