今回取り上げる機種は半開放型ヘッドホン、Sound Warrior SW-HP300です。
Sound Warriorは城下工業の音響ブランドです。城下工業は大正12年に最初は生糸製造所として創業した老舗オーディオメーカーで、音響・通信機器を中心に販売しています。
Sound Warrior SW-HP300はその城下工業から発売されているモニターヘッドホンです。
なおこのレビューは城下工業のレンタル試聴サービスを利用して作成されました。このサービスは現在、Yahooショッピングと楽天市場の2プラットフォームで利用できます。城下産業のレンタル試聴サービスについて興味がある方は以下をご参照下さい。
audio-sound @ hatenaはこの機種を「audio-sound @ hatena Highly Recommended」として、大多数の人にとって満足度が高いオーディオ製品であると推奨します。
基本スペック
- 周波数特性:10Hz~35kHz
- インピーダンス:40Ω
- 感度:102dB
城下工業 Sound Warrior SW-HP300の特徴
音楽鑑賞をより深く、より濃密に
本機の筐体は、形状・素材ともにSW-HP100と共通となっています。
SW-HP100では、軽快さと中高音域の明瞭度や透明感の高さを重視、気軽に音楽をお楽しみいただけるヘッドホンとして開発しました。
それに対し本機では、音楽をより濃密に、より深く楽しめる音作りをコンセプトとしています。私たちは、使う方が時間を忘れて音楽鑑賞に没頭していただく為には、音質面のクオリティーの高さはもちろんのこと、ストレスなく長時間使用できる快適な装着感も重要だと考えています。
そこで、本機のイヤーパッドには従来機種よりも密着度を高められるウェットな生地を採用するなど、装着感の向上を突き詰めています。日常的にヘッドホンでの音楽鑑賞を楽しまれる方にこそ、お試しいただきたいヘッドホンです。
重厚な音作り
実在感のある、豊かな低音域とピュアで伸びやかな中高音域を実現する為に、本機ではSW-HP100とは異なる新たなドライバーユニットを採用しました。
SW-HP100でも重視した、セミオープンならではの圧迫感の少ない、自然な響きを維持しながらも、ひとつひとつの音に生々しさが加わり、パワフルで重厚な音をお楽しみいただけます。
また、ハウジング内部を左右完全対称の構造とすることによって、安定した定位感も実現しています。
快適な装着感と高い耐久性を両立
従来のSW-HPシリーズで重視してきた、快適な装着感と高耐久性・頑強性は本機でも継承しています。
本体のケース素材にはSW-HP10sやSW-HP20でも採用した、軽量でありながらワレや劣化が少なく、高い耐久性・頑強性が実現できるナイロン樹脂を採用しました。
また、人間工学に基づいたエルゴノミックデザインを採用したイヤーパッドは、抜群のフィット感を実現します。
ひとつひとつの素材を吟味して、快適な装着感と高い耐久性を両立したヘッドホンを作り上げました。
本体カラーには、ブランド初となるネイビーを採用しています。
ケーブル着脱が可能
本機ではケーブルの着脱(リケーブル)が可能となっています。
ヘッドホン本体側着脱部はΦ2.5mmモノラルミニジャック×2(L/R)を採用し、SW-HP20やSW-HP100と共通のケーブルをご使用いただけます。オプション品であるバランス型XLR接続コード(SWA-HP20-XLR)を接続し、SWD-HA10などバランス接続(XLR)に対応したヘッドホンアンプと接続することで、左右の分離が向上しクリアで立体的な再生音がお楽しみいただけます。
パッケージ
今回レビューする製品はレンタル品のため、正規品とはパッケージ内容が異なっており、そもそも箱は付属しません。しかし、おそらくSW-HP100のパッケージはSW-HP10Sのパッケージとそれほど変わらないと思われるので、パッケージについてはSW-HP10Sのレビューを参考にしてください。
本体のビルドクオリティは実際は悪くありませんが、見た目はややプラスチッキーで少しチープに思えるかも知れません。しかしプラスチック素材はほかの機材を傷つけないようにするためというプロ的観点から採用されているとのことです。
装着サンプル
装着感は軽量です。側圧は強くありません。クッションパッドも十分で、耳が痛くなることはなく、快適です。それでも3時間くらい装着していると、さすがに少し痛くなってはきます。半開放型なので、遮音性はそれほど高くありません。
