「フラッシュレビュー」はデータ中心の簡潔な内容で、ポイントを絞ってオーディオ製品を解説します。
今回取り上げる機種はJPRiDE 2020 Libertyです。
JPRiDEはamazonなどのECサイト中心で販売しているブランドです。このブランドは「ハイブランドの音質とクオリティを低価格で」提供することを理念としたブランドを名乗っていますが、実際のところ、辛口で知られる『家電批評』でも高く評価されており、その底力を感じさせます。JPRiDEがメインターゲットとしている低価格のワイヤレスイヤホンのEC市場は中華ブランドが圧倒的な強さを持っている分野ですが、JPRiDEはEC中心のブランドでありながら、その中で確実にユーザーの支持を集め、生き残ってきました。
だが、JPRiDEは、そのブランドの成り立ちからユニークだ。代表の青山氏は、多彩なスキルと職歴の持ち主だが、オーディオブランドやメーカー勤務経験はない。そんな彼が、いくつかの偶然から、「音楽好きの耳さえあれば、高級ブランドと同等のモノづくりが出来るはず、しかも誰でも買える値段で」という“思い込み”(青山氏談)で、オーディオブランドの立ち上げを志した。
青山氏の言葉を借りると「時代の波がそこにあっただけ」だそうだが、時代は、ネットとECの普及タイミングでもあった。彼は“音楽好きの耳”だけを頼りに、大手オーディオメーカーのOEMも手掛ける中国の工場を探し出し、コネクションを確立。JPRiDE誕生へと繋がっていく。まさに、インターネットの登場とグローバル化、新しい時代が可能にした、新しいオーディオブランドと言えるだろう。
JPRiDEはこれまで、Amazonのベストセラーポータブルオーディオ部門、イヤフォン・ヘッドフォン部門などで1位を受賞。Amazonランキング大賞2016「オーディオ機器総合」でも1位、楽天市場やYahoo!ショッピングでもナンバーワンを受賞するなど、ユーザーからの大きな支持を得ている。
JPRiDE 2020 LibertyはそのJPRiDEのハイエンドイヤホンです。デュアルコイルダイナミックドライバーと2基のバランス度アーマチュアドライバーを搭載しています。
audio-sound @ hatenaはこの機種を「audio-sound @ hatena Recommended」として、比較的多数の人にとって買って損がないオーディオ製品であると推奨します。
基本スペック
- 周波数特性:20Hz~40000Hz
- インピーダンス:10Ω
- 感度:93dB
- ケーブルコネクタ:mmcx
パッケージ
パッケージは2万円台としては標準的です。パッケージングは安っぽさはありませんが、付属品は2万円台にしては平凡で、少なくとも驚きはないでしょう。開梱体験もわりとシンプルです。基本的に2万円のイヤホンとしてはやや「期待外れ」です。
ビルドクオリティは平凡で、2万円台とは思えないほどケーブルも絡まりやすく、少しチープに思え、付属品も豪華とは言えません。
装着サンプル
耳への収まりは良く、遮音性も良好です。
音質
測定機材
- SAMURA HATS Type3500RHRシステム:HEAD & TORSO、左右S-Typeイヤーモデル(Type4565/4566:IEC60268-7準拠)
- AWA社製Type6162 711イヤーシミュレータ
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- アナライザソフト:TypeDSSF3-L
※イヤーシミュレーターの特性上、20hz以下と16khz以上の信頼性は高くありません。
周波数特性
上から順に、
- [標準イヤーピース S装着時]左右別
- [標準イヤーピース S装着時]左右平均
- [標準イヤーピース S装着時]左右別(自由音場補正済み)
- [標準イヤーピース S装着時]左右平均(自由音場補正済み)
※当ブログの自由音場補正については機材に合わせてサザン音響さんから提供された補正値を使用しております。
このイヤホンの音は不自然で変なサウンドだなと思ってたのですが、実際、サウンドシグネチャーは非常に難解です。1980 Blue moonの時にも思いましたが、とにかく中域以上に異様にピークが多く、しかも全体的にフラットなのでわりと狭い空間に細切れで音を詰め込んでいるサウンドになっています。そのうえ、中域下部がかなり掘り下げられてスカスカに感じるくらい清潔にされており、ただでさえ無駄に緻密で目立つ中高域以上が露骨に強調されていてボーカルは常にシャウティで子音は尖ります。
全体を見るとほとんどフラットで異様に分析的なので、モニターサウンドの極致といえるかもしれません。しかし、音場は細かなピークによってかなり凸凹しています。
率直に言って、このイヤホンは個人的にあまりおすすめしませんが、しかし、異様に緻密な曲を楽しむには悪くないです。おすすめは愛聴している大好きな曲、かめりあ feat. ななひら「混乱少女♡そふらんちゃん」です。かなり緻密でスピード感があり、デジタル感満載の楽しい曲です。このイヤホンのかなり細切れにする分解能によって、明らかに情報量が多すぎるこの曲の音をすべて聞き取れるような万能感を味わうことができるでしょう。
しかし個人的な感想を言わせてもらえば、こういう音はJPRiDEが自ら実現したと主張するハイブランドの音とは違う気がします。それに「混乱少女♡そふらんちゃん」のような複雑な曲を聴くにしてもASHIDAVOX EA-HF1のほうが低域の主張が少し強いですが、より完璧で余計なピーク感なく再生できるので、このイヤホンにこだわる必要はありません。
通信環境に依存する可能性がありますが、完全ワイヤレスイヤホンならBOMAKER SiFi 2が非常にモニター的でありながら適度に奥行きがある自然な音なので、高い解像度で満足させてくれるでしょう。
低域から中域下部までは基本的に薄っぺらく、あまり語ることがありません。わりと深いところで音が聞こえますが、厚みに欠け、全くリアリズムがありません。低域はかなりタイトで、基本的にリズムを聴くためだけに存在しているかのようです。
中域上部はかなり急速に上昇していて、ボーカルはシャウティに前面に出てきます。繊細ですが、落ち着きがなく、子音の強調が露骨で情緒不安定気味に聞こえます。エレキギターはギラギラしていますが、ハイハットはわりと清潔でシャッキリシルキーで爽快感があります。スネアもスナッピーで生き生きしていますが、厚みに欠けるのでパワフルではありません。
大抵の曲でボーカルは中高域に埋没気味に聞こえるので、ボーカルの周辺はかなり騒がしく思えます。音場は奥行き感が少し十分でない気がするので、音の空間的な整理が若干あいまいに思え、手掛かりがかなり強調されており、妙にガチャガチャしています。 全体的に荒々しい高域が目立つので、最初は繊細さに気持ちよさを感じますが、長時間聞くと疲れやすい音です。
とにかくJPRiDEのサウンドデザイナーが異様に高域にこだわりがあるのはわかります。しかし、個人的にはいたずらに情報量を増やしているように思えます。JPRiDEなら1980 Blue Moonも同じ傾向ですが、あちらは中域に対し、配慮が見られるので、まだ万能性が高いと思います。
