「フラッシュレビュー」はデータ中心の簡潔な内容で、ポイントを絞ってオーディオ製品を解説します。
今回はWG T-oneを取り上げます。WGというブランドについては中国のブランドであるということ以外はわりとよくわかりません。このT-oneの強みは特許取得済みのテスラドライバーを用いているという点で、実際解像感はかなりよいサウンドを持っています。個人的には音質のバランスの良さ、聴き心地の安定感、解像度にわりと驚いたのですが、実際のところこの機種はあまり売れている気配はありません。
それもさもありなんで、この機種はウォーム系のニュートラルに近いサウンドを持っているのですが、よりダイナミックで雄大なサウンドを持つ同価格帯の名機Tri i3に完全にお株を奪われていると言って良く、私も正直なところ、これに手を出すよりはTri i3を買った方がより満足できるだろうと思います。
しかし一方で、この機種は各種レビューで言われているように「低域よし、中域よし、高域よし、でも全体として見ると個性に乏しい」というようなその性格によって、わりかし個人的には気に入っている機種なので、埋もれているイヤホンですが今回紹介したくなりました。
audio-sound @ hatenaはこの機種を「audio-sound @ hatena Recommended」として、比較的多数の人にとって買って損がないオーディオ製品であると推奨します。
基本スペック
- 周波数特性:20hz-20kHz
- インピーダンス:36Ω
- 感度:105dB
- ケーブルコネクタ:mmcx
パッケージ
イヤホンのパッケージはこの価格帯では標準クラスです。付属品はフォームチップ含むイヤーピースの替え(シリコンは薄皮タイプと厚皮タイプの2種類)とキャリイングケースです。
装着サンプル
装着感は比較的良好です。耳の小さい人にも収まりやすい形をしていますし、遮音性も悪くないと思います。
音質
測定機材
- SAMURA HATS Type3500RHRシステム:HEAD & TORSO、左右S-Typeイヤーモデル(Type4565/4566:IEC60268-7準拠)
- AWA社製Type6162 711イヤーシミュレータ
- マイクプリアンプ:Type4053
- Type5050 マイクアンプ電源
- オーディオインターフェース:ROLAND Rubix 24
- アナライザソフト:TypeDSSF3-L
※イヤーシミュレーターの特性上、20hz以下と16khz以上の信頼性は高くありません。
周波数特性
上から順に、
- [AET07 M装着時]左右別
- [AET07 M装着時]左右平均
- [AET07 M装着時]左右別(自由音場補正済み)
- [AET07 M装着時]左右平均(自由音場補正済み)
- [標準イヤーピース(薄皮) M装着時]左右別
- [標準イヤーピース(薄皮) M装着時]左右平均
- [標準イヤーピース(薄皮) M装着時]左右別(自由音場補正済み)
- [標準イヤーピース(薄皮) M装着時]左右平均(自由音場補正済み)
- 標準イヤーピース比較(自由音場補正済み)
- 標準イヤーピース比較(自由音場補正済み/2khz-24khz拡大)
※「AET07 Mサイズ」は当ブログの測定用レファレンスイヤーピースです。それ以外のイヤーピースは特記がない限り、このイヤホンパッケージの標準添付のものです。
※また当ブログの自由音場補正については機材に合わせてサザン音響さんから提供された補正値を使用しております。
皆さんにまず見て欲しいのはイヤーピースの比較グラフです。標準で付いている薄皮のヤツが明らかに聴感上も低域出るんですけど、測定グラフ上も顕著なんですよね。最初は測定用のレファレンスイヤーピースとして使っているAET07とこのイヤホンの相性が悪くて、うまく装着できておらず、これだけの差が出たのかと思ったんですが、スパイラルドット++のSサイズでもAET07とおんなじ感じなんで、この薄皮イヤーピース側が大きく影響を与えていると結論づけるのが良さそうです。
この薄皮タイプ、だいぶ柔軟で耳に深く差し込まれるので、それが低域の出方に影響を与えていると現在は推測しています。ベント穴がイヤーノズル近くにあるんで、それが塞がれて低域のパワーが増している可能性もあります。とはいえ、このイヤーピースの効能について詳しく語ることはこのレビューの本筋ではないので、ここではこれ以上の議論はしません。いずれ時間があるときにほかのイヤホンを使用して詳しく試してみようと思います。
さて、このイヤホンのサウンドシグネチャーですが、わりとフラットに近く、イヤーピース次第ではありますが、低域も強い感じではありません。適度にウォームで聴き心地は良いです。
以前のレビュー記事でも述べたのですが、全体的に中庸なバランスの中に存在する5khz付近がパーカッションや弦楽、アコースティックギターに少しスパイキーな手がかりを与える感触になっていて音に少しギラつきがありますが、基本的には安定的で聴き心地が良いサウンドです。
低域は薄皮イヤーピースを使えば、かなりの重みと深みを感じますが、AET07など一般的なイヤーピースではあまり深くなく、平坦で中域をウォームに感じさせる程度の存在感で、低域好きを満足させるほどではないでしょう。標準の薄皮イヤーピースを使えば、装着感次第かも知れませんが、かなり深みと重みのある低域が感じられます。
中域はわりとドライです。ボーカルのボディは充分にあり、表現としては少しうわずるくらいの印象を受けますが、わりと理性的です。子音のニュアンスは結構活き活きしていますが、尖りはなく耳障りさはありません。潤い感には欠けますが、ボーカルホンとしては結構魅力的に思えます。
高域はマイルドでわりと早くロールオフしています。そのため音場の高さはあまり感じられません。シンバルのクラッシュなどにギラつきはありますが、派手に浮かび上がる感じはなく、わりと落ち着いていて、高く開放感を感じさせる印象は受けないでしょう。中域の聞こえを重視しています。
全体として見ると濃厚感を重視したサウンドで、私には音場は横に広く感じられます。
さて、書いていてわりと褒めてない気もするのですが、実際のところ、このイヤホンは私のお気に入りの一つです。一聴した印象でくっきりしているとか、ディテール感がしっかりしているのがわかりやすいという音ではなく、わりと第一印象で凡庸に聞こえることは事実です。
ただ音場の横幅は広く、ゆったりしていて、ボーカルはドライですが活き活きしており、そしてこれが重要なところなんですが、このイヤホン、第一印象ほど解像度悪くないんです。音の輪郭がはっきりしてるかというとそうでもないですし、Tri i3なんかのほうが第一印象でよほど音に精彩を感じることは事実なんですが、こちらのほうがニュートラルに近く、自然な音色に近いので、長時間のリスニングではこちらのほうが聴き心地が安定してますし、聞き慣れると解像度もボケてません。音の太い感じのせいで解像度がちょっと感じにくいだけで、EDMなんかも個人的には満足度が高いです。
それでもTri i3のほうがやっぱり多くの人にとって好きな感じだろうし、音場の表現で優れているようなぁと思いますから、ぶっちゃけT-oneを強く薦める気にはなりにくいのですけど、個人的には好きな機種でよく使ってます。