2万円のモニターヘッドホンとなると、デザインはもう少し機能的なほうが良く、とくに片耳モニタリングがしやすいようにイヤーカップの稼働自由度があったほうがよいと思われます。これは欠点でしょう。
音質
測定機材
- SAMURA HATS Type3500RHRシステム:HEAD & TORSO、左右S-Typeイヤーモデル(Type4565/4566:IEC60268-7準拠)
- AWA社製Type6162 711イヤーシミュレータ
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- アナライザソフト:TypeDSSF3-L
※イヤーシミュレーターの特性上、20hz以下と16khz以上の信頼性は高くありません。
周波数特性
マガジン専用コンテンツになります。
サウンドシグネチャー解説
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THD+N特性
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音質解説
城下工業 Sound Warrior SW-HP300のサウンドはモニターヘッドホンとして正統派であり、フラットサウンドを明確に意識したサウンドシグネチャーを持っています。
※各評価項目はあくまでリファレンスサウンド(当サイトの機器測定における自由音場フラット)から見ての周波数特性データと私の聴感に基づく評価です。たとえば迫力のある低域を重視する人は「存在感」「太さ」「重み」「臨場感」が高い低域を好むと思いますが、このような音は本来最も重視されるべき「原音忠実度」はおそらくあまり高くありません。
再生機器にとって「原音忠実性」こそが最も重視されるべきというのはオーディオ界隈の共通認識であると思われますので、本ブログの音響機器の評価も「原音忠実性」を最も重視しています。
「原音忠実度」は基本的に高ければ高い方が多くの人にとって良いと思われますが、ほかの評価値は中間値である「B」を離れるほど原音忠実性が薄れます。そのため「S」や「A」はその音要素を好む人には最も心地よい音かも知れませんが、他の人には不快かも知れません。そして不快な音要素が決まっている人は、むしろその音要素が低い評価のものを選ぶとより心地よく音楽を楽しめると思います。
このように、当ブログでは原音忠実(リファレンスサウンド)からの距離を提示することで効率的にあなたの好みに合ったオーディオ機器を発見できるように工夫しています。
評価が高ければ高いだけ良い評価値というのは「原音忠実度」「クリア感」「おすすめ度」で、とくに「原音忠実度」+「クリア感」がオーディオ製品としての単純な優秀性を表します。
「原音忠実再生」についての参考動画:創造の館「いい音とは何か」
※以下のリンク先はpdfです。
低域(原音忠実度:B+/臨場感:C+/深さ:B+/重み:B+/太さ:B+/存在感:B)
城下工業 Sound Warrior SW-HP300の低域はモニター的で階層性がしっかりしています。
低域は比較的深くまで到達しており、レンジ感は良好に感じられます。本当に深いローエンドまでは伸びずにロールオフするので、低域の底の地熱は強くなく、すっきりと消失しています。モニター的で階層性の良い、適切な締まりのある低域です。質感も自然です。
中域(原音忠実度:A-/厚み:A-/明るさ:B/硬さ:B+/存在感:B)
中域は前進的で、少し硬く構築的にしっかりと聞こえます。また高域とは少し分離的です。
中域はかなりはっきりと硬く構築的に聞こえ、音の手がかりがしっかりと聞こえます。中域に音が集まりやすい傾向は少し多く、わずかに情報量が多い印象を受けます。奥行き感はあるので定位感は少し整理されています。ボーカルは全体的に少し芯が強く、太めに聞こえやすいので、女声ボーカルも男性的に聞こえるところがあるかもしれません。
高域(原音忠実度:C+/艶やかさ:C+/鋭さ:C/脆さ:B/荒さ:C/繊細さ:C+/存在感:C+)
高域は中域とは分離的になっており、マイクロディテールは少し高いですが、光沢感は中庸に近いか少し地味です。音量を上げてもシャープネスがきつくなる印象はありません。