高域でマイクロディテールが非常に細かく、分解能が高いことはたしかなので、ひたすら高解像度を求めるユーザーには魅力的な選択肢です。また脳を活性化する効果が期待できる気がします。しかし、音が全体に固く、軽っぽくシャカシャカしていて、ざらざらギラギラしているうえに自然な感じではありません。個人的には補聴器のような音に聞こえます。
レコーディングシグネチャー
レコーディングシグネチャーの基本的な原理、楽しみ方については以下を参考にして下さい。
参考用にレコーディングシグネチャーを掲載します。自由音場補正済みです。ソースはFiiO M15を用いています。イヤーピースは標準イヤーピースのSサイズ、ゲインは高設定です。
レコーディングシグネチャーで使用している楽曲は私も大好きなゲームメーカー日本ファルコム様のものを使用させて頂いております。
JAZZ
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Sophisticated Fight / 英雄伝説 空の軌跡FC&SC スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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町「ペンタウァ」 / ファルコムベストサウンドコレクション -All in All- / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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Desire / The Songs of Zemeth ~Ys VI Vocal Version / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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花と風のうた / 「Zwei!!」 スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
OST
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Sophisticated Fight / 英雄伝説 空の軌跡FC Evolution オリジナルサウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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浮遊大陸アルジェス -Introduction- / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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QUATERA WOODS / イースVI -ナピシュテムの匣- オリジナル・サウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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永劫の夢、大空の記憶 -Online Version- (Bonus Track) / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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ユルギナイツヨサ / 日本ファルコム 英雄伝説 零の軌跡 スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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アプリエス神殿 / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
クラシック
- Sophisticated Fight / We Love 空の軌跡 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- FEENA / イース ピアノコレクション / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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第3部「白き魔女」: 白き魔女 / 交響曲「ガガーブトリロジー」 ~白き魔女~朱紅い雫~海の檻歌~ / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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組曲 LILIA (ファルコム ネオクラシック フロム スタディオズ イン ロンドンシティ) / ベリー・ベスト・オブ・イース / Copyright © Nihon Falcom Corporation
ロック
- Sophisticated Fight / 空の軌跡ざんまい / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- TO MAKE THE END OF BATTLE / Ys Ⅰ&Ⅱ ベストサウンドコレクション / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- The Decisive Collision / 英雄伝説 閃の軌跡 スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- GENS D'ARMES / イースVIII -Lacrimosa of DANA- オリジナルサウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- Mighty Obstacle (2003) / Music From The History Of Ys / Copyright © Nihon Falcom Corporation
総評
繊細な高域を愛する人、マイクロディテールにこだわる人にはJPRiDE 2020 Libertyはまさに自由の翼を授ける福音かもしれません。非常に繊細でデジタルな音がします。率直に言って、ビルドクオリティがよいとは言えず、個人的には微妙な感じですが、わりと唯我独尊のサウンドになっているので、ほかのイヤホンでは代えがたい魅力があるかもしれません。個人的に全く好きじゃないのですが、でも、独特の音で面白いと思っている自分もいます。
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