「フラッシュレビュー」はデータ中心の簡潔な内容で、ポイントを絞ってオーディオ製品を解説します。
Tronsmartは2013年に深圳に設立された電子ガジェットやアクセサリーを設計・製造・販売するメーカーです。研究開発型の企業で、ワイヤレススピーカーの分野では比較的多くの製品を展開しています。
Tronsmart Spunky Beatは低価格でありながら、Qualcommの人気Bluetoothチップ「QCC3020」を搭載し、海外で話題になった機種です。低価格モデルでは音質的にも評価が高く、比較的フラットに近く万能性が高いところが評価されています。
audio-sound @ hatenaはこの機種を「audio-sound @ hatena Highly Recommended」として、大多数の人にとって満足度が高いオーディオ製品であると推奨します。
基本スペック
- 連続/最大再生時間:7h/24h
- 防水性能:IPX5
- 対応コーデック:aptX/AAC/SBC
パッケージ
イヤホンのパッケージ全体のデザインはこの価格帯では結構しっかりしたパッケージで、わりと豪華かも知れません。中華の完全ワイヤレスイヤホンは価格の割にパッケージが簡素なものもありますが、この製品のパッケージは家電量販店に並んでいても問題なさそうなくらいにはまともなパッケージデザインです。
付属品はイヤーピースと充電用ケース、充電用ケーブル(Type-C)です。
装着サンプル
薄いハウジングでコンパクトで軽量です。空豆のような形をしており、耳の形によっては固定が少ししっかりしない可能性があります。
接続品質
価格帯ではかなり優秀な方です。人混みに行ってないのでわかりませんが、家庭内では良好です。距離耐性も優秀らしく、5m離れてもシームレスで乱れはありません。遮蔽物があっても大丈夫なようです。
またホワイトノイズはほんのわずかにありますが、かなり敏感な人でないと気にならないのではないかと思います。
注意点としては通信相性があります。通話機能がないDAPとつないだ場合、一定時間で自動的に電源OFFになることがあり、Astell&KernのDAPにつないだときに見られました。FiiO系DAPやHiby系DAPなら大丈夫だと思います。
音質
測定機材
- SAMURA HATS Type3500RHRシステム:HEAD & TORSO、左右S-Typeイヤーモデル(Type4565/4566:IEC60268-7準拠)
- AWA社製Type6162 711イヤーシミュレータ
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- アナライザソフト:TypeDSSF3-L
※イヤーシミュレーターの特性上、20hz以下と16khz以上の信頼性は高くありません。
周波数特性
上から順に、
- [AET07 M装着時]左右別
- [AET07 M装着時]左右平均
- [AET07 M装着時]左右別(自由音場補正済み)
- [AET07 M装着時]左右平均(自由音場補正済み)
- [標準イヤーピース M装着時]左右別
- [標準イヤーピース M装着時]左右平均
- [標準イヤーピース M装着時]左右別(自由音場補正済み)
- [標準イヤーピース M装着時]左右平均(自由音場補正済み)
- 標準イヤーピース比較(自由音場補正済み)
- 標準イヤーピース比較(自由音場補正済み/2khz-24khz拡大)
※「AET07 Mサイズ」は当ブログの測定用レファレンスイヤーピースです。それ以外のイヤーピースは特記がない限り、このイヤホンパッケージの標準添付のものです。
※また当ブログの自由音場補正については機材に合わせてサザン音響さんから提供された補正値を使用しております。
周波数特性を見るとご覧の通り、比較的フラットに近いですが、中域は少し凹み、高域方向に全体のエネルギーは少しだけ偏っているように思えます。実際のところこのイヤホンはどちらかというと明るいサウンドに分類されるでしょう。HiFiGOが最近サウンドシグネチャーについてのなかなか興味深くわかりやすい記事を書いていましたが、それに依拠すれば「バランスサウンド」に分類されると見るべきでしょうか。フラットに近く、そして高域は少し強調されますが、フラットサウンドやモニター的な音というよりは音楽的です。
低域は重みが結構強調されますが、本当に深いところは抑えめなので、床鳴り感やノイジーさがそれほどなく、クリアに聞こえる傾向にあります。一般にレイヤリングが良好な音と言えるでしょう。低域弦楽の厚みにも不足はたぶんなく、重みも充分のはずです。
中域は比較的充実しているので、みずみずしいサウンドを持っています。ボーカルは子音に尖りがなく、シャウトがきつくなく、適度に落ち着いていますが、充分に明るく、ボディも適度にあるのでディテール感があり、ボーカルホンとしても魅力的です。ボーカル自体はわずかにドライに傾いて聞こえやすい気がしますが、その周囲の楽器音はみずみずしく聞こえます。
高域は風通しも良く、ハイハットは爽やかでギラつきもありますが、それ以上に清潔さを感じさせる高さがあるので、すっきりと抜けが良い開放的な空間になっています。ボーカルの子音が尖らず、ギャンギャン吠えないうまい調整バランスと、すっきりしているので見通しが良く広く感じられる音場が魅力です。落ち着いて明るいですが、ピアノの煌めき感は意外とキンキン感が少し出るくらい派手さもあり、透明感を少し強調して聴かせてくれるあたりも楽しみが多いところです。アコースティックギターの色づきも良いです。
一方でリズムのアタックは適度にセーブされており、スネアのトランジェントは悪くなくスナッピーさも感じられて輪郭は明瞭ですが、パワー感はセーブされていて優しい雰囲気があります。全体的にサウンドクオリティは低価格にしてはディテール感に優れ、手がかりが多く、しかも清潔で聴き心地が良いという秀逸バランスになっています。
たとえば、Real Paradis「風と丘のバラード」のような曲は意外とそれなりに優秀なボーカルホンでもボーカルが過酷になりやすい曲ですが、このイヤホンのボーカル表現にはきつさがほとんどありません。それでいて、充分にボディがあり、それなりに前に出てきて聞こえます。
AUKEY EP-T21との比較
同じ価格帯くらいに存在しており、音質的にはわりとキャラクターがかぶるだろうAUKEY EP-T21(音質的にはQCY T5もほぼ同一機種と言えます)と比較してみましょう。
下のグラフはそれぞれの標準イヤーピースの自由音場補正済み周波数測定グラフを比較したもので、わかりやすいように1khzで交差するようにグラフを調整しています。1khz以上の中域上部以上を拡大したものも記載します。
聞き比べても一般にAUKEY EP-T21よりはSpunky Beatのほうが清潔で抜けが良く、場合によっては少し薄い音に聞こえると思います。EP-T21のほうが音が濃く、より中域から低域で厚みがあり、ボーカルや楽器音はもう少し暖かく聞こえます。一般に聴き心地や音の厚み重視ならEP-T21のほうを、より清潔感やディテール感重視ならSpunky Beatを選ぶと良いでしょう。