高域は中域から分離的で、中域上部と中高域の間に静寂感があります。そのおかげで音楽に奥行き感が感じられ、中域の響きが印象的に聞こえます。マイクロディテールは少し目立つので、シンバルクラッシュはわずかに目立ちますが、ほとんど透明で中域をかき乱す感じはありません。音量を上げても尖ったり刺さったりというような感覚はなく、音場に少し風通しが良い印象を与え、高さを感じさせるくらいでしょう。
グルーヴ/音場/クリア感(グルーヴの中心:中低域~中域上部/音場:B+/クリア感:A-)
※一般にグルーヴの最も大きいところが最も活き活きと聞こえるので、音楽の中心になります。グルーヴの中心範囲の大きさは変動的です。グルーヴの中心は個人の音楽の好みを決定し、音響機器選択のヒントになります。音響機器のグルーヴの中心が個人の好みと離れている場合、むしろその不自然さが強調され、その音響機器を楽しくないと感じる可能性が高いです。音場の評価はBが自然な広さです。クリア感の評価は全高調波歪の測定値を参照して決めています。
このヘッドホンのグルーヴの中心は一般に中低域~中域上部に存在すると思われます。
音場は奥行きがやや多く、中域が広めです。左右は実際はそれほど広くないような気がしますが、奥行き感があるので狭さを感じません。中域の広さのせいか、高さも少し高い印象を受けますが、実際はおそらくほとんどナチュラルです。
音質総評(原音忠実度:A-/おすすめ度:B+/個人的な好み:B+)
Sound Warrior SW-HP300は全体的にバランスが良く取れたモニターサウンドになっており、とくに中域が構築的にくっきり濃く出力されるのでしっかりと把握できます。高域は少しおとなしく思えますが、低域もよく伸びており、モニターヘッドホンとしてはかなりの良機種に思えます。少なくともSW-HP100よりは全体として実用性が高まっており、ほぼ上位互換と言って差し支えなさそうな機種です。
個人用途として考えた場合、モニターヘッドホンとして中域をしっかり聞かせてくれるので、曲の心臓部をかなり的確に把握できるため、曲の最終確認にはいいかもしれません。この用途ではVictor HA-MX100Vと競合しますが、HA-MX100Vはより空間性を重視しており、音場が広くもう少し余裕をもって定位させて聞かせてくれます。その点で、より聞き疲れしにくく、優れていますが、低域の再現力ではSW-HP300が優れており、音も全体的に近く聞き取りやすいという点でも優れています。どちらが良いかは難しいところで、拮抗しています。
中域の情報量が多い感じは、ミックスの効果を効率的に確認する用途に使うには悪くないかもしれませんが、重低域があまり出ていないことに注意する必要があります。この点でEDMやDJミックスなどミキシングを積極的に多用する用途では、あきらかにYAMAHA HPH-MT8のほうが定位も強調されて各楽器音が分離的に聞こえる感じがあるので、効果的に活躍してくれるでしょう。
録音から作曲、ミキシング、マスタリング、音源チェックまで総合的に趣味的にこなす、DTMerにとっては、同じ城下工業のSound Warrior SW-HP10Sとどちらがよいか迷うところです。SW-HP300のほうが構築的でくっきりかっつりした、色味も濃い音がして音楽の心臓部は非常に聞き取りやすいです。一方で、SW-HP10Sのほうが音が軽やかで音場も明るいので、ディテールは聞き取りやすく、長時間聞いても聞き疲れしません。また全体的にSW-HP10Sのほうが音の分断される感じが少なく、とくに中高域のあたりはしっかり聞こえるので、情報量は多く思える可能性が高いです。SW-HP300にはこのあたりで少し音を取りこぼしている感じがあります。最終的には好みになりますが、価格差を考えると、個人的にはSW-HP10Sのほうに軍配を上げたくなります。
音質的な特徴
美点
- 中域の情報量が多い
- 奥行き感がある
- 安定感がある
- 中域への適切なフォーカス
- 硬めで手掛かりがしっかりと聞こえる構築的な中域
- ノイズ感が少ない
- 比較的深くまでしっかり出るモニター的な低域
- 中域から分離され、目立ちすぎない高域
- 音が濃く充実感がある
欠点
- 女声ボーカルに嫋やかさがなく、野太く男性的に聞こえる
- 硬い音
- 臨場感に欠ける
- 静かすぎるかもしれない高域
音楽鑑賞
田所あずさ「ヤサシイセカイ」