以下に参考用にTri i3との比較グラフを挙げます。自由音場補正済みのグラフを1khzで交差するように調整してあります。使用イヤーピースはWG T-oneが薄皮標準イヤーピース、Tri i3はAET07 Mサイズです。下は1khz以上の拡大図です。
レコーディングシグネチャー
レコーディングシグネチャーの基本的な原理、楽しみ方については以下を参考にして下さい。
参考用にレコーディングシグネチャーを掲載します。自由音場補正済みです。ソースはFiiO M15を用いています。イヤーピースは薄皮標準イヤーピースのMサイズ、ゲインは高設定です。
レコーディングシグネチャーで使用している楽曲は私も大好きなゲームメーカー日本ファルコム様のものを使用させて頂いております。
JAZZ
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Sophisticated Fight / 英雄伝説 空の軌跡FC&SC スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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町「ペンタウァ」 / ファルコムベストサウンドコレクション -All in All- / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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Desire / The Songs of Zemeth ~Ys VI Vocal Version / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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花と風のうた / 「Zwei!!」 スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
OST
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Sophisticated Fight / 英雄伝説 空の軌跡FC Evolution オリジナルサウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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浮遊大陸アルジェス -Introduction- / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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QUATERA WOODS / イースVI -ナピシュテムの匣- オリジナル・サウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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永劫の夢、大空の記憶 -Online Version- (Bonus Track) / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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ユルギナイツヨサ / 日本ファルコム 英雄伝説 零の軌跡 スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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アプリエス神殿 / Zwei!!オリジナル・サウンドトラック2008 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
クラシック
- Sophisticated Fight / We Love 空の軌跡 / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- FEENA / イース ピアノコレクション / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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第3部「白き魔女」: 白き魔女 / 交響曲「ガガーブトリロジー」 ~白き魔女~朱紅い雫~海の檻歌~ / Copyright © Nihon Falcom Corporation
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組曲 LILIA (ファルコム ネオクラシック フロム スタディオズ イン ロンドンシティ) / ベリー・ベスト・オブ・イース / Copyright © Nihon Falcom Corporation
ロック
- Sophisticated Fight / 空の軌跡ざんまい / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- TO MAKE THE END OF BATTLE / Ys Ⅰ&Ⅱ ベストサウンドコレクション / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- The Decisive Collision / 英雄伝説 閃の軌跡 スーパーアレンジバージョン / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- GENS D'ARMES / イースVIII -Lacrimosa of DANA- オリジナルサウンドトラック / Copyright © Nihon Falcom Corporation
- Mighty Obstacle (2003) / Music From The History Of Ys / Copyright © Nihon Falcom Corporation
総評
音質バランスはわりと良いです。テスラドライバーの解像度というのがわりと曲者で、第一印象でわかりづらいところがあり、さまざまなところでのレビューでも各音域のバランスは良く、個々の音域の解像感も悪くない気がするけど、全体として見るとバランスが悪いわけでもないのに、なぜか今一歩な気がするという評価が多いですが、私も大概そんな感じの評価です。ただ、ウォーム系のサウンドが好きな人には1万円ちょうどくらいでわりとおすすめできる機種です。
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