なお同じ価格帯のライバルBOMAKER SiFiとの比較はSpunky Beatの以前のレビューを参照して下さい。
レコーディングシグネチャー
レコーディングシグネチャーの基本的な原理、楽しみ方については以下を参考にして下さい。
参考用にレコーディングシグネチャーを掲載します。自由音場補正済みです。ソースはFiiO M15を用いています。aptXで接続しています。
レコーディングシグネチャーで使用している楽曲は私も大好きなゲームメーカー日本ファルコム様のものを使用させて頂いております。
JAZZ
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Sophisticated Fight / 英雄伝説 空の軌跡FC&SC スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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町「ペンタウァ」 / ファルコムベストサウンドコレクション -All in All- / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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Desire / The Songs of Zemeth ~Ys VI Vocal Version / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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花と風のうた / 「Zwei!!」 スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
OST
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Sophisticated Fight / 英雄伝説 空の軌跡FC Evolution オリジナルサウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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浮遊大陸アルジェス -Introduction- / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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QUATERA WOODS / イースVI -ナピシュテムの匣- オリジナル・サウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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永劫の夢、大空の記憶 -Online Version- (Bonus Track) / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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ユルギナイツヨサ / 日本ファルコム 英雄伝説 零の軌跡 スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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アプリエス神殿 / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
クラシック
- Sophisticated Fight / We Love 空の軌跡 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- FEENA / イース ピアノコレクション / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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第3部「白き魔女」: 白き魔女 / 交響曲「ガガーブトリロジー」 ~白き魔女~朱紅い雫~海の檻歌~ / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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組曲 LILIA (ファルコム ネオクラシック フロム スタディオズ イン ロンドンシティ) / ベリー・ベスト・オブ・イース / Copyright © Nihon Falcom Corporation
ロック
- Sophisticated Fight / 空の軌跡ざんまい / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- TO MAKE THE END OF BATTLE / Ys Ⅰ&Ⅱ ベストサウンドコレクション / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- The Decisive Collision / 英雄伝説 閃の軌跡 スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- GENS D'ARMES / イースVIII -Lacrimosa of DANA- オリジナルサウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- Mighty Obstacle (2003) / Music From The History Of Ys / Copyright © Nihon Falcom Corporation
総評
5000円以下の機種の中では音質的には文句なく上位に入ってくることでしょう。ディテール感があり、爽やかで清潔な、しかもみずみずしい音が楽しめます。人によってわずかに音が薄い傾向があるかも知れませんが、刺激的なところをうまく抑え、開放的ですっきりとしたサウンドを聴かせてくれます。解像度のレベルやみずみずしさは異なりますが、NUARL N6 Proに近い雰囲気の音を低価格帯で楽しみたいという人向きです。
aptXにも対応し、通信品質も良好でバッテリー性能も標準以上です。また外出先で使える内蔵ケーブルも用意されており、それとは別にUSB Type-Cの充電口もあり、使い勝手は良好です。
ビルドクオリティやパッケージの点でもこの価格帯では全体的な完成度が高く、高級感があり、audio-sound@hatenaはこの製品を文句なく「Highly Recomennded」に値する機種として推奨致します。
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