中域は構築的でしっかりしており、厚みがあって濃厚に聴けますが、女声ボーカルの曲を聴くと、やはり華やかさに欠ける印象を受けます。SW-HP100と同じく嫋やかさを出すのはうまくなく、音楽に軽やかさがなく、やや重たく聞こえます。SW-HP100に比べて押し出し感は減り、重厚感が増したせいもあり、説得力は非常に高いですが、高域はおとなしく、派手さに欠けるところがあります。パワフルで深みもあり、ソリッドな聴かせ方で、安定感と充実感が高く、ややヴィンテージスピーカー的な雰囲気を感じ、リッチなサウンドです。重低域もロールオフして聞こえるんで、人によっては真空管アンプ的な聴かせ方と思うかもしれません。
岸田教団&THE明星ロケッツ「3 seconds rule」
個人的に大好きな曲です。かなり重厚感のある曲ですが、この曲のパワフルさをほぼ最大限引き出してくれます。艶やかさは抑え気味に聞こえるので、印象は少し地味めで、野外ライブの聞こえ方に近い雰囲気に聞こえますが、臨場感はあまりありません。少し男性的で渋いように聞こえるボーカルもハードロックな雰囲気に合っていて、この曲がエネルギッシュでかっこよく聞こえます。
すぎやまこういち、ロンドン・フィル・ハーモニー管弦楽団「この道、わが旅」
この曲を重厚に、少し静寂感を増してがっつり聞けます。高域の華やかさは抑えめで、中域が少しくっきりしすぎている気がするので、ホールの響きというよりはどことなく歌番組的な聴かせ方に思えますが、楽器音に重みがあって、濃厚さが感じられ、ゆったりとした厚みのある響きが楽しめます。ただ、若干昭和歌謡っぽいかな。なんていうか、加山雄三の「旅人よ」の雰囲気に近い感じで聞こえる気がします。
レコーディングシグネチャー
レコーディングシグネチャーの基本的な原理、楽しみ方については以下を参考にして下さい。
参考用にレコーディングシグネチャーを掲載します。ソースはFiiO M15を用いています。ゲインは低設定です。
レコーディングシグネチャーで使用している楽曲は私も大好きなゲームメーカー日本ファルコム様のものを使用させて頂いております。
録音機材
- SAMREC HATS Type2500RSシステム:HEAD & TORSO、Type4172マイクX2搭載
- 5055Prot 実時間2ch 自由音場補正フィルター(特注)
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- レコーディングソフト:Audacity
GENS D'ARMES(ロック系)
GENS D'ARMES / イースVIII -Lacrimosa of DANA- オリジナルサウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
白き魔女(クラシック系)
第3部「白き魔女」: 白き魔女 / 交響曲「ガガーブトリロジー」 ~白き魔女~朱紅い雫~海の檻歌~ / Copyright © Nihon Falcom Corporation
The Silver Will -ギンノイシ-(EDM系)
The Silver Will -ギンノイシ- / 空の軌跡ざんまい / Copyright © Nihon Falcom Corporation
Sophisticated Fight(JAZZ系)
Sophisticated Fight / 英雄伝説 空の軌跡FC&SC スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
浮遊大陸アルジェス -Introduction-(OST系)
浮遊大陸アルジェス -Introduction- / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
総評
城下工業 Sound Warrior SW-HP300は構築感に優れ、パワフルでリッチな中域と重厚な低域を聴かせるモニターヘッドホンです。そのサウンドはやや派手さに欠けるところはありますが、中域から低域までは非常に忠実度の高いモニターサウンドを実現しており、確かなサウンドを提供します。同社のSW-HP100に対して、ほぼほぼ上位互換と言えるサウンドを持っており、モニターヘッドホンとしての性能はSW-HP300のほうが一般的に優れていると感じられるでしょう。
しかし、2万円台のモニターヘッドホンとしてはライバルに比べて機能的に少し劣るところがあり、取り回しの点で若干劣る可能性があるのが欠点となりえます。
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